コンサルティングとファイナンス

コンサルの仕事や書籍から得たコンセプトのメモ

なぜ仮説を持たないといけないのか

「仮説思考」を実践できているという自信はありますか。

世間的に「仮説は持った方が効率が良い」という程度に認識されていますが、本来はそんな甘っちょろいレベルでは無く、「仮説が無いと情報収集は出来ない」と考えています。


ただ、トップファームに在籍していた人でも相当怪しいというのが実態ですので、よほど浸透するのが難しい概念のようです。

逆に、これが出来ると、間違いなく、圧倒的に、生産性が改善します


しかも、仮説を持つと周囲に迷惑をかけないので信頼もされます。

今回の記事は「仮説が無いとなぜ困るのか?」「仮説の有無ごとの口癖」を示し、日常的にも「あ、この人は仮説が無いぞ」と判定できるようになって頂くことを目的としています。


1.仮説が無いと何が困るのか?

仮説が無いと何が困るのでしょうか。

結論から申し上げると、仮説が情報収集に当たっての唯一のゴールとなるからです。逆に言えば、仮説が無いと情報収集の範囲は無限に広がります。仮説は持たないといけないのです。

「どのような答えが欲しいのか」を言語化することで、情報収集の範囲が明確に定まるのです。


以下、「イシューからはじめよ」で素晴らしい事例があるので、抜粋します。

日本の会社では、「〇〇さん、新しい会計基準についてちょっと調べておいて」といった仕事の振り方をしているのを目にする。だが、これではいったい何をどこまで、どのようなレベルで調べればよいのかがさっぱりわからない。ここで仮説が登場する。
「新しい会計基準下では、わが社の利益が大きく下がる可能性があるのではないか」
「新しい会計基準下では、わが社の利益に対する影響が年間100億円規模あるのではないか」
「新しい会計基準下では、競合の利益も変動し、わが社の相対的地位が悪化するのではないか」
「新しい会計基準下では、各事業の会計管理・事務処理において何らかの留意点を持つことで、ネガティブな影響を最低限にできるのではないか」
これくらいのレベルまで仮説を立てて仕事を与えられれば、仕事を振られた人も自分が何をどこまで調べるべきなのかが明確になる。答えを出すべきイシューを仮説を含めて明確にすることで、ムダな作業が大きく減る。つまり生産性が上がるのだ。

以下、この事例に基づいて考察していきましょう。

(1)仮説が無い場合

さて上司から「新しい基準について調べておいて」と指示されました。これを受けて何をするでしょうか。

・とりあえず、ネットで情報を拾ってみる
・会計事務所で出している解説を発見。とりあえず読んでみる。
・ネットをさまよっていると、税務上の留意事項も書いてある記事を発見。そちらの解説も読んでみる。
・会社法上の影響についての記事も発見。こちらも読んでみる。
・別の検索ワードを入れると、システム上の留意事項の記事も発見。そちらの解説も読んでみる。
・どうやら「○○」という雑誌に詳しい解説があることが分かった。とりあえず図書館にでも行ってみよう。

・・・・・どうでしょう。終わりそうでしょうか。
上記の抜粋で示されている通り「いったい何をどこまで、どのようなレベルで調べればよいのか」がさっぱりわかりません。


仮説が無いから、情報収集のスコープが無限に広がるのです。


(2)仮説が有る場合


では、今回は上司から「新会計基準による利益減少影響が大体10億円くらいあると思うんだけど、確かめてもらってもいい?」と指示されました。さて、これを受けて何をするでしょうか?

・まず、経理に問い合わせをして、現状の計算ロジックを確認する
・現状のロジックを踏まえ、自社に影響を与えるポイントをネットで調べる
・会計事務所の解説を発見。これを参考に、計算ロジックをアップデートをする
・算定した結果、9.5億円程度の利益減少影響。概ね上司に言うとおりであった旨、上司へ報告する
・合わせて、監査法人にもロジックに異常がないか確認のメールを投げる

