暗い居間に俺達は円を作るように座った。
隣には玄二郎さんの遺体が眠っていて、目の前には玄二郎さんの魂が座っている。
何とも違和感のある光景だ。

「坂口玄二郎さん、七十八歳、間違いない?」

「間違いなかです」

桜花の問いにゆっくりと頷いて答える玄二郎さん。
まるで悟った様に落ち着いた表情の玄二郎さん、全く取り乱した感じもなく、満足げな表情だ。

「私達は極楽浄土から、貴方を迎えに来た死神。これから貴方を極楽浄土へと案内する」

この言葉にも、ゆっくりと頷いて答える。
老人の貫禄なのだろうか、凄い落ち着いていて格好いいと思ってしまった。
俺の死んだときとはちょっと違うな。

「担当死神は私、桜花と、こっちの笹風、そしてこっちの俊介。三人が担当死神として貴方を極楽浄土へと案内する」

そこまで言って、桜花は俺の隣へと視線を移した。
そこにはお座りしたゴン太いる、そんな桜花の視線を追うように玄二郎さんもゴン太へと視線を向けていた。

「そして、今回は特別に死神犬、ゴン太が同行する」

「やっぱり、ゴン太やったか」

懐かしそうな笑顔を見せる玄二郎さんに、ゴン太もわふぅっと答えた。

「少しだけよかやろか?」

そんなことを俺に向かって尋ねてきた。
きっと、俺が隣に座っていたからだろうけど、そんなこと聞かなくても……とは思ったけど、やっぱり死神である俺達に気を遣っているんだろう。

「どうぞどうぞ」

その答えを聞くと、玄二郎さんは腰を上げるとすっとゴン太を抱きしめていた。
何か言葉が有るわけじゃ無い、ただただ黙ってゴン太を抱きしめた。
それに抵抗することも逆にはしゃぐこともなく、ゴン太も瞳を閉じて玄二郎さんのぬくもりを感じているようだった。
数年ぶりの再開に二人とも心から喜んでいるんだろう。

「ゴン太、元気にしとったか?」

「わふぅ~」

一言の問いに、一言の答え。
それで全部が伝わったのだろうか、そっと離れると改めて俺達に向き直った。
それを確認すると、桜花が俺の方へ視線を向けてくる。

「えっと、それじゃあ早速だけど極楽浄土へお送りします」

桜花の合図に、俺は懐に入れておいた鈴を取り出した。
金色の小さな鈴、さっき桜花から渡された極楽浄土と現世を繋ぐ鍵。

そもそも、俺達は死神と言っても、結局の所は幽霊みたいな物だ。
人に見えることも無ければ、人に触れられる事も無い。
当然、現世と極楽浄土を行き来する能力なんて持っても居ない。
そんな俺達がどうやって現世と極楽浄土を行き来するかというと、この小さな鈴を使って移動している。
呼び鈴という名のその鈴は、こちらとあちらの空間を湾曲させる波長の音を出しているらしい。
まぁ、それがどういう理由で極楽浄土への移動を可能にしてるか、桜花に聞いたり本を読んだりしたがさっぱりわからなかったが。

「それじゃあ、早速」

初の呼び鈴に緊張しながら、みんなに見つめられる中、少しだけ手首のスナップをきかせて鈴を振ると美しい鈴の音が鳴って……

「いってぇっ!」

突然、頭に響くようなバチッという火花のような音。
それと同時に、目の前が一瞬真っ白になった。
現世に来るときの音は澄んでて美しい音だったのに、想像とは全く違う鈍い音に驚いてしまった。
しかも、耳の奥がきーんと遠鳴りして、頭の奥にも何かがぶつかったような痛みが走る。
何が起きたのかさっぱりわからないけど、頭を抱えつつ、俺は桜花と笹風の方を見た。

「干渉された?」

笹風も表情を歪ませて、頭を押さえている。
その隣では桜花が立ち上がり、縁側の方へと走っていた。
ゴン太もお座りしていたかと思ったら、立ち上がってうなり始めている。
何が起きているのかわからないのは、俺と玄二郎さんだけらしく、俺も玄二郎さんも緊迫した空気を感じながら三人の行動を目で追っていた。

「俊介、玄二郎さんとゴン太を連れてすぐにここを離れる!」

縁側の窓をすり抜けて外を確認したかと思ったら、すぐさま桜花が大声で俺に指示を出した。
いつも冷静な桜花らしくない大声に、一瞬戸惑うけど、急ぐ必要があるのだろうと感じて俺も慌てて立ち上がった。

