3-sec.弐「最後に何か、言いたいことはある?」

美穂との電話を切った拍子に、いきおい車椅子から転落した。
痛む腹部を庇っていたことの必然だった。


冷たい感触が頬に伝わる。
床面と車椅子の車輪を間近にとらえる。


僕は初めて、泣いた。





その日、生体検査が行われた。
部位である首の左側に、メスを入れる。
有難いことに、局部麻酔だった。



首は、神経が数多く通っている。
その部分にもかかわらず、局部麻酔・・・・
聞いただけでも、ぞっとした。


だが、治るのならやってやろうじゃないか。


ただの検査であり、治療ではないことの判断が
つかぬほど、腹部の激しい痛みは、
僕の判断力を鈍らせていた。


執刀は、若いH先生だった。
本当に免許をもっているのだろうかと疑うほど、
部位の切除作業が痛い。


体中に電撃が走る。
唯一の救いは、この痛みによって、あれだけ激しかった
腹痛を一瞬でも、忘れることができたことだった。


1秒でも、
生きていることが辛かったのだ。




生体検査の結果が、翌日に出たような記憶がある。


痛みの間隔が狭まっている。
自分でも、病状が急激に悪化していることくらい、
分かってた。




でも、まさか緊急手術なんて・・・!!




僕は全身麻酔についての説明をうけ、即、手術室へと
連れて行かれたのだった。


ストレッチャーに乗せられ、周りには母や二人の姉が
一緒に歩いてくれている。


緊張と痛みで張り裂けそうな僕は、
流れゆく天井の電灯を目で追って、それらから
逃れようと必死だった。


ストレッチャーが段差を踏む。
腹部へ衝撃が走る。


手術室が視界の端に見える。
主治医のU先生とN先生が僕を迎える。
N先生が、微笑んでいた。緊張が少しほぐれた。
N先生は、僕に言った。
「手術前だ。最後に何か、言いたいことはあるかい?」



                      (3-sec.参へつづく)


※ 次回、いよいよ、緊急手術・・・!!


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