世にも奇妙な小径

へんてこりんなお話や詩などを執筆中!

後悔

 あまりの寒さに目が覚めた。
 ここ数日、蒸し暑く寝苦しい熱帯夜が続いたのでエアコンをつけっ放しにしていたのだが、それがいけなかったらしい。

 エアコンのすぐそばには熱帯魚の入った水槽が置いてあるのだが、魚はみんな死んで浮いていた。この寒さなら水槽の水も急激に冷えて、魚も凍えたのだろうと思った。

 しかし、いくら新型で、昨日買ったばかりの新品とはいえ、冷え過ぎだとも思った。
 大切にしていた熱帯魚まで殺してしまうとは・・・そう思うと、心の底からエアコンに対する憎しみが湧いてきた。

 「僕の愛しい魚ちゃんたちを殺した憎っきエアコンめっ」
 そんなことを言いながらエアコンを見上げると、奴の口からは、なんと、数本のつららが垂れ下がり、まるで雪女のようにイヤらしい笑みを浮かべて、こちらの様子を伺っている。

 「スイッチさえ切ってしまえば・・・」
そう思ったが、それではあまりにも危険が多すぎる。スイッチは、奴の赤く聞かれた口の下にあるのだ。

 しかも今では、一番太いつららの陰に隠れてしまっていて、果たして今でもそこにあるのかすら確認できない。

 僕は、3200円を惜しんで、リモコンスイッチを購入しなかったことを悔やんだ。
 とは言え、そのお金は、昨夜飲んだビールに全て変わっていたので、「自業自得だ」と頭を垂れた。

 「そうだっ!コンセントを抜いてしまえばいいんだ」
 僕は勝利を確信した。そして、コンセントを捜した。

 「奴のコンセントは・・・奴のコンセントはと・・・」
 コンセントは、なんと、奴と天井との間にある僅かな隙間についていた。落胆の表情は隠せない。

 奴はそれを見て取ったのか、薄笑いを浮かべると一層冷たい風を僕に浴びせかけてくる。

 僕は左腕で顔を庇いながら
 「戦いはこれからだぞっ」と、笑いながら叫んだ。

 今度こそ勝算があった。ブレーカーを降ろしてしまえばいいのだ。

 僕はベッドから起き上がろうとして左腕を降ろそうとしたが、降りない。どうやら、奴の冷風を浴びて凍ってしまったらしい。

 「ブレーカーを降ろすぐらい右腕一本で充分だ。見ていろよ!これでもう、お前もおしまいだ」

 無理をして、右腕一本でベッドから飛び起きようとすると、下半身から鈍い音が聞こえ、次いで、腰の辺りからも何かの折れるような重苦しい音が響いてきた。

 その途端に身体が急に軽くなり勢い余って、僕は床にしこたま顔を打ち付けてしまった。そのために、すでに凍傷になっていた鼻と耳が、硝子細工のように床一面に砕け散った。

 「チクショー、チクショー、見てろよ。今に見てろよ。僕の鼻と耳の仇はきっと取ってやる。絶対に、絶対にだ」
 僕は床に転がりながら奴を指さして、涙ながらに叫んでいた。しかし、その涙も音を立てて床に転がった。

 不意に僕は、自分の身体の異変に気が付いた。
 左腕が無いのだ。

 どうやら、鼻や耳と一緒にもげてしまったらしい。まあ、それはそれでいいのだ。すでに諦めはついていた。しかし、僕の下半身はベッドに貼り着いたまま動こうとはしない。あの鈍い音は、僕の腹が折れる音だったのだ。

 今の僕には、胸と、右腕と、壊れた顔しか残っていない。これでどうやって奴と戦えというのだ。

 僕は「敗北」の2文字を見た。が、見た所が良かった。窓ガラスに見たのだ。

 「窓だ、窓を開ければ、外の暑苦しい空気が入ってくる。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったんだ」

