1)逆流性食道炎
胃酸や十二指腸液が、食道に逆流することで、食
道の粘膜を刺激し粘膜に炎症を引きおこしたもの。
・ストレス・過食・喫煙・飲酒
・食道下部括約筋の弛緩:喫煙や加齢による機能低下
・妊娠・肥満・便秘等による腹圧の上昇
・消化不良など、の要因が考えられます。
また胃切除手術や食道の手術の後に噴門部の閉鎖不全を
生じ、噴門の閉まりが悪くなることでも起こります。
胃液や腸液などの消化液が逆流し
食道炎(胸やけ、胸骨後部痛)を起こします。
2)症状
主な症状は胸やけです。
※アカラシア
食道の機能障害の一種。食道噴門部の開閉障害もしくは
食道蠕動運動の障害(あるいはその両方)により、
飲食物の食道通過が困難となる疾患.
食道のアルエルバッハ神経叢の神経細胞の変性により
副交感神経の作用が弱まった状態。
なぜそうなるかは不明とされています。
3)鍼灸治療
局所、阿是穴治療。反応の出ているところに鍼灸をします。
その他、肝兪、脾兪、巨厥etc.
※胸部における疾患ということで慢性食道炎を
「胸部循環器症状」として扱っています。
2.呼吸器疾患の鍼灸
呼吸器疾患の章を参照してください。
3.心疾患の鍼灸治療
一般に器質的心疾患に対しては鍼灸で根治は期待できません。
機能的なもの、もしくは症状に対して一定の効果があります。
1)治療方針
心臓機能の強化を目的に治療します。
動悸・不整脈に対する治療としては、発作の予防を目的とします。
頸肩部のコリがひどいと狭心症の発作が出やすいことがわかっています。
頸肩部のコリ、または精神的ストレスに対しての治療を行います。
一般に鍼灸が得意とする動悸は、医療機関で種々の検査で異常が
発見されず、大したことはないと言われたが、本人はツライというものです。
つまり神経症的なもの、心臓神経症あるいは自律神経失調症によるもの
ということになります。
「息切れ」や「動悸+息切れ」は神経症的な要素は少なく、
器質的疾患が多いため鍼灸不適応となるものが多いです。
2)心臓機能の強化改善を目的とした治療(交感神経反応帯にたいする治療)
①左T1~T7(とくにT1~T3)の支配領域、
体幹前面と後面(左前胸部と左上背部の反応点)。
左前胸部 : 左神蔵、膻中、巨厥
左上背部 : 霊台、身柱、心兪etc.
②局所阿是穴:左胸壁の心臓のあるところ(肋間でなくても可)。
鍼4~5本。1cm斜刺。知熱灸7~8壮。
③大椎 : 後頸部第6~7棘突起の外側。
椎骨の際に深く刺します。
これは腕神経叢刺鍼で、
T1交感神経を経由しての心臓刺激となります。
3)頸肩~上背・上胸のコリに対する治療
横隔膜神経興奮を緩和させることでの心疾患へのアプローチ。
次に肩甲間部のコリや上部胸椎神経の後枝痛や前肢痛に伴い、
狭心痛的な症状(胸が締めつけられる、動悸がする)を起こす
ことがあります。
胸筋部のコリや、胸神経後枝・前肢の運動神経線維の緊張でも、
狭心症と同じような症状が出ることがあり、
このような疑似狭心症に対して鍼灸はとても有効です。
①後頸部第6~7棘突起の外側で椎骨の際。直刺4cm。
※これには局所のコリの改善と、
T1交感神経を経由しての心臓刺激の目的があります。
②脊柱起立筋の凝ったところ(阿是穴)。やや深め1~3cm。置鍼。
響きは不要。むしろ交感神経興奮につながってしまう可能性があります。
③大胸筋トリガーポイント(阿是穴)
胸のトリガーポイント心疾患者の半数以上にみられることが
報告されています。
このトリガーポイントの治療は、反射性冠動脈痙攣を軽減する上で
有効ですが、器質的疾患を治すものではありません。
4)動悸・不整脈にたいする治療
経絡的に前腕前面は胸部臓器の病変と関係が深いことが知られています。
またT1交感神経は、頸部交感神経節 → 鎖骨下動脈 → 上肢動脈血管壁
と走行するので、上肢(この場合は前腕前面)の動脈血管壁への刺激が
有効な 手段となります。
①郄門(心包経の郄穴)
前腕前面中央、手関節中央の上方5寸。長掌筋と橈側手根屈筋の筋溝。
ここは深部に正中神経が通ります。沢田流では郄門は前腕部を3等分し、
