2017年04月19日

商店街の人々 エピローグ

世は、たまごっちブームから徐々にデジタル化の波にのまれる時代だった。
写真フィルムもデジタルカメラの登場とともに、あっという間に影をひそめ、
ビデオテープもDVDへと世代交代。

2000年前後が、変化の境界線だった気がする。
第二地銀と呼ばれる消費者金融、(むげん君)が町のあちこちに現れた。
その原型は、日本古来からある独特の金融システム(むげん)に由来するらしい。

例えばここに、破産宣告をして普通の金融機関からは借り入れ不可能な人がいる。
小説の中の大野原のように、先代の負債を一手にかぶり、とても返済が困難な状況だ。
ある時、地元の旦那衆の集まりで、むげん と呼ばれる金融ゲームに誘われる。

旦那衆は会費を納め、一種の競りを行う。競り勝った者がその金額を手にし、高い利息とともに、返済するシステムだ。
胴元は、たいてい地元の親分さんだったようだ。
小説では描ききれない背景が、ここに存在していた。


それでも商店街の人々は、たくましかったと、あれこれ回想している。
登場人物は創作上、都合のよいようにデフォルメさせて頂きました。
もちろん実名の人はおりません。

最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございます。

筆者

kiminobu0408 at 04:44|PermalinkComments(0)TrackBack(0)コラム 

2017年04月16日

商店街の人々 その10

同じ商店街の旦那衆にも、真っ当な知識人はいた。
同じく大野原に何がしかの貸しがあるが、そもそも返って来るとは思ってない。
紬田(つむぎだ)利夫は、この商店街の長老で、駅前の大地主だった。

息子夫婦に代を譲り、今は好好爺として馴染みの旦那衆の相談役を担っていた。
駅前のパチスロは、唯一彼の店で、その景品交換業務をビデオ屋の俺の店に委託していたのだ。
昼間のビデオショップの業務は、ほぼパンと景品交換が占めていた。

レンタルを断念したので、しょうが無い。
ただ、安定収入源としては、有難い事だ。後は店頭の2台の自販機が、良く稼いでくれた。
ただし、メインのアダルトが、計算外だった。

大野原は、この店の物件を扱う都内の不動産会社に、家賃の10倍の敷金を入れていたのだ。
だから家賃は、3カ月間滞納しても、店を閉じれば7カ月分は、戻ることになる。
居抜きで新たに契約を交わせば、ほぼ夜逃げは成功、優しい先輩とも、平和的におさらばする資金が出来る。

そんな魂胆は、店番しながらあれこれと想像はしていたが、こんな好物件には二度と巡り合わないとも考えた。
起死回生の一手を投じなければ存続はない。
利幅の大きいブランド物を並べてみてはどうか。自己資金が乏しいので、委託販売が出来ないか。

あれこれネットワークを駆使して、友人の紹介で、卸売業者とつながる。
ところが、海賊版を製造販売する闇業者と、間もなく判明したので、寸前で思い留まった。
その闇業者、実は俺を気にかけていた長老の紬田老人が、素性を調べてくれて思い留まるように進言してくれたのだ。

その闇業者は間もなく摘発され、巻き込まれるまえに命拾いしたわけだ。
若い商店主には、頑張って欲しいと応援してくれたわけだ。ありがたかった。
もしもブランド大好きな2階のママさんに売っていたら、そう考えるとゾッとした。

俺には、やはり商売は向かないのかも知れない、とも感じた瞬間だった。


さて、いよいよ都内にある、この物件を扱う不動産会社との最終交渉に臨んだ。
相場からは少なくとも5万は高い。この5万が、損益分岐点になる。
ところがまたも予想に反して、どん底に突き落とされた。
存続をかけた交渉は、あっさり破談となり、店を畳む事になった。

そもそも前オーナーが失敗した商売のままの形態では、無理と査定されていたのだ。

はじめから交渉などの余地は無かった、というお粗末な終わり方だった。

この後、彼女とお好み焼きチェーン店の出店ばなしが、飛び込んで来るのだが、
ともかくこの商店街とは、おさらば、だった。

因みに、佐和山の貸し付けた元金の肩代わりは、俺がしていたが大野原からは返済があり、
優しいヤクザな先輩とも、平和的にシャンシャン手打ちの儀式があったらしい。
本当は、優しい先輩だったようだ。

そして、俺の自室は、アダルトビデオの山が占拠して、寝るところがなくなった。






kiminobu0408 at 06:30|PermalinkComments(0)TrackBack(0)私小説 | 小説

商店街の人々 その9

商店街に(みどり開発)という不動産屋があり、この駅周辺の賃貸物件を扱っていた。
奥さんが、宅建資格を持ち、夫は物件を案内する役回りだ。
平野啓一郎は67歳。8つ年下の奥さんと、引き篭もりの30になる息子がいる。


平野は、経歴が元警察官。交番勤務ではなくて、軽犯罪担当の刑事だったらしい。
ずんぐりむっくりのくたびれたオッサンという印象。
やる気ゼロのただのアル中オヤジかと、はじめは油断していた。


このオヤジもまた、大野原に金を貸して逃げられた被害者なのだ。
額は定かではなかったが、俺が店を譲り受けたことに、納得出来ない筋だったのだ。
(そんな事なら、おれの息子にこの店をやらせるんだった。借金のカタに貰う権利がある。)

