ひび

2010年09月08日

ホットケーキ論

ホットケーキは幸せの象徴だった。

まるく、ふんわりとふくらんだ黄金色のホットケーキ。

小さいころ、
母と一緒にデパートの最上階のファミリーレストランに行くと
とけかけたバターとメープルシロップのたっぷりかかった
ホットケーキを頼むのが、私と弟の定番だった。

母は「あんたたち、またホットケーキ食べるの」と
呆れて笑いながら、ナイフで一口サイズに切ってくれた。

いまにして思えば、あのときすでに壊れかけていた
「家族」という幸福に憧れていたのかもしれない。

平凡で、どこにでもあるような、完璧な幸福。


家で作るホットケーキはいびつで薄っぺらく、
レストランで食べるそれに比べると
まるで崩壊していく家庭のようだった。


あの日、レストランで笑っていた私たちは失われた。


先日、ひとりでファミレスに行き、
ホットケーキを頼んだ。

たったの500円。
いちばん安いメニュー。

バターがとけるように家族は壊れ、
たくさんのものを失ったひとりぼっちの私の口には
そのまるくやわらかく、
あたたかなホットケーキはとても甘すぎて
涙が出た。





♪BJ


kitaparaism at 23:54|PermalinkComments(0)TrackBack(0)