夏休みだから読みたい洒落にならない怖い話『ヒッチハイク』他

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    ヒッチハイク
    836:本当にあった怖い名無し: 2009/12/24(木) 22:12:17ID:NNdtlw3F0
    今から7年ほど前の話になる。俺は大学を卒業したが、就職も決まっていない有様だった。
    生来、追い詰められないと動かないタイプで(テストも一夜漬け対タイプだ)、
    「まぁ何とかなるだろう」とお気楽に自分に言い聞かせ、バイトを続けていた。
    そんなその年の真夏。悪友のカズヤ(仮名)と家でダラダラ話していると、
    なぜか「ヒッチハイクで日本を横断しよう」と言う話に飛び、その計画に熱中する事になった。

    その前に、この悪友の紹介を簡単に済ませたいと思う。このカズヤも俺と同じ大学で、
    入学の時期に知り合った。コイツはとんでもない女好きで、頭と下半身は別、と言う典型的なヤツだ。
    だが、根は底抜けに明るく、裏表も無い男なので、女関係でトラブルは抱えても、男友達は多かった。
    そんな中でも、カズヤは俺と1番ウマが合った。そこまで明朗快活ではない俺とはほぼ正反対の性格なのだが。

    ヒッチハイクの計画の話に戻そう。計画と行ってもズサンなモノであり、
    まず北海道まで空路で行き、そこからヒッチハイクで地元の九州に戻ってくる、と言う計画だった。
    カズヤは「通った地方の、最低でも1人の女と合体する!」と女好きならではの下世話な目的もあったようだ。
    まぁ、俺も旅の楽しみだけではなく、そういう期待もしていたのだが…
    カズヤは長髪を後ろで束ね、一見バーテン風の優男なので(実際クラブでバイトをしていた)コイツとナンパに行って良い思いは確かにした事があった。
    そんなこんなで、バイトの長期休暇申請や(俺は丁度別のバイトを探す意思があったので辞め、カズヤは休暇をもらった)、
    北海道までの航空券、巨大なリュックに詰めた着替え、現金などを用意し、計画から3週間後には俺達は機上にいた。
    札幌に到着し、昼食を済ませて市内を散策した。慣れない飛行機に乗ったせいか、
    俺は疲れのせいで夕方にはホテルに戻り、カズヤは夜の街に消えていった。
    その日はカズヤは帰ってこず、翌朝ホテルのロビーで再開した。
    にやついて指でワッカをつくり、OKマークをしている。昨夜はどうやらナンパした女と上手く行った様だ。



    837:本当にあった怖い名無し: 2009/12/24(木) 22:13:11ID:NNdtlw3F0
    さぁ、いよいよヒッチハイクの始まりだ。ヒッチハイクなど2人とも人生で初めての体験で、流石にウキウキしていた。
    何日までにこの距離まで行く、など綿密な計画はなく、ただ「行ってくれるとこまで」という大雑把な計画だ。
    まぁしかし、そうそう止まってくれるものではなかった。1時間ほど粘ったが、一向に止まってくれない。
    昼より夜の方が止まってくれやすいんだろう、等と話していると、ようやく開始から1時間半後に最初の車が止まってくれた。
    同じ市内までだったが、南下するので距離を稼いだのは稼いだ。距離が短くても、嬉しいものだ。
    夜の方が止まってくれやすいのでは?と言う想像は意外に当たりだった。
    1番多かったのが、長距離トラックだ。距離も稼げるし、まず悪い人はいないし、かなり効率が良かった。
    3日目にもなると、俺達は慣れたもので、長距離トラックのお兄さん用にはタバコ等のお土産、
    普通車の一般人には飴玉等のお土産、と勝手に決め、コンビニで事前に買っていた。
    特にタバコは喜ばれた。普通車に乗った時も、喋り好きなカズヤのおかげで、常に車内は笑いに満ちていた。
    女の子2~3人組の車もあったが、正直、良い思いは何度かしたものだった。
    4日目には本州に到達していた。コツがつかめてきた俺達は、
    その土地の名物に舌鼓を打ったり、一期一会の出会いを楽しんだりと余裕も出てきていた。
    銭湯を見つけなるべく毎日風呂には入り、宿泊も2日に1度ネカフェに泊まると決め、経費を節約していた。
    ご好意で、ドライバーの家に泊めてもらう事もあり、その時は本当にありがたかった。
    しかし、2人共々に生涯トラウマになるであろう恐怖の体験が、出発から約2週間後、甲信地方の山深い田舎で起こったのだった。




    838:その3: 2009/12/24(木) 22:14:14ID:NNdtlw3F0
    「おっ♪ おっ♪ おま○こ おま○こ 舐めたいなっ♪ ペロペロ~ ペロペロ~」
    男友達だけの集まりになると、いつもカズヤは卑猥な歌を歌いだす。その夜もカズヤは歌いだした。
    その日の夜は、2時間前に寂れた国道沿いのコンビニで降ろしてもらって以来、
    中々車が止まらず、それに加えてあまりの蒸し暑さに俺達はグロッキー状態だった。
    暑さと疲労の為か、俺達は変なテンションになっていた。
    「こんな田舎のコンビニに降ろされたんじゃ、たまったもんじゃないよな。
     これなら、さっきの人の家に無理言って泊めてもらえば良かったかなぁ?」とカズヤ。
    確かに先ほどのドライバーは、このコンビニから車で10分程行った所に家があるらしい。
    しかし、どこの家かも分かるはずもなく、言っても仕方が無い事だった。
    時刻は深夜12時を少し過ぎた所だった。俺たちは30分交代で、車に手を上げるヤツ、
    コンビニで涼むヤツ、に別れることにした。コンビニの店長にも事情を説明したら
    「頑張ってね。最悪、どうしても立ち往生したら俺が市内まで送ってやるよ」と言ってくれた。こういう田舎の暖かい人の心は実に嬉しい。
    それからいよいよ1時間半も過ぎたが、一向に車がつかまらない。と言うか、ほとんど通らない。
    カズヤも店長とかなり意気投合し、いよいよ店長の行為に甘えるか、と思っていたその時、
    1台のキャンピングカーがコンビニの駐車場に停車した。これが、あの忘れえぬ悪夢の始まりだった。



    839:その4: 2009/12/24(木) 22:15:34ID:NNdtlw3F0
    運転席のドアが開き、コンビニに年齢はおよそ60代くらいかと思われる男性が入ってきた。
    男の服装は、カウボーイがかぶるようなツバ広の防止に、スーツ姿、と言う奇妙なモノだった。
    俺はその時、丁度コンビニの中におり、何ともなくその男性の様子を見ていた。
    買い物籠に、やたらと大量の絆創膏などを放り込んでいる。コーラの1.5?のペットボトルを2本も投げ入れていた。
    その男を、会計をしている最中、じっと立ち読みをしている俺の方を凝視していた。
    何となく気持ちが悪かったので、視線を感じながらも俺は無視して本を読んでいた。
    やがて男は店を出た。そろそろ交代の時間なので、カズヤの所に行こうとすると、駐車場でカズヤが男と話をしていた。
    「おい、乗せてくれるってよ!」
    どうやら、そういう事らしい。俺は当初は男に何か気持ち悪さは感じていたのだが、
    間近で見ると、人の良さそうな普通のおじさんに見えた。俺は疲労や眠気の為にほとんど思考が出来ず、
    「はは~ん、アウトドア派(キャンピングカー)だからああいう帽子か」などと言う良く分からない納得を自分にさせた。