店に来ると、このセリフしか言わない。
頭が良いのか、悪いのか、それとも悪い振りして相手を油断させる手合いなのか。
つかみどころが無くて、ある意味準組員の方々よりも扱いにくかった。

だが、法律の元で仕事をしていたとは思えないほど、民法、刑法に疎いオヤジだ。
不動産知識も怪しい。
俺も専門家ではないが、大人の常識程度は理解出来る。

だから、客のいない日中に来て、長時間粘られると、さすがにボディブロウが効いてくる。
(おれの息子は、ノイローゼだが、怒るとなにをしでかすか判らんぞ!)
もう理屈が破綻するや、今度は脅迫だ。


さすがにこれには俺も切れた。
店の外に出して、駅前を通る人々に聞こえるような怒声を浴びせた。
(何だって?誰が誰を殺るって?あんた自分の息子に包丁でも持たせて、殺しに行かせる気かぁ、それでも親か?)

人々が振り返り、この突然の寸劇に視線を投げたのは、感じた。
オヤジは慌てて退散し、それ以来顔を合わせても視線を外した。
息子思いの普通の頭が悪いオヤジだったようだ。

悪いのは、やはり逃げた大野原、に違いない。
気の毒なオヤジだった。

つづく


kiminobu0408 at 00:18|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2017年04月15日

商店街の人々 その8

ビデオ店としては、店舗面積が狭いため新作ソフトを大量に陳列する事が出来ない。
レンタルビデオの陳列というのは、様々なジャンルと選び切れない程豊富な量、
これが不可欠だ。通う客は、返還すると同時に次に見るソフトを探して、また借りて帰る。


これが繁盛店の条件なのだ。しかしながらココは狭い。大手チェーン店のような仕掛けは出来ない。
そこで売上の主体であるところのアダルトを、レンタルではなくて、販売ソフトとして特化し、
ついでに一般名作映画も新旧取り混ぜて中古ビデオとして、販売に転じた。


流行りの人気映画の新作を求めて来た客には落胆させたが、要するに売れ筋のアダルトを、安価で提供する店。
アダルトビデオショップに変貌したわけだ。だから深夜に、店のカウンター辺りで世間話をされると、エロい表紙の
エロいタイトルのものを、その世間話のバリケードを突破してカウンターで精算しようという強者は、いない。


このエロビデオのゴールデンタイムに、丁度店が一段落する飲食店のオッチャン、オバチャンが、実は大敵なのだ。
始末におえないのは、彼らも客の顔をして団欒に集まってくる。昨日の面白かったよ、と。
おそらく大野原の人なつっこいキャラが、商店街の人々の安らぎとなっていたんだろう。

オーナーが代わってるのに、気が付かないふりでもしてるのだろうか。俺に大野原の代役を求めているのか。
ビデオショップの2階は、スナックで、とても若いとは言えない陽気なママが出店していた。
陽子ママと呼ばれていた。太めのおっかさんが、久し振りに銀座にお出かけ、というスタイル。

若いサラリーマンには、これでも、と言っては失礼だが、ファンが多いのだ。
ブランド大好きママさんだった。さて、このママさんと、佐和山の二人が揃うと、もはや営業不能となった。
商店街の賑やか二大巨塔、静かに店のシャッターを下ろし、お茶かお酒を振るまいたくなってしまう。

いっそのこと、お茶代を徴収するか?ともかく深夜のアダルトビデオショップは、成立しなかったのだ。


つづく

kiminobu0408 at 05:29|PermalinkComments(0)TrackBack(0)私小説 | 小説

2017年04月14日

商店街の人々 その7

佐和山は、顔こそ厳ついのだが、紺のブレザーとグレー系のスラックスが好みらしい。
口調もドスが全く無くて、どう見ても金に困った商店街の経営者なオーラを醸していた。
実際に困っていたのは、金ではなくて親分さんの顔色だったのだ。


親分衆さん達も、佐和山の店にとっては金払いの清々しい上客だ。
機嫌を損ねたりしたら、店の売り上げにすぐに影響が出るのだ。
地元の一流企業のお偉いさんも、たまにみえるのだが、むしろ通勤途中の中間管理職がターゲット
だった。お姉ちゃんと上手い酒、料理、セットで一万円で遊べる、人気店だからだ。


銀座の高級クラブに通うような人種は、ほぼいない。
サラリーマンが安心して通いたくなる、上質キャバクラ、というわけだ。
このお店のサンドイッチに使うパンは、話題の一斤千円の高級パン。
卵とバターと牛乳がたっぷり入った、隣町の人気店のデニッシュを使っていた。


実はこの人気デニッシュを、俺の店でも扱っていたのだ。
大野原が以前、パン屋に軒先を貸してデモ販売をさせていた事があるらしい。
今でも一日に20斤のパン客がいるため、商品は奥に置き、常連だけが買えるようにした。
佐和山もその常連客、というわけだ。取り次ぎ手数料で一日に二千円の儲け。


もしかして写真の儲けよりもデカいかも知れない。
この商売を始めて、写真の取り次ぎは薄利なうえにトラブルが多くて、割に合わない事が判明した。
それを促進する元営業マンとしては、複雑だった。商いは、やってみないと判らない。


話を戻すが、佐和山は、大野原の借金を俺から代わりに取り立てる方針に決めたようだった。
借り主が変わるだけで、中身は一緒。これで当分の間、俺が大野原ダミー役を演じる羽目になった。
店の営業は妨害されるは、ヤクザ金融の新しいカモとして目をつけられるは、散々な船出となってしまった。

