御主人様と旅行に行った。
夏の恒例。
短い旅行も含めると今回で8回目。

私は修学旅行で訪れたことのある、
御主人様は意外なことにまるっきり初めての場所だった。

御主人様と行けば楽しいことは当たり前だけれど、
修学旅行では得られなかった深い愉しさがあったのは、
やはり私が抽斗を増やした大人になったからなのだろう。

坂はただの坂ではなく、
橋はただの橋ではなく、
城はただの城ではなかった。

その土地柄と空気に触れる御主人様との旅ならではの、
知的興奮がたくさんあった。

旅行に行くと必ず訪れることにしている歴史博物館もとても面白かった。

歴史の流れがあって、住んでいる人がいて、
伝えられてきた文化と誇りがあった。

中学生の時よりも、よっぽど学びの多い旅なのだった。



20年前、火砕流に見舞われた山にも行ってみた。
土石流の爪痕を生々しく保存してある麓から山を臨むと、
そこはうっすらと緑に覆われていた。
訊くと、何度も繰り返し、何十万という草の種を蒔いたのだという。
そうして日常の風景に溶け込むかのような山も、
未だ観光資源とはなっていなかった。
ただ、人の記憶を上書きするためにあるかのように、
ひっそり、ずっしり立っていた。

夜景を見ながら御主人様と語らう。
20年後の東北。
20年後の私達。

「常に希望を持っていよう」

御主人様は、どんなときも御主人様らしい。
そして、その「らしさ」が私の希望なのだった。