紀尾井文学会

上智大学紀尾井文学会の公式ブログです。日々の活動報告から書評なぞまで。

ミステリ

『テロリストのパラソル』 藤原伊織

こんにちわ(・◇・)ゞ
梅雨明けかと思ったらもうほとんど夏ですね

部室の扇風機も連日フル稼働しているようで、7月が思いやられる今日この頃
みなさんいかがお過ごしでしょうか

さて、この本はバイト先の知り合いがオススメしてくれた作品なんですが、
本格ハードボイルドもの、ていうんですかね。
久々に大当たりでした

渋いというか、しつこいくらい凝って男前な描写が自分は好きなんですが、
描写に凝らなくてもカッコよさは魅せられるんだ、という風に教えられた気がします。

キャラクターの生き方、セリフのセンス、それを書き写す筆遣い。
この三つが素晴らしい均衡を保ってるので、読んでいて気持ちがいい。
そして何より、カッコいい。

主人公の島村は、アル中のバーテン。四十男で、身寄り無し。
流れ者で、知人もおらず、作れるつまみはホットドッグのみ。

彼はある日、一日の始まりのアルコールを補給しようと、新宿の公園でウィスキーを口にしていた。
おりしも彼が眠りに落ちようとする時、地面が震えるような響きと共に、叫び声が遠くで上がった。

何が起こったのか確かめようと体を起こした彼の目に、湧き上がる黒い煙が見えた。
そして飛び散った血が、もがれた手足が、肉片があたりに飛び散っていた。

死傷者50人を超す爆弾テロをめぐる彼の物語はここから始まる――。


過去との決着を描くような作品であるにもかかわらず、
この作品に「回顧」はあっても「懐古」はない。

主人公は昔を懐かしむのではなく、現在を生きている。
たとえそれがアル中で飲むや食わずのバーテンダーであろうとも。

過去の贖罪というのは一見潔いようにみえてその実、自らを殺すことでもある。
作者が島村に仮託していたのは、そうではなく
自分の犯したことを抱きしめてなお今日を生きるような、そんな人々の物語だったような気がします。

アル中で指が震えているくせに、なぜお前はこんなにもかっこいいのか?
読んでいるうちに何度もそう呟いてました

テロリストのパラソル (角川文庫)テロリストのパラソル (角川文庫)
著者:藤原 伊織
販売元:角川書店
発売日:2007-05
おすすめ度:4.0
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『チャイルド44』 トム・ロブ・スミス

( ´∀`)こんにちわ

原稿の締め切りまであと一ヶ月を切ったということで、
紀尾井の原稿もそろそろ本腰いれなきゃですね。

『チャイルド44』はこのミス2009の海外版第1位に選ばれたほか、
映画化の話もあり、凄く評価されてる作品みたいです。

本の内容がまじめなので、
わりとまじめなレビューを

スターリン体制下のソビエトロシアでの出来事。
モスクワの国家保安省に所属するレオ・デミドフ捜査官は、
国家の安全を守り、反共産党的な人物を狩る仕事をしている。
ある日、彼の部下フョードルの息子が、奇妙な"しるし"を残して殺されたという報告があった。

しかし、レオはその報告を聞いてこう思う。
「社会主義の理想を実現したこの国では、殺人という犯罪など存在しない。
 それは集団ヒステリーにすぎず、共産党の基盤を揺るがす危険な考えだ。
 この社会に犯罪は存在しないという基盤を、だ」

かくして事件は不幸な事故として葬りさられる。
だが、それは恐ろしい出来事の氷山の一角に過ぎなかった・・・・・・

この本が最も効果的に使っているのは
スターリン体制下の、ソ連という社会でした。

そこでは、犯罪はあってはならないものとして闇から闇へ葬り去られます。
不穏な動きをした人間も密告され、摘発され、銃殺刑を受けます。
殺人事件を追った人間すら、「社会主義を疑う者」として殺されます。
国家のために全てを捧げなければ、生きていけません。

このソ連社会の描写には、もはや脱帽するしかなかったです(((( ;゚д゚)))
そして、そんな暗い世界の中でも、主人公が活躍する様子が
生き生きと描かれているのに驚きました。

国家保安省という、まさに国家の手先、人民を摘発する側だったレオ。
しかしそんなレオ自身が国家から追われるようになったとき、
そこに凄まじい心情の変化が現れます。

自分が生きるのを諦めてでも、殺人犯を追う必要があるのか?
自分が生きるために、周りの人間を売るべきなのか?

そういった選択に迫られる主人公の姿に、
自分はソ連社会の恐ろしさを垣間見た気がしました。

作品中で使われているトリックは、ミステリの中では軽いほうです。

本格ミステリ大好きな(T代表みたいな)人には
ちょっと物足りないかな?という感じですが、
エンタメ系が好きな人は気に入るんじゃないかと。

文章力に優れた傑作だと思います

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
著者:トム・ロブ スミス
販売元:新潮社
発売日:2008-08-28
おすすめ度:4.0
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