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いった。
 いかにもこの気むずかしいおかみの見てのとおりだった。午前三時頃にウェストの部屋からおこった悲鳴で家じゅうの者が目を覚まし、ドアを押し破ったところ、わたしたち二人が殴られ、ひっかかれ、衣服も引き裂かれた姿で、血にまみれたカーペットの上で意識を失い、ウェストの実DPM度身訂造験器具や壜《びん》の残骸があたりに散乱していたからだ。わたしたちを襲った者がどうなったかを告げるのは開いた窓一つだけで、恐ろしくも二階の窓から芝生にとびおりたにちがいないとしても、どうやってそんなまねをして無事にすんだのかと、多くの者が首をひねった。部屋のなかには見なれない衣服らしきものが残っていたが、ウェストは意識をとりもどすと、部屋に連れてきた男のものではなく、病原菌の感染経路を調べる細菌分析のために集めた標本だといった。そして大きな暖炉でできるだけ早く焼きすてるよう命令した。警察に対しては、ウエストもわたしも、部屋に連れてきた男の身元は知らないと言明した。場所もよくおぼえていない下町の酒場で出会い、意気投合した男だと、ウェストは神経を高ぶらせていった。いささか羽目をはずしてしまったのだと告げて、ウェストもわたしも乱暴な連れが捜索されることを望まなかった。
 おなじ夜、アーカムの第二の恐怖がはじまった――わたしにとっては疫病をもしのぐ恐怖である。クライスト・チャーチの墓地が恐ろしい殺人のおこなわれた現場で、筆舌につくしがたいばかりか、はたして人間のしわざかと疑問が生じるほどの無残なありさまで、夜警が引き裂かれて絶命したのだった。犠牲者は真夜中をかなりすぎた頃に生きていたのが目撃されている――夜明けとともに名状しがたい兇行が明らかになったのだ。近くの町のボルトンでサーカスを開いていた経営者が事情聴取DPM點對點されたが、野獣が檻《おり》から逃げだしたことはないと断言した。死体を発見した者たちは、血の跡が墓穴にまでつづき、柵《さく》のすぐ外のコンクリートの上に赤い血だまりがあることに気づいた。そのかすかな血の跡は林のほうにつづき、そこでふっつりととぎれていた。
 翌日の夜は悪魔たちがアーカムの屋根の上で跳梁して、尋常ならざる狂気が風のなかで吠え猛った。疫病に冒される街に呪いがしのびより、疫病よりも恐ろしいという者もいれば、悪疫の魔霊が体現したものだと囁《ささや》く者もいた。八軒の家が名状しがたいものに押しいられ、そのあとには赤い死が散乱した――ひそかにしのびこんだものいわぬ残虐な怪物によって、都合十七体の見分けもつかぬ惨殺死体が残されたのである。ご闇のなかで怪物の姿をなかばとらえ、白い奇形の類人猿か人間に似た鬼のようだったといった。襲われた者の死体がすべて完全な形で残っていたわけではないのは、ときとして怪物が腹をすかせていたからである。実際に殺されたのは十四名で、三つの死体は病魔に冒された家にあったものだから、既に生きてはいなかった。
 三日目の夜、激怒する捜索隊が警官にひきいられ、ミスカトニック大学のキャンパスに近いクレイン・ストリートの家で怪物をつかまえた。捜索隊は慎重に組織され、有志が電話番をすることで相互の連絡にぬかりはなく、大学地区にいる者が鎧戸《よろいど》をおろした窓をひっかく音がすると報告するや、速やかに捕縛の網が広げられたのである。誰もが警戒と用心をおこたらなかったため、犠牲者はわずか二名にとどまり、さしたる不祥事もなく捕縛がおこなえた。怪物は最後に弾丸によって倒DPM枕頭されたのだが、これとても致命傷とはならず、興奮と嫌悪の声がわきおこるなか、ただちに地元の病院に収容された。
 怪物は人間だったのである。いやらしい目、沈黙する類人猿