「笹風?」

状況を掴めないまま、とりあえず先輩の名を呼ぶ。
それだけで察したかのように、笹風も立ち上がると俺の目を見ると頷いた。

「罪人が近くに居る。こっちが鈴を使ったおかげで、この場所を感知した可能性が高い」

笹風の説明を聞いて、事態を一瞬で把握した。
一番恐れていたことが、まさか現実になってしまったんだ。
玄二郎さんを看取る前、桜花から言われていた最悪の事態、罪人がこの近辺まで来てしまっている可能性。
それが、まさか現実になってしまうとは。

「罪人は周りに強力な霊力をばらまいてる。そのおかげで呼び鈴で空間に干渉しようとすると、 霊力が呼び鈴の波長と干渉して極楽浄土への移動が出来なくなるんだ。しかも干渉が強かった、だいぶ近いぞ」

近くに居ると聞いて、一瞬恐怖が走る。
写真でしか見たこと無い罪人だし、話を聞いた程度の知識だけど、それでもなぜか悪寒が走るほど恐怖が体を駆け抜けていく。
おそらく、本能が恐怖してるんだ。

「俊介、急ぐ!」

桜花の指示に、俺は玄二郎さんへ手を差し出した。

「すいません、後で説明するので今はここから離れましょう」

細かい説明をしている暇は無い、ただ今は少しでも離れないと大変なことになる。
連中が狙っているのは玄二郎さんの魂、ここで居れば奴が襲ってくる可能性が高い。

「だっ、大丈夫とですか?」

不安を感じさせてしまったのか、少しだけ震える声で問いかけてくる。
それでも手を掴んでくれる。
俺はそのまま引き起こすと、その手を掴んだまま台所の裏口へと向かった。

「大丈夫、安心してください。玄二郎さんは必ず、俺とゴン太が守ります」

振り返ると玄二郎さんの目を見つめながらそう告げる。
それと同時に、足下からわふぅ~と心強い鳴き声が聞こえる。

「桜花、笹風!」

裏口から出ようとしたところで、俺は二人の名を呼んだ。

「私達が出来るのは足止めだけ、離れたらすぐにでも玄二郎さんを極楽浄土に送る! こっちは大丈夫だから、玄二郎さんの事だけを考える!」

桜花の指示が鋭く帰ってきた。
心配不要って事だろう、そう解釈すると裏口のドアをすり抜けて外へと飛び出した。

「うおっ、本当に幽霊か」

初めての壁抜けに驚く玄二郎さんだけど、俺はそんなことを気にせず手を引きながら走り出した。
とりあえず玄関側に回って、道路に出た方が良い。
そう判断して、急いで玄関へと回って門を跨いだ。
道路に出ると左右を確認する、出来るだけ街灯が多い方を目指した方が良い。
幽霊と言っても、真っ暗だと何も見えないし、壁抜けや浮遊出来ると言っても、慣れない玄二郎さんにあれこれやらせると逆に時間がかかる可能性だってある。
今の今まで人間だった人なんだ、無理をさせるのは得策じゃ無い。

「とりあえず、川から離れましょう。水気は地場が悪い」

俺は基本に沿って、堤防から離れるように走り出した。
手には玄二郎さんの手を握って、隣を一緒に走ってくるゴン太をちらりと見て確認すると出来るだけ急いで走った。
老人を引っ張って走るというのは気が引けるが、既に死んでるから息をしているわけでも無いので息切れもしないし疲れやすいって事も無い。
正確には普通の人間が走るよりも長距離走っても息切れしないだろう。
ただし、あくまで疲れにくいだけで走る速度は普通の人間並なんだけど。

「住宅街、抜けると確か田んぼですよね?」

「二丁目は田んぼが多かけど、そこまで走るとですか?」

俺の問いに答えつつ、玄二郎さんが心配そうに尋ねてくる。
普通に考えれば相当な距離なんだろうから心配するのもわかるけど、今は魂だし正直難しい距離でも無い。
現にさっきから全く休むこと無く走り続けても、全く疲れた様子も無ければ息切れもしていない。

「少しでも離れないと、罪人の干渉範囲内じゃ極楽浄土に送れないんです」

初めての頃は、走りながらしゃべるのは違和感があったが、今じゃ普通に会話だって出来る。
息をしてないって便利なものだ。
まぁ、死んでるって考えるとあまり気持ちが良い物じゃないが。

