DSC_7767a



ほぼ毎晩のように訪問してくるキタキツネを何とか明るく撮影しようと、玄関先に撮影用のLED照明を設置して待っていた。

お約束のように、箱罠の上に乗せたトタン屋根の上で飛び跳ねる音がしたので、玄関灯をつけ、防寒をして玄関を開けた。
「待ってました!」とばかりに、雪の上にちょこんと座っていた。

おりしも外は、大寒波の影響で、頻繁にホワイトアウトとなるほどの猛吹雪となり、1分もすると足跡すら埋もれてしまう。

「今日からお前はTsukiだよ。いいっしょっ?」
一応、相手に確認を取り、それ以降は「Tsuki」と呼ぶことにした。

「Tsuki」という名は、いつも行く「月光池」への裏山ルートの方角へ彼女は帰っていくので、勝手に「月光池」からの使いだと考えてのことだ。

今日は照明があるのでマクロレンズで撮影を試みるも、Tsukiがカメラに興味があるのか?あまりにも近づきすぎて、せっかくの照明も意味をなさない。

と思ったら、Tsukiの興味は、私が履いている軍手のようで、頻繁に匂いを嗅いでくる。

そういえば昨年の暮れにTsukiが遊びに来た際に、私が目を離している隙に、それまで履いていたサンダルを奪っていったことがあった。

どうやらTsukiは、私の臭いがするものが欲しいのかもしれない。
そう考えて、試しに軍手を片方脱いで渡してみると、嬉しそうに咥えた。
そして、Tsukiの目は、もう片方の私の手を見ている。

「そっちもだよ」と言いたげに凝視する目が私の手を狙っている。

もう片方の軍手も脱いでTsukiの鼻先に差し出すが、口の中は初めの軍手で一杯になっていてうまく咥えることができない。

「どれどれ、一回放せばいいべや」そう言いながら、Tsukiの咥えている軍手を掴んでみるが、力を込めて咥えなおし放す気がない。

仕方がないので、脱いだ軍手を足元に置いてあげると、Tsukiはその軍手も無理やり咥えて、足早に裏山へと帰って行った。

どうやら、欲しかったのは私の臭いのするものではなく、厳寒期の冬の中、その身を温めるための乾いた布だったようだ。