つづく

kiminobu0408 at 05:33|PermalinkComments(0)TrackBack(0)私小説 | 小説

2017年04月13日

商店街の人々 その6

20年の時をさかのぼると、どうしても季節感がわからなくなる。
夜逃げ屋ゴッコは、寒い時期だったのか、真夏の夜だったのか、記憶がない。
たぶんだが、自分の中で最も消したい過去だったんだろうと思う。

彼女は、地元で生まれ育った、ごく普通の会社員の家庭で育った、大人しい女性だった。
ちさ子、という。出逢ったのは、大野原の経営する駅前ビデオ店のカウンターだった。
写真の営業で、前の地域担当者から業務を引き継ぐ際に巡りあった。

今流行りのテレビドラマに出ている、あの人気女優に、雰囲気が似ていた。
目があった瞬間、彼女の大きな瞳の中に、光があった。その怪しい光は、強いメッセージを持って
確実に俺のハートをぶち抜いた。

後で彼女に聞いた話だが、あの時は瞬間的に(付き合うだろうな)と思ったらしい。
ラブストーリーの定番シーンのような事が、本当に起こったのだ。
会社がひけて、彼女の居る店に入り浸る、これが習慣となった。

ハートをバチバチさせている中年男女を、たぶん見かねてオーナーの大野原は、言った。
(おまいら、とっととラブホで、ケリつけてこいよ。営業妨害だ。)


まあ、なんとありがたいお言葉かと、大野原を拝みたくなった。
しかし、実際に直行したわけではなく、超オクテな俺は、結ばれるまでにとても時間がかかった。
彼女は無口ではないが、俺がほとんどしゃべり続けて、時々彼女のツッコミが。漫才か。


しかし幸せな時間だったことは、間違いない。
そんな流れで、いつしか店を譲り受け、この夜の夜逃げ屋本舗のメンバーに、彼女もいたわけだ。

つづく

kiminobu0408 at 04:14|PermalinkComments(0)TrackBack(0)私小説 | 小説

2017年04月11日

商店街の人々 その5

ことは、夜逃げ屋何たら、そんな映画の痛快ドラマでは済むはずがない。
大野原本人もその辺りは、熟知していたようだった。
夜逃げ、は本人ではなくて、家族を緊急避難させる手立てだった。

大野原本人は、携帯の番号こそ知られているが、ねぐらは不明だった。
都心に住む愛人のマンションが、彼の隠れ家らしいが、教えてはもらえなかった。
奥さんは、表向き離婚して、夫の家を出たというストーリーだ。

問題は息子の方だ。勤め先を知られている以上、暫くは付きまとわれるのを覚悟しなければならない。
一度に家族揃って雲隠れすれば、ヤクザは本気で探し出す。夜逃げと悟らせないように徐々にフェードアウトする戦法だ。

引っ越しは、映画そのものだった。近所のどんな目があるかわからないので、深夜に、まるで泥棒のような引っ越しだ。
ほんの一瞬だが、映画のヒーロー的な気分も味わえたが、まだ誰にも言ってない。


そこまでは、大野原の目論見通りで時間稼ぎは成功した。
のちに息子もアパートを借りて、家をでた。暫くの間、無人の家。
それが暫くすると、鍵をこじ開けて侵入され、もぬけの殻と察知されたが、大野原は携帯の番号をけして変えなかった。

連絡はつく、と安心させるためだ。
元神童らしいが、こののちどうするつもりかは、凡人の俺には見当もつかない。
さて、そろそろ俺の彼女の話に、なるんだろうか。

つづく


kiminobu0408 at 23:21|PermalinkComments(0)TrackBack(0)私小説 | 小説

商店街の人々 その4

苦肉の策、早い話、このうるさい先輩の問題を早期解決するしかない、と思ったわけだ。
実は居抜きでスタートしたものの、不動産屋との正式契約前であったので、敷金、家賃その他の
値下げ交渉中だった。店の回転資金を含めて、そこそこの軍資金はまだ手付かず。

幸い数十万単位の金額で、このオヤジは静かになるはずだ。俺が債権を買い取れば、解決するだろう。
そのはず、だったが世の中、そんなに甘くは無かったのだ。
このオヤジ、後輩の背中にある借金癖を把握した上で、金を貸していたふしがあるようだった。
本業はヤクザではない。しかしながら準組員なのだ。
まだまだ絞れると見込んだ上客を、そう簡単には手放さない。


首が回らない程貸し付けて、後は遠洋漁業の船に乗せて稼がせよう、的な魂胆だ。
なんという後輩思いのヤクザだろうか。


元金は何でも無い金額だが、利息が途方も無いヤクザ金利で動いていたのだ。
だから永遠に完済はさせないシステムというわけだ。
なんで頭の良い神童と呼ばれた男が、こんな罠にはまったのか。
たまたま高校の優しい先輩だったからか。


この町は、古くから宿場町で、歴史ある地元の親分さんの影響力は健在だった。
商店街の旦那衆も、大小あるにせよ上手く付き合っているのだろう。
みかじめ料という保険を親分さんに支払う慣わしらしい。

トラブル対策は、ある意味警察よりも迅速で、強力かも知れない。
しかし金は、銀行か信用金庫に限る、けしてヤクザ金利には、近づかない。
それがこの町で商売する鉄則なんだ、と思い知らされた。