    キャンピングカーに乗り込んだ時、「しまった」と思った。
    「おかしい」のだ。「何が」と言われても「おかしいからおかしい」としか書き様がないかも知れない。
    これは感覚の問題なのだから…ドライバーには家族がいた。もちろん、
    キャンピングカーと言うことで、中に同乗者が居る事は予想はしていたのだが。

    父 ドライバー およそ60代
    母 助手席に座る。見た目70代
    双子の息子 どう見ても40過ぎ



    840:その5: 2009/12/24(木) 22:16:30ID:NNdtlw3F0
    人間は、予想していなかったモノを見ると、一瞬思考が止まる。
    まず車内に入って目に飛び込んで来たのは、まったく同じギンガムチェックのシャツ、
    同じスラックス、同じ靴、同じ髪型(頭頂ハゲ)、同じ姿勢で座る同じ顔の双子の中年のオッサンだった。
    カズヤも絶句していた様子だった。いや、別にこういう双子が居てもおかしくはない、
    おかしくもないし悪くもないのだが…あの異様な雰囲気は、実際その場で目にしてみないと伝えられない。
    「早く座って」と父に言われるがまま、俺たちはその家族の雰囲気に呑まれるかの様に、車内に腰を下ろした。
    まず、俺達は家族に挨拶をし、父が運転をしながら、自分の家族の簡単な説明を始めた。
    母が助手席で前を見て座っている時は良く分からなかったが、母も異様だった。
    ウェディングドレスのような、真っ白なサマーワンピース。顔のメイクは「バカ殿か」と
    見まがうほどの白粉ベタ塗り。極めつけは母の名前で、「聖(セント)ジョセフィーヌ」。
    父はちなみに「聖(セント)ジョージ」と言うらしい。
    双子にも言葉を失った。名前が「赤」と「青」と言うらしいのだ。
    赤ら顔のオッサンは「赤」で、ほっぺたに青痣があるオッサンは「青」。普通、自分の子供にこんな名前をつけるだろうか?
    俺達はこの時点で目配せをし、適当な所で早く降ろしてもらう決意をしていた。狂っている。
    俺達には主に父と母が話しかけて来て、俺達も気もそぞれで適当な答えをしていた。
    双子はまったく喋らず、まったく同じ姿勢、同じペースでコーラのペットボトルをラッパ飲みしていた。
    ゲップまで同じタイミングで出された時は、背筋が凍り、もう限界だと思った。



    842:その6: 2009/12/24(木) 22:17:48ID:NNdtlw3F0
    「あの、ありがとうございます。もうここらで結構ですので…」
    キャンピングカーが発車して15分も経たないうちに、カズヤが口を開いた。
    しかし、父はしきりに俺達を引きとめ、母は「熊が出るから!今日と明日は!」と意味不明な事を言っていた。
    俺達は腰を浮かせ、本当にもう結構です、としきりに訴えかけたが、
    父は「せめて晩餐を食べていけ」と言って、降ろしてくれる気配はない。
    夜中の2時にもなろうかと言う時に、晩餐も晩飯も無いだろうと思うのだが…
    双子のオッサン達は、相変わらず無口で、今度は棒つきのペロペロキャンディを舐めている。
    「これ、マジでヤバイだろ」と、カズヤが小声で囁いてきた。
    俺は相槌を打った。しきりに父と母が話しかけてくるので、中々話せないのだ。
    1度、父の言葉が聞こえなかった時など「聞こえたか!!」とえらい剣幕で怒鳴られた。
    その時双子のオッサンが同時にケタケタ笑い出し、俺達はいよいよ「ヤバイ」と確信した。

    キャンピングカーが、国道を逸れて山道に入ろうとしたので、流石に俺達は立ち上がった。
    「すみません、本当にここで。ありがとうございました」と運転席に駆け寄った。
    父は延々と「晩餐の用意が出来ているから」と言って聞こうとしない。
    母も、素晴らしく美味しい晩餐だから、是非に、と引き止める。
    俺らは小声で話し合った。いざとなったら、逃げるぞ、と。
    流石に走行中は危ないので、車が止まったら逃げよう、と。
    やがて、キャンピングカーは山道を30分ほど走り、小川がある開けた場所に停車した。
    「着いたぞ」と父。その時、キャンピングカーの1番後部のドア(俺達はトイレと思っていた)から
    「キャッキャッ」と子供の様な笑い声が聞こえた。まだ誰かが乗っていたか!? その事に心底ゾッとした。
    「マモルもお腹すいたよねー」と母。マモル…家族の中では、唯一マシな名前だ。幼い子供なのだろうか。
    すると、今まで無口だった双子のオッサン達が、口をそろえて
    「マモルは出したら、だぁ・あぁ・めぇ!!」とハモりながら叫んだ。
    「そうね、マモルはお体が弱いからねー」と母。
    「あーっはっはっはっ!!」といきなり爆笑する父。
    「ヤバイ、こいつらヤバイ。フルスロットル(カズヤは、イッてるヤツや危ないヤツを常日頃からそういう隠語で呼んでいた)」



    843:その7: 2009/12/24(木) 22:20:19ID:NNdtlw3F0
    俺達は、車の外に降りた。良く見ると、男が川の傍で焚き火をしていた。まだ仲間がいたのか…と、絶望的な気持ちになった。
    異様に背が高く、ゴツい。2m近くはあるだろうか。父と同じテンガロンハットの様な帽子をかぶり、スーツと言う異様な出で立ちだ。
    帽子を目深に被っており、表情が一切見えない。
    焚き火に浮かび上がった、キャンピングカーのフロントに描かれた十字架も、何か不気味だった。
    ミッ○ーマ○スのマーチ、の口笛を吹きながら、男は大型のナイフで何かを解体していた。
    毛に覆われた足から見ると、どうやら動物の様だった。イノシシか、野犬か…どっちにしろ、そんなモノを食わさせるのは御免だった。
    俺達は逃げ出す算段をしていたが、予想外の大男の出現、大型のナイフを見て、萎縮してしまった。
    「さぁさ、席に着こうか!」と父。大男がナイフを置き、傍でグツグツ煮えている鍋に味付けをしている様子だった。
    「あの、しょんべんしてきます」とカズヤ。「逃げよう」と言う事だろう。俺も行く事にした。
    「早くね~」と母。俺達はキャンピングカーの横を通り、森に入って逃げようとしたその時、
    キャンピングカーの後部の窓に、異様におでこが突出し、両目の位置が異様に低く、
    両手もパンパンに膨れ上がった容姿をしたモノが、バン!と顔と両手を貼り付けて叫んだ。
    「マーマ!!」
    もはや限界だった。俺達は脱兎の如く森へと逃げ込んだ。



