桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)
桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)
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しばしば、どうにもならない状況は「追い詰められる」と表現される。そうだ、僕らは追い立てられているのだ。生きることに伴った焦燥に。ではなぜ僕たちは焦るのか。梅崎はそれを不安によるものだと看破する。極限状況下の人間の間では善悪も大義も尊厳もどこかへ消え失せてしまう。あるのは、ただ漠然とした不安である。何のために生きているのか、いつ死ぬのかわからないという意識は戦時下に固有なものでなく、僕たちの生においても、薄皮を剥けば、すぐそこに存在をするものだ。そして我々は不安に追い立てられると同時に『日の果て』で描かれるよう何かを追う存在でもある。追っているのは、生きることと死ぬことの答えであり理由だ。僕らは追われながら追いかけ続ける。その果てに待ち受けるものは梅崎にとって死でしかありえなかった。あまりに救いがないと思う者は自然や自分より弱い者へ注がれる梅崎のまなざしに注意してみるといいだろう。(O)