2011年04月23日

かのこちゃんとマドレーヌ夫人(小説:万城目学)4

2010年、ちくまプリマー新書のために書きおろされた作品。「かのこちゃん」というのは小学生の女の子、「マドレーヌ夫人」というのはかのこちゃんの飼い猫である。飼い猫といっても、ノラが勝手に居付いた外猫である。このマドレーヌは玄三郎という犬の言葉を解し、この玄三郎という犬はかのこちゃん家の老犬だった。というわけで、マドレーヌは玄三郎の妻になり、家と町に居付いてしまった。マドレーヌは、ある日図らずも猫又になってしまい、思わず人間と大きく関わってしまうことに。一方、かのこちゃんにはすずちゃんという友達がいたのだが、彼女が転校することに。最後のお祭りで一緒に遊びたいと思っていたのだが、タイミングが合わずに約束ができなかったのだ。

今をときめく万城目学に、こうした作品があることを知らなかった。デビュー間もなく、出す作品出す作品話題になったため、作品数が少ないために全部知ってる感があったのだが、こうした仕事もしていたのだ。それにしても、本屋で見つけたときのお得感は最高。誰も知らない秘密の宝物を拾った感じだ。さて、内容も今までと違う。これまではお笑い伝奇小説とでも言うような作品ばかりだった。歴史に埋もれた怪しい伝説や妖怪談的な作品ばかりだったが、これは違った。といっても「猫又」という妖怪が出てくるのだが、全然怖くないし、そもそもマドレーヌという流れ者の猫が病気にでもかかったかのように猫又になるのだ。彼女に恨みや遺恨はないし、妖怪化するほど年降りてもいない。そういう妖怪談を利用してのハートフルなフェアリーテールになっている。

読んだ手触りは「童話」である。かのこちゃんの周辺の人たちに悪い人はいないし、マドレーヌの友人(友猫?)たちにも悪人はいない。すずちゃんという子はちょっと気難しそうだが、かのこちゃんとのことを一番に考えているし、玄三郎という老犬も、異種ながら猫のマドレーヌに限りない愛情を注いでいる。玄三郎は死病に取りつかれて余命いくばくもないのだが、最期の最期にマドレーヌの願いを叶えられるよう死力を振り絞るのだ。こうした心温まる作品というのは、いつも殺人事件や戦の話ばかり読んでいる我が身にとっても清涼剤になる。魂の平衡を保つためにも、こうした作品を読むことは必要なんだろう。それにしても万城目氏がこんな作品を書くなんて意外である。

猫同士の結びつき、かのこちゃんとすずちゃんの友情、かのこちゃんの家族の愛情、玄三郎が属する犬社会、そして異種ながらも夫婦となったマドレーヌと玄三郎の絆など、現代の日本人が忘れてしまっているつながりがここにはある。夫婦や親子はともかく、他人との関係となると、利害得失が頭をよぎったり、嫌いなら会わずにおけるという融通性から、現代では希薄になっている「生活習慣」がここでは濃厚に迫ってくる。だが、田舎の集落や下町の長屋のように押しつけや因習にまで転落したドロドロ感はない。本体こうしたつながりこそが本当のコミュニティの在り方なんだろう。何事も「ほどほど」がいいんだろう。

(2011.4.23)



kingyo373 at 23:58│Comments(3)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by sibori   2011年04月24日 23:12
なかなか興味深い本ですね。読んでみたいです♪
ところで、
万城目学の最新作にして、大傑作というフレコミの『偉大なる、しゅららぼん』が、04月26日に上梓されますね。

彼の運命の秘密を読み解いたコラムがここで読めます☆
http://birthday-energy.co.jp
彼の宿命からいえるのは、もし名誉を得るなら今年だということ。この作品で直木賞かな?
「運命2011これがあなたの生きる道」も配信中です。
ぜひ行ってみてくださいね♪
2. Posted by Chun   2011年04月25日 10:56
sibionさん、ようこそ。「しゅららぼん」ですが、面白そうですね。また、耳より情報があれば教えてください。
3. Posted by 藍色   2013年05月24日 16:27
本当に面白くあっという間に読んでしまいました。
可愛いお話で、心地よかったです。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

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