    844:その8: 2009/12/24(木) 22:21:39ID:NNdtlw3F0
    後方で、父と母が何か叫んでいたが、気にする余裕などなかった。
    「ヤバイヤバイヤバイ」とカズヤは呟きながら森の中を走っている。お互い、何度も転んだ。
    とにかく下って県道に出よう、と小さなペンライト片手にがむしゃらに森を下へ下へと走っていった。
    考えが甘かった。小川のあった広場からも、町の明かりは近くに見えた気がしたのだが、
    1時間ほど激走しても、一向に明かりが見えてこない。完全に道に迷ったのだ。
    心臓と手足が根をあげ、俺達はその場にへたり込んだ。
    「あのホラー一家、追ってくると思うか?」とカズヤ。
    「俺達を食うわけでもなしに、そこは追ってこないだろ。映画じゃあるまいし。
     ただの少しおかしい変人一家だろう。最後に見たヤツは、ちょっとチビりそうになったけど…」
    「荷物…どうするか」
    「幸い、金と携帯は身につけてたしな…服は、残念だけど諦めるか」
    「マジハンパねぇw」
    「はははw」
    俺達は精神も極限状態にあったのか、なぜかおかしさがこみ上げてきた。
    ひとしきり爆笑した後、森独特のむせ返る様な濃い匂いと、周囲が一切見えない暗闇に、現実に戻された。
    変態一家から逃げたのは良いが、ここで遭難しては話にならない。
    樹海じゃあるまいし、まず遭難はしないだろうが、万が一の事も頭に思い浮かんだ。
    「朝まで待った方が良くないか?さっきのババァじゃないけど、熊まではいかなくとも、野犬とかいたらな…」
    俺は一刻も早く下りたかったが、真っ暗闇の中をがむしゃらに進んで、さっきの川原に戻っても恐ろしいので、
    腰を下ろせそうな倒れた古木に座り、休憩する事にした。一時はお互いあーだこーだと喋っていたが、
    極端なストレスと疲労の為か、お互いにうつらうつらと意識が飛ぶようになってきた。



    845:その9: 2009/12/24(木) 22:23:04ID:NNdtlw3F0
    ハッ、と目が覚めた。反射的に携帯を見る。午前4時。辺りはうっすらと明るくなって来ている。
    横を見ると、カズヤがいない。一瞬パニックになったら、俺の真後ろにカズヤは立っていた。
    「何やってるんだ?」と聞く。
    「起きたか…聞こえないか?」と、木の棒を持って何かを警戒している様子だった。
    「何が…」
    「シッ」
    かすかに遠くの方で音が聞こえた。口笛だった。ミッ○ーマ○スのマーチの。CDにも吹き込んでも良いくらいの、良く通る美音だ。
    しかし、俺達にとっては恐怖の音以外の何物でもなかった。
    「あの大男の…」
    「だよな」
    「探してるんだよ、俺らを!!」
    再び、俺たちは猛ダッシュで森の中へと駆け始めた。辺りがやや明るくなったせいか、以前よりは周囲が良く見える。
    躓いて転ぶ心配が減ったせいか、かなりの猛スピードで走った。
    20分くらい走っただろうか。少し開けた場所に出た。今は使われていない駐車場の様だった。
    街の景色が、木々越しにうっすらと見える。大分下ってこれたのだろうか。

    腹が痛い、とカズヤが言い出した。我慢が出来ないらしい。古びた駐車場の隅に、古びたトイレがあった。
    俺も多少もよおしてはいたのだが、大男がいつ追いついてくるかもしれないのに、個室に入る気にはなれなかった。
    俺がトイレの外で目を光らせている隙に、カズヤが個室で用を足し始めた。
    「紙はあるけどよ~ ガピガピで、蚊とか張り付いてるよ…うぇっ 無いよりマシだけどよ~」
    カズヤは文句を垂れながら糞も垂れ始めた。
    「なぁ…誰か泣いてるよな?」と個室の中から大声でカズヤが言い出した。
    「は?」
    「いや、隣の女子トイレだと思うんだが…女の子が泣いてねぇか?」



    846:その10: 2009/12/24(木) 22:24:27ID:NNdtlw3F0
    カズヤに言われて初めて気がつき、聴こえた。確かに女子トイレの中から女の泣き声がする…
    カズヤも俺も黙り込んだ。誰かが女子トイレに入っているのか?何故、泣いているのか?
    「なぁ…お前確認してくれよ。段々泣き声酷くなってるだろ…」
    正直、気味が悪かった。しかし、こんな山奥で女の子が寂れたトイレの個室で1人、
    泣いているのであれば、何か大事があったに違いない。俺は意を決して、女子トイレに入り、泣き声のする個室に向かい声をかけた。
    「すみません…どうかしましたか?」
    返事はなく、まだ泣き声だけが聴こえる。
    「体調でも悪いんですか、すみません、大丈夫ですか」
    泣き声が激しくなるばかりで、一向にこちらの問いかけに返事が帰ってこない。
    その時、駐車場の上に続く道から、車の音がした。
    「出ろ!!」俺は確信とも言える嫌な予感に襲われ、女子トイレを飛び出し、カズヤの個室のドアを叩いた。
    「何だよ」
    「車の音がする、万が一の事もあるから早く出ろ!!」
    「わ、分かった」
    数秒経って、青ざめた顔でカズヤがジーンズを履きながら出てきた。と、同時に駐車場に下ってくるキャンピングカーが見えた。
    「最悪だ…」
    今森を下る方に飛び出たら、確実にあの変態一家の視界に入る。選択肢は、唯一死角になっている、トイレの裏側に隠れる事しかなかった。
    女の子を気遣っている余裕は消え、俺達はトイレを出て、裏側で息を殺してジッとしていた。
    頼む、止まるなよ、そのまま行けよ、そのまま…
    「オイオイオイオイオイ、見つかったのか?」カズヤが早口で呟いた。
    キャンピングカーのエンジン音が、駐車場で止まったのだ。ドアを開ける音が聞こえ、トイレに向かって来る足音が聴こえ始めた。
    このトイレの裏側はすぐ5m程の崖になっており、足場は俺達が立つのがやっとだった。
    よほど何かがなければ、裏側まで見に来る事はないはずだ。もし俺達に気づいて近いづいて来ているのであれば、
    最悪の場合、崖を飛び降りる覚悟だった。飛び降りても怪我はしない程度の崖であり、やれない事はない。
    用を足しに来ただけであってくれ、頼む…俺達は祈るしかなかった。
    しかし、一向に女の子の泣き声が止まらない。あの子が変態一家にどうにかされるのではないか?それが気が気でならなかった。



