しあわせな読書時間 ―北欧スウェーデンの絵本・児童書めぐり―

スウェーデン・フィンランド・ノルウェー・デンマーク・アイスランドにゆかりのある作家の書いた絵本・児童書、むかし話を中心に紹介します。小学校や図書館での「読み聞かせ」の記録も。

カテゴリ:むかし話 > スウェーデンのおはなし




ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北部にまたがるラップランドにはサーメ(サーミ)と呼ばれる少数民族が住んでいます。
これはスウェーデンのサーメに伝わる昔話です。



サーメの男、ネイネ・パッゲはたくさんのトナカイを飼っていました。
サーメにとってトナカイは生きるために欠かせない、とても大切なものでした。
ネイネ・パッゲにはもうひとつ大切なものがありました。
それは、ひとり娘のチャルミ。
チャルミはとても美しく、かしこい女の子です。
山の上にはひとりの巨人が住んでいて、たびたびサーメが大切にしているものを力ずくで奪うのでたいそう嫌われていました。
ある日、巨人はチャルミを見かけ、ネイネ・パッゲに「チャルミを嫁によこせ」と言いました。
さて、チャルミはこの無理難題にどう立ち向かうのでしょう?



ラップランドの冬は太陽も上らず、気温も零下数十度に下がり、雪と氷に覆われます。
自然の驚異の前に命が危険にさらされることも多かったでしょう。
北欧の昔話には巨人が登場するものが多くありますが、巨人とはおそらく自然の驚異の象徴だったのだと思います。
巨人が気の毒になる結末ですが、これも理不尽なほどの破壊力を持つ自然の驚異を巨人にたとえ、コテンパンにやっつけて笑い飛ばしてきたからなんでしょうね。



絵を担当された平澤朋子さんは実際にラップランドを訪れたのだとか。
サーメの色鮮やかな民族衣装、トナカイとの暮らしぶり、氷河のためにU字型にえぐれた山のある風景などの絵が、読み手の想像を助けてくれます。
巨人は『三びきのやぎのがらがらどん』に出てくるトロル風ですが、ちょっぴり優し気で愛嬌たっぷりです。




1日1話、1年365日分のお話を集めた「読みきかせお話集」。
秋の巻は9月から11月まで3か月分のお話を収録しています。
日本と世界の民話・神話・古典名作の他、園児用月刊絵本を刊行している出版社らしく、創作絵本も載っていてバラエティに富んだラインナップです。

スウェーデン・北欧の民話では
「いうことをきかないぶた」(北欧民話)
「ものいうなべ」(デンマーク民話)
「魔法の帽子」(デンマーク民話)
アンデルセンの
「すずの兵隊」
「白鳥の王子」
が載っています。

「いうことをきかないぶた」
男の子がえさを食べさせるために飼っているぶたを森に連れていったところ、夕方になっても帰ろうとしないので、男の子はこん棒にぶたを殴るように頼みますが断られ、次に火に頼みますがやはり断られ、水にも雌牛にも……と続き、最後にやっと、というお話。

「ものいうおなべ」はここでも取り上げたことがあります。
貧しい夫婦が雌牛をものいうなべと交換したら、そのなべは金持ちの家に行って、プリンや麦や金貨を持って帰ってきて、最後に金持ちの主人をくっつけて遠くへいってしまう、というお話。

「魔法の帽子」
かぶると姿が見えなくなる。
そんな小人の帽子をかぶった羊飼いは結婚式にもぐりこんで、ご馳走をたらふく食べ、持って帰ろうとポケットにも詰め込みますが、花嫁のスカートが防止に当たって吹っ飛んでしまい、魔法も消えてしまい……というお話。


物語のディテールまでじっくり味わってほしいと思っているので、こういったダイジェスト版は実は持っていないのですが、結構楽しめますね。
お話を聞くのは好きだけど、自分でなかなか読めない、というお子さんでも、1話が見開き2ページという長さで、しかもすべての漢字にふりがながついているので、飽きずに1人で読めそうです。


