コンサルティングとファイナンス

コンサルの仕事や書籍から得たコンセプトのメモ

2014年04月

なぜ仮説を持たないといけないのか

「仮説思考」を実践できているという自信はありますか。

世間的に「仮説は持った方が効率が良い」という程度に認識されていますが、本来はそんな甘っちょろいレベルでは無く、「仮説が無いと情報収集は出来ない」と考えています。


ただ、トップファームに在籍していた人でも相当怪しいというのが実態ですので、よほど浸透するのが難しい概念のようです。

逆に、これが出来ると、間違いなく、圧倒的に、生産性が改善します


しかも、仮説を持つと周囲に迷惑をかけないので信頼もされます。

今回の記事は「仮説が無いとなぜ困るのか?」「仮説の有無ごとの口癖」を示し、日常的にも「あ、この人は仮説が無いぞ」と判定できるようになって頂くことを目的としています。


1.仮説が無いと何が困るのか?

仮説が無いと何が困るのでしょうか。

結論から申し上げると、仮説が情報収集に当たっての唯一のゴールとなるからです。逆に言えば、仮説が無いと情報収集の範囲は無限に広がります。仮説は持たないといけないのです。

「どのような答えが欲しいのか」を言語化することで、情報収集の範囲が明確に定まるのです。


以下、「イシューからはじめよ」で素晴らしい事例があるので、抜粋します。

日本の会社では、「〇〇さん、新しい会計基準についてちょっと調べておいて」といった仕事の振り方をしているのを目にする。だが、これではいったい何をどこまで、どのようなレベルで調べればよいのかがさっぱりわからない。ここで仮説が登場する。
「新しい会計基準下では、わが社の利益が大きく下がる可能性があるのではないか」
「新しい会計基準下では、わが社の利益に対する影響が年間100億円規模あるのではないか」
「新しい会計基準下では、競合の利益も変動し、わが社の相対的地位が悪化するのではないか」
「新しい会計基準下では、各事業の会計管理・事務処理において何らかの留意点を持つことで、ネガティブな影響を最低限にできるのではないか」
これくらいのレベルまで仮説を立てて仕事を与えられれば、仕事を振られた人も自分が何をどこまで調べるべきなのかが明確になる。答えを出すべきイシューを仮説を含めて明確にすることで、ムダな作業が大きく減る。つまり生産性が上がるのだ。

以下、この事例に基づいて考察していきましょう。

(1)仮説が無い場合

さて上司から「新しい基準について調べておいて」と指示されました。これを受けて何をするでしょうか。

・とりあえず、ネットで情報を拾ってみる
・会計事務所で出している解説を発見。とりあえず読んでみる。
・ネットをさまよっていると、税務上の留意事項も書いてある記事を発見。そちらの解説も読んでみる。
・会社法上の影響についての記事も発見。こちらも読んでみる。
・別の検索ワードを入れると、システム上の留意事項の記事も発見。そちらの解説も読んでみる。
・どうやら「○○」という雑誌に詳しい解説があることが分かった。とりあえず図書館にでも行ってみよう。

・・・・・どうでしょう。終わりそうでしょうか。
上記の抜粋で示されている通り「いったい何をどこまで、どのようなレベルで調べればよいのか」がさっぱりわかりません。


仮説が無いから、情報収集のスコープが無限に広がるのです。


(2)仮説が有る場合


では、今回は上司から「新会計基準による利益減少影響が大体10億円くらいあると思うんだけど、確かめてもらってもいい?」と指示されました。さて、これを受けて何をするでしょうか?

・まず、経理に問い合わせをして、現状の計算ロジックを確認する
・現状のロジックを踏まえ、自社に影響を与えるポイントをネットで調べる
・会計事務所の解説を発見。これを参考に、計算ロジックをアップデートをする
・算定した結果、9.5億円程度の利益減少影響。概ね上司に言うとおりであった旨、上司へ報告する
・合わせて、監査法人にもロジックに異常がないか確認のメールを投げる