    847:その11: 2009/12/24(木) 22:25:32ID:o41n3rfp0
    男子トイレに誰かが入ってきた。声の様子からすると、父だ。
    「やぁ、気持ちが良いな。ハ~レルヤ!!ハ~レルヤ!!」と、どうやら小の方をしている様子だった。
    その後すぐに、個室に入る音と足音が複数聞こえた。双子のオッサンだろうか。
    最早、女の子の存在は完全にバレているはずだった。女子トイレに入った母の「紙が無い!」と言う声も聴こえた。
    女の子はまだ泣きじゃくっている。やがて、父も双子のオッサン達(恐らく)も、トイレを出て行った様子だった。
    おかしい。女の子に対しての変態一家の対応が無い。やがて、母も出て行って、変態一家の話し声が遠くになっていった。
    気づかないわけがない。現に女の子はまだ泣きじゃくっているのだ。
    俺とカズヤが怪訝な顔をしていると、父の声が聞こえた。
    「~を待つ、もうすぐ来るから」と言っていた。何を待つ、のかは聞き取れなかった。
    どうやら双子のオッサンたちが、グズッている様子だった。
    やがて平手打ちの様な男が聴こえ、恐らく、双子のオッサンの泣き声が聴こえてきた。
    悪夢だった。楽しかったはずのヒッチハイクの旅が、なぜこんな事に…
    今まではあまりの突飛な展開に怯えるだけだったが、急にあの変態一家に対して怒りがこみ上げて来た。
    「あのキャンピングカーをブンどって、山を降りる手もあるな。あのジジィどもをブン殴ってでも。
     大男がいない今がチャンスじゃないのか?待ってるって、大男の事じゃないのか?」
    カズヤが小声で言った。しかし、俺は向こうが俺達に気がついてない以上、
    このまま隠れて、奴らが通り過ぎるのを待つほうが得策に思えた。
    女の子の事も気になる。奴らが去ったら、ドアを開けてでも確かめるつもりだった。
    その旨をカズヤに伝えると、しぶしぶ頷いた。それから15分程経った時。
    「~ちゃん来たよ~!(聞き取れない)」母の声がした。待っていた主が駐車場に到着したらしい。
    何やら談笑している声が聞こえるが、良く聞き取れない。再び、トイレに向かってくる足音が聴こえて来た。



    848:その12: 2009/12/24(木) 22:26:35ID:o41n3rfp0
    ミッ○ーマ○スのマーチの口笛。アイツだ!! 軽快に口笛を吹きながら、大男が小を足しているらしい。
    女子トイレの女の子の泣き声が、一段と激しくなった。何故だ?何故気づかない?
    やがて、泣き叫ぶ声が断末魔の様な絶叫に変わり、フッと消えた。
    何かされたのか?見つかったのか!? しかし、大男は男子トイレににいるし、
    他の家族が女子トイレに入った形跡も無い。やがて、口笛と共に大男がトイレを出て行った。
    万が一女の子がトイレから連れ出されてはしないか、と心配になり、危険を顧みずに
    一瞬だけトイレの裏手から俺が顔を覗かせた。テンガロンハットにスーツ姿の、大男の歩く背中が見える。
    「ここだったよなぁぁぁぁぁぁぁァァ!!」
    ふいに、大男が叫んだ。俺は頭を引っ込めた。ついに見つかったか!? カズヤは木の棒を強く握り締めている。
    「そうだそうだ!!」
    「罪深かったよね!!」
    と父と母。双子のオッサンの笑い声。
    「泣き叫んだよなァァァァァァァァ!!」と、大男。
    「うんうん!!」
    「泣いた泣いた!!悔い改めた!!ハレルヤ!!」
    と、父と母。双子のオッサンの笑い声。
    何を言っているのか? どうやら俺達の事ではないらしいが…
    やがて、キャンピングカーのエンジン音が聴こえ、車は去ってった。
    辺りはもう完全に明るくなっていた。変態一家が去ったのを完全に確認して、俺は女子トイレに飛び込んだ。
    全ての個室を開けたが、誰もいない。鍵も全て壊れていた。そんな馬鹿な…
    後から女子トイレに入ってきたカズヤが、俺の肩を叩いて呟いた。
    「なぁ、お前も途中から薄々は気がついてたんだろ? 女の子なんて、最初からいなかったんだよ」
    2人して幻聴を聴いたとでも言うのだろうか。確かに、あの変態一家の女の子に対する反応が一切無かった事を考えると、
    それも頷けるのではあるが…しかし、あんなに鮮明に聴こえる幻聴などあるのだろうか…



    849:その13: 2009/12/24(木) 22:29:08ID:o41n3rfp0
    駐車場から上りと下りに続く車道があり、そこを下れば確実に国道に出るはずだ。
    しかし、再び奴らのキャンピングカーに遭遇する危険性もあるので、あえて森を突っ切る事にした。
    街はそんなに遠くない程度に見えているし、周囲も明るいので、まず迷う可能性も少ない。
    俺達は無言のまま、森を歩いた。約2時間後。無事に国道に出る事が出来た。
    しかし、着替えもない、荷物もない。頭に思い浮かんだのは、あの親切なコンビニの店長だった。
    国道は、都会並みではないが、朝になり交通量が増えてきている。
    あんな目にあって、再びヒッチハイクするのは度胸がいったが、何とかトラックに乗せて貰える事になった。
    ドライバーは、俺達の汚れた姿に当初困惑していたが、事情を話すと快く乗せてくれた。
    事情と言っても、俺達が体験した事をそのまま話してもどうか、と思ったので、
    キャンプ中に山の中で迷った、と言う事にしておいた。運転手も、そのコンビニなら知っているし、良く寄るらしかった。
    約1時間後、俺達は例の店長のいるコンビニに到着した。店長はキャンピングカーの件を知っているので、
    そのまま俺達が酷い目にあった事を話したのだが、話してる最中に、店長は怪訝な顔をし始めた。
    「え?キャンピングカー? いや、俺はさぁ、君達があの時急に店を出て国道沿いを歩いて行くので、止めたんだよ。
     俺に気を使って、送ってもらうのが悪いので、歩いていったのかな、と。
     10mくらい追って行って、こっちが話しかけても君らがあんまり無視するもんだから、こっちも正直気ィ悪くしちゃってさ。どうしたのさ?(笑)」
    …どういう事なのか。俺達は、確かにあのキャンピングカーがコンビニに止まり、
    レジで会計も済ませているのを見ている。会計したのは店長だ。もう1人のバイトの子もいたが、あがったのか今はいない様だった。
    店長もグルか?? 不安が胸を過ぎった。カズヤと目を見合わせる。
    「すみません、ちょっとトイレに」とカズヤが言い、俺をトイレに連れ込む。
    「どう思う?」と俺。
    「店長がウソを言ってるとも思えんが、万が一、あいつらの関連者としたら、って事だろ?
     でも、何でそんな手の込んだ事する必要がある? みんなイカレてるとでも? まぁ、釈然とはしないよな。
     じゃあ、こうしよう。大事をとって、さっきの運ちゃんに乗せてもらわないか?」



