Hi.
Long time no see.

いつものきくいちもんじです。



阪神タイガースの今年一年のペナントレースが、無名投手対手の完封負け、という今年を象徴するゲームで終了した。

名将野村克也は

 勝ちに不思議の勝ち あり
 負けに不思議の負け なし

という。

負ける時は、負けるべくして負けている。

全体最適解が部分最適解とは必ずしもいえないが、しかしそうであることが非常に多いことをよく知っている、つまりは自分が目立ってどうこうするというよりもまずチームが勝つことがさしあたり自分の快を増大させることをよく知っている現今の野球エリートの多くは、数十年前のプロ選手よりもおそらく自然に「チームの勝利」ということを意識している。
勝つために何をするか、を意識している。

そんな選手が揃っていても、首脳陣が莫迦だと如何に悲惨な結果になるか、ということを改めて感じた一年だった。

タイガースは144試合で78の勝ちを収めた。立派なことだ。
しかし63の負けの中、3の引き分けの中には幾つかの勝ちが潜んでいたのは疑いない。それは「不思議の勝ち」から「必然の負け」の方向へ転がった、勝負の賽である。

わたしはいつも引用するが、プロイセンの名将クラウゼヴィッツの言葉に

 百匹のヒツジを率いて戦う獅子は、百匹の獅子を率いて戦うヒツジに勝つ

というものがある。

今年も何試合か観戦して、負けにヒツジの采配が「必然的に」絡んでいたのを一再ならず確認した。先日詳細に分析した一戦なぞ、まさしくその最たるものである。

「今年の阪神は勝負弱い」とか言われているが、勝負弱い、のではない。
厳しい野球をしていない、ということに尽きる。

9回を見通した厳しい野球、シーズンを見通した厳しい野球がまったく、出来ていない。メンツにこだわり、目先の一勝にひきずられ、守りに入って、昨日のやり方と今日のやり方を変え、そしてひとつ勝ってひとつ負ける、ふたつ勝ってふたつ負ける、そんなことを繰り返した。

たまたま、まさしく「不思議の勝ち」が負けに比べて15回多かった。
ただそんな感じである。

ワンシーズン戦えば、優勝チームも必ず60回負ける。
その60の負けを如何に上手く負けるか。
如何に上手くシーズンにはめこむか。
負け戦を如何にうまく撤退するか。
ペナントを制するチームには必ず「勝つ戦略」と「負ける戦術」がある。
真弓阪神にはそういうことが全く感じ取れない。
それはずっとそうである。

阪神球団は愚かにも、来年も獅子の集団をヒツジに率いさせるらしい。
ヒツジも肉の値段が上がっているので大変結構だが、首脳陣(ヒツジ)は今年の「惨敗」から学ばないと来年も同じことになる。
近年まれに見る強大な戦力は近年まれに見るヒツジに使い潰されることになるだろう。

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さて。

平成21年度の重要判例集を見ていると、以下の民事判例が出ていたので、ああそうそうと思い出した。

足立区女性教師殺人事件

非常にかいつまんで述べると、1978年8月、小学校の女教師が同学校の警備員によって殺害された事件である。
特異なのは、発覚したのが事件から26年も経過した2004年で、公訴時効すなわち殺人罪として立件するための時効(当時は15年、現在は25年)が成立した後であったため、人を殺したと自首して出た犯人を公訴することができなかった、というものだ。

刑事事件としては立件できないため、遺族によって民事(不法行為による損害賠償請求)として訴えが提起された。

なお、民法724条には時効および除斥期間(20年)がやはり設けられている。
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
除斥期間というのは、スイッチ入れないと効力を発揮せずまたスイッチを任意に切ったりできる(つまりは進行と停止が可能な)時効と違って、放っておいても勝手に進んで20年経ったら自動的に消える、スパイ大作戦のテープみたいなものである。殺害者側はこれ、つまり「損害賠償請求権は20年の除斥期間によって消滅している」ことを主張した。
まあ素朴な正義に反している。
そして民事訴訟は素朴な正義の味方であることが多い。

平成21年4月28日最高裁第三小法廷判決にて上告棄却。

最高裁のロジックとしては次の通りである。
被害者が死亡した時から、相続人がその事実(不法行為)を知ることができず、結果的にその権利を援用することができない状態で、原因を作った加害者が損害賠償義務を免れるということは「著しく正義・公平の理念に反する。このような場合に相続人を保護する必要がある……民法724条後段の効果を制限することは、条理にもかなうというべきである」とし、民法160条 [相続財産に関する時効の停止] を援用しつつ、「相続人が確定した時から6ヶ月内に……損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である」と判断した。
参考:第160条
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。