・・・どうでしょう。圧倒的に作業量が少なくて済むと思いませんか。

仮説というゴールがあるので、このゴールに向けてギャップを埋めていく進め方が出来ました。

しかも、今回の場合には、目安となる金額まで示しているので、乖離している場合には「ロジックとして異常点があるのではないか」ということも気付ける状態になっています。


まさに仮説のある指示の出し方であり、ゴールが明確です。


2.仮説が有る人/仮説が無い人の口癖、周囲への影響

(1)仮説が無い人の口癖

1)見切り発車系
・とりあえず見てから考えよう
・とりあえず話を聞いてみて
・ふたを開けてみるまで分からないでしょ

2)現状調査系
・まず現状調査からやってみよう

3)先送り系
・この場の議論では決められない
・1,2年の時間をかけてじっくりと取り組むべき


これらいずれも仮説というゴールが無いが故に生じる口癖です。

(2)仮説が有る人の口癖

・現状の結論は○○だよね
・この分析をして○○という結果が欲しいんだ
・そんなことやる意味無い

情報収集や分析をした結果を見て○×判定ができるような仮説を具体的に持っていますし、具体的な仮説があるからこそ関係ないことはバッサリと否定できるわけですね。



(3)仮説が有る人の指示を受けると希望が湧く

仮説のある指示を受けた人の感覚として、「これが証明できればインパクトがあるぞ!」という希望を持って作業に臨めるものです。

逆に、情報収集の場面で「本当にこれやって意味があるのかな?」と感じるような場合は、指示者に仮説が無いか、極めて曖昧なはずです。

私の経験上、きちんと調査する前に仮説を具体化すると、「こんなのダメな結果が出るに決まってるじゃん」と断定できるケースだって多いです。


「希望を持てるか」という点で言えば、クライアントだって同じ立場です。

必要性が分からないまま、資料を提出させられるのは良い気持ちがするはずがありません。

しかも多くの場合、提出した資料が報告書上、どのように活かされたかが読んでも不明なわけです。


逆に資料依頼の際に、「○○という施策を打ったら○○円程度の改善効果が出せると考えています。こちらを検証するために○○という情報を頂けますか」とお願いすればどうでしょう。

「これはやった方がいいかな」と考えて臨んでいただけるはずです。



以上、仮説が無いと困る(自分のみならず、関わった人みんなが困る)というメッセージでした。

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『仕事が出来る』の定義

仕事が出来るとは、『「既知の情報」と「未知の情報」を組み合わて、誰かを喜ばせる力を言う』と定義できます。

これについては、下の算式で表現できることになります。

「仕事が出来る=顧客のニーズの把握力×既知の情報力×未知の情報力」※1,2


※1 顧客には、内部の人材をも含む(例、上司や同僚等)
※2 情報には、技術や知識といった要素を含む


つまり以下の3要件が揃って初めて、仕事が出来る人、ということになります。

1.顧客のニーズの把握力
2.既知の情報力
3.未知の情報力

さらに要素分解すると、顧客ニーズの把握力とは「顧客を定義する力」と「顧客のニーズを把握する力」に分かれます。

既知の情報力とは、学歴や資格といった形式的に示すことができる「形式的情報力」と、形式的には現れない、これまでの読書経験や誰かと交わした対話といった「非形式的情報力」に分かれます。


未知の情報力とは、知らない情報を、自らネットや図書館、はたまた実験等を通じて調査する「リサーチ力」と、自らの知り合いに対して必要に応じて質問や協力が得られるという「ネットワーク力」に分かれます。


従って、まとめると以下のようになります。


仕事が出来る力

これらの算式を示す意義は、「仕事が出来るようになるには色々な選択肢がある」と認識頂くことに他なりません。


例えば、仕事が出来るようになるには、資格試験で勉強することも一つの手段であるけれども、それ以上に上司のニーズを聞くことの方が重要かもしれません(ほとんどの場合、こちらの方が重要です)。

また、読書をすることも一つの手段ではあるけれども「いつでも質問して良いよ」と言ってくれるような友人を作ること(ネットワークを作ること)の方が重要かもしれません。


さらに、気にされる方の多い「学歴」についても、既知の情報力の一部分にすぎません。

つまり、仕事が出来るようになるとは、これらの要素の掛け算なのでどれを最も重視すべきかは幅広い視点で判断すべき、ということです。


僕の例で言えば、ネットワーク力が不足しており、ここが成果を上げるにあたっては制約になっているのかな、などと感じています。



ぜひとも、より広い観点で「仕事が出来ること」についてご検討頂けると幸いです。

演繹的思考とは何か

「演繹的思考とは何だろうか?」


言葉では知っていても、「正直、何なのかはよく分かっていない」という方がほとんどではないでしょうか。
実はコンサルタントでも理解している人は多くない、というのが僕の実感です。


ただ、「論理」を知るうえで、演繹的思考を知ることは極めて有用です。
コンサルタントや専門家に限らず、説得力のあるメッセージを発信する上での不可欠な思考法だからです。

では、演繹的思考とは何でしょうか。

定義としては、「一般的な前提から個別的な結論を得る思考方法」を言います。
つまり、結論(メッセージ)を発信する上での一つの方法論です。


以下、「演繹的思考であるもの」「演繹的思考でないもの」「演繹的思考の実践的な価値」を明示することで、最初に掲げた「演繹的思考とは何か?」という疑問に答えていきたいと思います。



1.演繹的思考とは何か?

