(1月30日)エジプト考古学者で東日本国際大学(福島県いわき市)の吉村作治学長は、大ピラミッドの巨大空間の有無の検証をエジプトから依頼され、地中レーダーや宇宙線ミューオンによる透視技術など日本人専門家の協力を得て探査プロジェクトに挑むことになりました。昨年11月末に早稲田大学大隈講堂で行われた「エジプト・フォーラム」では、プロジェクトに参加する6人の専門家がパネラーとして登壇し、それぞれの分野でどんな技術を投入するのか科学的ノウハウを紹介しました。

≪きっかけは名古屋大学研究チームによる「巨大空間の発見」≫
 エジプト考古省は2015年から日本、フランス、カナダの研究チームと協力して、ピラミッド内部の構造を解明する国際共同研究プロジェクト「スキャンピラミッド」に取り組んできました。日本からは名古屋大学高等研究所(未来材料・システム研究所)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が参加し、原子核乾板を用いた宇宙線ミューオンの観測で大ピラミッドの透視に成功し、未知の巨大空間を新たに発見したとしています。

 透視に成功した宇宙線ラジオグラフィ技術は、名古屋大学と日本放送協会(NHK)の共同研究により開発、実施されたもので、一昨年11月にはNHKの特集番組として放映されました。また名古屋大をはじめとする国際研究グループは、英科学誌ネイチャー電子版に発表し、世界的にも注目されました。東日本国際大学の吉村学長は、エジプト側から巨大空間の有無について検証を依頼され、隊長として新たに「エジプト・日本共同調査、大ピラミッドスキャニングプロジェクト」をたちあげました。

≪最新の科学技術を導入して探査≫
 探査プロジェクトの概要では、❶ドローンと3次元レーザースキャナを用いた測量、❷GPR(地中レーダー)を用いた探査、❸宇宙線ミューオンによる透視技術「ミュオグラフィ」を用いた探査の3つを行うとしています。GPRとミューオンによる探査は大ピラミッドの正確な測量データをもとに行った方が良好なデータが得られるため、最初にドローンと3次元スキャナを用いた測量を行う必要があるとみています。エジプト・フォーラムでは6人の隊員が探査プロジェクトにどのように係るのかが明かされました。

(ドローンと3次元スキャナでの測量)
 ドローンは(株)自立制御システム研究所が開発した純国産ドローンPF-1を使用します。50km/hの高速飛行が可能で、4基のカメラを搭載しているため、短時間で広範囲の正確な測量データを得ることができます。上空からの測量で得られない窪んだ場所や上空からは影になるポイントについては、トプコン社の3次元レーザースキャナGLS―2000を使用して補完します。どちらも日本はもとより海外での測量経験が豊富な(有)タイプエス代表取締役の設楽丘氏が担当します。

(GPR探査)
 「地中レーダー」は電波を送信して、反射波の受信パターンから地下構造を推定することができる探査技術です。今回は送信機と受信機を独立に動かすことで観測データを3次元化し、大ピラミッド内部の探査に応用します。地中レーダーは浅部の調査に使われることが多く、ピラミッド全体の調査は斬新的な試みといえます。GPR探査はGPRの先駆者的存在で、これまでカンボジアでの地雷探査などを行ってきた東北大学東北アジア研究センターの佐藤源之教授と惑星探査機「はやぶさ2」や火星探査委などにかかわっている千葉王業大学惑星探査研究センターの千秋博紀・上席研究員、東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻の宮本英昭教授のチームが、それぞれ異なる波長で観測を試みます。

(ミュオグラフィ探査)
 宇宙から降り注ぐ高エネルギーのミューオンは高い透視力を持ち、平均して1分間に1万個/㎡程度が地上で観測されています。この宇宙線ミューオンを用いたラジオグラフィー(放射線撮影)の研究が盛んに行われ、火山や原子炉などの透視が成功しました。1970年にノーベル物理学賞を受賞したアメリカ人物理学者ルイス・ウォルター・アルヴァレがクフ王の大ピラミッドの隣にあるカフラー王のピラミッドで、ミュオグラフィの技術を用いて空間調査を行ったことも知られています。今回は新たに開発した装置を用いて、宇宙線ミューオンの強度変化を計測し、GPRの探査で得られた結果を検証します。地中探査レーダーで発見された構造を検証するため、九州大学大学院総合理工学研究員の金政浩・准教授が、宇宙線ミューオンの強度変化の計測を行います。

≪プロジェクトを支える東日本国際大学≫
 いわき市の東日本国際大学では早稲田大学エジプト調査隊で50年以上にわたり、調査・研究を続けてきた吉村作治学長が体験を生かして、隊長として新たなプロジェクトの総指揮をとります。また大学のエジプト考古学研究所の岩出まゆみ所長(客員教授)と山下弘訓・客員准教授が吉村隊長の補佐役としてプロジェクトを支えていくことになりました。

 プロジェクトの現状について隊長からコメントが寄せられました。
❶(プロジェクトの期限はあるのか)期限はありませんが、2019年度内に結論を出します。その後、エジプト考古省の委員会に報告し、議論してもらいます。名古屋大学はこれをしませんでした。
❷(第一次隊の派遣はいつになるのか)本年2月に出します。昨年12月に出す予定でいましたが、延期されてしまいましたので、この1月にエジプトに行き、問題を解決しました。
❸(2019年の大学の動き)2019年は大ピラミッドのスキャニングを中心に、西部墓地探査プロジェクト(6月)、アブ・シール南調査(8月)、ダハシュール北調査(来年2月)、太陽の船復原プロジェクト(通年)を行います。また現在、私が行っているエジプト調査は早稲田大学とは全く関係していません。すべて東日本国際大学エジプト考古学研究所主体でやっております。

 ミュオグラフィ探査による巨大空間発見という他大学・研究機関などの成果を検証するという複雑な課題ではありますが、吉村学長の永遠のテーマである「クフ王の墓の究明」にもつながる調査でもあります。大ピラミッドの新たな探査の行方が注目されます。