2010年05月21日

警官の紋章(小説:佐々木譲)4

2008年の作品。ご存じ「北海道警シリーズ」の3作目である。北海道警シリーズは、映画にもなった第1作目の「笑う警官」で提示された、北海道警内の警察官の犯罪にまつわる話である。シリーズの基本となる「郡司警部事件」を簡単に紹介すると、本部の生活安全部に所属する郡司警部が、闇社会と渡りをつけて、覚せい剤や拳銃を“調達”していたという事件である。これは、警察庁からの摘発キャンペーンに対応して良い成績をあげるため、郡司警部の非行に目をつぶっていた、というより積極的に嗾けたとされる事件である。その余波は本作に色濃く反映している。いわば「笑う警官」の後日談的な内容となっている。しかし、単なる後日談ではなく、独立した作品としても楽しめる内容となっている。

あの事件から2年たち、北海道で「洞爺湖サミット」が開かれることに。主人公の一人・小島百合は女性大臣のSPを仰せつかる。大臣に対するテロ計画があるというのだ。もう一人の主人公・津久井は、拳銃を所持したまま行方不明となった警官を探し出すという密命を受ける。失踪した警官は郡司事件で証言台に立つ前日、自殺していた警部の息子だった。さらに、本当の主人公は、2年前に逮捕寸前まで行っておきながら、道警本部の横ヤリで中止させられた盗難車密輸団を追うことに。ところが、この密輸団は北朝鮮からの覚せい剤密輸をあぶり出すためのスパイ役だったのだ。ところが、摘発された覚せい剤はどうやら郡司警部が調達したブツだったような気配は濃厚に。3人の追いかけるホシが、サミット警備結団式の当日にある一点に収れんしていく。

3つの事件が結末の一点に向かって収束していく様子が刻々と緻密に描かれていて、読んでいて「あぁ最後にはまるんだろうな」と予測がついてしまうのだ。しかしながら、読者が予測することを作者は予測しているのだ。そんな推理劇上の奇襲作戦より、著者はもっと言いたいことがあったのだ。それは、組織という「化け物」が持つ魔力と、構成員個人の良心との確執の問題である。現場でコツコツと悪い奴を追いかけている刑事と、法律を逆手に取って自らの立身出世にまい進する高級官僚との戦いが、本作のテーマである。読者の興味をそらさないように、いくつかの並列する事件をするするとまとめていく手腕はさすがであるが、そちらにばかり目を奪われていると、肝心のテーマを見失ってしまうだろう。読者は著者の掌の上で遊ぶ孫悟空である。

このテーマは、シリーズを通してのテーマともなっている。自らの出世のために、所属する組織の存在理由を踏みにじっても良いとするキャリアもいれば、そんなキャリアを頭に戴きながらも、全体としての組織を守ろうとする健気な警官もいる。行方不明になった若い警官の父親警部もそんな一途な警官の一人だったのだ。さて、このテーマを自分の身にあてはめてみよう。組織防衛に準じる人種を「社畜」と呼ぶのは容易いが、果たしてそれは人間として情けないことなのだろうか。組織あっての自分という見方も大いにあり得る。保身というにはあまりにも切実な問題である。所属する組織(会社)が犯罪的行為に走っていることを知り得た場合、一体我々サラリーマンはどうしたらいいのだろうか。やはり、最終的に指示を出している個人(社長とか)を狙い討ちするしかあるまい。

(2010.5.21)



kingyo373 at 21:19│Comments(0)TrackBack(1)

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1. 「警官の紋章」佐々木譲  [ 粋な提案 ]   2011年03月05日 02:14
北海道警察は、洞爺湖サミットのための特別警備結団式を一週間後に控えていた。そのさなか、勤務中の警官が拳銃を所持したまま失踪。津久井卓は、その警官の追跡を命じられた。一方、過去の覚醒剤密輸入おとり...

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Chun(チュン)
1960年生まれ男性。
奈良県出身、大阪府在住。
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