「何で疲れんとですか?」

素朴な疑問を投げてくる玄二郎さん。
気持ちはわかる。

「幽霊ってそんなものなんです。とりあえずは今はそれだけで良いです」

詳しく説明してる暇は無いので、幽霊って事で済ませた。
一応、本で読んで細かい理由も知ってるけど、今はそれどころじゃ無い。
街灯の下で、あまり遠くまで見通せない中、相手がどこに居てどんな奴なのかもわからない状態、という最悪の状況で逃げてるんだ。
どっちに逃げるか、辺りに注意する、なんて考えながら走ってるのに説明までは今の俺には無理な話だ。
玄二郎さんを不安にさせてしまっているのはわかるが、それについては後からいっくらでも謝ることにしようと思いつつ、俺はゴン太をちらちらと見ながら住宅街を走り続けた。

「ゴン太、何か感じたら教えてくれ」

わふぅっと小さく答えるゴン太。
きっと俺よりも危機の察知には優れていると思う、少なくとも死神成り立ての俺よりはだ。
だから出来るだけゴン太の行動に気を掛けながら、走り続ける。

「灯り?」

すると、遠くの交差点に明るい光が見える。
街灯や月明かりよりも遙かに明るい光。

「そう言えば、最近二丁目にコンビニが出来たと聞いたばってん、あそこやろか?」

光に気づいた玄二郎さんがそう後ろで言っている。
つまり、二丁目までやってきたと言うことだ。
ある程度、距離を離すことが出来たかもしれない。

「コンビニまで行ったら、呼び鈴を試してみよう。上手くいけば、極楽浄土へ跳ぶことが出来るかもしれない」

振り返って玄二郎さんにそう告げると、玄二郎さんは頷いて、足下からはゴン太が一言吠えて答えてくれる。
そんな一人と一匹の思い思いの返答を確認すると、少し急ぎ気味に走り続けた。

そして、コンビニにたどり着くと、大きく息を吐いた。
別段息切れしているわけでも無いし、疲れているわけでも無い。
ただ、少しだけ安心して息が零れた感じだった。

「こげん走ったとに、全く疲れんとですね」

「幽霊だから、息もしてないし、重力も感じてないから疲れも殆ど無いと思いますよ」

八十歳近くのおじいちゃんが三丁目から二丁目まで走って何ともないんだから、驚くのも仕方ないか。
しかも、コンビニの中を覗きながら珍しそうな表情をしている。

「コンビニは来たこと無かった?」

ふとそんなことを聞いてみると……

「この歳になると二丁目まで来るんは、きつかけん。それに、このコンビニが出来たんも最近やけんねぇ」

なるほど、それもそうかと納得してしまった。
近くに出来ないと、老人にはコンビニも無関係なものか。
そんなことを考えていると、玄二郎さんが驚いた表情をしてコンビニの方へと歩き出していた。

「玄二郎さん?」

呼び止めようと、いつの間にか離していた手を玄二郎さんの肩に伸ばしたときだった。

「なんばしょっとかぁ、こげん時間に!」

突然の怒鳴り声に思わず伸ばした手を引っ込めてしまった。
いったい何が起きたのかわからず、玄二郎さんの視線の先を見ると一人の学生が、手にからあげクンを握ったままぽかんと口を開けたままこっちを見ていた。
正確にはこっちの事なんて見えてないだろうから、こっちの方を見ていたってだけだ。

「幸大! こげん時間まで、こげん場所に居てどげんするか! はよ帰らんかぁ!」

玄二郎さんの知り合いの子だったんだろう。
きっと昔、玄二郎さんのところに来ていた子供だったんだろう、だから黙っていられず怒鳴ったんだろう。
見た感じは高校生位に見えたけど、あんなに大きくなっても、玄二郎さんにとってはクソガキなんだろうな。
それを見て少し安心した。

「玄二郎さん、こっちのことは見えてないですよ」

俺の言葉に、あっと気づいたような表情を見せて、玄二郎さんが少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
子供のことになると、夢中になってしまうところは、相変わらずのクソじじいぶりだ。
そこが良いところ何だろうけど、この状況でもってところが玄二郎さんらしかった。

