現代鍼灸

現代医学的に鍼灸というものを考えます。 中医学的なものと合わせてることで、 一層理解が深まると思います。

2013年12月

現代医学的に鍼灸というものを考えます。
中医学的なものと合わせて、一層理解が深まると思います。
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冷え性(末梢循環器症状)

1.「冷え」と「冷え症」
ヒトなどの恒温動物の深部温度は、内部環境保持の一環として
37℃前後に保たれています。一方四肢の体温は末梢に近いほど
外気温に平行して下降する変動性を示します。
これは四肢温の恒常性を犠牲にしても深部温を保つということです。

深部温が下がる身近な例として寝冷えがあります。
寒冷時では、健常者でも四肢温は冷えているのが普通ですが、
自分が「冷え性」だとは思いません。
「冷え」に「冷えを苦痛に感じる」という要素が加わったものが
「冷え性」になります。

 ※寒いと感じるとき
    体温よりも過度に外気温が低ければ生体は「寒い」と感じます。
   これは生命を維持するための「生理的な(当たり前の)働き」です。
   この「寒いと感じる状態」が続くと深部体温は下がり命に危険が及びます。
     低体温症とは、一般的には、自律的な体温調節の限界を超えて
     寒冷環境に曝され続けたり、何らかの原因(濡れた衣服や冬場の泥酔)で
     体温保持能力が低下することで、 恒常体温の下限を下回るレベルまで
     体温が下り、 身体機能にさまざまな支障を生じるもののことです。
     いってみれば非日常的な状態ですが、これが昨今、日常的に(慢性的に)
     増えているといわれていて、その原因として ストレスや不規則な生活、
     食生活の乱れ、運動不足などで、 自律神経がうまく働かないことなどが
     考えられています。慢性低体温症(厳密には「低体温」であって、
     低体温症と 区別される)の人は、
   生命活動に必要な熱が産生されていないため、日常生活において
   様々支障をきたします。慢性化しているために、
   いろいろと不調は訴えるが、「寒い」とは感じない人も少なくありません。

   慢性的に低体温の人は、基礎代謝が低下しているために体温が低く、
     セットポイントが低く設定されているため、核心温保持のために末梢血管を
     収縮させるということも起こりません。
   よって、さほど他覚的に「手足が冷たい」  ということがなかったりします。
     一方、このような人は自律神経が乱れているため、
     快適に過ごせる温度の範疇が狭く、
     暑さにも寒さにも弱いというケースが多いです。
      
   ※「冷え性」は体質的傾向、「冷え症」は疾病。


2.寒冷時の静脈循環
1)四肢動静脈の構造
   外気温が非常に低い場合、手足の皮膚表面温度もかなり低下し、
  実際に手や足は冷たく感じます。しかし簡単には凍傷や霜焼けになる
  ことはありません。それは「四肢の深部温」はあまり下がっていないからで、
  皮膚や皮下組織による断熱効果と、37℃ほどある動脈血が 体幹から
  四肢深部に流入するためです。

  動脈と深部静脈との間で熱交換が行われているため、
   低温となった還流静脈は そのままの温度で体幹に流入することはなく、
  体幹に温かい血液が環流されます。

 ※冷え性は、「局所循環障害型」と
      「冷えに対する知覚過敏型」に分類されます。
      前者は冷えを訴える部位を他者が触って
      実際に温度低下を感じるものであり、
     後者は温度低下はそれほど目立たちません。

2)知覚過敏による冷え
   寒冷時の健常者の四肢は、浅部温低下の場合であっても、
 魔法瓶のような仕組みで深部温は守られています。
   このような場合、触ってみて手足が冷たくても、
   本人は それを大して苦痛と感じていません。
  同じ状況で苦痛に感じるのは知覚過敏によるものです。

    ※知覚過敏には先天的なものと後天的なものがあり、
   後天的に知覚過敏となる理由の一つには「痛み」と同じように、
       ストレスが関係しているということは考えられます。
   ストレスによって痛覚閾値が下がるように、
   ストレスによって冷覚閾値が下がることはあり得ることです。

3)基礎代謝低下による冷え(慢性の冷え)
  革心温度を一定に保つ働きの中枢は視床下部です。
  核心温度を一定に保つために
  身体は寒冷時は温暖時と比べて、多くの熱を体内で産生します。
  このとき、過不足のない熱量を産生する必要があり、放出熱量の度合いは、
   外気温に反比例します。つまり外気温が低いほど、
   産生する熱量は増加します。
  基礎代謝を増加できない場合、身体は核心温度低下を防止するために、
    四肢動脈血流を減らそうとします。
  このために四肢は浅部・深部ともに温度が低下します。
  これは慢性の冷えによくみられます。
      
