3-sec.壱「美穂に支えられて・・・」
「美穂に、電話したい」
母に言った。
きっと駄目だといわれると思ってた。
公衆電話のある部屋まで、歩く体力すらないのだから・・・。
当時、携帯電話なんてなかった。ポケベルだって
メジャーじゃなかった時代だ。
母は、車椅子を準備してくれた。
嬉しい反面、、、
なぜ、そこまでしてくれるの?
僕にとって、最後の晩餐なのか?
そんな思いを振り払い、
母に公衆電話のある部屋まで連れて行ってもらった。
テレホンカードは50度数のものを1枚。
東京と結ぶ時間は、約30分。
声帯が壊れかかった僕に、
どれだけの想いを伝えることができるだろうか・・・。
本当は、違った。声が聞きたかったのだ。
僕という人間を、欲してほしかったのだ。
「遊生?大丈夫なの?ああ、ずっと心配だった・・・
400キロ離れてるだけで、
いてもたってもいられない・・・」
「(かすれた声で)ああ、何とか喋れるよ。
・・・どうしたんだ、泣くなよ・・・」
「だって、遊生と離れてて、
何もしてあげることができないのが、
とっても辛いの・・・」
必死に涙声を隠そうとする美穂。
どこか、
鍵をかけ忘れたような感覚に陥ったが、
美穂の懐かしい声にかき消されてしまった。
ああ、僕の辛さを理解してくれる彼女がいる。
これだけでも僕は、幸せ者だ・・・
「そうだ、僕のために手紙を書いてくれないか。
明日、生体検査で首にメスが入るんだ・・・
場合によっては手術かもしれないんだよ。
俺も、美穂の手紙をみて、励みにしたいんだ・・・」
激しい腹痛に襲われ、言葉を出すことができなくなったが、
美穂が話してくれている。それだけで嬉しかった。
僕は、東京に戻る。休学なんて冗談じゃない。
絶対に、元気になってみせる。絶対に。
美穂と話せてよかった。
それまで、闘う勇気などなかった。
闘うという意識がなかったからだ。
僕は闘うんだ。
美穂の手紙を心待ちにして。
美穂の笑顔を心待ちにして。
しかし、美穂からの手紙が届く前に
僕は、緊急手術を受けることとなる。
病状が一気に進行し、開腹することとなったのだった・・・
(3-sec.弐へつづく)
※ 次回、緊急手術の後、楠は、、、手足を縛られて・・・