大野原は、この優しい先輩の本質に、とっくに気付いていたらしいが、時すでに遅し。
ついに夜逃げ、という話になった。その夜逃げ屋本舗を、事もあろうに、俺に依頼するという話。
それを安請け合いする、俺も俺だ。事は秘密裏に着々と進んだ。

つづく


kiminobu0408 at 20:04|PermalinkComments(0)TrackBack(0)私小説 | 小説

2017年04月10日

商店街の人々 その3

債権者の行列というのは、圧巻というか恐怖だ。
俺の借金ではないのに、貴様はいったいどうやって店を手に入れたんだ?という
威圧感は、半端ではない。まぁ気持ちは良くわかるのだが。


俺も債権者のひとりなんだ、というスタンスで、とりあえず連絡先だけは知らせて
その場は凌いだのだが、あの羨望と嫉妬の目線で、この商店街で商いするのか、
そう思うと不安がこみ上げてきた。真っ当な筋の商売人なら、ある程度の理屈が通る。


だが、何たら組の準組員の筋の方々は、そうはいかない。
役場に勤める息子の職場にもコンタクトしているらしい。
別居中の奥さんも同様に。あの険しい顔で迫られると、生きた心地はしないだろう。
当然職場でも仕事し辛いだろう。


この商店街にも、大野原の高校の先輩で、パブのオーナーがいる。佐和山という1年先輩らしい。
よくよく話を聞くと、名門校から脱落して編入した先の高校だと判明した。
佐和山の店は、まあ銀座の一流クラブには劣るものの、料理もお姉ちゃんもなかなかな、地元企業の
接待御用達のお店だった。因みに、この先輩も何たら組の準組員なのだ。


顔はいかついのに、神経質で肝の小さな男、という印象だった。後輩という事で、何かしら面倒をみていたらしい。
地元の親分にも、彼が仲介していたのだ。だから、佐和山は大野原に逃げられると、自分がそのケツを拭かなければならないのだ。
金額はそれ程多額ではない。先輩が責任を取ってもいいんじゃ?というレベルの借金なのに、なんとケツの穴の小さいヤクザだ。


ところが、彼は自分の店のトイレ清掃は従業員には任せない。自分で便器をピカピカにしないと気が済まないのだ。
なるほど繁盛店には、そんな秘密があるんだと、少し感心もした。小者だが、憎めないオヤジが、ここにもいた。
さて、俺が一番困ったのは、深夜の売り上げゴールデンタイムに、厳ついオヤジがカウンター横でくだをまくしたてる、状況だった。
アダルトビデオを手にした客も、恐れをなして諦めて帰ってしまうのだ。


このオヤジもなんとかしなければ、このままだと商いにならない。
そこで、苦肉の策を思い付くも、これが裏目に出てしまう。

つづく

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2017年04月08日

商店街の人々 その2

大野原剛志、当時55歳で隣町の市役所に勤める息子と、別居中の妻がいる。
先代の父親はすでに他界し、全盛期には10店舗も書店を抱えていたが、
全て撤退。この店舗だけは手放さずに、10年前からレンタルビデオ店として
生き残っていたのだ。


写真の集配には、いつも夕方、来ていた。当時40だった俺には彼女がいなかった。
ところが、この店にアルバイトの看板娘がいて、いつしか仲良くなったのだ。
若く見えたが、彼女は同い年。当然オーナーのお手付きかと勘ぐっていたのだが
そうではない様子。むしろ交際を後押ししてくれたのだ。


彼女が出来て有頂天だった俺には、この店を二人に譲りたい、と申し出られた時、
そんな夢のような事、断る理由が見つからなかった。店の売り上げ、家賃含む
諸経費を差し引いた利益は、大体正しい情報だったし、写真業界もデジタル時代の波
が、すぐそこまで押し寄せて来ていた時期でもあったのだ。

しかし、レンタルビデオも実はDVD時代に変わりつつある微妙な時、でもあった。
悩んだが、結局、居抜きで商売させて貰うことに決めた。駅前の利便性を考えた
可能な限りのアイテムを並べていけば、イケるのでは、と甘い考えで決断。


説明だらけで、人物像がほったらかしだが、つまり、上手い話には、裏があったのだ。
店の経営は、普通なら問題ないのだが、このオヤジ、レジからドンドン金を持ち出して
いなくなる、ダメオヤジだった。おまけに、商店街の旦那衆から片っ端から借金をしていた。



そんな事とはつゆ知らず、新オーナーになった初日から、債権未回収問題を抱えた旦那衆の対応でてんてこ舞いだ。
世間知らずの自分を呪った。

つづく

kiminobu0408 at 21:55|PermalinkComments(0)TrackBack(0)私小説 | 小説

2017年04月03日

商店街の人々

この商店街も20年の年月を経て、景色も人々の顔も、すっかり変わってしまった。

なのに俺は、ただ普通に歳を重ねただけかと、少しへこんだ。
この商店街の一番奥の、駅改札口真横に、俺の店があったのだ。
元は書店だった店舗を、居抜きで借りて、ほんの一瞬ではあったがビデオショップを営んでいた。

ローカル駅とは言え、間口は狭いながらも家賃は27万円と、けして安くはない物件。
今でこそ傾きかけている某電機メーカーの社員が多数利用していた場所。
曲がりなりにも商店街のオッチャンをやっていたのだ。


