忘却の河 (新潮文庫)
忘却の河 (新潮文庫)
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僕たちは生きているだけで幾つもの罪を刻んできた。そして罪を犯さずに生きることもまたできないだろう。嘘をつく。ひとを裏切る。愛を偽る。しかし、罪を犯したその相手が生きているのなら、まだいいのだ。それは償いへの可能性がひらかれているからである。しかし、もしその相手が既にこの世界に存在しないとしたら僕らはどうすればいいのだろうか。果たしてそこに許しはありうるのだろうか。福永は小説家としては端整ながらいかにも地味であったが、生きることには誰より誠実な文学者であったろう。水の記憶は流れる川へ、流れる川は海のイメージに、そして海は僕たちに母の印象を抱かせる。老境へ差掛かった主人公は若き日の罪を胸に海の臨まれる賽の河原を訪れ、そこで許しと母の幻影、そして再生のイメージをみる。生きることへの一筋の希望と罪を深く受けとめた先での許しの可能性を示す、再生へ向けられた名著。生き辛いと感じる人にこそ読んで欲しい。(O)