    851:その14: 2009/12/24(木) 22:30:28ID:o41n3rfp0
    それが1番良い方法に思えた。俺達の意見がまとまり、トイレを出ようとしたその瞬間、
    個室のトイレから水を流す音と共に、あのミッ○ーマ○スのマーチの口笛が聞こえてきた。
    周囲の明るさも手伝ってか、恐怖よりまず怒りがこみ上げて来た。それはカズヤも同じだった様だ。
    「開けろオラァ!!」とガンガンドアを叩くカズヤ。ドアが開く。
    「な…なんすか!?」制服を着た地元の高校生だった。
    「イヤ…ごめんごめん、ははは…」と苦笑するカズヤ。
    幸い、この騒ぎはトイレの外まで聞こえてはいない様子だった。
    男子高校生に侘びを入れて、俺達は店長と談笑するドライバーの所へ戻った。
    「店長さんに迷惑かけてもアレだし、お兄さん、街までお願いできませんかねっ これで!」
    と、ドライバーが吸っていた銘柄のタバコを1カートン、レジに置くカズヤ。交渉成立だった。

    例の変態一家の件で、警察に行こうとはさらさら思わなかった。あまりにも現実離れし過ぎており、
    俺達も早く忘れたかった。リュックに詰めた服が心残りではあったが…
    ドライバーのトラックが、市街に向かうのも幸運だった。タバコの贈り物で終始上機嫌で運転してくれた。
    いつの間にか、俺達は車内で寝ていた。ふと目が覚めると、ドライブインにトラックが停車していた。
    ドライバーが焼きソバを3人分買ってきてくれて、車内で食べた。
    車が走り出すと、カズヤは再び眠りに落ち、俺は再び眠れずに、窓の外を見ながら
    あの悪夢の様な出来事を思い返していた。一体、あいつらは何だったのか。トイレの女の子の泣き声は…
    「あっ!!」
    思案が吹き飛び、俺は思わず声を上げていた。



    852:その15: 2009/12/24(木) 22:31:11ID:o41n3rfp0
    「どうした?」とドライバーのお兄さん。
    「止めて下さい!!」
    「は?」
    「すみません、すぐ済みます!!」
    「まさかここで降りるのか?まだ市街は先だぞ」と、しぶしぶトラックを止めてくれた。
    この問答でカズヤも起きたらしい。
    「どうした?」
    「あれ、見ろ」
    俺の指差した方を見て、カズヤが絶句した。朽ち果てたドライブインに、あのキャンピングカーが止まっていた。
    間違いない。色合い、形、フロントに描かれた十字架…しかし、何かがおかしかった。
    車体が何十年も経った様に、ボロボロに朽ち果てており、全てのタイヤがパンクし、窓ガラスも全て割れていた。
    「すみません、5分で戻ります、5分だけ時間下さい」
    とドライバーに説明し、トラックを路肩に止めてもらったまま、俺達はキャンピングカーへと向かった。
    「どういう事だよ…」とカズヤ。こっちが聞きたいくらいだった。
    近づいて確認したが、間違いなくあの変態一家のキャンピングカーだった。
    周囲の明るさ・車の通過する音などで安心感はあり、恐怖感よりも「なぜ?」と言う好奇心が勝っていた。
    錆付いたドアを引き開け、酷い匂いのする車内を覗き込む。



    853:その16: 2009/12/24(木) 22:32:00ID:o41n3rfp0
    「オイオイオイオイ、リュック!!俺らのリュックじゃねぇか!!」カズヤが叫ぶ。
    …確かに俺達が車内に置いて逃げて来た、リュックが2つ置いてあった。
    しかし、車体と同様に、まるで何十年も放置されていたかの如く、ボロボロに朽ち果てていた。
    中身を確認すると、服や日用雑貨品も同様に朽ち果てていた。
    「どういう事だよ…」もう1度カズヤが呟いた。何が何だか、もはや脳は正常な思考が出来なかった。
    とにかく、一時も早くこの忌まわしいキャンピングカーから離れたかった。
    「行こう、行こう」カズヤも怯えている。車内を出ようとしたその時、
    キャンピングカーの1番置くのドアの奥で「ガタッ」と音がした。ドアは閉まっている。開ける勇気はない。
    俺達は恐怖で半ばパニックになっていたので、そう聴こえたかどうかは、今となっては分からないし、
    もしかしたら猫の鳴き声だったかもしれない。が、確かに、その奥のドアの向こうで、その時はそう聴こえたのだ。
    「マ ー マ ! ! 」
    俺達は叫びながらトラックに駆け戻った。すると、なぜかドライバーも顔が心なしか青ざめている風に見えた。
    無言でトラックを発進させるドライバー。
    「何かあったか?」「何かありました?」
    同時にドライバーと俺が声を発した。ドライバーは苦笑し、
    「いや…俺の見間違いかもしれないけどさ…あの廃車…お前ら以外に誰もいなかったよな?
     いや、居るわけないんだけどさ…いや、やっぱ良いわ」
    「気になります、言って下さいよ」とカズヤ。
    「いやさ…見えたような気がしたんだよ。カウボーイハット?って言うのか?
     日本で言ったら、ボーイスカウトが被るような。それを被った人影が見えた気が…
     でよ、何故かゾクッとしたその瞬間、俺の耳元で口笛が聴こえてよ…」
    「どんな感じの…口笛ですか?」
    「曲名は分かんねぇけど(口笛を吹く)こんな感じでよ…いやいやいや、何でもねぇんだよ! 俺も疲れてるのかね」
    運転手は笑っていたが、運転手が再現してみた口笛は、ミッ○ーマ○スのマーチだった。



    854:: 2009/12/24(木) 22:32:41ID:o41n3rfp0
    30分ほど無言のまま、トラックは走っていた。そして市街も近くなったと言う事で、
    最後にどうしても聞いておきたい事を、俺はドライバーに聞いてみた。
    「あの、最初に乗せてもらった国道の近くに、山ありますよね?」
    「あぁ、それが?」
    「あそこで前に何か事件とかあったりしました?」
    「事件…?いやぁ聞かねぇなぁ…山つっても、3つくらい連なってるからなぁ、あの辺は。
     あ~、でもあの辺の山で大分昔に、若い女が殺された事件があったとか…それくらいかぁ?
     あとは、普通にイノシシの被害だな。怖いぜ、野生のイノシシは」
    「女が殺されたところって」
    「トイレすか?」カズヤが俺の言葉に食い気味に入ってきた。
    「あぁ、確かそう。何で知ってる?」

    市街まで送ってもらった運転手に礼を言い、安心感からか、その日はホテルで爆睡した。
    翌日~翌々日には、俺達は新幹線を乗り継いで地元に帰ったいた。
    なるべく思い出したくない悪夢の様な出来事だったが、時々思い出してしまう。
    あの一家は一体何だったのか?実在の変態一家なのか?幻なのか?この世の者ではないのか?
    あの山のトイレで確かに聞こえた女の子の泣き叫ぶ声は、何だったのか?
    ボロボロに朽ち果てたキャンピングカー、同じように朽ちた俺達のリュックは、一体何を意味するのか?