      ※基礎代謝量が低い人は、
         体内において体温調節のセットポイントが下げられ、
         結果として核心温度も下がっています。
         このような人は、セットポイントが下がっているために、気温の高い夏に、
         ちょっとした暑さでも汗を流すことになります。
        「暑がりの寒がり」はこのようにして生まれます。
     東洋医学の体質分類において、
         「気虚タイプ」と称される人に多くみられるものです。

     逆に考えると、基礎代謝量が高い人は、
        セットポイントが高いところにあり、
        核心温度も上がり、ちょっとした寒さでも「とても寒いと感じる」。
        結果として暑がりの寒がりならぬ、「寒がりの暑がり」が生まれる、
        というようなことが起こりそうですが、そうはなりません。
        平常時の体温が、健常者の一般平均体温といわれる「36.5℃」を
        下回る(35℃台、中には34℃台も)人はいても、
        健常時に常に体温が37℃台の人いません。 
 

3.冷えの憎悪因子
1)基礎代謝に関与するホルモン
    体温上昇作用にある代表的なホルモンに、
    甲状腺ホルモンと黄体ホルモンがあります。
    
    ①甲状腺ホルモン:老人性の冷え症、甲状腺機能低下症の者の冷え症
    ②黄体ホルモン  :黄体ホルモン分泌増大が、
                                    成熟女性の基礎体温の高温期を作ります。
                 黄体ホルモン分泌開始期である思春期と、
                                    分泌終了期である更年期は
                   ホルモン分泌が不安定となり、冷え性となりやすいです。

2)アレルギー
    末梢血管調節は自律神経によって、
    視床下部からの司令に基づいて自動調整されます。
   アレルギー反応で、ヒスタミンなどの血管拡張物質が放出されると、
    神経支配を無視して 状況に関係なく血管を開く方向に作用します。
    微笑血管の血流量が増大し、血管透過性が
    亢進することで血液中の水分間質に漏出することで、
    体熱を必要以上に放散することになります。
   喘息・アトピー性皮膚炎・鼻アレルギーに代表される
  Ⅰ型アレルギー疾患で、 ヒスタミン などの血管拡張物質が放出されますが、
  これも「冷え」に関係します。

 
4.冷えが根底にある症状
  「冷え」は「冷え性」と異なり、本人はあまり苦痛を感じませんが、
  東洋医学的には重要な所見です。
    冷えを改善することでよくなる病気がたくさんあります。

1)睡眠障害
  入眠に入ると、代謝率低下、発汗量増大によって体温が下降します。
  体温が高いほど睡眠総量は多くなります。
  運動習慣のある人に不眠症が少なかったり、
  入浴をするとよく眠れることは経験上知られています。

2)胃腸障害
    腹は四肢と異なり本来核心温度を維持しなければならない部位です。
    腹が冷えると、胃腸機能の低下を起こし、胃腸の中にある消化物を有害物質
   として認識して、すみやかに体外に外出しようとします。このため、
  胃腸平滑筋収縮 → 蠕動運動亢進 → 下痢腹痛 となり、
    「寝冷え」のときなどにみられます。

3)足のむくみ
   冷え症のむくみは、主として下肢に出現します。
   これは静脈の還流障害にるものです。
 静脈の還流は主に、①筋ポンプ、②呼吸ポンプ、
   ③心臓の吸引効果、  によって行われますが、
 下肢においては影響が強いのは筋ポンプ作用です。
   筋ポンプ作用とは、骨格筋が収縮する際に、筋肉中の静脈が圧迫され、
   血液が押し出される働きをいいます。この時、静脈弁が逆流を防ぎ、
   必ず心臓方向に流れるようになっています。ところが静脈に血行不良が
   起こると、静脈中に血液が溜まるようになり静脈圧が高まります。
  すると毛細血管の圧も高まり、間質腔に血管内に血球成分を残した体液が
   染み出し、これが溜まると浮腫となります。アレルギーがあると、
   ヒスタミン等の炎症伝達物質が毛細血管透過性をさらに亢進させます。

