紀尾井文学会

上智大学紀尾井文学会の公式ブログです。日々の活動報告から書評なぞまで。

村上春樹

第四回現代世界文学読書会 A Part

 皆々様、ご無沙汰致しております。未だ理系ではあるものの、最早会計ではない二年のAでございます。
 先日の講演会では多くの方々にご来場いただき、誠にありがとうございました。

 さて本日はそれとは別件、去る12月18日に行われた第四回世界文学読書会につきまして、この度どういう訳か私が前半部のレポートを書く運びとなってしまいました。
 卒業を間近に控えても精力的に会を開催している主催者とは対照的に、初回のレポートを皮切りに様々な方面で奔走している同期の会長を尻目に、新体制以降早くもビバノンノンの楽隠居気分でおりますこの私。これまでのレポートやこの後に続く(はずがうっかり先を越されてしまった)B Partの担当と比しましても適当さ加減を隠せませんが、どうぞご笑覧いただけましたら幸いに存じます。


 ……と、前置きで字数を稼いだ所で以下作品リスト。

vol.4 『愛・孤独』A Part

01. アリス・マンロー(カナダ: 1931〜)
『次元』
02.張愛玲(チャン・アイリン)(中国: 1920〜1995)
『色、戒』
03. ターハル・ベン=ジェルーン(モロッコ−フランス: 1944〜)
『狂おしい愛』
04. ニール・ジョーダン(アイルランド: 1950〜)
『チュニジアの夜』
05. ルイサ・バレンスエラ(アルゼンチン−アメリカ: 1938〜)
『夜、わたしはあなたの馬になる』
06. レイナルド・アレナス(キューバ−アメリカ: 1943〜1990)
『エバ、怒って』
07. 村上春樹(日本: 1949〜)
『蛍』

 ところでこれ、一々扱った作家全部タグつけなきゃダメなん?

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『回転木馬のデッドヒート』村上春樹

回転木馬のデッド・ヒート
回転木馬のデッド・ヒート
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村上春樹が、他人から聴いた話をそのまま文章にしたものだという設定のもとで描かれている短編集。実際にはありえそうもないが、ひょっとしたらこんな不思議なことも起こるかもしれないと思ってしまう。彼の多くの短編集と違い、この本の中の短編は全てコンセプトが一貫しているので、初めて彼の短編集を読む人に特におすすめだ。村上春樹はとるに足らないような人々の日常を、手品のように物語にする。海外旅行で夫へのお土産を物色していた女性が、ふいに心の底に沈んでいた夫への憎しみを自覚する「レーダーホーゼン」という話がある。彼女がその感情を自覚するのは一見、唐突で理不尽なもののように思える。実際、人の心理というものはほんの些細なことに左右されるものだが、他の作家ならば多くの文章で表現するところを、彼はほんの数行で彼女の気持ちの変化を表したのだ。この本から彼の手腕が分かるだろう。面白さだけではなく「上手さ」がある。(A)

『TVピープル』 村上春樹

TVピープル (文春文庫)
TVピープル (文春文庫)
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村上春樹はファンタジーで難解な長編小説だけを書くと思われがちだが、実は「日常」を描くことにも巧みな作家だ。特にそれは本書のような短編小説に発揮されている。表題作「TVピープル」はテレビの向こう側の世界からやってくる、人間を一回り小さくしたようなTVピープルが「僕」の前に出現し、彼の現実を歪めていくという物語だ。ストーリーだけを述べるとまるで絵本のような世界だが、実はテレビという新しくて便利な機械をひたすら礼賛し、高度化する科学に支配されつつある世界に身を任せて己を省みようとしない人間への皮肉が感じられる。また、他にも表面上は文句もなく満足した生活を送っているが、単調で変化のない日々にあせりを覚える主婦が不眠症に陥る様子を描いた「眠り」。彼の手にかかると人々のありふれた日常生活が物語になる。村上春樹の文学が多くの現代人の共感を得るのは、自分たちの生活によく似た生活を描いている点にもあるのだろう。(A)

『冒険児ウォルドシリーズ』 デレク・ハートフィールド

シリーズもののレビューを書くのはどうなんだろうと思いつつも、
ついやってしまった。だって、書きたかったんだもの。

この本に僕が出会ったのは、高校生の頃だった。
かなり短い夏に僕はこの本と出会い一目で(本当に一目で)虜になった。
たとえば、村上春樹はハートフィールドを、
同時代のフィッツジェラルドなんかを引き合いにだして評価しているが、
その評価は妥当なものだと言いにくい。
確かに、そう言う面で評価できる稀有な作家であるが、
彼はエンターティナーだったからだ。
彼をもう一度エンターテイメントというフィールドで再評価するべきだと僕は思う。

彼は奇行やインタビューでの発言、さらに言えば死に方で有名だけれど、
作品の方もおとらず人の心をひきつけると思う。
詳しくは「風の歌を聴け」村上春樹をお読みください。



冒険児ウォルドシリーズ (講談社文庫)
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『ノルウェイの森』 村上春樹

この作品の村上にはロマンティストの面影が残る。
蛍を開放するシーンなどどうであろうか。悶絶ものである。
この書は布団に寝転がりながらにやにやじたばたしながら読むのが正しい。
伝播する死と生。キズキは死の極にあり、緑は生の極にある。
キズキの死は瞬く間に直子を飲み込む。直子はキズキが死ぬと同時に生を喪失した。
直子やレイコと触れる“僕”は徐々に死へと近づく。
そこで現れるのが緑だ。性にあけすけで竹を割ったような性質の緑は生の象徴である。
ミドリの生はトオルに、トオルの生はレイコへと伝播していく。
死と生の境界が不明瞭であることは、
主体の存在と客体の存在が曖昧であることと同意である。
私という存在は、実に他者にやすやすと侵食される存在なのであろう。


ノルウェイの森 上 (講談社文庫)ノルウェイの森 上 (講談社文庫)
著者:村上 春樹
販売元:講談社
発売日:2004-09-15
おすすめ度:4.0
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