「とりあえず、少し離れた場所で飛びましょう」

そう言うと、再び玄二郎さんの手を掴んだ。
少し気になるのか、幸大と呼ばれた少年を振り返りながらも俺の手の引く方へと走り出した。

「最近の高校生なら、これくらいの時間も外に居ることあると思いますよ」

それとなくフォローすると、玄二郎さんも少しだけ納得いかないという表情を見せた。

「ばってん、こげん時間やけん、危なかろうに」

本当にこの人は……

「けど不良みたいでしたよ?」

「違う、幸大は優しか子やけん! ちょっとばっかし、みんながわかってやらんけん……」

そうだろうなとは思う。
見た目は不良っぽかったけど、玄二郎さんのところに来てたクソガキなら、きっと根は良い子なんだと思う。

そんなやりとりをしながら、走っていると住宅街を抜けた。
一面に広がる畑、所々に見える街灯、真っ暗な一本道だ。
ここまでだだっ広い畑だらけの場所を見たのは初めてだった、ずっと都会暮らしで住宅街やビル街ばっかりだったからな。
こういう風景も、出来れば晴れた昼下がりにでものんびりみたいものだ。

「さて、極楽浄土に……」

そこまで言いかけた所で、俺は足下に居たゴン太の様子がおかしいことに気づいた。
明後日の方を睨み付けたまま唸っている。
一瞬寒気が走る。
ゆっくりと視界をそこから上げていく。
ゴン太の視線の先、そこまで視界が移った時、それは居た。

「なんだあれ?」

田んぼ道にある僅かな街灯の下に、巨大な何かが居た。
かなり大きい、人間の大きさじゃ無い、たぶん2m以上はあるだろう。
そんな巨大な人型の何かがこっちの方を見ている。
とはいえ、人型と言ってもかなり異質だ、両腕が極端に大きく体の半分以上が腕のような形をしている。
一番近い動物と言われれば、丁度ゴリラが思い浮かぶ様な、そんな不思議な何かだ。

「嘘だろ?」

遠くからではよくわからないけど、間違いなくこっちを見ている。
気づいてる!

『ギャァァァァッ!』

突然吠えた。

やばいと心の奥で何かが叫んでる。
あれは罪人だ、間違いない、本能がそう教えてくれる。
問題はあれがこっちに気づいて、走るようにこっちに近づいてきてることだ。

「ゴン太! 玄二郎さん!」

二人の名を呼ぶと、強く掴んだ手を引っ張るように、俺達は住宅街へと引き返した。
相手が早いか遅いかなんて確認してる暇は無い、とにかく少しでも逃げないとやばい、追いつかれたら俺達だけじゃ時間稼ぎも出来っこない。
桜花と笹風がやってたのにダメだったんだ、闘具が使えない俺じゃ話にならないはずだ。

「桜花、笹風、どうして……」

やられたとか考えたくない、けどアレがここに居るって事は最悪の状況も考えられる。
二人は強いと思ってる、なのにアレがここに居る。
考えたくない事が次々に浮かんで消えていく。

「わふぅっ!」

ゴン太の声に、びくっと肩が飛び跳ねた。
チラリとゴン太の方を見ると、走りながら俺の方を見つめている。
しっかりしろと言いたいのだろう、そりゃそうだ、俺がしっかりしないと武具を持っているのは後は俺だけなんだからな。

「武具、実装!」

引き金になる言葉と共に、 身につけていた革製の手袋が熱くなる。
鋼と革の混じり合う様な籠手が両腕を包み込んだ。
こんな時のために用意した武具だけど、出来ることなら使いたくなかったな。

「ゴン太、下手すれば追いつかれる。もしもの時は、玄二郎さんを連れて逃げるんだ、いいな?」

「わふぅっ!」

後ろから来る恐怖を感じながらゴン太に言うと、すぐさま返事が戻ってくる。
通じているのかどうかはわからないけど、きっと通じてると信じるしかない。
そして、どこへどこまで逃げば良いのかわからないけど、今は少しでも逃げ続けるしか無い。
後ろから気配が追いかけてくるが、残念ながら振り返ってみる勇気は無いし、今は前だけを見続けて……





どれくらい走ったかはわからないし、どこをどう走ったかわからない。
疲れないとはいえ、延々と走り続けるのは辛い。
息切れもしないけど、精神がすり切れていく。
恐怖からの逃亡、後ろを振り返るのさえ恐怖、その状況が続くのは想像以上に体力を使っている。