4)めまい・立ちくらみ
  起立性低血圧では、急に立ち上がる際に、めまい・立ちくらみが起こります。
    これは起立時の四肢末梢の血管収縮反射が不十分なために、一過性に
    脳虚血となるためです。
    先述の通り、健常者であれば寒いと核心温度を保持しようと
    末梢の血管は収縮します。
    末梢血管が収縮することで核心温度が保たれます。
    言い方を変えれば,「核心温度保持=冷えがない」ということです。
    つまり冷えがある(核心温度が保持できない)ということは、
    寒冷時においても末梢血管がうまく収縮しないということ。
    末梢血管がうまく収縮しないと血管抵抗性が減少し、
    めまいや立ちくらみが起こりやすくなります。

  ※ 「冷えからみる3つのタイプ」
  ①核心温度も末梢温度も充分
      双方共に充分なため、核心温度を保持するために
    末梢血管を収縮させる必要がありません。
    本人も冷えを感じていないし、他者が手足を触っても冷たくありません。

    ②核心温度を確保するために末梢血管が収縮
       核心温度は保たれていますが、そのために末梢血管が収縮されて
   いますので、他覚的に手足は冷たくなっています。

  ③核心温度保持のために末梢血管は収縮しなくてはならないが
   それがうまく機能していない。

   このようなタイプは、核心温度も低く、核心温度が低いために当然
   末梢温度も低い(つまり手足が冷たい)のですが、
   手足が冷たい理由は末梢血管が収縮したためではなく、深部温度が
   低いことに伴って低い。


5.冷え性への日常的対処と注意点
1)入浴
  ①全身浴
        39℃程度のぬるめの湯に長時間浸かる。熱い湯だと、
        深部温度があまり上がらないうちにガマンできなくなるから。

    ②半身浴
       体温よりやや高めの温度(38~40℃)の湯に、下半身のみ浸かります。
   足から内臓に還流する静脈血を37℃前後で長い時間循環させることで、
       体芯を温めます(血液は50秒で体内を一巡します)。

  ※足湯は逆効果という説
        足部の温度センサーの感度をにぶらせ、基礎体温を低く設定してしまう
        というのがその理由だそうです。

  ※入浴は一時的には体温を上げるためのものですが、継続することで
       自律神経の失調が改善されます。  

2)体操
    筋量の多い下半身のウェイトトレーニングなどがお薦めです。

    ※筋量が増えることで高くなった核心温度は、
   その増えた筋量が維持されている間は、半永久的に保たれます。


5.冷え性の現代医学的治療
1)男性ホルモン投与
    女性ホルモン(エストロゲン)注射は、主にのぼせ、ほてり、発汗亢進に、
    男性ホルモン(テストステロン)注射は、疲労感、無気力、冷え性、不眠に
    効果があるそうです。プロビオネートは隔日に3回程度注射するとのこと。
 
   
    ※女性の場合、男性ホルモンを注射することに抵抗感を持つ人も多いよう
   ですが、老化の原因は、男女共に男性ホルモン減少が大きな理由の一つ
   というのが 男性ホルモン投与の理由のようです。
       不足したホルモンを補完するのではなく、ホルモンの持っている
       自律神経調整作用によって治ることを期待してというのがその理由。

2)星状神経節ブロック
    交感神経緊張緩和のための一方法。

6.冷え性の鍼灸治療
1)下腹部と腰仙部の加熱
  ①鍼灸治療の考え方
     下腹部にカイロを入れておけば、入れない場合と比べて、
    下肢温度は低下しません。
    高熱のあるときに脇の下と両大腿部部に氷枕を挟むと解熱するため、
     このような方法を行っている病院もあるそうです。
   逆に同部にカイロを入れれば体を有効に温められるかもしれません。

  ②鍼灸治療の実際
      下腹部:斉への味噌灸また塩灸
   腰仙部:大腸兪、次髎への灸頭針もしくは置鍼+赤外線
  
   普通の施灸では力不足で、灸頭鍼・温灸・赤外線などを用いて
      積極的な加熱を行います。
   気持ちがよいという程度ではなく、我慢できる限界近くまで温度を上げます。

2)筋ポンプ作用の回復
    ①下腿筋群の筋緊張緩和
    若い女性の冷え症は、一般的に下腿屈筋群のヒラメ筋、後脛骨筋、
    長趾屈筋、長拇趾屈筋の硬結化と過緊張が
      主要な原因と言われています。
      これらの筋群の緊張を緩めることで、
      冷えが改善させると考えられます。