この商店街には、なんと愛おしい位面白い、危ない、憎い、そして、尊敬するオッチャン、オバチャン
がいるのだろう。およそサラリーマン時代には、お目にかかれないだろう、人間博物館のよう。
俺がいた時間は、ほんの一瞬ではあったのだが、物書きとしては一生の財産だとおもう。

彼らとの係わりで、その魅力がどこまで伝わるか、自信がないが書いてみることにした。



前オーナーだった、昔神童今ダメオヤジ、から紹介しよう。
そもそも写真プリントの営業で、このオヤジとは取引先だった縁で繋がる。
ビデオショップの店頭で、写真プリントサービスの取り次ぎをして貰っていた。

俺はその集配と取り次ぎ店舗拡大の営業マンだった。
このオヤジ、実は二代目で、先代は同じ場所で書店を経営。
何店舗もあったそうだから、ええとこのボンボンだったのだ。

頭はすこぶる良くて、御三家と言われる中高一貫校の有名校に通っていたらしい。
校風も自由で、大学生のような学生生活だったようだ。そのせいか、
高校3年に進級出来ずに、途中で退学して一般私立高校に編入している。

背丈は160センチ位の痩せ型、温厚で感情を荒げることはなく、女性からみると、
母性本能をくすぐるタイプなんだろう。イラつくぐらいもてる男だった。
のちに、俺の彼女のハートも、俺から盗んでいったのだが、それはまた、次のはなし。

つづく

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2015年10月26日

〈怪談〉あおしま君 その10

警視庁内部にネットを24時間監視する部署が有るのは、小生も知っていた。
教授が言うには、ネット監視チームとは、公安も経済・金融犯罪も、麻薬も殺人も、イジメも、あらゆる部署が絡むため、各セクションのエキスパートで構成された精鋭チームなのだそうだ。

今回の案件は、この〈消したい人間〉と〈神の弟子@〉というワードが網にかかった時点で、既に関係する全ての人物と動向の捜査が進められていたらしい。小生もリストの上位にあったのだ。そして子供らの名前も。

説明が省けて良かった。後は教授の見解を聞くのみだということだ。質問はその後にすべきだろう。教授の見解はこうだった。

あおしま君を取り巻く、イジメ事件を含む、ほぼ全員が絡んでいる奇異な案件だという。ネットで書き込みをした複数の人物の特定も済んでいた。あの行列もラーメン待ちの客ではなく、全て関係者の行列だったのだ。全員からの聴取も進み、あとは小生達、本丸のみだという。

教授の仮説によると、大阪と福岡はダミー、もしくは○○駅前ラーメン屋が、偶然一致したための見物人の行列であると。中には数人だが本気で殺人の依頼をしようと並ぶサラリーマンがいたそうだ。やはり世間のストレスは一触即発の異常事態を物語っている、と教授は説明した。しかし、決め手となるパニックを起こす呪文なり、書き込みの実態が無いのだ。全員がスマホを持ったまま手が震えだし、倒れたり失神したり奇声をあげるほどの決め手となる爆弾的な仕掛けが不明なのだ。

集団ヒステリックを起こすためには、古典的には集団催眠が有名だが、ネットの書き込みには相当するワードがなく、現場で何がしかのコンタクトがないと成立し難いらしい。学術的用語を並べて説明を聞いたが、現在の研究からは立証は困難、という。

犯罪性の高さから言うと、書き込みをして関係者を誘導し、店に嫌がらせを行った、いわゆるあおしま君の被害妄想者達は、業務妨害が起訴出来るそうだ。

教授は最後に、こう付け加えた。何れにしろ、亡くなった少年と、その御家族が一番の犠牲者に違いない、と。

現代のイジメ問題は、警察の精鋭チームをしても、歯が立たない、ということか。小生は質問さえする事なく、無力感の土産つきで帰宅した。


その後、ラーメン店は通常の営業に復帰し、混乱も無い。仲良し少年のコンビも普通に学校生活を送っている様子。
ミノルを誘い出して、妻の墓参りにでかけてみたくなった。

「ミノル、お前さあ、まさかとは思うけど、超能力少年てのは、お前か?」

ミノルは黙りこみ、小生の目を見つめた。
目に差し込む痛みが起こり、小生は悶絶した。

お前は呟かなくても、頭をよぎるだけで、そんな事ができるのか。
わかったもういい。
お前は感情のコントロールが幼稚園児並みだな。

修行が足りない子供だ。俺に任せろ。
無闇に使うな。わかったか、ミノル。

ミノルは安心した顔で、こっくりと頷いた。

おしまい




kiminobu0408 at 15:10|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談

〈怪談〉あおしま君 その9

名刺には、東大社会心理学研究所 主任研究員 岩沢誠司、と書かれていた。

アポを取り、小生がひとりで訪ねる事にした。主任研究員とあるが、聞いてみると名誉教授らしい。所長でなくて主任研究員と控え目に記載する当たりが、どうも胡散臭い気もしたのだが、電話で話した印象は穏やかで年配のバリトン、という感じ。

教授が興味を惹かれた理由は、どうやらスマホによる集団ヒステリック現象にあった。警察から、いったいどこまで情報が上がっているのだろう?あれこれ想像してみたが、かつてない緊張感を覚えた。何故なら、子供らを巻き込みたくない、と思ったからだ。しかしその反面、真相究明、という命題も有るわけで、両者の葛藤がなお一層混乱させるのだった。