 しかし、窓を開けるといっても、今となっては簡単にはいかない。
 「そうだ、何かで叩き割ればいいんだ・・・」

 僕は投げる物を捜した。そして、ベッドの下に転がっていた僕の左腕を見つけると、それを右腕で掴んで窓ガラスに投げつけた。

 激しい音と共にガラスと僕の腕は砕け敵った。

 割れた窓の隙間からは、粘りつくような大量の雪が勢いよく僕の部屋に雪崩れ込んできた。

危ない話

 「オイ、ナニが来る前に、例のナニをナニしてこい」
 「ナニなら、今頃はまだ、ナニと一緒にナニしてますよ。ナニの方だって…」

 「いや、ナニのことだ、いつナニされるか判ったもんじゃねぇ」 
 「それなら、先にナニをナニしておいた方がいいんじゃないかと…」

 「ナニの方は既にナニしてある。ナニされることもないし、例の通りナニはナニしてある」
 「ナニがナニだけに、ナニの方はナニしておいた方が、何かとナニだと…」

 「それは判っているが、例のナニはその辺のナニとナニがナニだ。迂闊にナニする訳にはいかないし、もし、ナニしたとしたら何もかもナニしてしまう。そんなことにでもなってみろ、ナニがナニしでかすか判ったもんじゃない。ナニだって…」
 「それなら大丈夫ですよ。ナニも、ナニをナニ出来るほどのナニでもないし、ナニだってその辺のナニとは…」

 「しかし…」
 「大丈夫ですよ。ナニがナニだから、ナニにナニされてもナニはナニですから、それ以上はナニされることもないし、ナニだって黙ってナニされるのをナニする訳にもいかなくなるでしょうし…」

 「だけど…」
 「心配ありませんよ。何かとナニは、ナニされるとナニになるじゃないですか」

 「それはそうだが…」
 「ナニしといてくださいよ。ナニはきちんとナニしてありますから」

 「ナニをナニしてあるのはいいけど、そのナニとこのナニはナニじゃないのか?」
 「それじゃナニですかっ、俺のナニはナニだって…」

 「いいや、お前のナニがナニしてるのはよぉ~くナニだ。しかしだ、ナニがナニしてナニとやらってナニするじゃぁねぇか…」
 「俺だってナニですよ。ナニがナニするナニぐらいナニしているつもりです。だけど…だけどそのナニがナニすることはナニじゃないですか。何もそのナニまでナニすることはナニじゃ…」

 「何ぃっ!!お前は俺にナニするつもりかっ!!」
 「えっ、そ、そんなナニじゃ…」

 「いいや、お前は俺にナニしているに違いない。そんなに俺がナニなら、お前もナニと一緒にどこへでもナニすればいいさ。その代わり、ナニのナニはナニだぜっ!!」 

 ナニされた男は、ナニにナニしてあったナニをナニして、もう一人の男をナニした。
 一方、ナニされた男はナニした男にナニをしながらナニした。

 ナニした男にナニされた男は、ナニされるのをナニしてナニしたが、ナニはあまりにもナニだったので、ナニが来る前にナニしなければならず、仕方なく、ナニはナニのままナニするしかなかった。結局、ナニはナニしてもナニだということがはっきりとナニした。

 男はナニをナニして、ナニをナニした。それは、男にとって最期のナニのナニだった。

 ナニは今日もナニとナニして、ナニだけがナニのようにナニしていた。






月光池伝説

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ユクは岸部にうずくまり、祈りを捧げていた。

風のない水面には大きな満月が映り込み、青白く輝いていた。

父と母は、多くの仲間たちと共にアフンルパルに葬られてしまった。

妹のクンネチュプははぐれてしまい、どこにいるのかわからない。

ユクは、喪失感に押し潰されそうになりながらも、祈りを捧げ続けていた。

ふと、水面が微かに揺らぎ、映り込む月が何かを囁いたような気がした。

しかし、ユクは何も気付かず、ただただひたすら、目を閉じて祈り続けた。

雨が降り、その雨が雪へと変わり、ふたたび雨となり、やがて強い陽射しが照りつけた。

はたしてどれほど繰り返されたのかすらわからないほど多くの時間と季節が流れた。

いつしかユクは、清らかな水面に飲み込まれ、葬られたはずの父や母、多くの仲間たちに囲まれていた。

祈り続けるユクの願いを知るものは誰もいないが、今もクンネチュプの末裔が、この水面から天を仰ぐユクたちの姿を見守り続けている。

 
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