  ②下腿後側~大腿内側~ソケイ部の筋緊張緩和
   中高年の冷え症では、下腿の循環障害に加えて、
   膝内側上果部ソケイ部で循環障害が阻害されている場合があります。
       大腿内側筋、鵞足部筋の筋硬結は大腿動静脈を圧迫し、
   下腿の循環障害を生じ、冷えの一因となります。
       ソケイ部の循環阻害因子が、
       冷え症に慢性腰痛を併発している症例で顕著に認められるのは、
    腸腰筋が緊張肥厚し、ソケイ部を圧迫するためと考えられます。

3)冷えのある部へ直接刺激
   冷えのある部は血行が悪くなっています。
   これは動脈血管壁が狭小になっていることや、
   静脈還流がうまくいかないために、
  動脈血は四肢末端まで充分流れることができません。
  鍼灸をすると、その直後は血管は収縮しますが、
   その後血管は拡張することが確かめられていますので、
  それを利用しての方法です。
 局所刺激(足の冷え)のツボとして、照海、失眠、湧泉、燃谷、公孫など

4)足以外の冷えの治療
   足・下腿・腰は冷えが多く見られる場所です。
   大腿外側や肩甲間部が冷えるという訴えもあります。
   大腿外側は腸脛靭帯部で筋肉部位に比べてもともと皮膚温は低く、
  また肩甲間部は、汗が出やすい部位で比較的誰でも冷えを感じます。
   カイロなどで患部を直接温めるという方法で対処するのが、
   最も現実的な方法でしょう。


8.静脈瘤
1)病態・症状
    静脈が異常な拡大を生じ、弁の不全により、血液の逆流や鬱血などの
    還流障害起こしたものです。下肢に多発。40才以上に多い。

2)治療
     理論上は、自律神経の中枢に刺激を伝達する洞刺は、
     静脈の血行にも有効であると考えられますが、
   器質的なものに働きかけることはできません。

胸部循環器症状の鍼灸治療

1.慢性食道炎(逆流性食道炎が慢性化したもの)
1)逆流性食道炎
    胃酸や十二指腸液が、食道に逆流することで、食
    道の粘膜を刺激し粘膜に炎症を引きおこしたもの。

  ・ストレス・過食・喫煙・飲酒

  ・食道下部括約筋の弛緩:喫煙や加齢による機能低下

  ・妊娠・肥満・便秘等による腹圧の上昇

    ・消化不良など、の要因が考えられます。

  また胃切除手術や食道の手術の後に噴門部の閉鎖不全を
  生じ、噴門の閉まりが悪くなることでも起こります。
    胃液や腸液などの消化液が逆流し
    食道炎(胸やけ、胸骨後部痛)を起こします。
 

2)症状
  主な症状は胸やけです。

    ※アカラシア
  食道の機能障害の一種。食道噴門部の開閉障害もしくは
  食道蠕動運動の障害(あるいはその両方)により、
  飲食物の食道通過が困難となる疾患.
  食道のアルエルバッハ神経叢の神経細胞の変性により
   副交感神経の作用が弱まった状態。
  なぜそうなるかは不明とされています。

3)鍼灸治療
  局所、阿是穴治療。反応の出ているところに鍼灸をします。
  その他、肝兪、脾兪、巨厥etc.

   ※胸部における疾患ということで慢性食道炎を
 「胸部循環器症状」として扱っています。

2.呼吸器疾患の鍼灸
   呼吸器疾患の章を参照してください。

3.心疾患の鍼灸治療
   一般に器質的心疾患に対しては鍼灸で根治は期待できません。
   機能的なもの、もしくは症状に対して一定の効果があります。

1)治療方針 
  心臓機能の強化を目的に治療します。
  動悸・不整脈に対する治療としては、発作の予防を目的とします。
  頸肩部のコリがひどいと狭心症の発作が出やすいことがわかっています。
    頸肩部のコリ、または精神的ストレスに対しての治療を行います。

  一般に鍼灸が得意とする動悸は、医療機関で種々の検査で異常が
    発見されず、大したことはないと言われたが、本人はツライというものです。
  つまり神経症的なもの、心臓神経症あるいは自律神経失調症によるもの
    ということになります。
  「息切れ」や「動悸+息切れ」は神経症的な要素は少なく、
  器質的疾患が多いため鍼灸不適応となるものが多いです。

2)心臓機能の強化改善を目的とした治療(交感神経反応帯にたいする治療)
 ①左T1~T7(とくにT1~T3)の支配領域、
    体幹前面と後面(左前胸部と左上背部の反応点)。
   
    左前胸部  : 左神蔵、膻中、巨厥
       左上背部    : 霊台、身柱、心兪etc.