取材で赤門をくぐるのは、いつ以来だったろう。守衛さんに場所を聞き、少し迷いつつも古い伝統の学舎の教授室にたどり着いた。

どうぞ、とバリトンの声に促され入室した。小柄な細身の白髪紳士だった。

「こちらからお訪ねするのが筋でした。申し訳ありません」

「いえ、こちらこそお招きいただき恐縮です」

教授は何やら手元に膨大な資料を抱えていた。教授の研究資料なのだろうか。その中から3つのファイルを選び出して、小生の前に並べて見せた。

「今回は情報不足だったので、じかに当事者からお話を伺いたいと思っておりました。私の研究対象はコミュニケーションツールによる集団ヒステリック現象です」

よし来た、この際教授から学んで帰ろう、そう決心した小生だった。

「あなたは、どんなお仕事ですか、差し支えなければ…」

「雑誌記者兼編集者です。小さな会社ですが」

名刺を出すのをすっかり忘れていたのだ。〈週刊タイムリー編集部 今泉多聞〉小生の本名だ。

「いきなり本題になりますが、今泉さんはスマホ、今日はお持ちですか?事件というか、パニック当日にご覧になっていた部分を拝見したいんですが、よろしいでしょうか?」

「社内メールを送ろうと、スマホを取り出したところだったんで、なにも…」

教授は苦笑いした。この男はもしや全てお見通しなのかもしれないと、緊張した瞬間だった。

「twitterは?あるいはなんらかのSNSは、お使い、ですよね」

「はい。仕事柄あちこち覗いております。もちろんtwitterも」

「これ、ご存知ですか?★呟き神の弟子@jumon 消して欲しい人間がいる諸君!という書き込み」

もはや言い逃れは通用しないようだ。だが慎重に、そう自分に言い聞かせる。

「見ました。正確にはあのパニックの後に、見つけました。私自身興味があったので」

「というと、この文面を見て行列に加わった訳ではないと?」

「はい。その通りです」

教授は並べた資料を指して続けた。

「あの日、同時刻に大阪でも、福岡でも、同じようなメッセージを見ながら集合体が集団ヒステリックを起こしておりまして」

驚いて、なにも返せなくなる小生だった。

「偶然とは考え難いでしょう?何らかの意図で発生している、と考えるのが自然です。何かお心当たりは?」

迷う小生を見かねたのか、教授は立ち上がっってお茶を入れ始めた。

「安いお茶しかなくて、それとも珈琲か紅茶がよろしかったら…」

「緑茶をいただきます」

はたして、この不毛な探り合いに意味はあるのだろうか、いっそ協力するほうが得策か。
小生は後者を選択した。

「意外ですね、同時に地方でも同じような現象が起きたなんて」

更に核心に触れてみた。

「悪意を持って、民衆を先導してる、と感じております」

教授は満面の笑みで、その答えを待っていた、という仕草を見せた。

「そうなんですよ、今泉さん、私も同意見です。では目的は?テロですかね?政府もしくは社会に対してのメッセージか何か?」

「わかりません。私はここに来るまで、特定人物への復讐だと思い込んでおりました」

「特定人物?それについては、すでに見当がついてる?あっ、失礼」

「ぼんやりですが、まあ仕事柄、と申しますか…おおむねは…」

「しかし、同時多発となると、わからなくなる、実は私もそこで悩みました」

「あの、単刀直入にお聞きしますが、教授は東京で起きたヒステリック現象の背景はご存知ですか?」

教授は少し、間をおいた。

「調べました」

つづく

kiminobu0408 at 05:28|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談

2015年10月25日

〈怪談〉あおしま君 その8

あおしま君のパパと小生は、所轄の警察署にむかっていた。
道すがら、あおしまパパから興味深い話が飛び出した。

「あいつは俺に似て、たいして気は回らないんで、頭に浮かぶとつい、口走る癖があるんですよ。前の学校でもそれが祟ってイジメにあう始末。独りだけ友達が庇ってくれたらしいんですね。そうしたらイジメのターゲットがその子に向けられてしまって…」

「担任教師もほっておいたわけじゃないんですよ。学級会って、今は使わないのかな、クラスでイジメを締め上げたらしいんですね。そしたらどういうわけか、その先生が逆に差別したって親からチクられたんでしょうね、謹慎食らった挙げ句に、担任外されたんです。わたしもそれ聞いて校長に文句言ってやりましたが、悲しい結末でした」

庇ってくれたあおしま君の友達が、自殺してしまったらしい。なんと悲しすぎる結末だろうか。以来、転校したあおしま少年は、本人の目の前で聞こえるように口走ることはない、と言うのだ。

ミノルはたまたまあおしま少年の側にいて、小さな呟きを聞いていたのだろう、とあおしまパパは語った。

という事は、被害妄想説も成り立ちにくいことになるのか?本人は否定したが、或いは悲惨な体験から突如として特殊能力が目覚めたか。

ふと、小生が呟けなくなった、あの日の不気味さを思い出していた。

警察署では、ありきたりのしきたりにのっとり、事実確認のみで事件、事故とは判断せずに幕引きしたい空気だった。だがら、こちらも余計な情報は一切言わずに同意して帰された。

