食の記まぐれエッセイ
つぶや謹ちゃく 第44回
「食がもたらす幸せ」

エッセイ枠では2ヶ月ぶりに筆をとります。
激動と混迷の中では指先に力が入らず、
万年筆を握れませんでした。

すみません、万年筆は言い過ぎました。
スマートフォンをタップしています。

随分前の話になりますが、
一時代を牽引した大きな劇団の衣装家さんと
お話しさせていただいた際に

「アタシ、食に執着のない若い俳優は信用しないことにしているの。」

という発言に

「そうですよね、すべての源ですもんね。」

などと、咄嗟とはいえ何ひとつ機転の利かない、返答とも相槌ともいえない、当たり障りのない音を発してしまった苦々しい経験があります。

その時は不十分だったスベテノミナモト論ですが、今は心から大切に思います。

ハレの日でもケの日でも
食は幸せをもたらします。

嬉しいときは喜びを増長し、
苦しいときは踏ん張る活力を与えてくれる。

一口で幸せをもたらす類稀なるチカラが食にはあります。

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緊急事態が宣言され、僕が勤務するBar de 木や"でもテイクアウトサービスが開始されました。

自信をもってお勧めしているシェフの料理を
自身でテイクアウトし、自宅で食しました。

お客様と同じ状態で同じ気持ちを味わいたかったからです。

スペイン産テルエル豚のローストポーク

口いっぱいに広がる旨味と長い余韻

まさに、一口でもたらしてくれる幸せそのものでした。

この一口の幸せには

スペインにテルエル豚の生産者さんがいて
輸入して卸してくれる業者さんがいて
運んでくれる業者さんがいて
魂をこめる料理人さんがいて

それぞれのベストパフォーマンスが数珠繋ぎに連鎖して、その上で成り立つ食の幸せです。

先程の衣装家さんの言葉をお借りするならば
若い俳優さんではなく老いた為政者さんにこそ、
食がもたらす幸せについて今一度お感じいただきたいものです。