 ②局所阿是穴:左胸壁の心臓のあるところ(肋間でなくても可)。
           鍼4~5本。1cm斜刺。知熱灸7~8壮。  

  
 ③大椎 :  後頸部第6~7棘突起の外側。
          椎骨の際に深く刺します。
                     これは腕神経叢刺鍼で、
                     T1交感神経を経由しての心臓刺激となります。


3)頸肩~上背・上胸のコリに対する治療 
    横隔膜神経興奮を緩和させることでの心疾患へのアプローチ。
  次に肩甲間部のコリや上部胸椎神経の後枝痛や前肢痛に伴い、
    狭心痛的な症状(胸が締めつけられる、動悸がする)を起こす
  ことがあります。
  胸筋部のコリや、胸神経後枝・前肢の運動神経線維の緊張でも、
    狭心症と同じような症状が出ることがあり、
    このような疑似狭心症に対して鍼灸はとても有効です。

 ①後頸部第6~7棘突起の外側で椎骨の際。直刺4cm。
   ※これには局所のコリの改善と、
         T1交感神経を経由しての心臓刺激の目的があります。

 ②脊柱起立筋の凝ったところ(阿是穴)。やや深め1~3cm。置鍼。
     響きは不要。むしろ交感神経興奮につながってしまう可能性があります。

 ③大胸筋トリガーポイント(阿是穴)
      胸のトリガーポイント心疾患者の半数以上にみられることが
   報告されています。
   このトリガーポイントの治療は、反射性冠動脈痙攣を軽減する上で
   有効ですが、器質的疾患を治すものではありません。

4)動悸・不整脈にたいする治療
    経絡的に前腕前面は胸部臓器の病変と関係が深いことが知られています。
  またT1交感神経は、頸部交感神経節 → 鎖骨下動脈 → 上肢動脈血管壁
  と走行するので、上肢(この場合は前腕前面)の動脈血管壁への刺激が
   有効な 手段となります。

 ①郄門(心包経の郄穴)
     前腕前面中央、手関節中央の上方5寸。長掌筋と橈側手根屈筋の筋溝。
     ここは深部に正中神経が通ります。沢田流では郄門は前腕部を3等分し、
      上(肘側)(曲沢穴)から3分の1のところを取ります。
     
      ※郄門は冠動脈に作用し、
          心臓全体なら内関や労宮がよいとの報告もあります。

  
 ②内関(心包経の絡穴)
     前腕前面、手関節横紋の中央より2寸肘側。
   長掌筋と橈側手根屈筋の筋溝。
   ここは深部に正中神経が通ります。
   本穴には横隔膜を緩める作用があると考えられています。     
 naikan                  










4.心臓神経症の鍼治療
1)心悸亢進、心臓部の圧迫感、胸部の痛み、
  不安感など本人は極度に恐れていて
   いまにも生命の危険を感じるように訴えます。
   心電図等の検査では異常はみられません。

2)治療
 体幹前面からの治療
 ①巨厥、膻中
       巨厥、膻中に圧痛があれば刺鍼雀啄、胸中に響かせます。
     次に少海(心経の合水穴、上腕内側上果から橈側に5分)、郄門に置鍼。
      次に背部の左心兪(第5・6胸椎棘突起間の外側1.5寸)、
   左膏肓(第4・5胸椎棘突起間の外側3寸)、軽く雀啄をします。

   体幹後面からの治療
   ①督脈5穴(身柱、神道、霊台、至陽、筋縮)への灸。
     心臓神経症者はこの5穴に多く反応が出ることが多く、
   ここへ15~20壮灸を行うことで、同時に出ていた同じ高さの膀胱経や四肢の
     反応も消えることが確認されています。

 ②第5・6胸椎挟脊穴への鍼
      

5.肋間神経痛の鍼治療
1)肋間神経の走行
    肋間神経は12対の胸椎前枝からなり、
    それぞれ各肋間隙を肋骨下縁に沿って
    内外肋間筋の間を走り、筋枝と皮枝を出しながら胸郭を半周します。
    なお第6以下は肋骨弓を超え、腹壁に入り、内腹斜筋と腹横筋の間を
  中心線に向かって走行します。
  皮枝は前腋窩線と胸骨縁から格1本を出し側胸、
  前胸部の皮膚に分布します。
    (肋間神経痛のときに痛む神経は「肋間神経の前皮枝や外側皮枝」であり、
    背面は「胸神経後枝痛」であって、厳密にいえば肋間神経痛ではない)

