都市に原発を建てるべき理由 2
超安値なコスト

広瀬隆さんが、地方ではなく、電気を消費する地元である都市部に<安全な>原発を建てればどんなにメリットがあるか、基本となる3つの理由を整理しています。

都会に原発を作れば、補償金(主として漁業権を買い取るための金)は不要になる。したがってその分だけ電気料金は安くなる。これが第一の経済的な利益である。

第二に、前の項で送電線と変電所が消えると書いたが、こうした設備がいらなくなると、膨大な金が浮いてくる。

仮に青森県のむつ市に、原子力船ではなくて原子力発電所が建設される場合を計算してみよう。東京―むつ市の距離は直線にしておよそ600km である。送電線は直線ではなく上り下りがあり、右折し左折しなければならないから、実際には800km に増えるとしてみる。その結果、送電線変電所建設費用はいくらぐらいを要するだろう。

これを、東京電力の実績で調べると、1kmあたりほぼ十億円を使っているのだ。したがって、

  • 10億円×800km=8000億円

という膨大な金額になる。この分の費用が浮くのだ。

送電・変電のためだけで、日本で最大級の原発でさえ2基作れる費用である。

金の話の三番目に、もうひとつ別の観点から考えてみよう。これまでの補償金や送電線の費用が不要になれば、電気料金全体が低くなるのだから、だれにとっても嬉しい話だ。

しかし原発候補地の実情は厳しく、笑って迎える人がほとんどなくなってきているので、このままでは原発が建たなくなる。そこで、建ててくれた土地の人には、電気料金を大幅に割り引いてくれる制度がある。さきほどの保証金や送電線の費用がなくなって電気料金が安くなったところへ、さらに割引きの利得が得られる。東京に建てれば、東京都民の電気代がぐっと安くなるのだ。大阪に建てれば、大阪の人が「もうかりまんな」と挨拶できるのだ。これが交付金方式である。

以上の三点の他に、何か巨大なコストを見落としているのではなかろうか?

そのとおり……重大なことを忘れている。オイルショックのため電気料金が大幅に値上げされたとき、電力会社はなんと釈明しただろう。

「石油が値上がりしたので」と、言ったはずだ。

ということは、都市型原発はお湯(温排水)として莫大なエネルギーを生み出すから、この日本では巨大な油田の発見と同じ意味をもってくる。

そこで、この油田から湧き出すオイル円を計算してみると、つぎのような驚くべき金額になる。

日本では1986年現在、石油に換算しておよそ4~5億kl(キロリットル)ぶんのエネルギーを使っている。その一割近いエネルギーが温排水から湧き出てくれば、石油は現在の超安値と超円高の中で1kl で約2万円としても、これを単純にかけ算してみると、

  • 2万円 × 4億kl × 0.1 = 8000億円

となる。

この金額こそ、都市型原発の未来をうらなう最も重要なポイントである。交付金のようなミミッチイ話でなく、国家全体のエネルギー財政を一大転換させる莫大な資金が、ここに隠されている。

その莫大な財宝を引き出すには、地方から大都会の中心地に原発を移したほうが得だという結論が導かれる。