・・・どうでしょう。圧倒的に作業量が少なくて済むと思いませんか。

仮説というゴールがあるので、このゴールに向けてギャップを埋めていく進め方が出来ました。

しかも、今回の場合には、目安となる金額まで示しているので、乖離している場合には「ロジックとして異常点があるのではないか」ということも気付ける状態になっています。


まさに仮説のある指示の出し方であり、ゴールが明確です。


2.仮説が有る人/仮説が無い人の口癖、周囲への影響

(1)仮説が無い人の口癖

1)見切り発車系
・とりあえず見てから考えよう
・とりあえず話を聞いてみて
・ふたを開けてみるまで分からないでしょ

2)現状調査系
・まず現状調査からやってみよう

3)先送り系
・この場の議論では決められない
・1,2年の時間をかけてじっくりと取り組むべき


これらいずれも仮説というゴールが無いが故に生じる口癖です。

(2)仮説が有る人の口癖

・現状の結論は○○だよね
・この分析をして○○という結果が欲しいんだ
・そんなことやる意味無い

情報収集や分析をした結果を見て○×判定ができるような仮説を具体的に持っていますし、具体的な仮説があるからこそ関係ないことはバッサリと否定できるわけですね。



(3)仮説が有る人の指示を受けると希望が湧く

仮説のある指示を受けた人の感覚として、「これが証明できればインパクトがあるぞ!」という希望を持って作業に臨めるものです。

逆に、情報収集の場面で「本当にこれやって意味があるのかな?」と感じるような場合は、指示者に仮説が無いか、極めて曖昧なはずです。

私の経験上、きちんと調査する前に仮説を具体化すると、「こんなのダメな結果が出るに決まってるじゃん」と断定できるケースだって多いです。


「希望を持てるか」という点で言えば、クライアントだって同じ立場です。

必要性が分からないまま、資料を提出させられるのは良い気持ちがするはずがありません。

しかも多くの場合、提出した資料が報告書上、どのように活かされたかが読んでも不明なわけです。


逆に資料依頼の際に、「○○という施策を打ったら○○円程度の改善効果が出せると考えています。こちらを検証するために○○という情報を頂けますか」とお願いすればどうでしょう。

「これはやった方がいいかな」と考えて臨んでいただけるはずです。



以上、仮説が無いと困る(自分のみならず、関わった人みんなが困る)というメッセージでした。

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『仕事が出来る』の定義

仕事が出来るとは、『「既知の情報」と「未知の情報」を組み合わて、誰かを喜ばせる力を言う』と定義できます。

これについては、下の算式で表現できることになります。

「仕事が出来る=顧客のニーズの把握力×既知の情報力×未知の情報力」※1,2


※1 顧客には、内部の人材をも含む(例、上司や同僚等)
※2 情報には、技術や知識といった要素を含む


つまり以下の3要件が揃って初めて、仕事が出来る人、ということになります。

1.顧客のニーズの把握力
2.既知の情報力
3.未知の情報力

さらに要素分解すると、顧客ニーズの把握力とは「顧客を定義する力」と「顧客のニーズを把握する力」に分かれます。

既知の情報力とは、学歴や資格といった形式的に示すことができる「形式的情報力」と、形式的には現れない、これまでの読書経験や誰かと交わした対話といった「非形式的情報力」に分かれます。


未知の情報力とは、知らない情報を、自らネットや図書館、はたまた実験等を通じて調査する「リサーチ力」と、自らの知り合いに対して必要に応じて質問や協力が得られるという「ネットワーク力」に分かれます。


従って、まとめると以下のようになります。


仕事が出来る力

これらの算式を示す意義は、「仕事が出来るようになるには色々な選択肢がある」と認識頂くことに他なりません。


例えば、仕事が出来るようになるには、資格試験で勉強することも一つの手段であるけれども、それ以上に上司のニーズを聞くことの方が重要かもしれません(ほとんどの場合、こちらの方が重要です)。

また、読書をすることも一つの手段ではあるけれども「いつでも質問して良いよ」と言ってくれるような友人を作ること(ネットワークを作ること)の方が重要かもしれません。


さらに、気にされる方の多い「学歴」についても、既知の情報力の一部分にすぎません。

つまり、仕事が出来るようになるとは、これらの要素の掛け算なのでどれを最も重視すべきかは幅広い視点で判断すべき、ということです。


僕の例で言えば、ネットワーク力が不足しており、ここが成果を上げるにあたっては制約になっているのかな、などと感じています。



ぜひとも、より広い観点で「仕事が出来ること」についてご検討頂けると幸いです。

演繹的思考とは何か

「演繹的思考とは何だろうか?」


言葉では知っていても、「正直、何なのかはよく分かっていない」という方がほとんどではないでしょうか。
実はコンサルタントでも理解している人は多くない、というのが僕の実感です。


