2010年11月19日

妖の華(小説:誉田哲也)4

2003年の作品。「姫川玲子シリーズ」で登場する井岡という関西弁の警視庁の刑事が登場するので、ハードな警察ミステリーかと思いきや、なんと吸血鬼の話だった。紅鈴という400歳を超える美人吸血鬼が主人公である。3年前、彼女の一派が関わった暴力団組長3人殺し以降、極心会という暴力団に追われる身となった紅鈴は、風俗嬢として闇に身を潜めていた。彼女が風俗嬢になったわけについては、若い男の血が吸える機会が多いこともあったからだ。そんな彼女の前に、同じ吸血鬼として極心会のヤクザが迫ってくる。同じ頃、組長殺しを執拗に追っていた井岡ら刑事も、紅鈴が極心会に探されていることを突き止め、追跡を始めるのだが、現代の科学捜査でも理由のつかない死体が多数出てきて、吸血鬼犯行説を唱える井岡は孤立していたのだ。そんな中、ついに紅鈴は追い詰められ、吸血鬼となった極心会ヤクザたちとの決着を迫られるのだった。

ミステリー的要素もあり、ホラーでもあり、伝奇でもあり、アクション小説でもあり、そして恋愛小説でもある。ミステリーとしては、紅鈴と極心会との関係や井岡ら刑事の推理なんかが中心となっているが、これは登場人物の回想シーンなんかで真相が明かされるので、案外とミステリー色は薄い。ホラーとしては、何といっても吸血鬼の話でもあり、最初からおどろおどろしいのである。そこに、血肉が飛び散るスプラッター的要素が加わち、事件の悲惨さが強調されている。正直に映画にすればR18は間違いところであろう。さらに吸血鬼一族の話の部分は実によくできた伝奇小説となっている。九州の山奥に吸血鬼「闇神」の一族がおり、むやみに人間を吸血鬼にしてはいけないという掟があった。紅鈴もかつては人間であったのだが、ほれた闇神に吸血鬼にされた後、自分勝手に人間を吸血鬼にしていたのだ。

アクション要素としては、人間離れした吸血鬼(吸血鬼は人間ではない!)が戦うシーンなどは、まるでハリウッドのSF映画を見ているような迫力があり、誉田氏自身も好きだと言っているアクションに関しては相当に力も入っている。このアクションシーンは先述のスプラッターシーンと相まって、読者をして息をするのも忘れるほどの迫力がある。最後は恋愛小説の要素であるが、これは紅鈴という絶世の美女の設定に負うところが多い。彼女は人間をむやみに吸血鬼化することを自らに戒め、200年前に心から惚れた男を最後に行為を止めている。その男は殺されてしまうのだが、彼に対して痛々しいほど恋情を抱いており、伝法な口調とは裏腹に純情な部分を残している。それは、新たに恋人となった金髪坊やにも向けられており、ちょっと涙を誘うのだ。

さて、本書の最大の魅力は何とっても、最強の吸血鬼にして最高の美女である紅鈴という女性である。昼間外に出られないことと、血を吸うために風俗嬢(ヘルス嬢)を職業としている。つまり、男の理想的な娼婦像がここにあるのだ。その彼女が、肌も露わに戦う姿は、ジャンヌ・ダルクか巴御前(古い?)といった古来より語り継がれてきた魔女伝説にもつながり、実に妖艶で危険な香りに満ちてもいるのだ。元々、吸血鬼モノは、性的要素が強い隠微な話であるのだが、紅鈴は日本版吸血鬼として完成された形となっている。400歳を数えるという紅鈴。しかし、その美貌や抜群のスタイルは20歳代前半にしか見えないという。口調は江戸時代前期の姉御調なだけに、惰弱な現代男性には堪らん魅力に思えるのだ。彼女に血を吸ってほしいというファンは多いだろう。

(2010.11.19)



kingyo373 at 09:43│Comments(0)TrackBack(1)

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Chun(チュン)
1960年生まれ男性。
奈良県出身、大阪府在住。
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