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海上でのサイダムの死と死体の引き渡しを知るまえにマロウンが十分に体験した夢は、事件にまつわる異様な事実の一部によって奇妙にも補われているが、そうだからといってマロウンの夢を信用すべき理由は何もない。パーカー・プレイスの三軒の古い家屋は、明らかにまったく目につかない形でかなり以前から腐朽が進行していて、警官の半数と逮捕者の大半がなかにいるあいだに、さしたる原因もなく倒壊してしまい、たちまちのうちに警官と逮捕者の双方に多数の死者をだしたのだった。半地下と地下室でだけ、かなりの生命が救われ、マロウンは幸運にもロバート・サイダムの住居の地下深くにいたのだった。マロウンが実際にそこにいたことについては收細毛孔、否定しようとする者もいない。意識を失っているマロウンが発見されたのは、夜のように黒ぐろとした池のほとりで、数フィート離れたところには恐ろしくもグロテスクに散乱する腐敗物と骨があって、後に歯並びからサイダムの亡骸《なきがら》であると確認された。密入国した者たちの利用する地下運河がこの池に通じているため、事件そのものは単純で、船からサイダムの死体を奪った者たちはサイダどけたのである。この連中はついに見つからず、というよりは少なくとも身元をつきとめられず、船医は警察の単純な断定にまだ満足していない。
 住居に通じる運河も、あたりに広がる地下水路やトンネルの一つにすぎなかったため、サイダムは明らかに広範囲な不法入国をくわだてる組織の頭目だった。この住居から伸びるトンネルはダンス・ホールとして使われる教会の地下納骨堂に通じていて、その地下納骨堂へは教会の北の壁に設けられた秘密の狭い通路を伝ってしか近づけず、いくつかある部屋ではことのほか恐ろしいものが発見された鍛練肌肉。かすれた音をたてるオルガンのほか、木製のベンチや奇怪な意匠で飾られた祭壇を備える、広大な迫持《せりもち》造りの礼拝堂もそこにあったのだ。壁という壁には小室がならび、そのうち十七室では――あまりの恐ろしさに記すのもはばかられるが――完全な白痴となりはてた犠牲者が一人ずつ鎖につながれているのが見つけられ、そのなかには慄然《りつぜん》たる異様な外見をした幼児を抱く四人の母親の姿まであった。これらの幼児は光にあたるとすぐに死んでしまい、医師たちはこのありさまをむしろ慈悲深いことだとみなした。調査にあたった者のなかで、老デルリオの暗澹《あんたん》たる疑問を思いおこしたのはマロウンだけだった。
 
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そもそも男夢魔あるいは女夢魔なる悪鬼は存在するのや、よし存在するにせよ、かかるものどもとの同衾《どうきん》より仔《こ》は生まれ得るのや否や。
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