ただ、「論理」を知るうえで、演繹的思考を知ることは極めて有用です。
コンサルタントや専門家に限らず、説得力のあるメッセージを発信する上での不可欠な思考法だからです。

では、演繹的思考とは何でしょうか。

定義としては、「一般的な前提から個別的な結論を得る思考方法」を言います。
つまり、結論(メッセージ)を発信する上での一つの方法論です。


以下、「演繹的思考であるもの」「演繹的思考でないもの」「演繹的思考の実践的な価値」を明示することで、最初に掲げた「演繹的思考とは何か?」という疑問に答えていきたいと思います。



1.演繹的思考とは何か?

さきほどお伝えしたように、定義としては、「一般的な前提から個別的な結論を得る思考方法」を言います。

では、具体例は何でしょうか。有名なのが、三段論法です。

・人間はみな死ぬ(前提)
・ソクラテスは人間である(現実への当てはめ)
・ソクラテスは死ぬ(結論)


ソクラテスは死ぬ、という(結論)を発信するために、「人間はみな死ぬ」という(前提)の明示と、「ソクラテスは人間である」という(前提の現実への当てはめ)を行ったわけです。

理解を深めるために、もう二つほど例を挙げます。
まず税金について。

・課税所得が発生した場合には税金を支払わなければならない(前提)
・今期の業績では課税所得が発生している(現実への当てはめ)
・今期の業績では税金を支払わなければならない(結論)

次に駐車違反について。

・駐車違反をした運転手は罰金を払わなくてはならない(前提)
・私は駐車違反を犯している(現実への当てはめ)
・私は罰金を支払わなければならない(結論)


実は、法律(判例)や会計基準といったルールに基づく結論の出し方は、全て演繹的方法によっています。ここのルールが前提条件となるわけです。三段論法で言うところの「人はみな死ぬ」部分と「税金ルール」は同じ位置づけです。

これが「演繹的思考とは何か?」の一つの答えです。


以下、さらに「演繹的思考」の理解を深めていきます。


2.演繹的思考法の実践的な価値とは何か?
では、演繹的思考の実践的な価値としては何でしょうか?どんなシチュエーションで役に立つのでしょうか?

結論から言えば、実践的な価値としては、結論(メッセージ)の前提条件を炙り出すことにあります。
役立つシチュエーションとしては、これは仮説構築の場面ではなく、仮説検証の場面です。


具体例を挙げます。


「このゲームアプリ事業は儲かる」という結論(メッセージ)があったとします。

ただ、これだけだと結論(メッセージ)が正しいかは判断できません。ここで演繹的思考が用いて、このメッセージの前提を炙り出すのです。


とは言っても、単純に「このメッセージを発信するにはいかなる条件をクリアしていないといけないか」を自らに問いかけることです。これには一般的なフレームワークを用いても良いでしょう。

前提条件を例示列挙すれば(3Cベース)、
1.ゲームアプリ事業にユーザーが存在する(需要面の問題)
2.ゲームアプリを技術的に供給できる(供給面の問題)
3.ゲームアプリ事業にて獲得できる収益は、供給に必要なコストを上回る(経済性の問題)
4.ゲームアプリ事業に競合は参入できない(競合の問題)

つまり、これら4つの前提条件が現実に当てはめて、クリアできれば「ゲームアプリ事業は儲かる」というメッセージの妥当性が担保できることになります。

先ほどと同じ形で表現すると以下のようになります。

・需要、供給、経済性、競合の4条件をクリアしている事業は儲かる(前提)
・ゲームアプリ事業は4条件をクリアしている(現実への当てはめ)
・ゲームアプリ事業は儲かる(結論)

われわれが普段、思い思いに発信する「結論」「意見」「主張」」「メッセージ」と呼ばれるものは大抵、仮説に過ぎません。仮説のまま放ったらかしになっています。

実は、いかなるメッセージにも必ず前提条件があります。ここは強く主張したいポイントです。

演繹的思考を用いて、「このメッセージの前提条件は何か?」を炙り出すことによって、検証可能なメッセージとなるのです。

この「前提条件のあぶり出し」こそが演繹的思考の実践的な価値で、今回の記事で最も主張したいメッセージとなります。

演繹的思考であぶり出した前提条件を事実で裏付けて(現実に当てはめて)、初めて説得力のあるメッセージ(結論)となるのです。

(実はコンサルティング業界で有名な「イシューアナリシス」も、まさに演繹的思考を用いた方法論です)

