JICAとパレスチナ難民❸
パレスチナ難民救済事業はパレスチナ自治政府の難民問題局にJICAがその理念について働きかけてきた。これが新たなプロジェクトのきっかけとなった。JICA事務所のスタッフが現地での住民集会に立ち会い、直接意見を聞いたケースも結構多かったと聞いている。私の感想ではあるが、難民の側からすれば外国人のサポートが目に見える状態にあるということでもある。
キャンプに内外の関係者がやって来て自分たちの活動を視察したり、メディアに取り上げられたりするなど、プロジェクトの評判があがってくることで、キャンプ改善計画(CIP)実現に向けてのモチベーションになっているようにも見える。たとえば東京のJICA本部から出張者が来た際には、積極的にキャンプ内を案内し、胸を張って自分たちの活動をアピールし、その成果が認識されることで次の活動へのモチベーションをさらに高めていく。
プロジェクトの[フェーズ1]は3カ所の難民キャンプを対象に実施したが、2020年から始まった[フェーズ2]では、同様の活動を12の難民キャンプへ拡大することになっていた。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、〔フェーズ1〕で対象とした難民キャンプを含め、予定よりもCIP策定の活動が遅れているが、プロジェクト実施に要する資金のための無償資金協力を供与するなど、さらにCIPの実施を推進していく予定である。
これまではパレスチナ自治政府内の限られた予算により、CIPはあっても実施できないものがいくつかあった。活動のインセンティブを高めるためにさまざまな支援を検討している。プロジェクトで推進しているCIPの実施のためには、無償資金協力だけでは資金が不足する見通しである。そこでJICAからだけではなく、クウェートとかサウジアラビアなど湾岸諸国のドナーから直接資金を調達する仕組みを作りたいと思っている。
JICAは2020年9月から4年計画で「パレスチナ難民キャンプ改善プロジェクトフェーズ2」に取り組んでいる。西岸の3カ所のキャンプで実施した集会所の改修、公園の環境改善など「フェーズ1」の実績を「フェーズ2」で12カ所の他のキャンプに広げ、湾岸諸国からのドナー確保を図った。だがプロジェクトは予期せぬ障害で修正を余儀なくされている。
「パレスチナ難民キャンプ改善プロジェクト」の対象は、ガザではなく西岸のパレスチナ難民キャンプである。このプロジェクトにおいてはUNRWAが難民と認定している人々を対象としている。ガザの方が西岸よりも難民人口は多いが、カウンターパートである難民問題局(DoRA)の活動状況など、さまざまな背景により現状プロジェクトの対象としてガザは外している。
ガザ向けの支援をしていないということではない。学校建設や医療機材の供与、最近ではコロナのワクチン接種関係の機材を供与するといった無償資金協力事業をガザを含めて実施している。また技術協力では教育や保健医療分野の協力などがあり、ガザ・西岸双方で実施している。JICAの対パレスチナ支援が開始された1993年からガザ・西岸の双方を対象にプロジェクトを実施しており、ガザを特別に除くようなことはなかった。
イスラエルと独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する二国家解決の方向に向かって自立できるように、JICAは難民に限らずさまざまな分野でのパレスチナ支援を行っている。難民キャンプ改善プロジェクトのように、西岸のパレスチナ難民が支援対象であるプロジェクトもあるが、難民ではない住民への支援も実施している。
パレスチナでの事業の実施においては、ヒト、モノのパレスチナ域内への移動がイスラエルにより管理されていることから、イスラエルとの調整が不可欠である。事業に必要な資機材がパレスチナに持ち込まれる前に、長期間留め置かれることもある。とくにガザは反イスラエル武装闘争を続けるイスラム原理主義組織ハマスに対する警戒からイスラエルの管理が厳しく、事業実施の制約が非常に大きい。
たとえばガザにいるパレスチナ人に西岸でのセミナーや研修に参加してもらうためにはイスラエルの通行許可が必要だが、その取得は非常に困難である。またイスラエルが武器転用の可能性があるとして、ガザ域内への持ち込みを禁じている資機材は非常に広範囲に渡るため、支援内容はそれに影響されない範囲にとどまらざるを得ない。ガザの経済状況、住民の生活環境等は西岸よりもさらに厳しく、支援の必要性は高いので、制約が大きい中で実現可能な方法、内容を模索し支援を続けてきた。
JICAとパレスチナ難民❺
JICAが支援の対象にしているのは、主に自治区のパレスチナ難民だが、自治区外のパレスチナ難民も排除していない。自治政府との関係はJICAとしては密におこなっている。それがJICAの活動のベースになっている。プロジェクトの範囲では、将来的に難民問題局が住民の生活環境改善を活発化させて、資金を確保することができるようにしたい。そこに向けて引き続き活動していくことがプロジェクトの範囲での将来像といえる。
難民プロジェクトの実施にあたって日本人の専門家は9人、うち5人が出張ベースでパレスチナで活動している。JICAはこの専門家の人件費や現地でのセミナー等の開催費用を支出している。プロジェクトのキャンプ改善計画についての資金はJICAから大きな支援を行うということはなかった。しかし、2020年に難民キャンプ改善のために10億円の無償資金協力が決定され、住民が作ったキャンプ改善計画の実施費用に活用されることが期待されている。
中東各国にはパレスチナ難民への資金援助や技術協力を行う機関がある。ただし難民へのサポートは国連のUNRWAがやっていると各国では認識されており、各国独自に難民支援を行っているというケースはあまりない。JICAの場合はUNRWAのキャンプの中で活動しており、UNRWAと調整しながらプロジェクトを実施している。JICAパレスチナ事務所(ラマッラ)の職員が、実際に西岸とガザの難民キャンプに行ってさまざまな活動を行うことはある。
JICAによる支援は、政府高官から現場の難民のところまで伝わっているのではないかと思う。中東地域全般での話だが、日本は「政治的関心が少ない」と思われているようで、そういう意味でも非常に受け入れられやすいところがある。中東のほとんどの国で言えることだが、一般のパレスチナ人の日本に対する印象は非常にいい。