コンサル会社に移ってから、前職(監査法人)との違いを強く感じている。

今回、コンサル会社と比較して感じている監査法人の問題点をつれづれなるままに記載したいと思う。



「監査法人の付加価値の話」、そしてその責任を負っている「パートナーの話」である。

①監査法人の付加価値の話
率直にいって、監査法人の付加価値は報酬に比して高くない。


監査に耐えうる体制に持っていくまで一定の付加価値があるだけで、いちど回り始めれば、付加価値は激減している。「監査業務の90%はコモディティである」というのが私の感覚である。


もし仮に「業務プロセスを見える化する」だとか「決算早期化」といったテーマを、「監査報酬の枠内」でかつ「成果にコミット」してやっていれば、それなりの付加価値はあるだろう。

昔は連結財務諸表やキャッシュ・フロー計算書を作ったりだとか、業務フローを見える化したりだとかを支援していたと聞く。これは付加価値のある業務だと思う。

しかし、今は独立性の名の下に、管理帳票や業務フローチャートの作成も会社任せが多いのではないだろうか。監査法人は結果を見るだけ、になっていないだろうか。この点からも無能力化が進んでしまっているように思う。
(なお、私の尊敬する監査法人時代の上司は、複雑な会計処理や内部統制に関して、かなり踏み込んで支援をしており、クライアントからの信頼も厚かった。が、極めて例外的な事例だろう。)

クライアントにやらせるならやらせるでも構わないが、プロフェッショナルである以上、自分なりにあるべき(To Be)を持っておくことは最低限の礼儀だ。ただ、実態は丸投げであり、自分としてどうあるべきかを持っていないケースがほとんどではないか(正直、私自身がそうであった)。


インタビューひとつとっても、質問項目のそれぞれに対して仮説をもっておくことは必要条件であるが、これもほとんどない。あっても、極めて一般論のつまらないレベルだろう。

いま振り返っても「クライアントの社長は立派である」と思うことはあっても、うちのパートナーが立派であると思ったことはほぼ無い(何もわかってないのに話を合わせる能力はある意味凄いと思うが)


以上、顧客にとって「価値がある」と思わせない限り、監査報酬が下がり続けても文句は言えないだろう。


②パートナーの問題点
監査法人の最大のガンはパートナーである。

スタッフレベルでは会計・監査の知識(税務や法律の知識もあればなお良い)を研鑽して、クライアントに新たな情報を提供出来れば役割は十分に果たしていると思う。

マネージャーレベルは、プロジェクトマネジメントという全く違う次元の能力が必要となる。メンバーの育成・管理かつクライアントの窓口ともなることから、監査法人としての顧客への提供価値という側面でみれば、実質的に最も高い難易度の職務をこなしていると言える。

問題はパートナーである。
この層に求められるのは、他でも無い、仕事を取ってくる能力である。

監査法人という一年単位で契約が固定であり、かつ継続が前提となっている現状では、この力が極めて弱体化していると思う。
本来的には仕事をとって来れない(百歩譲っても、クライアントを握りとめられない)パートナーなど、存在価値は無いのだが、それが許容されてしまっていると思う。

コンサルタントの遠藤功氏の本「サバイバル奮闘記」でも、プロフェッショナルファームにおける役割分担が明確に記されている。


スタッフ:コンサルタントとして付加価値を生み出す
マネージャー:プロジェクトマネージャーとしてプロジェクトを統括する
パートナー:パートナーとしてプロジェクトを売る


現職でもそうだが、パートナー層(マネージングディレクター)で仕事をとって来れない人は容赦なくいなくなっているか、降格されている。

そもそもコンサルティングファームは、2、3ヶ月タームで契約が終了するのが通常であるため、常に営業活動をしていないと、あっという間に非稼働人員であふれかえってしまう。


「パートナーが仕事をきちんととって来れること」、それがプロフェッショナルファームの一般常識なのであろう。


③上記を踏まえた対応
監査法人の組織体としてまずやるべきは、パートナー層において競争原理が働くようにすることである。
具体的には、評価の仕組みとして、仕事の獲得又はリテンションに関する責任を明確化することだ。
(明示的にせよ非明示的にせよ無いことなど本来あってはならないことであるが)


ただし、歴史が一定程度ある監査法人であれば、上記で述べたとおり、かつて創業者がもっていたような、仕事を獲得する能力は弱体化してるであろうし、銀行や証券会社とのリレーションも薄いのが一般的であろうから、こうした人材を外部から取ってくることが現実的な対応であると思う。
(パイプラインを構築していく、というコンセプトがまず必要である)


こういった普通に考えてMustなことをやっていない現状があるとすれば、きちんと営業力を持った新興監査法人に仕事を奪われるのは必然的といえよう。
(例えば、優成監査法人などは、トップ営業でクライアント数を伸ばしていると聞く)

以上、「パートナーの存在価値は何か?」を真摯に問うことが課題解決のファーストステップになるだろう。