3.演繹的思考ではないものとは何か?
上記で演繹的思考とは「仮説構築」の場面ではなく、「仮説検証」の場面で用いるべきものと述べました。

上の例示でも「ゲームアプリ事業は儲かる」という仮説を生み出したのは、演繹的思考ではありません。
つまり、演繹的思考を用いても、創造的なメッセージは獲得できない、ということです。
こちらはむしろ、事実の観察から出発する帰納的思考法に依存することになります。
繰り返しますが、仮説構築は演繹的思考法がカバーする範囲ではありません。

これが最初に主張した「演繹的思考ではないもの」となります。

4.論理的思考を深めるための次のステップ

ここまで粘り強くお読み頂いて、ありがとうございます。

上の記載のほとんどは忘れても構いませんが、全てのメッセージ(=主張、意見)には隠された前提条件があり、演繹的思考法の実践的な価値とは、このメッセージの前提を炙り出すことにあるということだけは覚えておいて頂けると幸いです


最後に書籍の紹介です。
こちらの書籍は難易度が高いですが、論理を知るうえで大変有益な内容となっています。

僕自身はこの本を読んで「論理とは何か?」が初めて腹落ち出来た気がしています。

アブダクション―仮説と発見の論理

※参考になったと感じましたらTwitterやFB等で紹介いただけると嬉しいです。

なぜ将来予測を行うのか

計画策定において将来予測はほぼ確実に行われる。


では、そもそも将来事象を予測する意義は何だろうか?


将来のパターンとしては大きく二つある。


1.ほぼ確実に到来する未来
2.不確実性の高い未来


将来予測の第一歩は、この「ほぼ確実に到来する未来」と「不確実性の高い未来」を適切に仕分けすることである。


1.について
ほぼ確実に到来する未来に対して、ヒト・モノ・カネの点から完璧に備えることが可能である。

ほぼ確実な未来とは、例えば、内示済の受注や、原材料の値上がり等が該当する。

これらについては、適時適切に対応を行うことが必要である。

しかし、内示済みの受注があるにも関わらず発注の手配が遅れたり、顧客が海外に生産拠点を移管することが見えているにも関わらず現実に発生するまで何ら対策が打たれない等の事例は頻繁に見られる。
これは事前に準備することが出来るはずである。


この到来することがほぼ確実な未来に対して適時適切な対応を準備しておくことが、将来予測の第一の目的である。



2.について
次に、不確実性の高い未来については完璧な準備をすることは不可能である。

したがって、この不確実性の高い未来に対しては、将来のシナリオを作成することが必要となる。なぜシナリオを作成するかと言えば、この作業自体が「事業に及ぼす重要な変動要因(ドライバー)の認識」を強制するためだ。

シナリオを作るのは、将来を当てるためではなく、外部環境に対する感度を上げるために行うのだ。


もし、シナリオを準備しておかなかった場合、そもそも当社にとっていかなる変化が脅威であり、いかなる変化が機会となるかの仮説が無いため、環境の変化への対応が遅れる(=成行き任せとなる)可能性が高い。

一方、シナリオを用意しておけば、これが事業環境の変化に対するレンズとなり、環境変化に対する感度が向上し、かつ変化に対する解釈が可能となる。


この外部環境の変化への感度を上げることが、将来予測の第二の目的である。


以上をまとめると図の通りとなる。

将来予測の意義

まず、確実に到来する未来に完璧に備え、次に不確実な未来に対しては変化への感度を上げておく、これが将来予測の意義と言える。


そのロジックは事実に基づいているか

「ロジック」の大原則は「事実に基づいていること」だ。
こんなことは誰でも知っているだろう。

しかし、この原則は意外に守られていない。

例えば、誰かから説明を聞いていても、どうも納得が出来なかったことは無いだろうか?


先日チームメンバーからある事業部の将来予測に関する説明を受けていた時のことだ。

話を単純化すると、以下のようなイメージである。

「14年度の将来予測において、X事業部PLの粗利率が下がっている」

Q:なぜか?
A:事業部売上の製品ミックスが変わったから。

Q:なぜ製品ミックスが変わるのか?
A:製品群ごとの売上成長率の予測が異なるから。

Q:成長率の予測が異なるとなぜ利益率が下がるのか?
A:他の製品群と比べて利益率の低いA製品群があり、このA製品群の割合が増加するから。

つまり「粗利率が下がっているのは、利益率の低いA製品群の割合が増加するからか」と。


いかがだろうか?

