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一昨日の朝、夫と一緒にいつも行くGrocery Storeで、昔働いていた職場の上司とばったり出会った。


「あら!久しぶりですね。」


「本当に。一人でお買い物?ということは、免許取ったの?」


いやいや、その時運転手の夫(!?)は、果物のところで常備しているバナナやオレンジを選んでいたはず。


そう言うと、「あら、そうなのね。運転なんてしなくてもいいのよ。出歩けるなら車なんて無くても良いの。」と言う。


以前は、「ここはアメリカなんだから、車の運転が出来ないと不便よ。」とよく言っていたのに。


話しをしながらあることに気がついたが、気にしないフリをして会話を続けた。


「最近はどう?職場を離れてご隠居の身になったって、Dが言ってたけど?」と問うと、


「うん・・・そうねぇ・・・。」と下を向く。


「忙しくしてるの?」と、さらに聞いてみる。すると、


「そうね、実はね、息子のBの犬の世話をしてるのよ。なんていうか、天から降って沸いた機会・・・っていうかね。」と、少しはにかみながら言う。

元上司のSは、昔大きなジャーマンシェパードを飼っていた。しかしある夏、犬小屋になかなか入ろうとせずにいたその犬を不審に思いながらも、深く考えずに気にかけてあげなかった結果、犬小屋の中に忍び込んでいたと思われるガラガラヘビに噛まれて犬を亡くすという悲しい過去がある。


彼女は大の犬好きだ。


最近仕事が忙しすぎて犬の世話が出来ないと言う息子Bのボーダーコリー犬を、ほとんど毎日のように預かって、公園に行ったりしているという。そしてその話を満面の笑みを浮かべて話すSは、水を得た魚~というような明るい声で本当に楽しげに話してくれた。


それを見てホッとした。


安心し、嬉しく思った。


それには訳がある。


3年前、夫とこの地に舞い戻ってきた私は、久しぶりにSと再会した(その時も同じ店内だった気がする)時に、Sの最愛の娘~私の元・同僚にあたる~が、知らないうちにすでに他界していた事を告げられた。


Sは言った。


「娘のNね、簡単なはずの、全く複雑でもなんでもない手術を受けたのだけど・・・簡単な、本当にシンプルなものだったはずなのに・・・そのまま目を覚まさなかったのよ。そんな事が起きるはず無いのに・・・二度と起きてくれなかったの。」


驚いて息を呑んだ。


何と返して良いのかわからず、情けない事に、ただただ英語でお決まりの "I'm so sorry..." としか言えなかった。


Nは、Sの自慢の娘だった。彼女はダウンタウンでも有名な美人さんで、他のお店の人やお客さんたちにも人気の看板娘だった。結婚して子どもを生み、夫の仕事も順調で、さあこれからもっともっと良い人生を送りましょう!と明るい未来を描いていたのだ。その娘を予期せずに失った事は、Sの心に深い深い傷を作ったに違いない。それは周りから見てもわかる。痛々しいほど・・・。


Sは、時折控えめにNの話を持ち出し、でも長くは続けない。ずっとNの事を話していると、きっと辛くなるのだろう。思い出がまだ重過ぎるのだ。


「来月あたり、夕食にご招待したいんだけど、来てくれる?」


前から何度かそう誘ってはいたが、中々プランが確定せずにいた。でも、来月は実行したい。そう思い告げる。


「あら・・・うれしいわ。ほら、Nが逝ってしまってから、集まりから遠のいていたから・・・。」


そういって視線を落とす。


「じゃあ、ぜひ!Let's have a party, then!」と明るく言うと、ふふ・・・と微笑んだ。


それからすぐ別れたが、ふと思った。


気がついていたけれど聞かなかったこと・・・聞けなかったことー。


Sは、お店の中だというのに、サングラスをかけていた。


たぶん・・・必要ではなかったと思う。でも、聞けなかったのは、もしかしたら波のように時折訪れるNの思い出に、思わず涙してしまうからではないだろうか?と想像したからだ。


特に私はNとSと、一緒に楽しい時を過ごしたという歴史がある。私を見て、話をするということは、過去の記憶をズルズルと引き戻すことになるだろう。良い事も悪い事も含めて。


やはり思い出すのでは無いだろうか・・・?つらいのだろう。


無理やり引き剥がされた愛する者の事を思い、今も涙する。


麻酔が切れたらきっと、きっと目を覚ましてくれる・・・だからー!!、


どれくらいの間、そう思い続けたのだろう?


本当に心が引きちぎられる思いで、NにつながれたLife Supportのスイッチを切ることに同意したのだろう。


来月には必ず計画して、ささやかでも食事会を実行したい。


新しい年明けに、Nとの思い出の鎖から少しだけ解き放たれ、新たに自分を見つめ直す楽しみを取り戻してほしい・・・。


夕食を囲むひと時がそのきっかけになってくれるとうれしい。


大げさでなく、何か心まで温まるような食事をプランしたい。


そして、その時には「サングラスははずそう」と思ってくれたらうれしい・・・。


そんな年の幕開けは、きっと私にも幸せな気分をもたらしてくれると今から思い描く。


”さようなら、グレーな一年!”


そして、"Wish you a very Happy New Year!"





**いつも読んで下さるあなたへ、**
 
今年もありがとう!
こんなに身勝手で拙いブログに訪れてくれる事、心から感謝致します。
来年も良かったら覗いてみて下さい。
また、キッチンの窓から見えた新しい風景をあなたにもお見せしたいです。

良い年をお迎えください