    「おっ♪ おっ♪ おま○こ おま○こ 舐めたいなっ♪ ペロペロ~ ペロペロ~」
    先日の合コンが上手く行った、カズヤのテンションが上がっている。たまに遊ぶ悪友の仲は今でも変わらない。
    コイツの底抜けに明るい性格に、あの悪夢の様な旅の出来事が、いくらか気持ち的に助けられた気がする。
    30にも手か届こうかとしている現在、俺達は無事に就職も出来(大分前ではあるが)、普通に暮らしている。
    カズヤは、未だにキャンピングカーを見ると駄目らしい。俺はあの「ミッ○ーマ○スのマーチ」がトラウマになっている。

    チャンララン チャンララン チャンラランララン チャンララン チャンララン チャンラランララン♪

    先日の合コンの際も、女性陣の中に1人この携帯着信音の子がおり、心臓が縮み上がったモノだ。
    今でもあの一家、とくに大男の口笛が夢に出てくる事がある。



    863:本当にあった怖い名無し: 2009/12/24(木) 23:29:18ID:FHBo4vcCO
    >>854
    乙乙乙!
    かなり面白かったよ



    860:本当にあった怖い名無し: 2009/12/24(木) 23:04:22ID:s4M1Xre60
    >>854
    これは良い創作
    一家から逃げる場面一緒になって動悸がする程引き込まれた
    しかしリュックとかも同様に朽ち果てていたりしたのが気になった
    タイムスリップ…というか平行時間…というものなのか



    867:本当にあった怖い名無し: 2009/12/24(木) 23:54:19ID:n6wU6n5L0
    >>854
    良かった
    トイレの女の子辺りからオチがが見えたけど、なかなかの秀作



    868:本当にあった怖い名無し: 2009/12/25(金) 00:34:04ID:+7918HSD0
    >>854
    まぁまぁ面白かったよ。
    ブレアウィッチプロジェクトだっけ、あんな感じだね。
    過去からの殺人者というか、自分達が過去に迷い込んだのか。
    ディードルダム兄弟も良い感じだ。



    896:本当にあった怖い名無し: 2009/12/25(金) 15:15:34ID:LzBzAqd9O
    >>854
    飛行機では札幌には着かない
    ヒッチハイクでは津軽海峡渡れない
    この辺がオカルト



    859:本当にあった怖い名無し: 2009/12/24(木) 23:02:38ID:6zeRhIu70
    久しぶりの長編、面倒臭くて流し読みだけど乙!




    リスカ事件
    256:1/2: 2009/12/15(火) 21:06:19ID:1fSqPHYk0
    研修医時代のことです。
    病院の一般当直をしていると、色んな患者さんがきますが、
    公立系の病院だと、そんななか案の定というのか多いのが、メンヘラとDQN。
    世間というものを教えてくれました(もうお腹いっぱいですけどね)

    特に洒落にならなかったのが、「リスカ事件」。

    受付で「あたしは不安で不安で死んじゃいそうなの!」とヒステリーを起こしている若い女性。
    彼女は有名な救急外来「しか」受診しないメンヘラさんで、
    要は優しく話を30分も聞けば便秘薬だけでおとなしく帰ってくれるのですが、
    あいにくこちらも本当に重症で緊急手術になりそうな人を見ていたので
    当たり前ですが順番を待っていてもらいました。

    それが甘かった。
    突然待合で上がる悲鳴と怒号…。



    257:2/2: 2009/12/15(火) 21:07:25ID:1fSqPHYk0
    慌てて見に行くと、手首からだらだら血を流すお姉さんと、
    泡を吹いて意識をなくした子供、泣き叫ぶ子供、悲鳴を上げるお母さんに怒号を上げるお爺さん…

    手首を切ればさっさと見てもらえると思ったお姉さん。
    なぜかその場で鞄から包丁を取り出し手首をバッサリ。
    あろうことか、待合で熱を出してうなされている子供を連れてきた親子連れの前を選んで…

    小学校低学年くらいだったでしょうか、上のしんどかった子の方は本当に失神してしまい、
    その子についてきた兄弟たちは大パニック。
    しかも悪乗りした(としか思えない)お姉さんの抱きつき攻撃で、血まみれに…。
    まさしく阿鼻叫喚の状態でした。

    すぐ駆けつけた救急部の師長(いわゆる看護婦長さんね)と、ベテラン医師が
    「お前らは普通に救急やれ!こっちは構うな!」と私たちを遠ざけたので、
    その後は不明ですが、お姉さんにはその後会っていません。
    彼女はちゃっかりどこかで元気にしてる気がしますが、
    あの時の親子はいまでもとても心配です。

    こんな感じで「生きてる人間がよっぽど怖いor洒落にならん」系が多いです。




    エリーゼのために
    268:1/6: 2009/12/15(火) 22:15:46ID:1fSqPHYk0
    病院にまつわる幽霊系の話はよく聞きますが、自分では1つしか体験したことがありません。
    というわけで、その唯一を…。

    これも研修医時代、しかも働き始めの4月です。(日付まで覚えています)
    おりしも世間はお花見+新歓シーズン真っただ中、浮かれすぎてべろんべろんになって
    救急車でご来院いただく酔っ払いで、深夜も大忙しでした。

    ちなみにある意味洒落にならないことに、前後不覚の酔っ払いは研修医のいい練習台です。
    普段めったに使わない太い針で点滴の練習をさせられたりしました。
    一応治療上太い針で点滴をとって急速輸液ってのは医学上正しいのも事実ですよ?
    でも、血行がよくて血管がとりやすく、失敗しても怒られず、しかも大半は健康な成人男性というわけで
    上の先生にいやおうなしに一番太い針を渡され、何回も何回もやり直しをさせられながら
    半泣きでブスブスやってました。
    普通の22G針は研修医同士で何回か練習すればすぐ入れれるのですが、
    16Gという輸血の為の針になるとなかなかコツがつかめず、入れられる方も激痛…
    でも、練習しておかないと、出血で血管のへしゃげた交通事故の被害者なんかには絶対入らないわけで。
    (皆様、特に春は飲みすぎには注意ですよ!)



