たとえば、クルマが欲しいあっしがネットを渉猟しているとする。
 あっしはアストン・マーチンDB9がほしいわけね。
 前からね。

 で、ある車屋にたどりつきましたと。
 格好いい写真がこう、ついてある。

 「激安特価!
  アストン・マーチンDB9
  円高還元価格!
  乗った途端にIT長者気分!
  あなたも明日からホリエモン!
  驚きの350万!」

 て書いてあったら、「ニコイチだろこれ」とか
 「10日もしたらエアサスがへたって30年前の暴走族みたいになるんだろうなあ」とか
 「もしかしたら乗った途端に暴走して、晴海埠頭から死のダイヴを敢行するような《自動車界のオルロフ》かもわからん」とか
 思うわけやね。

 なお、アストン・マーチンDB9は今現在、中古でも一千万するね。
 いろんなとこに "Handmade in England" と書いてある絶美の、ベンツがベンキに見えるほどの走る芸術品やから、価値に見合う価格がついておるということやね。

 要するに、物の常識的価値と表示価格に大きな差があるときには、眉につばを百回つけてかからねばならんと。
 こういうわけやね。

 それを人は「常識」というわけやが。

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 バリバリ家電という家電量販店がいま、えらいことになっている。

 ネットショップが商品価格を誤表記してお祭り騒ぎ
  高級大型テレビを11,509円と表示


 ネットショップだって人間が手打ちで価格を入れているところがほとんどなわけで、当然表示価格の間違いというのがしばしば発生する。
 高価な方向に間違うならばまだ救いはあるが、安価な方向(とくに一けた落ちるとか)に間違うと、それを奇禍としてハイエナみたいなんが山ほど集まるので、大抵はいわゆる「祭り」、もっといえば「火祭り」、ネットショップ側からみると「血祭り」、われわれ傍観者から見ると「大騒ぎ」に発展することが多い。

 今回に関してもそうである。
 52型のAQUOSが何と驚きの一万円余り。

 これについて少しく考察してみたい。

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 まず、ネットショップにおいて価格表記がなされ、これに対して顧客が注文メールを送付する。注文が成立しているのか、成立するとすると何処で成立するか、ということが問題となる。
 契約は「申し込み」と「承諾」によって成り立っており、売り手の「申し込み」に対して買い手が「承諾」することによって契約が成立する(「成約」)。もしネットショップの価格表記が「申し込み」であれば、買い手のメールによる行為は「承諾」ということになり、売り手の一方的理由で解除する場合、損害賠償責任が発生する可能性がある。
 しかし、たとえば店舗において、品物を展示し、価格を表示することは「申し込み」ではなく「申し込みの誘引」である。ネットショップにおける価格表示も同様のものと考えると、これは「申し込みの誘引」であり、買い手のメールによる行為こそが「申し込み」であると解される。
 したがってこの段階つまり価格表記を見た上で買い手がメールを送付した段階では、売買契約がいまだ成立していないと判断するのが妥当であり、この時点で選択権は店舗側にあるため、店舗側の意図によって契約不成立とすることは問題にはならない。
 尤も、契約がもし何らかの理由で成立した場合に、誤表記であった「申し込みの誘引」を法律要素の錯誤と見て錯誤無効が成立するかどうかが問題となる。
 この場合は、誤表記が民法第95条但書「表意者に重大な過失」に該当すると考えられれば契約が成立し、売り手としては商品を当該価格で引き渡すか、或いは引き渡せない場合、売り手には債務不履行による損害賠償責任が発生する。
 今回の事例に関して更に考察を深めると、当該対象商品はネット最安値で判断しても二十万円以上の商品であり(参考)、それが最安値の二十分の一、卸値から判断しても十分の一前後の価格で表示されている場合、誤表示であるということが容易に類推されるはずであり、買い手すなわち申込者の過失、あるいは悪意もまた、容易に推察できるものである。契約準備段階における双方の注意義務違反を考量し、当該誤表記は重過失ということはできず、もし一時的な契約成立をみたとしても、錯誤無効が主張しうると解する。

 さて、今回の事例に関しては、今述べたように、契約準備段階において売り手バリバリ家電(甲)に価格誤表記という過失があり、いっぽう買い手に関しては、明らかな誤表記を奇貨として申込みを殺到させ、結果的に一時的に業務を停止させた疑いがある。これが刑法第233条に規定されている偽計業務妨害となる可能性があるため、こちらを考察する。
 偽計業務妨害罪における「偽計」とは、人を欺罔し、または他人の錯誤或いは無知を利用し業務を妨害することによって成立する。「業務の妨害」に関しては、実際の侵害をし、結果を発生させたことによる「侵害犯」であるとする説もあるが、実際のところ業務妨害罪は、殺人罪や傷害罪のように行為から明白な結果が発生するものではなく、多用で曖昧な周辺部分を含むものであるため、当該構成要件はややゆるやかに解し、「妨害の結果を発生させる恐れある行為」であれば業務妨害に包含されると考える(判例同旨)。
 今回の事例もまた、小売電子商取引における価格誤表記の例によって、一部の電子掲示板への情報提供によって騒動が拡大、結果的にその原因的過失はあるものの甲を一時的営業停止状態としたものであり、実際に当該価格であると信ずべき理由もしくは過失があった者は格別、背信的悪意をもって申込みを殺到させた者がある場合、当該行為者については構成要件的故意は認められるものと断ずる。

以上

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 いずれにしてもね。

 これを見て祭りに乗った輩はアホやと思うし、乗った上でわあわあ言うとんのは地上げ屋とか当たり屋とかとやっとることはあんまり変わらんということを知ったほうがええね。
 もちろん今回の騒動の「巻き添え」で「一緒くたにキャンセル」された人も居るみたいで(祭り対応で通常処理が追いつかんようだ)、その方々は全然関係なく、道歩いてて大事故の巻き添えになっただけみたいなものだから、ただただお労しいと思うけれども。

 また、もし本当にこの「驚きの価格」で買えると思ってボタンをpushしたひとが万一居るとすると、それは無邪気で大変結構だけれども、その無邪気さは社会的悪意によって削られる可能性があるということを知ったほうがええね。

 変な絵とか脂だけの化粧品とか、
 350万のアストン・マーチンDB9を買わされるね。