2)原因
    突発性は少ない。症候性の原疾患は次のものが代表的です。
    糖尿病、脊髄および脊椎疾患、帯状疱疹、腹部内臓疾患(胸膜炎、
    自然気胸など)

3)症状
    肋間神経の後発部位は左第5~第9肋間です。
  肋間神経が深層から表層に出る部位に圧痛がみられます。
    真性肋間神経痛では、次ぎの3ヶ所に多く圧痛点がみられます。

   ・脊柱点 : 脊柱外側3cm  
   ・腋窩点 : 前腋窩線上(前胸部)
   ・胸骨点 : 胸骨外方3cmの下縁

    ※神経痛は、原因のわかる症候性(続発性)神経痛と
   原因のわからない特発性(原発性、真性)神経痛とに分類します。
   このように分類するのは、
       原因がわかれば根本的な治療が可能になるのに対し、
   原因がわからなければ、痛みという症状に対する治療が主になるなど、
       どちらに属するかによって治療の内容がちがってくるからです。


4)治療
    神経の興奮緩和を目的として、痛む部位へ刺鍼(肋間神経への直接刺鍼)。
  また局所周囲に刺鍼し、周囲筋の緊張を緩和させます。
    肋間神経痛、胸痛、背部痛、側胸痛などの原因の多くは、
  椎間孔から肋横突関節付近の脊髄神経の放散痛です。
    これは棘突起下、外側1~2cmの範囲内になり、ここに鍼を
    3cm程度(有効深度)刺入します。鍼先は椎間関節、回旋筋、多裂筋付近
   にあることになります。

6.帯状疱疹後肋間神経痛
1)原因
    帯状疱疹ウィルスが胸髄領域の後根および神経節を
  侵害することで起こります。
    ※水痘ウィルス感染者の症状(発疹、水泡)消失後、
   ウィルスが脊髄後根神経節内に潜伏。
   数十年後に再活性化された水痘ウィルスは神経節から
        末梢神経を下行して当該皮膚に水泡を形成します。

2)症状
  帯状疱疹の治癒後、神経痛のような痛みが現れ、
  強い痛みが数ヶ月続くこともあります。
  発症部位で多いのは肋間神経と三叉神経(第1枝支配領域)です。
  
3)治療
  帯状疱疹発症の後に1ヶ月以内に治療を開始したものは良好で、
    1年以上経過したものは治療効果が悪いです。
    帯状疱疹後神経痛へ移行するのを予防することが重要です。

  ①初期 : 小水疱が狭い範囲に出現している程度であれば、
        罹患部を囲むように横刺します。
        またデルマトーム内挟脊刺鍼が有効です。

 
 
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 ②移行後 : パルスを用いることもありますが、
      どちらにしても時間が掛かります。
   基本的に現代医学的治療と合わせてのものになります。
      





胸部循環器症状の鍼灸院における病態把握

1.胸痛について
  胸痛に胸壁に起因するものではなく、心臓や肺の疾患から
  起こる胸痛は基本的には鍼は適応外です。

1)体壁痛or胸壁痛
  体壁痛の特徴として、本人が痛む部位を狭い範囲で示すことが
  でき(指で示せる)、体動時に痛みがひどくなりますが、
  それに対して内臓からのものは痛む部位を掌で示し、
    特に体動時に痛むといったことはありません。
  ※心臓神経症の本人の訴えは内臓痛に似ています。

2)体壁痛の鑑別
   棘突起の叩打痛があった場合、
   胸椎の圧迫骨折や胸部変形性脊椎症を考えます。
   肋間神経に沿った痛みであれば、肋間神経痛、帯状疱疹後神経痛、
   胸壁の痛みなら、肋軟骨炎、肋骨骨折、筋筋膜痛を考えます。

3)内臓痛の鑑別
  消化器が原因なら胸焼けや悪心を伴うことが多く、
   この場合食道炎を考えます。
  肺・気官枝からのものなら、咳・呼吸困難を伴い、呼吸時に痛みます。
    心臓に原因がある場合、左胸に痛みが出ることが多く、
  また不整脈を伴います。


2.動悸・息切れについて
 
1)動悸では、ます心疾患を考えます。
    しかし進行すると心肺ともにやられ、左心不全となります。
  左心不全は心臓(左心)から出ていく血液よりも、
  入ってくる血液の量のほうが多く、  肺うっ血をきたします。
    肺うっ血の主訴は「息切れ」。
    夜間には、日中に全身に貯まった水分が血液中に入るために、
  心臓への負担が増え、夜間発作性呼吸困難(心臓喘息)をきたす
  ことがあります。
  頻度の多い虚血性心疾患胸痛で、このときの主訴は左胸痛です。