    269:2/6: 2009/12/15(火) 22:16:37ID:1fSqPHYk0
    話を戻します。
    その日の深夜、心肺停止の患者が搬送されてきました。
    まだ本当に若い方で、医者になりたての若造は使命感に燃え、教科書通りに必死に蘇生を行いました。
    しかし結局30分経過したところで、ご家族と連絡をとった統括当直医の一言で全ては終了。

    その方は、(自分は知りませんでしたが)今まで何回も自殺未遂で受診していた常連さん。
    しかもいわゆる「引き際を抑えた見事な未遂」で、ギリギリ死なない程度でとどめていたようです。
    しかし今回、運が悪かったというのか自業自得というのか…
    だいぶ薬のせいで心臓が弱っていたらしく、(推測ですが)まさかの心停止。

    駆けつけた知人という人も、固定電話から救急車は要請したものの到着時にはその場におらず連絡不能。
    状況から事件性が否定できないため、警察に連絡。
    検視が行われることになりましたが、たまたま大きな事件があったので朝まで引き取れないとのこと。
    家族と連絡を取る時、やむを得ず故人の携帯を見て連絡をとりましたが、あっさり蘇生中止を希望。
    生前、家族全員をさんざん振り回し、借金を負わせ、みんなが疲れきって病んでしまった、自殺が最後の希望だったろうから頼むから逝かせてやってくれ、と…。
    死亡確認後改めて連絡しましたが、地方に住んでいて今晩は引き取りにも付添にもいけないとのことでした。
    最後に携帯から電話をしていた(おそらく通報者でしょう)異性の知人にも連絡をとりましたが、今までまとわりつかれ、逃げようとすれば自殺未遂をされて疲れ切っていた、家族でも友達でも何でもない、もう関わりたくない、と泣き声で通話を切り、その後はつながらず…。

    暗澹とした気分になりました。最初の社会勉強でした。



    271:3/6: 2009/12/15(火) 22:17:53ID:1fSqPHYk0
    結局遺体をどうしようかという話になり、もう一度話は警察へ。
    誰かが面会に来た時にすぐ会えるようにという配慮から、「隔離室」に安置することとなりました。

    この隔離室、少し説明しにくいのですが、救急の一番奥まったところにあります。
    手前から診察スペース(ウォークインの診察室と救急車受け入れ)があり、処置のスペースがあります。
    私たちはだいたいこの処置スペースと診察スペースを行き来しています。
    さらに奥に経過観察用のベッドが10台あるのですが、そのさらに突き当りにあります。
    カーテン付きのドアで仕切られていて、救急室のベッド側と廊下2か所から出入りできますが、
    どちらも施錠できます。(以前知らない間にホームレスが入っていたりしたことがあったので…)
    正しい使用方法はインフルエンザの患者の点滴などですが、今回はそこに入っていただこうというわけです。
    空調も別になっているので、その部屋だけ最低温度に設定してクーラーをかけ、施錠しました。

    ショックを受けていた自分も、すぐにまた怒涛のように運び込まれる酔っ払いの相手をしているうちに、その患者のことが頭から抜け落ちて行きました。
    それがだいたい11時ごろ。

    異変が起きたのは深夜1時半ごろでした。



    272:4/6: 2009/12/15(火) 22:18:50ID:1fSqPHYk0
    観察用ベッドと隔離ベッドは先ほども言ったように近いとはいえ少し離れているので、
    各ベッドに一つずつナースコールがあり、鳴らすと「エリーゼのために」が流れます。
    意外と音が大きく、救急全体で聞こえるので、だいたい看護師さんが誰か手を止めて、
    ベッドのところに行ってくれます
    (しょうもない要件ばかり何回も言ってると何もしないこともあるみたいですが)
    しかし、悲しいことに看護師よりも研修医の方が立場が下で…あとは察してください。

    というわけでぱっと板を見に行くと、観察室のランプがチカチカ。
    何も考えずにナースコールを取って「どうしましたか?」と言った瞬間、後ろからぱっと別のドクターが切ってしまいました
    (ちょうど壁についてる固定電話みたいになっています)
    「え・・・」
    「お前良く見ろ、観察室だぞ。」
    「あっ・・・え、あのー、酔っ払いが忍び込んでる、とか?」
    「鍵は俺がかけた。」
    そういってポケットから鍵を出す上級医。
    「そして今も持ってる。あとは聞くな、考えるな。こういうことも、たまにある。」
    そして鍵を戻してぼそっと
    「ただの故障だ、厭な偶然、それだけだからな。」

    もうそのあとは怖くてしかたありませんでした。
    しかし自分がやらかしてしまったせいでしょうか、その後ベルが鳴る鳴る…。
    ひっきりなしにエリーゼのためにがガンガン流れます。
    そのたびにめんどくさそうに受話器をガチャギリする上級医。
    しかしベルはひどくなる一方でした。



    273:5/6: 2009/12/15(火) 22:19:51ID:1fSqPHYk0
    ♪ミレミシレドラ~…、のメロディーが流れるのですが、途中くらいからこちらが切らなくても勝手に途中で切れるのです。
    ミレミシレドミレミシレド、みたいな感じで。最後はミレミシミレミシミレミレミレ…みたいになってましたね。
    明らかにこちらをせかしていました。
    私と同じく入りたての看護師さんもいたのですが、彼女は完全に腰が抜けて泣きながら座り込んでいたし。
    そして、「おい!うっせーんだよ!!さっさと行ってやれやゴルァ!!!!」と空気の読めない酔っ払い共。
    中にはオラオラ言いながら隔離室のドアを蹴るDQNまでいて、ちょっとしたカオスでした。

    そんな中一人不機嫌オーラを立てていたのは師長さんでした。

    とうとうしびれを切らした彼女はツカツカと受話器のところに行ってさっと取ると一言、






    「 黙 っ て さ っ さ と 死 ね ! ! ! ! ! 」



    274:6/6: 2009/12/15(火) 22:20:51ID:1fSqPHYk0
    救急中にしっかりと声が響き、ぱたりと途絶えたナースコール。
    理解したのかしないのか知りませんが、空気をやっと読んでくれた酔っ払い達。
    くるりと振り返った師長さんは、それはそれは、頼もしいとかじゃなくて純粋に恐ろしかったです。

    「 仕 事 し ろ ! 」

    その後は馬車馬のように働きましたとも。
    酔っ払いはいつも居座ってしまって返すのに苦労するのですが、皆様本当に理解が早かった。

    腰を抜かしていた看護師さんはその後「ICUで死ぬ間際の人が氷をポリポリ食べていてその音が耳から離れない」と言い残してやめて行きましたが、師長さんいわく軟弱ものだからだそうです。

    女社会、子供を5人育て上げ、なおかつ893やDQNのやってくる救急外来をあえて選ぶ、そんな猛者。今でも心底恐ろしいです。

    あと、心当たりがあってもこの話はあまり広げないでくださいね。特定されたら…考えたくないですから。



    275:本当にあった怖い名無し: 2009/12/15(火) 22:26:44ID:E6zonuNX0
    >>274
    医者だよね?
    幽霊とか言わないよね?



    277:本当にあった怖い名無し: 2009/12/15(火) 22:35:00ID:FYKkfKc80
    >>268-274
    婦長さん、最高ですね。
    「 黙 っ て さ っ さ と 死 ね ! ! ! ! ! 」
    ある意味1番怖いです。



    281:本当にあった怖い名無し: 2009/12/15(火) 23:44:00ID:1fSqPHYk0
    >>277
    間違いなく一番怖いです。



    278:本当にあった怖い名無し: 2009/12/15(火) 23:07:23ID:W3vfcLsc0
    >>274
    これ単に蘇生したとかいうことは、ないの?