確かにこれでも説明をしているように見えなくもない。


しかし、この説明には致命的な欠落がある。

それは、全て「どう仮定したか」という話をしているに過ぎず、事実は何ひとつ出てきていない点だ。

「仮定の上に築かれた仮定」にて、説明をしているから納得が得られないのだ。


本来は、以下のような事実が説明に含まれているべきである。

•「顧客からのフォーキャスト(生産計画)」が提示されており、これに基づくと製品群Aの売上構成比があがると予測される

•「過去の実績」から、製品群Aの利益率は他の製品群と比べて低い

これなら「顧客からのフォーキャスト」や「過去の粗利率実績」という事実がドライバーとなり、粗利率の変化が生じていることが分かる。

これこそロジックの大原則が守られた説明といえる。


ロジックに強い人は「仮定の上に築かれた仮定」の話で終わらせること無く、事実までトレースする。

本来、具体的な因果関係のイメージを描きながら説明を聞いていれば、事実がドライバーとなっていないにも関わらず、納得することなどあり得ないはずだ。

「ロジックは事実に基づいているか?」という大原則を忘れないようにしたい。

「空・雨・傘」の枠組みをいかに利用するか

我々コンサルタントにとって「空・雨・傘」の枠組みは大変に重要視されている。
(「空・雨・傘」という用語を使うかどうかは別として)

■「空・雨・傘」とは

空とは「事実」を指し、
雨とは「解釈」を指し。
傘とは「行動」を指す

「空を見たら曇っている(事実)、雨が降りそうだから(解釈)、傘を持っていこう(行動)」といった意味合いである。

■「空・雨・傘」の重要性について

なぜこの枠組みは重要なのだろうか?

結論から言えば、「説得力のあるメッセージを発信するには「空・雨・傘」がいずれも担保されていることが不可欠であること」による。


具体例で説明しよう。

①よくある誤り(事実しかない)
一般によくあるのが、例えば人口統計を見て「日本は人口が減ることは間違いない」という分析結果を得ただけで終わるケース。

聞いた方は、「だから何(So what)?」となる。「私に何の関係があるの?」と。空・雨・傘のうち、空(事実)しか無いからだ。

もう一歩進めば、「人口が減少することによって、日本のGDPも減少するだろう」となる。空(事実)から得た雨(解釈)である。

しかし、これでもなお「だから何(So what)?」となる。「まだ私に何の関係があるかわからない」と。

さらに進めば、「海外市場への投資を推進すべき」となる。雨(解釈)から判断した傘(行動)である。

これでやっと「なるほど。人口が減っていることにより日本のGDPは減る。したがって、海外市場への投資を進めた方が良いということか」と受け止めてもらえるようになる。


②よくある誤り(仮説しかない)

逆にコンサルタントでよく犯す誤りが、「GDPは減少するから、海外市場への投資を推進すべきだ」という仮説のまま進めようとするケース。つまり、雨と傘はあるが、空(事実)の裏付けがない。

「なぜGDPは減少するの(Why so?)」となる。

「仮説を決めつけて、事実の裏付けの無いまま施策を推進しようとするケース」は驚くほど多い。

空(事実)の収集は楽ではないからだ。


以上。

総合すると以下のようなイメージになる。

soraamekasa
「空・雨・傘がそろって、初めて説得力のあるメッセージ」となる。


■具体的な利用方法

この枠組みを用いて、僕は同僚や先輩らと話をしている時に「それって誰が言ってました?」「何かデータ見ました?」(空の確認)とか、「このメッセージって何でしたっけ?」(雨・傘の確認)を確認するようにしている。

傾向として、若い年次のコンサルタントは「メッセージが無い誤り」を犯すことが多いのに対して、高い年次のコンサルタントでは「事実の裏付けのない誤り」を犯すことが多い。


したがって、この枠組みから確認することの重要性は極めて高い。


以上、「空・雨・傘」のいずれも抜け漏れ無く、価値のあるメッセージを発信するようにして頂きたい。


なぜ会計を学ぶのか

「会計の勉強したいんだけどさ、なんか良い方法無い?」

これまで何度もこのような問い合わせを受けてきた。

毎度感じるのは、そもそも「なぜ会計を必要としているのか」きちんと考えることが重要だと思う。



では、会計の利用目的としては何があるだろうか?