2)息切れ
  息切れは、肺疾患を考えます。
  しかし進行すると肺心ともにやられ肺性心となります。
  肺性心では、右心室へ流れ込む血液に抵抗が生じ右心不全となり、
  全身の静脈うっ血をきたします。

3)非心肺疾患
  いずれも、症状の一つとして動悸は起こりやすいですが、
   息切れはあまり出ません。

①貧血 → 動悸・息切れ
   ヘモグロビン数減少によって各組織の酸素不足を起こします。
  これを代償しようと心拍数が増加して動悸を生じます。

②甲状腺機能亢進症 → 動悸
    洞性頻脈(100回/分以上の脈のこと)に伴い動悸が起こります。
    他疾患に甲状線種、精神的イラつきetc.

③低血糖 → 動悸
  反射性に交感神経が緊張することによって起こります。
    他症状として、空腹時冷や汗、ふるえ、失神。
    食後数時間して発症します。

④呑気症 → 心窩部痛、動悸
  横隔膜が挙上し心肺を圧迫し起こります。
    他症状として、胃膨満感、ガス、げっぷ。

⑤心因性・自律神経失調症
  過換気症候群、心臓神経症、ヒステリー、更年期障害、自律神経失調症


3.胸部内臓の体壁反射

肺    :   交感神経-、    副交感神経+、横隔膜神経+
気管 : 交感神経-、    副交感神経+、横隔膜神経-
食道 : 交感神経-、    副交感神経+、横隔膜神経?
心臓 : 交感神経T1~T4、 副交感神経+、横隔膜神経+


1)各臓器の内臓体壁反射
①肺実質の内臓体壁反射
    肺の実質に知覚はほとんどなく、肺のある体表部位の反応もあまり
  みられません。
  肺疾患で胸痛を生ずるのは、炎症が胸膜や縦隔に及んだ場合です。
  肺結核や肺がんの初期に自覚症状がないのはこのためです。

②気管の内臓体壁反射
  気管と大気管支に知覚あありますが、中小気管支にはありません。

③心臓の内臓体壁反射
  冠血流量が不十分となり、心筋が酸素不足となり、
  心臓を支配する交感神経が  興奮して狭心痛が起こる。

2)内臓体壁反射と鍼灸治療
  一般に内臓治療に際しては、兪募配穴治療のように、
  体幹前面と体幹後面から 病変内蔵を挟むように鍼灸治療を行うことが多い。
  これは体幹の両側面に交感神経反応があることを
  前提として成立する理論です。
  心疾患においては交感神経反応が明瞭なため、
    兪募肺穴も有効と考えられますが、
  肺・気管支疾患では、交感神経反応が不明瞭なため、
  その効果やメカニズムもブラックボックスの中ということになります。



動悸(胸部循環器症状)

1.動悸とは心臓の拍動が自分で感じられる状態。
「心臓がドキドキする」などと表現されますが、
必ずしも心白数が上昇しているわけではありません。
むしろ除脈の時にも生じることがあります。

2.原因分類
1)心臓性の動悸
①心臓器質的疾患
②心拍機転の障害

①心臓の器質的疾患(心臓弁膜症、心筋障害、冠動脈疾患)
a)心不全
  心不全とは、心臓の血液拍出が不十分であり、
 全身が必要とするだけの循環量を保てない病態。
 そのような病態となるに至った原因は問わず、
 「心臓の収縮力が低下」した状態です。
 心不全になる原疾患として、心筋症、虚血性心疾患、弁膜症、
 高血圧などがあります。

 ・心筋症 : 原因不明な心筋疾患。
        大きく分けて、心筋が異常に厚くなる(肥大する)肥大型心筋症と
        心筋が薄くなって、収縮する力が弱くなり、心臓の内腔(ないくう)が
        異常に大きくなる(拡大する)拡張型心筋症があります。

