海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)
海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)
クチコミを見る

私が国文の道を志すきっかけになった本。上田敏の訳詩集である。今からおよそ100年以上前の1905年に初版刊行された。言文一致体や散文詩などが日本で普及して間もないころだ。その時代に外国の詩を日本語に訳するのは難しかったことだろうと思う。それを上田敏は、外国語の詩が持つ音のリズムを日本の五七音に合わせるなど、日本人の感覚にあった訳をした。『海潮音』は「山のあなたの空遠く『幸(さいわい)』住むと人のいふ。」(山のあなた・カール=ブッセ)や「秋の日の/ヴィオロンの/ためいきの/身にしみて/ひたぶるに/うら悲し」(落葉・ヴォードレール)が有名である。上田敏は、日本文化にはまだ存在しなかった修辞法で詠まれた西欧の近代詩を、まるでもともと日本語で詠まれた詩のように生まれ変わらせた。そこで描かれている世界はまるっきり西欧のものであるが、上田敏の日本語によって、西洋と東洋の世界観の入り混じった幻想的な雰囲気を醸し出している。(A)