忍ぶ川 (新潮文庫)
忍ぶ川 (新潮文庫)
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結末がどうあれ忘れられないひとというのがあるだろう。僕たちを懐疑と不安の沼から救い出し、再び生きることへの自信を与えてくれたことば。やさしいまなざし。おだやかな声。同じように環境や血縁といった意識の呪縛にとらわれていたふたりが、お互いを見つめあう中からはじめて自分自身として生きるためことを見つけ出すという、その姿はあまりに純粋で美しい。紆余曲折を経て、やっといっしょになることのできたふたりが、雪国の寒い夜、身体をあわせたまま一枚の丹前にくるまり、そっと外の景色を臨む様子の清冽さ。汽車の窓から、生まれてはじめての「わが家」を指差し、声をあげて「うち!あたしの、うち!」「ね、見えるでしょう。あたしのうちが!」と私の膝をゆすりつづける志乃の姿でしめくくられる結末には何度読んでも目頭を熱くさせられる。いつかもし、忘れられないひとに再び会うことができたなら、そのときあなたは/僕は何をいうだろうか?(O)