 ・虚血性心疾患 : 冠動脈が狭くなったり、塞がったりして
                           その先の組織が酸素不足となるもの。

b)症状
 動悸、息切れ、呼吸困難、浮腫、疲労倦怠により日常生活を普通の人
 と同じように送ることができません。


②心拍機転の障害
心拍数の整・不正、心拍数の増減時に関係がある場合は本症を疑います。

a)期外収縮
規則正しく打っていた脈が、突然少し早めにドキンと打ちます。
これは心臓の空回りです。その後いつもよりゆっくり打ち始める場合、
左心室からの拍出する血液量が増加するため動悸を感じます。
本人は心臓が「ドッキン」とする感じ。

b)発作性頻拍
心拍数の増加自体を動悸として意識するもの。
本人は心臓が「ドキドキ」する感じ。


2)心外性の動悸
①心臓支配の交感神経緊張
  精神的興奮や物理的刺激(痛みや冷え)。薬の服用によるもの。

②心・肺以外の内科的疾患
  貧血、甲状腺機能亢進症、低血糖

③心因性・自律神経性疾患
  過換気症候群、心臓神経症、ヒステリー、更年期障害、自律神経失調症









息切れ(胸部循環器症状)

第2節 息切れ
1.息切れとは
息切れとは運動等により息が苦しくなり、短い呼吸を繰り返す状態のことで、
症状が強いと呼吸困難となります。息切れではまず、肺疾患を考えます
(しかし肺は心臓との関わりが密接なため、進行すると心臓も悪くなり、
肺性心となります)。ちなみに動悸は心疾患を考えます。

 ※循環経路
 肺 → 左心 → 体循環 → 右心 → 肺

左心不全は肺の症状(肺うっ血、息切れなど)を呈し、
右心不全は体循環の症状(足の浮腫、門脈圧亢進→腹水)を呈します

2.原因分類
息切れの原因には
1.空気が十分に肺胞まで入らないもの(気道通過障害・閉塞性障害)と、
2.空気は十分肺胞まで入ってくるが酸素の取り込みが不足する
     もの(拘束性障害)とがあります。

1)空気が十分に肺胞まで入らないもの
〇気道通過障害(閉塞性呼吸障害)
 慢性気管支炎気管支喘息肺気腫など

2)空気は十分肺胞まで入ってくるが酸素の取り込みが不足するもの
〇肺の伸展性低下(拘束性呼吸障害)
 肺炎気管支拡張症、気胸、肺線維症

※1)(慢性気管支炎、気管支喘息、肺気腫)と2)(肺炎、気管支拡張症、気胸、
肺線維症)については「下気道症状」を参照のこと。


〇心臓障害による肺うっ血
 心不全、心臓喘息

〇血液成分が悪い
 貧血、アシドーシス

①心臓喘息
心臓がうまく血液を押し出せないために、血液が肺に溜まり、
その血管の水分が血管から器官に染み出てきて、
その結果呼吸困難が起こります。左心不全の症状です。
睡眠時に仰臥位をとると、心不全の結果、身体下部に浮腫として
存在する組織液が血液中に入り心臓に負担をかけます。
そのため夜間睡眠中に発作性呼吸困難を生じます。

②肺性心
心臓自体に原因疾患はありませんが、肺疾患のため肺動脈の抵抗性が増して
肺動脈圧が亢進し、右心室の加重負荷となり右心不全を起こします。
最も多い原因疾患は長期の気管支喘息で起こる慢性肺気腫
(肺が膨らんだままの状態。
咳などで肺胞同士がつながり大きな空間となる)で、
肺症状として咳嗽・息切れ・右心不全。
体循環うっ血症状として、足の浮腫・静脈怒張・門脈高血圧症による
肝腫大・腹水などが起こります。

③貧血
血液中のヘモグロビンの酸素飽和度が100%であっても、
ヘモグロビンが減少していれば、血液全体として酸素含有量は低下
し呼吸困難となります。

④アシドーシスとアルカローシス
血液中のペーハーが酸性に傾いた状態をアシドーシス、アルカリ性に
傾いたものをアルカローシスといいます。
血液中のペーハーの正常値は、7.35~7.45。
アシドーシスになる代表的なものの一つに、
呼吸不全による血液中の炭酸ガスの溜まり過ぎがあります。
もう一つは、ケトン体増加です。糖尿病でインスリン不足のため、
血液中の糖を組織がエネルギーとして利用できない状態です。
代償として脂肪を分解してケトン体を産生し、
身体組織はこれをエネルギーとして利用するようになります。
このケトン体は最終的に、CO2と水になるので、炭酸ガスが
血中に増加することになり、アシドーシスになります。

アシドーシスの原因
呼吸器性:CO2排泄障害
代謝性  :ケトン体増加(糖尿病)

アルカローシスの原因
呼吸器性:過呼吸
代謝性  :塩酸の消失(嘔吐)

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ローザかあさん

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