僕は会計の利用目的は「投資家目線」「債権者目線」「経営管理者目線」の3つしか無いと考えている。

1.投資家目線なら、事業買収や株式投資の判断が目的(要は割安で買えるか)

2.債権者目線なら、融資判断又は引き上げの判断が目的(要はきちんと金が返ってくるか)

3.経営管理者目線なら、事業価値向上に向けた施策立案が目的(主にはどこにコスト削減余地があるか)

例えば、

•M&Aを担当者は、買収先の判断のため財務会計や管理会計ともに広く知っておくべきであろうし、特に組織再編会計の知識は必須であろう(投資家目線)

•営業担当者にとっては、取引先の信用状態の判定ため、BSを見て安全性をわかるくらいの知識はあった方が良いだろう(債権者目線)

•とある製品グループの損益責任者にとっては、税効果や組織再編に関する会計知識は不要かもしれない。むしろ必要なのは管理会計の知識であろう(経営管理者目線)


いずれも会計数値を見て「いかなる意思決定を下すか」が肝であって、例えば「会計数値を見て会社の状態を理解しよう」というレベルだとお勉強の域をでない。

この「理解することが目的」では「どこまで勉強すれば良いか」ゴールが不明瞭になる。

まず行うべきは「誰の立場で」「いかなる意思決定につなげていくか」を明確にすることである。
これこそが会計を学ぶ上での前提条件となる。

意思決定を起点にすることにより、ぜひ会計知識を実務でお役に立てて頂きたい。

課題の構造化をいかに行うか

課題の構造化について、コンサルでも本当に理解されているかは怪しい。
なんとなくの重要性は感じることが出来ても、腹落ちさせることは容易じゃない。

目の前の事象に対して枠組みが使えるようになるには、じっくり頭を使って考える必要がある。

とはいえ、課題の構造化については多くの書籍で触れられている。
具体的な実施手順としてわかりやすいのは「ザゴール2」と「全体最適の問題解決入門」。
ただ、恐らくこれだけでは理解できない。

理論的なところではバーバラミント「考える技術•書く技術」が秀逸。
ただ、残念ながらこの本は「わかってる人には非常に分りやすい」類いの本であって、これでも理解することは中々難しい(売れてる本ではあるが、挫折した人の数も凄まじいはず)。

書籍をお読み頂く前に、エッセンスをお伝えしておく。
本質的には大した話では無い。

それは、
1.「二つの問いに答えること」
2.「一つの前提が満たされること」
3.「一つの基本姿勢を貫くこと」
これらに尽きる。

1.二つの問いとは「So What?(だから何?)」と「Why So?(なぜ?)」
2.一つの前提とは「何を達成したいのか?」という観点が固まっていること
3.一つの基本姿勢とは「MECEを貫く」ということ

具体例をあげる。

「上司が官僚的である」という現象が見られたとする。

ここで試しに「So What?(だから何?)」と問うてみる。

これは良いことだろうか?悪いことだろうか?何か問題だろうか?




答えは「なんとも言えない」。

なぜなら前提条件である「何を達成したいのか?」が明確で無いからだ。

まず大事なことは、良いか悪いか判断するには必ず「観点」がいるということ。
これが前提条件である。

ここで「会社の離職率が高い。離職率を下げたい」という観点から見た場合、同じ問いをするとどうか?

「上司が官僚的である」「だから何?」→「従業員の主体性が発揮されない」「だから何?」→「離職率が高い」という因果関係が成り立ちうる。

観点を置くことで始めて「上司が官僚的である」という事実の解釈が出来るようになった。

ここで第一の問いである「だから何?」が生きてくる。

結果「上司が官僚的である」という現象が「離職率低下」という目的の阻害要因として位置付けられたことになる。

So what

これこそ構造化の一つである。

当然これだけでは問題解決には至らない。次に問うべきは「Why So?(なぜか?)」である。

「上司が官僚的である」「なぜか?」→「人事評価システムが減点方式である」「なぜか?」→「かつては固定的な経済環境で品質の安定が最も求められていたから」となり、先ほどとは逆の因果関係が成り立ちうる。

結果「離職率低下」の本当の原因は「昔の経済環境下を前提とした旧い人事評価システム」にありそうだ。
Why so

「よし、原因はわかった。それでは早速人事評価システムの変更に着手しよう」

…果たしてこれで本当に良いのだろうか?