「次の突き当たり、左に曲がるぞ!」

玄二郎さんやゴン太に声をかけながら走り続ける。

「わふっ、わふっ!」

俺の言葉に返事を返そうとしているのか、ゴン太が鳴いてるけど、何のことかわからない。
みんなにはわかってるらしいけど、俺にはさっぱりだ。

「わふっ、わふぅ~!」

様子がおかしい、さっきまでと違って何度も鳴いている。
隣を走っているゴン太の方を向くと、視界に住宅の塀と巨大な手が……

「やっば!」

慌てて、玄二郎さんの手を握ったまま転ぶ要領で前のめりに飛び退いた。
一瞬頭に風が横切る。
ギリギリだった、一瞬でもゴン太の方を見るのが遅かったら、と思うと恐怖に押しつぶされそうになる。
けど、そんな恐怖に震えている暇は無い。
すぐさま起き上がると、俺は後ろを振り向いた。

声が出ないほどの恐怖。
見上げる巨体は、真っ黒な体で俺の身長の倍近くありそうな程だ。
しかも、両腕は遠くで見たときよりも遙かにでかい。
瞳は真っ黒なガラス玉のような巨大な物で、どこの何を見ているのか見当が付かない。
獣とは違って毛深い等と言うことは無い、ただ筋肉質な巨大な生物が目の前に居た。

「ゴン太、逃げろ!」

「うぅ~! わふっ、わふっ!」

俺の指示を無視して、俺と同じく玄二郎さんを守るように立ちふさがるゴン太。
けれど、ゴン太は闘具も武具も持っていない。
戦えるはずが無い、俺が何とかしなといけないんだ、俺が!

「うわぁぁっ!」

がむしゃらに突進していくと、思いっきり罪人の腕を殴りつける。
バランスを崩して、よろめく。
予想以上に威力がある、武具のおかげか想像以上の衝撃を与えることが出来たらしい。
これなら、少しくらい時間稼ぎが……そう考えた瞬間だった。

「わふっ!」

ゴン太の鳴き声が響いた。
一瞬の気の緩みが、罪人のもう一本の腕を見逃していた。
繰り出されていた攻撃。
気づいたときには避ける余裕など無いほど間近に迫っていた。
とっさに飛んで体を浮かせると、子孔雀の籠手で防御を取った。
けれど、視界は一瞬ぶれて気づいたら逆側から強い衝撃が走った。

「っは!」

変な声が勝手に口から零れる。
何が起きたかわからなかったが、自分が壁に叩き付けられて地面に倒れ込んだことがわかるのと同時に、状況が頭の中に入り込んでくる。
すさまじい威力、一撃が重すぎる。
一発直撃を喰らうと、壁際まで吹っ飛ばされるのか、こいつ。

「ゴン太、玄二郎さんを連れて逃げろ!」

「わふぅっ!」

俺の指示を無視して、ゴン太が罪人に吠え続ける。
ダメだ、ゴン太じゃ相手にならない。
死神とはいえ、ゴン太は犬だ、ダメだ、このままじゃ玄二郎さんが……

「やめろぉ!」

必死に立ち上がると、少しふらつきながら叫ぶ。
けれど、罪人はこっちを気にせず玄二郎さんへと一歩を踏み出した。
その時だった。

『チェェェスットォォォッ!』

かけてきた一人の学ラン少年、彼が罪人の顔面にドロップキックをかましていた。
突然の出来事に、口をぽかんと開けたままその光景を見てしまった。

『意外に効くやんか』

その顔には見覚えがあった。
さっきのコンビニに居た、あの不良っぽい学生だ。

「幸大!」

『よぉ、クソじじい』

罪人を殴れる上に、玄二郎さんが見えてる?
いったい何が起きているのかわからないで居ると、突然辺りが光に包まれた。
まぶしすぎるほどの光、いや正確にはヘッドライトだ。

「なんばしょっとか、こげんとこで! はよ逃げんか!?」

『そりゃこっちん台詞やろ、はよ逃げんか、クソじじい』

『そうそう、ここは俺達にまかせとき』

幸大と呼ばれた少年だけじゃ無い、何台ものバイクにまたがった少年達。
そして、その周りに立ち、罪人を睨み付ける少年達。
全てが罪人と玄二郎さんが見えているんだ。

「伸介、都子、雄一……」

そんな少年達を見て、驚いたような表情を見せる玄二郎さん。
その表情を見て、彼らは思い思いの表情を見せる。
悲しそうだったり、嬉しそうだったり……けれど、全ての顔はその後に、怒りの睨みに変わった。

『何もんかわからんけどな、クソじじいは渡さん』

玄二郎さんの前に立ちはだかる幸大。

『俺らが相手ばしちゃる! かかってこいやぁ!』








彼の雄叫びと共に、戦いは始まった。
三丁目のクソじじいを守るため、三丁目のクソガキ達が……





つづく.....