上(肘側)(曲沢穴)から3分の1のところを取ります。
※郄門は冠動脈に作用し、
心臓全体なら内関や労宮がよいとの報告もあります。
②内関(心包経の絡穴)
前腕前面、手関節横紋の中央より2寸肘側。
長掌筋と橈側手根屈筋の筋溝。
ここは深部に正中神経が通ります。
本穴には横隔膜を緩める作用があると考えられています。
4.心臓神経症の鍼治療
1)心悸亢進、心臓部の圧迫感、胸部の痛み、
不安感など本人は極度に恐れていて
いまにも生命の危険を感じるように訴えます。
心電図等の検査では異常はみられません。
2)治療
体幹前面からの治療
①巨厥、膻中
巨厥、膻中に圧痛があれば刺鍼雀啄、胸中に響かせます。
次に少海(心経の合水穴、上腕内側上果から橈側に5分)、郄門に置鍼。
次に背部の左心兪(第5・6胸椎棘突起間の外側1.5寸)、
左膏肓(第4・5胸椎棘突起間の外側3寸)、軽く雀啄をします。
体幹後面からの治療
①督脈5穴(身柱、神道、霊台、至陽、筋縮)への灸。
心臓神経症者はこの5穴に多く反応が出ることが多く、
ここへ15~20壮灸を行うことで、同時に出ていた同じ高さの膀胱経や四肢の
反応も消えることが確認されています。
②第5・6胸椎挟脊穴への鍼
5.肋間神経痛の鍼治療
1)肋間神経の走行
肋間神経は12対の胸椎前枝からなり、
それぞれ各肋間隙を肋骨下縁に沿って
内外肋間筋の間を走り、筋枝と皮枝を出しながら胸郭を半周します。
なお第6以下は肋骨弓を超え、腹壁に入り、内腹斜筋と腹横筋の間を
中心線に向かって走行します。
皮枝は前腋窩線と胸骨縁から格1本を出し側胸、
前胸部の皮膚に分布します。
(肋間神経痛のときに痛む神経は「肋間神経の前皮枝や外側皮枝」であり、
背面は「胸神経後枝痛」であって、厳密にいえば肋間神経痛ではない)
2)原因
突発性は少ない。症候性の原疾患は次のものが代表的です。
糖尿病、脊髄および脊椎疾患、帯状疱疹、腹部内臓疾患(胸膜炎、
自然気胸など)
3)症状
肋間神経の後発部位は左第5~第9肋間です。
肋間神経が深層から表層に出る部位に圧痛がみられます。
真性肋間神経痛では、次ぎの3ヶ所に多く圧痛点がみられます。
・脊柱点 : 脊柱外側3cm
・腋窩点 : 前腋窩線上(前胸部)
・胸骨点 : 胸骨外方3cmの下縁
※神経痛は、原因のわかる症候性(続発性)神経痛と
原因のわからない特発性(原発性、真性)神経痛とに分類します。
このように分類するのは、
原因がわかれば根本的な治療が可能になるのに対し、
原因がわからなければ、痛みという症状に対する治療が主になるなど、
どちらに属するかによって治療の内容がちがってくるからです。
4)治療
神経の興奮緩和を目的として、痛む部位へ刺鍼(肋間神経への直接刺鍼)。
また局所周囲に刺鍼し、周囲筋の緊張を緩和させます。
肋間神経痛、胸痛、背部痛、側胸痛などの原因の多くは、
椎間孔から肋横突関節付近の脊髄神経の放散痛です。
これは棘突起下、外側1~2cmの範囲内になり、ここに鍼を
3cm程度(有効深度)刺入します。鍼先は椎間関節、回旋筋、多裂筋付近
にあることになります。
6.帯状疱疹後肋間神経痛
1)原因
帯状疱疹ウィルスが胸髄領域の後根および神経節を
侵害することで起こります。
※水痘ウィルス感染者の症状(発疹、水泡)消失後、
ウィルスが脊髄後根神経節内に潜伏。
数十年後に再活性化された水痘ウィルスは神経節から
末梢神経を下行して当該皮膚に水泡を形成します。
2)症状
帯状疱疹の治癒後、神経痛のような痛みが現れ、
強い痛みが数ヶ月続くこともあります。
発症部位で多いのは肋間神経と三叉神経(第1枝支配領域)です。
3)治療
帯状疱疹発症の後に1ヶ月以内に治療を開始したものは良好で、
1年以上経過したものは治療効果が悪いです。
帯状疱疹後神経痛へ移行するのを予防することが重要です。
①初期 : 小水疱が狭い範囲に出現している程度であれば、
罹患部を囲むように横刺します。
またデルマトーム内挟脊刺鍼が有効です。
②移行後 : パルスを用いることもありますが、
どちらにしても時間が掛かります。
基本的に現代医学的治療と合わせてのものになります。