最後に「MECEを貫く」基本姿勢が求められる。

例えば「従業員の主体性が発揮されない」原因は「上司が官僚的である」だけだろうか?他にもあるのではないか?

確かに「権限移譲がなされていない」という現象も原因かもしれない。
であれば、職務権限の変更も必要かもしれない。

matome

MECEを検討する上でのポイントは、実際に起こっている現象に立脚すべき、ということだ。「理屈の上ではこんなことも要因として考えうる」とすると、思考の範囲が不必要なまでに広がってしまうからだ。

観察されている事実から、真因と思しき範囲を狭めていくことが肝要だ。

「So What?(だから何?)」で、上方向に抽象化し「Why So?(なぜ?)」で下方向に掘り下げつつも、「他にも要因が無いか」と横方向へも問い続ける。

これを何度も何度も繰り返すことで、課題の構造化が完了する。

二つの問いと一つの前提条件、一つの基本姿勢を念頭に、書籍にチャレンジして頂けると幸いである。

ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス
ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス [単行本(ソフトカバー)]


全体最適の問題解決入門―「木を見て森も見る」思考プロセスを身につけよう!
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考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
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コンサルタントにはクラフト(匠の技)が必要

私はパワーポイントが苦手だ。

なぜならPPTの作成自体に付加価値はないし、配置や色合いをきれいにするにはそれなりに時間がかかる。
私は構成をがっちりと固めるまで作成したくない。

やり直しはかなりの時間を無駄にするからだ。


しかし最近、プロジェクトマネージャーより「綺麗に作ろうとし過ぎ。そんな簡単じゃない。」と言われた。
おそらく私がOutputを形として残せずにいたのを感じてのアドバイスであろう。

「早くプロトタイプを作って何度も回せ」と。

今回しぶしぶスライドに落としてみた。
すると形が出来上がるにつれて、アイデアも整理されていくことに気付いた。

さらに、枠組みだけでも粗く作っておくことで、チームメンバーからも、意見を浴びれるような状況になった。

見切り発車で進んでサバイバルレート数%といったことになるのは良くないが、とはいえ、形にしないと見えてこない物もある。

一定の仮説があるならば、作った方が良い。

それでもやり直しを苦とするならば、結局それはPPTのスキルの問題に尽きる気がする。


作って、壊して、を繰り返さないと良いものはできない。

また作って、壊して、を繰り返すうちにスキルも身についてくる。
やり直し自体が大したストレスで無くなってくる。


経営学の巨匠ミンツバークによれば、戦略策定には「サイエンス(分析)」と「アート(直観や発想)」に加えて、「クラフト(匠の技)」が必要であるという。

ExcelやPPTが苦手で良いコンサルタントはいない。


クラフトが必要なのだ。

製造間接費の配賦は経営管理に役立たない

原価計算をするにあたって、必ず悩みとして付きまとうのが「間接費の配賦」である。
私自身、メーカーの会計監査において、この論点が出なかったことは無いくらいだ。

きちんと配賦基準を設定して、適切に製品に按分しているか否か?
チクチクと細かくチェックした。

在庫評価損の計算にだって関わってくるし、大変重要な論点だと信じて疑わなかった。

しかしである。

今回プロジェクトで検証してわかったこと。
「配賦」という行為事態が経営管理に役立つことはほとんど無い。

これはあくまで財務会計の要請であり、製造間接費配賦後の製品原価をベースとして「高いor低い」と判断するよりも、間接費は間接費として別個に科目別に管理した方がよほどわかりやすい(下手に分けるな、と)。

また、現場の管理指標としてみたいなら、配賦後金額ではなく、配賦基準(コストドライバー)たる作業時間等で直接管理した方がよほど直感的だ。

わざわざ科目別に色々な配賦基準(作業時間、稼働時間、面積等)なんかを作って、一生懸命配賦計算しても、かえって実態がみえづらくなるだけだ。

しかも、生産量に応じていくらでも単品当たり原価なんて変わってしまう。

そう、あんなに一生懸命にやってきた配賦計算であるが、経営管理に資することはほぼ無いのである。
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