なお、ナンデ殺したんだろう?というのは誰しもが引っ掛かる点である。
この点、男の供述書ではこのようになっている。
78年8月14日夕。校舎の巡回中、1階給食室前の廊下で、プール当番の日直だった石川さんとぶつかりそうになった。
 〈「こんなところで何をしているのだ」と近寄ると、バッグの様な物で私の顔を殴ってきた。払うとひっくり返り、大声をあげた〉〈こういう状況を作る目的で罠(わな)をかけてきたのではないか。処分されてたまるかと強い怒りが生じ、夢中で両手で首を押さえた〉

分解するとこういう感じである。

adachi01

一般論だが、こういう供述はよく練られている。
あとで状況の一部が発覚した際に、整合性がとれなくならないように、「状況は見ていないけれども、物音の一部は聞いていた」という証言が出ても問題ないような形で事実が折り込まれている。事実らしきものを抜書してみよう。

adachi02

このままでは意味がわからんので、事実の間を黄土色でブリッジしてみる。

adachi03

何が起こったかわからんといえばわからんし、黄土色の部分をさらに膨らませてみれば、よく分かるといえばよく分かる。

しかし時効や除斥期間の問題は、非常に難しい。
特に公訴時効がある理由としては幾つか理由がある。時間が経つことにより社会的影響(社会的応報感情)が低下し、刑罰権が消滅する(実体法説)、または時間が経過することによって証拠が散逸し、審理が困難になる(訴訟法説)、などがあるにはあるのだが、比較法的にも、重罪に限っては公訴時効をもたない国もあるし、だいいち社会的応報感情というのは何かの契機に唐突に上下降するものであり、最初に漫々とあったものが段々低下してゆくという自転車のチューブに入った空気みたいなものではない。社会的影響でいえば「逃げ得」を許す(ことが知らしめられる)ことによる素朴な正義感覚の毀損のほうがより大きな問題であるように思う。
おれはどうすんのかというと、解釈学的には訴訟法説とるんだけどね。
反論として、量刑の多寡によって時効期間が違うのはおかしい(審理が困難になるのはどの刑罰も同じであるはずなのに)というのがあるが、それはそれこそ重罪の社会的影響との考量を図っているんだから問題ないと考えはするのだが。しかしこれは法解釈学つまり公訴時効が法に組み込まれているということを前提としての立場であって、本当に必要かというと「ううむ」と唸らざるを得ない。
おおっとマニアックになってしまったが。

まあそういうことなどを考えていた。

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ところで押尾先生裁判の第一幕が終わって、一部の有識者たちが「量刑が軽い」と主張している。ヤメ検弁護士の大澤氏とか、刑法学者板倉宏などがサンケイにて異口同音に「思いの外軽い」と述べていた。
第一審は結局2年6ヶ月の実刑判決が出て、押尾側控訴、検察側控訴断念ということになったわけだが、2年6ヶ月というのは妥当でもあり、また極めて絶妙な量刑だと思っていただけに一部の有識者の物言いは意外である。
2年6ヶ月であれば、初犯の場合執行猶予がつくことが多い。押尾はその前に薬物のほうで1年6ヶ月くらいの判決が出ておったので結果的に実刑になったわけだが、それがなければ執行猶予3年だったんだよという「ウナギの匂いだけ嗅がせる量刑」ではないか。押尾先生側とすれば

「くうう薬物さえなければ・゚・(ノД`;)・゚・」

という感覚ではないか。もちろん薬物と女性の死、というのは原因と結果、トンネルの入り口と出口、江夏豊と1981年の日本ハムファイターズ優勝みたいな関係では、あるが、それでもなお、だな。なんかそこはかとない「惜しい」感じを与えるんじゃないかと思うんだよ、押尾先生に。で、そうだとすると刑罰判断としては成功なのではないか?

今なぜ日本ハムファイターズ優勝を出したかというと、大沢啓治親分が死んでしまったからだ。
いまも時々、東北新社製DVD「激闘!日本シリーズ」で1981年の日本シリーズの模様を見たりするが、旧き良き時代の監督、野球がとても面白い時代の監督だった。勝利監督インタビューを毎回、タバコ吸いながらやってんだぜ、ホント時代だなあと思うよ。
二度目の監督生活はリアルで見ていたが、その時も面白かった。「一緒や、打っても!」(by.片岡篤史)の時代やね。

ああ、江夏豊といえば、タイガースの監督か投手コーチ、江夏にやらせろよ。
武闘派のイメージばっか強いけど(そしてそれは間違いじゃないが)すっげえ理論家だぜ、江夏。タイガース愛も強いし。
「バカヤロー!球児潰す気かよ!」とかいって殴ってほしいね、いや真弓をさ。

【追記】
殺人の公訴時効は今年の4月になくなったようだ。
ニューズなんて全く見ないんで知らなかったぜ。渥美東洋の最新版刑事訴訟法にも書いてなかったぞ(←当たり前)。
なんぼコメンテーターに違和感を覚えても、ニューズは見ろということやな。