多分この名前を聞いた人のほとんどが「誰それ聞いた事ない」
という感想を抱くと思いますのでまず作者の方を紹介します。
ややマイナーな古豪ミステリ作家です。作家歴はもう30年近いとか。
この人の作品を知ったのは「裂けて海峡」という同じ新潮社から出版の文庫ですが、
ミステリにしてはかなり風景の描写が濃く、
会話が軽妙で気に入ったのでそれ以来この人のものを買いあさっています。
で、色々読んだ中で一番面白いな、と思ったのがこの作品でした。

あらすじとしては、一等航海士の柏木斉が、親友だった成瀬の墓を訪れるところから始まります。
柏木は彼とは学生時代からの付き合いで、家族同様の扱いを受け、彼の妹とはいずれ結婚するものとかつては家族からも思われていました。
しかし柏木は彼女と結婚せず、深い事情からこの数年間海外へ渡っていたのでした。
今回彼が日本へ帰ってきたのは、成瀬が停泊中の船の中で、
何者かに殺害されていたというのを聞いたため。
そして成瀬の乗っていた船がある重要な任務を負っており、
何か大きな陰謀が後ろにあったのに気付き……。

ということで、スパイ物と探偵物の入り混じったミステリ作品です。
ストーリーが古臭いとかそもそも主人公が三十過ぎたおっさんってどうなの、
というのも思いましたが、それを差し引いても面白い。
展開が二転、三転して全く飽きさせない。
会話のテンポが軽妙で、読んでいて自然と笑みが浮かぶ。
それに加えて一番のウリが、情景描写の繊細さとモノローグとがあいまって引き込むような文体。
志水辰夫の作品に共通しているものだけど、とにかく唸ってしまう。
暇な時に一気読みすると爽快な作品です。
ページをめくる手が止まらなくなることうけあい。


背いて故郷 (新潮文庫)背いて故郷 (新潮文庫)
著者:志水 辰夫
販売元:新潮社
発売日:2005-01
おすすめ度:5.0
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