「演繹的思考とは何だろうか?」


言葉では知っていても、「正直、何なのかはよく分かっていない」という方がほとんどではないでしょうか。
実はコンサルタントでも理解している人は多くない、というのが僕の実感です。


ただ、「論理」を知るうえで、演繹的思考を知ることは極めて有用です。
コンサルタントや専門家に限らず、説得力のあるメッセージを発信する上での不可欠な思考法だからです。

では、演繹的思考とは何でしょうか。

定義としては、「一般的な前提から個別的な結論を得る思考方法」を言います。
つまり、結論(メッセージ)を発信する上での一つの方法論です。


以下、「演繹的思考であるもの」「演繹的思考でないもの」「演繹的思考の実践的な価値」を明示することで、最初に掲げた「演繹的思考とは何か?」という疑問に答えていきたいと思います。



1.演繹的思考とは何か?

さきほどお伝えしたように、定義としては、「一般的な前提から個別的な結論を得る思考方法」を言います。

では、具体例は何でしょうか。有名なのが、三段論法です。

・人間はみな死ぬ(前提)
・ソクラテスは人間である(現実への当てはめ)
・ソクラテスは死ぬ(結論)


ソクラテスは死ぬ、という(結論)を発信するために、「人間はみな死ぬ」という(前提)の明示と、「ソクラテスは人間である」という(前提の現実への当てはめ)を行ったわけです。

理解を深めるために、もう二つほど例を挙げます。
まず税金について。

・課税所得が発生した場合には税金を支払わなければならない(前提)
・今期の業績では課税所得が発生している(現実への当てはめ)
・今期の業績では税金を支払わなければならない(結論)

次に駐車違反について。

・駐車違反をした運転手は罰金を払わなくてはならない(前提)
・私は駐車違反を犯している(現実への当てはめ)
・私は罰金を支払わなければならない(結論)


実は、法律(判例)や会計基準といったルールに基づく結論の出し方は、全て演繹的方法によっています。ここのルールが前提条件となるわけです。三段論法で言うところの「人はみな死ぬ」部分と「税金ルール」は同じ位置づけです。

これが「演繹的思考とは何か?」の一つの答えです。


以下、さらに「演繹的思考」の理解を深めていきます。


2.演繹的思考法の実践的な価値とは何か?
では、演繹的思考の実践的な価値としては何でしょうか?どんなシチュエーションで役に立つのでしょうか?

結論から言えば、実践的な価値としては、結論(メッセージ)の前提条件を炙り出すことにあります。
役立つシチュエーションとしては、これは仮説構築の場面ではなく、仮説検証の場面です。


具体例を挙げます。


「このゲームアプリ事業は儲かる」という結論(メッセージ)があったとします。

ただ、これだけだと結論(メッセージ)が正しいかは判断できません。ここで演繹的思考が用いて、このメッセージの前提を炙り出すのです。


とは言っても、単純に「このメッセージを発信するにはいかなる条件をクリアしていないといけないか」を自らに問いかけることです。これには一般的なフレームワークを用いても良いでしょう。

前提条件を例示列挙すれば(3Cベース)、
1.ゲームアプリ事業にユーザーが存在する(需要面の問題)
2.ゲームアプリを技術的に供給できる(供給面の問題)
3.ゲームアプリ事業にて獲得できる収益は、供給に必要なコストを上回る(経済性の問題)
4.ゲームアプリ事業に競合は参入できない(競合の問題)

つまり、これら4つの前提条件が現実に当てはめて、クリアできれば「ゲームアプリ事業は儲かる」というメッセージの妥当性が担保できることになります。

先ほどと同じ形で表現すると以下のようになります。

・需要、供給、経済性、競合の4条件をクリアしている事業は儲かる(前提)
・ゲームアプリ事業は4条件をクリアしている(現実への当てはめ)
・ゲームアプリ事業は儲かる(結論)

われわれが普段、思い思いに発信する「結論」「意見」「主張」」「メッセージ」と呼ばれるものは大抵、仮説に過ぎません。仮説のまま放ったらかしになっています。

実は、いかなるメッセージにも必ず前提条件があります。ここは強く主張したいポイントです。

演繹的思考を用いて、「このメッセージの前提条件は何か?」を炙り出すことによって、検証可能なメッセージとなるのです。

この「前提条件のあぶり出し」こそが演繹的思考の実践的な価値で、今回の記事で最も主張したいメッセージとなります。

演繹的思考であぶり出した前提条件を事実で裏付けて(現実に当てはめて)、初めて説得力のあるメッセージ(結論)となるのです。

(実はコンサルティング業界で有名な「イシューアナリシス」も、まさに演繹的思考を用いた方法論です)

3.演繹的思考ではないものとは何か?
上記で演繹的思考とは「仮説構築」の場面ではなく、「仮説検証」の場面で用いるべきものと述べました。

上の例示でも「ゲームアプリ事業は儲かる」という仮説を生み出したのは、演繹的思考ではありません。
つまり、演繹的思考を用いても、創造的なメッセージは獲得できない、ということです。
こちらはむしろ、事実の観察から出発する帰納的思考法に依存することになります。
繰り返しますが、仮説構築は演繹的思考法がカバーする範囲ではありません。

これが最初に主張した「演繹的思考ではないもの」となります。

4.論理的思考を深めるための次のステップ

ここまで粘り強くお読み頂いて、ありがとうございます。

上の記載のほとんどは忘れても構いませんが、全てのメッセージ(=主張、意見)には隠された前提条件があり、演繹的思考法の実践的な価値とは、このメッセージの前提を炙り出すことにあるということだけは覚えておいて頂けると幸いです


最後に書籍の紹介です。
こちらの書籍は難易度が高いですが、論理を知るうえで大変有益な内容となっています。

僕自身はこの本を読んで「論理とは何か?」が初めて腹落ち出来た気がしています。

アブダクション―仮説と発見の論理

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