ところが、署長が途中から顔を出し、警視庁の科学顧問をしている大学教授が、このたびの行列パニックに興味を示している、会ってくれないか、と名刺を渡されたのだ。

小生としては、望むところだった。

つづく

kiminobu0408 at 11:58|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談

〈怪談〉あおしま君 その7

ミノルの説明はこうだ。

あおしま君も僕も、twitterはフォローはするけど呟いたことは一度もない。だけど、アイツがあおしま君になりすましたり、信者を装って同志を集めているのは知っていた。この文面は直ぐに通報で削除されたのに、直ぐに違うハンドルネームで〈呟き神の弟子〉が書き込みしてしまう。全部アイツの仕業だと思っていたら、それも違っている事がわかった。複数の弟子@がいる。

「ひとつ質問、アイツって誰のことだい?複数の弟子@ってのも見当はついてるの?」

「お父さん、もうわかったでしょ、勝手に被害妄想してあおしま君に復讐してる奴らと言えば、誰?」

我が息子から、質問を質問で返されるとは驚いた。いつの間にこんな技を身に付けたのか。俺を見て育ったからなのか。複雑だ。

ミノルの言いたい事はほぼ理解できたが、あおしま君の両親は不安を色濃くして黙り込んだままだ。そもそも恨みを買う発言をしたのは、あおしま君に他ならない。

「じゃあもう一つ質問。行列でパニックになったのは、誰の仕業?まさか集団催眠術みたいな書き込みがあったから?どの書き込みであんな事になるの?」

あおしま君が、やっと話しだした。

「僕が呟いたからじゃないよ。僕はただお父さん達が急に忙しくさせられたのを見て、僕のせいかとミノルに聞いただけ」

「あおしま君、君さあ、正直言って自分に特殊な能力があると思ってる?」

「そんなわけないじゃん」

即答だった。その目は透き通っていて嘘は感じられない。こころない復讐の呟きが、言霊となって伝染した結果の集団ヒステリックだったのか。

しかしヒステリックにさせた決定的な証拠がない。事件記者としてはまだ記事になるレベルではない、と感じた。

もっとも記事にする気など毛頭ないのだが。

つづく


kiminobu0408 at 02:48|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談

2015年10月24日

〈怪談〉あおしま君 その6

「警告、だったの?」

小生はあえてとぼけて返した。
取材中に思わず容疑者と出くわしてしまった際に、重要なキーワードを聞き出す手法だ。

するといきなり、あおしま君パパの張り手があおしま君の左頬をヒットした。


「警告だぁ?ガキが大人にむかって生意気なこと言ってんじゃねぇよ、こらっ」

いやいや、まあまあ、と間に入るが、内心はヨシヨシと思う小生。あおしま君は無言で父親に抗議の目で対峙していた。無言の抗議となるとまずい。そこで我が息子〈ミノル〉に話を振ってみる。

「ミノル、お前の親友がピンチだぞ。助けてやれよ」

ミノルはスマホを取り出し、これを見て、と差し出した。画面はtwitterの文面だった。

★呟き神の弟子@jumon
消えて欲しい人間が居る諸君、神が○○駅前のラーメン屋に出没しているぞ。急げ。

「これ拡散させてんのは、あおしま君じゃありません。たぶんアイツ…」

あおしま君が〈ウザい〉と言ってるのはこの書き込みのことだったようだ。しかも、彼に恨みを持つ人物?なのか。
小生が以前、震えだした時にはこんな投稿はなく、ただの〈呟き神〉武勇伝の噂程度だったはず。

これほど影響力があるとも、どうしても考えられない。世の中、どうなっちまったのだろう。異常なのはあおしま君ではなくて、むしろ過剰反応する世間のほうではないか。

その最先端にいる、世間代表は、小生自身?いやいや、何か違っている。重要ポイントを見失っている。

ただし、今はそんな気がするだけなのが、歯痒い。

つづく

kiminobu0408 at 12:32|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談

2015年10月18日

〈怪談〉あおしま君 その5

お偉方、というのは方便だった。だが、まんざらデタラメでもない。

以前、警察の偽装事故処理事件の追跡取材をしていた頃、被害者の家族とその弁護団の方々とは面識があった。

あおしま君の父親の親友が、車で不審死体で発見され、睡魔による事故死と断定されたのだが、事故報告に多数の矛盾点が弁護団により暴かれていたのだ。

この事件を世に公表したのが、小生の記事だった。
被害者は、意識を失い、パトロール中の警官に発見されたのだが、眠っていると勝手に判断されたのだろう。
そのまま放置され死亡に至ったのだが、それを隠蔽する為に車両を移動までして偽装工作を行ったことが明るみにでた事件だ。

その後、全国の警察不祥事の被害者による連絡会が、弁護団により結成された訳だった。

今回の集団パニックに関しては、被害も少なく、実際に救急車が現場に到着する頃には全員意識が戻っていたため、事件性も事故にも当たらない、原因不明の集団パニックとして処理された。