    280:本当にあった怖い名無し: 2009/12/15(火) 23:35:32ID:E6zonuNX0
    >>278
    結露もあり得るしな。




    裏山にキノコ取りに行った
    335:本当にあった怖い名無し: 2009/12/16(水) 20:51:14ID:Fq4OKmoB0
    けっこう前に、
    「山奥に家族構成っぽく置かれたマネキンが傷つけられてた」って
    カキコミがあったと思うけど、それと似たような体験をした。

    うちは田舎だから、シーズンになるとよく裏山にキノコ取りに行く。
    小学生の頃は、よく採れる場所をじいちゃんに教えてもらいながら
    2人で行ってたけど、中学生になると1人で行ったり、
    友達と行ったりしてた。

    その日は日曜日だったから、友達と2人で行ったんだ。
    最初は順調にいろいろ採って、そろそろ帰ろうかとしてた時、
    友達がいきなり叫んで、その場にへたりこんだ。
    その時は、木の枝で足を切ることがよくあるから、それかと思ったけど、
    友達は上を見てる。だからも俺もつられて上を見た。
    そこには首吊り死体。それも2体。



    336:本当にあった怖い名無し: 2009/12/16(水) 20:56:41ID:Fq4OKmoB0
    続き

    本当に驚いた時は声も出せない。
    俺は後ずさって何も出来ないままパニックになってたんだが、
    しばらく見てる内に、死体はホンモノではなくマネキンだと気づいた。
    イタズラにしてはタチが悪いだろ!と毒づきながら友達と下山して、
    うちで親父に説明し、脚立と手斧、枝切りハサミを持って
    3人でマネキンを片付けに行った。

    親父が脚立に上り、俺と友達は脚立を支えた。
    親父は手際良くマネキンの首のロープを切って下に落とし、
    こんなものはさっさと捨てようと、3人でうちの納屋に運んだんだ。
    でも、そのままだとまた誤解を受けるだろうからって、
    なるべく人型ってことが分からないようにバラバラに砕いてから
    捨てようということになって、マネキンが着てた粗末な服を剥いだんだ。
    そうしたら、マネキンの腹に赤ペンキで大きく書いてあった。
    「このマネキンを下ろした人間は死ぬ」。

    それを見て、その場にいた全員が凍りついた。
    でも親父がもう一体の、女物のワンピースを着せられたマネキンの服を剥いだら、
    やっぱりその腹にも書いてあった。
    「このマネキンを下ろした人間の、最も愛する者が死ぬ」。



    337:本当にあった怖い名無し: 2009/12/16(水) 20:59:11ID:Fq4OKmoB0
    続き

    親父は、凍り付いてる俺と友達を宥めながら
    「ジュースでも買ってこい」と言って納屋から出し、
    その間、そのマネキン2体をバラバラに砕いて捨てた。

    それ以来、俺と友達と親父の間ではそのことはタブーになっている。
    口に出すのも嫌だからここに書くけど、
    「最も愛する者が死ぬ」と書かれたことが一番辛い。



    339:ロザリー ◆PiGJDrhfQc : 2009/12/16(水) 21:11:09ID:/U3sdptfO
    >>337
    で、誰か死んだの?



    342:本当にあった怖い名無し: 2009/12/16(水) 21:24:01ID:qjpPbhF70
    >>339
    信じるとか言ってる奴にしか効かないんだよ呪いは。



    343:ロザリー ◆PiGJDrhfQc : 2009/12/16(水) 21:28:50ID:/U3sdptfO
    >>342
    そんなことないよ



    344:本当にあった怖い名無し: 2009/12/16(水) 21:32:20ID:3DTm6g4j0
    >>342 マジモノの呪いかけられたら洒落になんねーよ


    311:本当にあった怖い名無し: 2009/12/16(水) 15:04:04ID:RKjFRA81O
    洒落にならんくらい柿い話だ


    378:本当にあった怖い名無し: 2009/12/17(木) 02:21:42ID:0O0RIHl+O
    怖い((゚Д゚ll))


    321:本当にあった怖い名無し: 2009/12/16(水) 19:01:52ID:dWy3muj50
    いいか、絶対振り向くなよ!


    431:本当にあった怖い名無し: 2009/12/18(金) 02:45:37ID:r4WK7xMUO
    怖くて寝れない(´・ω・`)

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      コメント

      1.気になる名無しさん2019年08月13日 01:09  ▽このコメントに返信

      豊〜「イグ丸イグ丸」

      2.気になる名無しさん2019年08月13日 01:14  ▽このコメントに返信

      ?

      3.気になる名無しさん2019年08月13日 01:19  ▽このコメントに返信

      キャンピングカー1番すきな話だわ
      元ネタ映画だっけ?

      4.気になる名無しさん2019年08月13日 01:22  ▽このコメントに返信

      5.気になる名無しさん2019年08月13日 01:34  ▽このコメントに返信

      長いな、3行でまとめて

      6.気になる名無しさん2019年08月13日 01:41  ▽このコメントに返信

      懐かしい

      7.気になる名無しさん2019年08月13日 01:48  ▽このコメントに返信

      ヒッチハイクの元ネタはレストストップっていうクソ映画やで

      8.気になる名無しさん2019年08月13日 02:45  ▽このコメントに返信

      >>3
      たしかアメリカのホラー映画でキャンピングカーが出てくる映画あってそれが元ネタじゃないかと言われてたな。

      9.気になる名無しさん2019年08月13日 02:48  ▽このコメントに返信

      >>7
      あーそれだ!題名思い出せなかったんだよありがとう

      10.気になる名無しさん2019年08月13日 02:48  ▽このコメントに返信

      >>7
      ありがとうやで

      11.気になる名無しさん2019年08月13日 03:31  ▽このコメントに返信

      ヒッチハイクは元ネタがあってパクリかよ、と言いたいところだけど結構読ませるんだよな

      12.気になる名無しさん2019年08月13日 04:04  ▽このコメントに返信

      >>5
      お前
      つまらない
      寝ろ

      13.気になる名無しさん2019年08月13日 09:17  ▽このコメントに返信

      最近わいのケツ穴が緩くなってどこでも漏らすようになった事のが怖いわ

      14.気になる名無しさん2019年08月13日 10:49  ▽このコメントに返信

      >>3
      レストストップだっけか
      キャンピングカーに双子の男やトイレに女の子の霊とかまんまやね

      15.気になる名無しさん2019年08月13日 10:54  ▽このコメントに返信

      確か人が亡くなってから24時間以内は蘇生の可能性があるから火葬できないとかいう決まりがあるんじゃなかったっけ
      時間的に蘇生した可能性があるのに応答しないでタヒねとか言ってくる医療従事者が一番怖いだろw

      16.気になる名無しさん2019年08月13日 11:05  ▽このコメントに返信

      >>15
      そういうのも含めての怖いって話だろ

      17.気になる名無しさん2019年08月13日 11:45  ▽このコメントに返信

      >>12
      お前
      おもしろい
      おはよう😘

      18.気になる名無しさん2019年08月13日 12:26  ▽このコメントに返信

      ※13
      便失禁は病院行きなさい

      19.気になる名無しさん2019年08月14日 07:06  ▽このコメントに返信

      ヒッチコックに見えた

      20.気になる名無しさん2019年08月15日 07:00  ▽このコメントに返信

      これ洒落怖のなかで一番好き

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