さきほどお伝えしたように、定義としては、「一般的な前提から個別的な結論を得る思考方法」を言います。

では、具体例は何でしょうか。有名なのが、三段論法です。

・人間はみな死ぬ(前提)
・ソクラテスは人間である(現実への当てはめ)
・ソクラテスは死ぬ(結論)


ソクラテスは死ぬ、という(結論)を発信するために、「人間はみな死ぬ」という(前提)の明示と、「ソクラテスは人間である」という(前提の現実への当てはめ)を行ったわけです。

理解を深めるために、もう二つほど例を挙げます。
まず税金について。

・課税所得が発生した場合には税金を支払わなければならない(前提)
・今期の業績では課税所得が発生している(現実への当てはめ)
・今期の業績では税金を支払わなければならない(結論)

次に駐車違反について。

・駐車違反をした運転手は罰金を払わなくてはならない(前提)
・私は駐車違反を犯している(現実への当てはめ)
・私は罰金を支払わなければならない(結論)


実は、法律(判例)や会計基準といったルールに基づく結論の出し方は、全て演繹的方法によっています。ここのルールが前提条件となるわけです。三段論法で言うところの「人はみな死ぬ」部分と「税金ルール」は同じ位置づけです。

これが「演繹的思考とは何か?」の一つの答えです。


以下、さらに「演繹的思考」の理解を深めていきます。


2.演繹的思考法の実践的な価値とは何か?
では、演繹的思考の実践的な価値としては何でしょうか?どんなシチュエーションで役に立つのでしょうか?

結論から言えば、実践的な価値としては、結論(メッセージ)の前提条件を炙り出すことにあります。
役立つシチュエーションとしては、これは仮説構築の場面ではなく、仮説検証の場面です。


具体例を挙げます。


「このゲームアプリ事業は儲かる」という結論(メッセージ)があったとします。

ただ、これだけだと結論(メッセージ)が正しいかは判断できません。ここで演繹的思考が用いて、このメッセージの前提を炙り出すのです。


とは言っても、単純に「このメッセージを発信するにはいかなる条件をクリアしていないといけないか」を自らに問いかけることです。これには一般的なフレームワークを用いても良いでしょう。

前提条件を例示列挙すれば(3Cベース)、
1.ゲームアプリ事業にユーザーが存在する(需要面の問題)
2.ゲームアプリを技術的に供給できる(供給面の問題)
3.ゲームアプリ事業にて獲得できる収益は、供給に必要なコストを上回る(経済性の問題)
4.ゲームアプリ事業に競合は参入できない(競合の問題)

つまり、これら4つの前提条件が現実に当てはめて、クリアできれば「ゲームアプリ事業は儲かる」というメッセージの妥当性が担保できることになります。

先ほどと同じ形で表現すると以下のようになります。

・需要、供給、経済性、競合の4条件をクリアしている事業は儲かる(前提)
・ゲームアプリ事業は4条件をクリアしている(現実への当てはめ)
・ゲームアプリ事業は儲かる(結論)

われわれが普段、思い思いに発信する「結論」「意見」「主張」」「メッセージ」と呼ばれるものは大抵、仮説に過ぎません。仮説のまま放ったらかしになっています。

実は、いかなるメッセージにも必ず前提条件があります。ここは強く主張したいポイントです。

演繹的思考を用いて、「このメッセージの前提条件は何か?」を炙り出すことによって、検証可能なメッセージとなるのです。

この「前提条件のあぶり出し」こそが演繹的思考の実践的な価値で、今回の記事で最も主張したいメッセージとなります。

演繹的思考であぶり出した前提条件を事実で裏付けて(現実に当てはめて)、初めて説得力のあるメッセージ(結論)となるのです。

(実はコンサルティング業界で有名な「イシューアナリシス」も、まさに演繹的思考を用いた方法論です)

3.演繹的思考ではないものとは何か?
上記で演繹的思考とは「仮説構築」の場面ではなく、「仮説検証」の場面で用いるべきものと述べました。

上の例示でも「ゲームアプリ事業は儲かる」という仮説を生み出したのは、演繹的思考ではありません。
つまり、演繹的思考を用いても、創造的なメッセージは獲得できない、ということです。
こちらはむしろ、事実の観察から出発する帰納的思考法に依存することになります。
繰り返しますが、仮説構築は演繹的思考法がカバーする範囲ではありません。

これが最初に主張した「演繹的思考ではないもの」となります。

4.論理的思考を深めるための次のステップ

ここまで粘り強くお読み頂いて、ありがとうございます。

上の記載のほとんどは忘れても構いませんが、全てのメッセージ(=主張、意見)には隠された前提条件があり、演繹的思考法の実践的な価値とは、このメッセージの前提を炙り出すことにあるということだけは覚えておいて頂けると幸いです


最後に書籍の紹介です。
こちらの書籍は難易度が高いですが、論理を知るうえで大変有益な内容となっています。

僕自身はこの本を読んで「論理とは何か?」が初めて腹落ち出来た気がしています。

アブダクション―仮説と発見の論理

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