しかし、後日あおしま君の父親と小生は、警察署に参考人として事情聴取に出向く事になった。

店は暫く休業状態、その間にじっくりとあおしま君について、御両親と話すことができたのは、幸いといっていいのだろうか。

「息子は前の学校では、酷いイジメにあっていたんですよ。なまじ正義感の強い奴なんで、ひとりでイジメと対決したらしいんです。親友をかばってね」

意外だった。彼は魔力を発揮するでもなく、不本意ながら担任教師の勧めで転校を余儀なくされていたという。

しかも今回の学校内呟き事件?については何も知らず、息子が不祥事を起こした風な小生の意味不明な質問にイラつく場面さえ有り、取りなしに苦労した。

何か急に背筋が凍る気配を感じた。
その場に本人が現れたのだ。しかも我が息子も一緒だ。

「おじさん、警告したよね、僕…」


つづく


kiminobu0408 at 06:39|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談

2015年10月16日

〈怪談〉あおしま君 その4

ああああ、ううう、
だ、れ、か、きゅ、う、きゅ、う、し…

そのラーメン店に並ぶ行列は、修羅場と化した。
スマホを落として、自らも倒れ込む者、震える手を上空にかざして奇声を上げている者。
失神している者も数名いた。

その光景に背筋を凍らせて、固まる者。小生もそのひとりだった。
異変に気付いた通行人が通報したのだろう、自転車で警官が一名駆けつけた。

若い警官は、状況が判らず困っていたが、失神している人を救護しつつ、救急車の手配を無線で要請したようだ。
小生はその困っていた様子を見かねて、警官に状況を説明した。だが自分自身、何を言ってるのか、なにしろ不自然過ぎて説明がしどろもどろだ。

「ともかくあなたは大丈夫なんですね。申し訳ありませんが上司が到着したらもう一度、お話をゆっくり聴かせて下さい」

その丁寧な言葉とは裏腹に、警官は小生の手首を確保して、手錠をはめようとした。
どうやらこの騒動の犯人にされてしまったようだ。流石に小生も怒鳴った。

「おい、若造、状況もわからずに無闇に手錠なんかするもんじゃないよ。そう警察学校で教わったか?」

しどろもどろの説明が、明らかに挙動不審と判断されたのだろう。しかし、青年は小生の目を改めて確認して、ハッとしたのか

「大変失礼致しました。ご協力お願いします」

と言いつつ、手錠はしまい込んだが、手首はしっかり確保したまま離さない。
そう簡単に不審者は逃がすな、と学校で教わったのだろう。最早この若者を諌める方法がないと、諦めかけた。

すると、騒ぎを知って店から出てきた〈あおしま君〉の父親が助け舟を出してくれたのだ。

「この方は、おたくらの仕事振りを監視する市民団体のお偉いさんだよ。兄ちゃん対応誤ると始末書じゃ済まなくなるけど、大丈夫かい?」

その若い警官は、一瞬考えた末、ようやく手首を解放した。

つづく

kiminobu0408 at 02:30|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談

2015年10月11日

〈怪談〉あおしま君 その3

あおしま君の魔力のせいなのかどうか、説明に困るところだが
あれ以来、スマホを持つと手が震えだしてしまう。

心理学の先生なら多分、自己暗示とかそんな類いの診断をくだすところかもしれない。
ただし、このままでは仕事にも影響しそうだ。怖いが、真相に迫るしか治療法は無い気がする。

我が子の身も心配で眠れない。
何よりも恐ろしいのは、仮に彼が本物の怪物であるならば、その怪物の手に現代の兵器であるところの〈スマホ〉を持たせたら、この世はどうなってしまうか。

彼自身には悪意が無くても、彼を〈兵器〉として利用しようとする有象無象、魑魅魍魎が接近したら?
もはや猶予はない。

ともかくラーメン店を営む両親に会うべきだろう。
行列が出来る評判の店なら不思議は無いのだが、えらく長い行列になっていた。
このぶんだと忙しすぎて、ゆっくり話も聞けそうにない。

今やスマホ片手に行列をなす光景は当たり前。
震える手を抑えながら、小生もその風景に同化した。

突然、前のほうで〈あぁっ!〉といううめき声が聞こえる。
見ると、行列の全員が、そのスマホを持つ手を震わせていた。

つづく

kiminobu0408 at 06:52|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談

2015年09月13日

〈怪談〉あおしま君 その2

あおしま君という少年は、どう云うわけか小生の息子と仲がいい。
息子の話を鵜呑みにしたわけではないのだが、興味があったので
我が家に招いてみたのだ。

買ったばかりの、例のスマホも持参してた。
しばらくは、息子と二人でスマホ操作やゲームの話に夢中だった。
どこからみても知能犯や悪魔君には見えない、優しい子供だ。

「君らはLineとかTwitterとか、やってるのかい?」
二人は急に黙って、それは愚問とばかりお互いを見つめあう。
質問がストレート過ぎたかと後悔したが、あおしま君が呟いた。

「おじさん、それやってるの?だったら今のうちにやめときな!」
「どうして?なにか悪いことでも起こるからかい?」
「つうかさあ、ウザいじゃん」

彼の魔力は、小生をウザいおじさんにしてしまったようだ。
息子がしきりに、もうやめてと視線を送って来たので、追求は断念した。
言葉使いは尊敬も遠慮もない普通の小学生だが、底知れぬ不気味さは増した。

気になったから、Twitterだけはチェックしてみた。
すると、ここでは彼の存在はすでに神格化していたのだ。
彼の忠告はきいていたほうが良かったか?

気がつくと、以前のように呟けなくなっている自分に愕然とした。

つづく

kiminobu0408 at 05:43|PermalinkComments(0)TrackBack(0)小説 | 短編奇談
Profile
いまさか きみのぶ
生年月日/1958年4月8日
血液型 /A型
趣 味 /小説執筆と映画鑑賞
Mixi