記念日・行事、主な作品のミニ解説も付いています。
ちなみに今日はサッカーの日なんですって。
サッカーが11人対11人で行うスポーツだからなんでしょう。

スウェーデン民話名作集〈2〉スウェーデン民話名作集〈2〉 [単行本]
出版:春風社
(2011-10-03)

目次

七つの星/卑怯な兄と賢い弟/狼人間/自信過剰/召使いラッセ/夢見る人たち/巨人とリス/王子とフロリンナ/小川の馬/しあわせ/コックのペレ/金のリンゴがなる木/美しいマルグレート/トロールの心臓/至福の島

王女を花嫁にできるから6人兄弟が協力して王女を助けたが、王女は1人を選ぶことができなかった「七つの星」、兄の策略にはめられようとする弟がそれを乗り越え、やがて王になる「卑怯な兄と賢い弟」継母とその娘に意地悪されていた王女が幸せになる「狼人間」、自信過剰な男がしあわせになる「自信過剰」、貧しくなった公爵が小人の召使に助けられ、やがては本当の知恵と力を身に付ける「召使いラッセ」、森でさまよう娘をヘビが助けるが、そのヘビは実は、という「夢見る人たち」、あらゆるものを呑みこむ巨人がリスにやられる「巨人とリス」、約束により海のトロールにさらわれてしまった王子をトロールに仕えるちいさな娘が助ける「王子とフロリンナ」、小川の馬のしっぽで作った弓で弾くと最高のヴァイオリニストになれるが、実は、という「小川の馬」、妖精に取憑かれたヴァイオリン、しんせつであることの大切さ、難しさを語った「しあわせ」、海で親友をなくしたコックが王女と恋に落ち、ピンチをその親友に助けられて盗賊を倒す「コックのペレ」、持ち去られた金のリンゴを探しにいき、やがて父王の後をついで王になる三男(「金のリンゴがなる木」)、殺めようとした少女と結ばれる王子(「美しいマルグレート」)、トロールにさらわれた娘を助け出す「トロールの心臓」、時が破滅に追いやった王と王女の愛(「至福の島」)……。

収録されているのは、どこかで聞いたようなお話もあれば、思いもよらない展開のお話もあります。

美しいこと、お金持ちが善である、そういう時代のお話。
そのころに比べれば、現代は価値観が多様になり、成熟しているなあ、と感じます。
人間はある意見に流されやすい面も持ち合わせていますが、それを自覚することがまず大切、なんてことを民話の中身とは全然違うのですが、思います。

みずうみをしばるはなし (かみしばいとんちばなし)
著者:横田 章
販売元:教育画劇
(1984-01)
販売元:Amazon.co.jp
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スウェーデンに伝わるむかし話「水の精と少年」を幼児向けに脚色した紙芝居です。

親の死後、家は一番上の兄が、家の中のものは2番目の兄がもらいましたが、3番目のペールは汚いなわを1本もらっただけでした。でもペールはクマやリスを味方につけ、水の精ネックをやり込めてお金持ちになる、というお話です。

なわを持ったペールを見かけたネック「ねえ、きみ、何をしているの?」
ペール「うん、湖をしばってやろうと思ってね」

ペールとネックの駆け引きがゆかいで楽しいです(長男はペールを「『ホーム・アローン』の主人公ケビンみたい」と感じたようです)。

それから、黒井健さんが絵を描かれていますが、ご存知のタッチとは全然違う、マンガチックで素朴な味わいの絵です。
でも調べてみたら、似たような作風の絵本がありました。
下の『でんぐりでんぐり』がそれです。
これも黒井健さんだったんですね。

でんぐりでんぐり (けんちゃんとあそぼう 2)でんぐりでんぐり (けんちゃんとあそぼう 2)
著者:くろい けん
販売元:あかね書房
(1982-03)
販売元:Amazon.co.jp
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スウェーデン民話名作集〈1〉スウェーデン民話名作集〈1〉
販売元:春風社
(2010-12)
販売元:Amazon.co.jp
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目次

 箱のなかを見たね
 オーディンのクリスマスステーキ
 忘恩は世の常
 灰かぶり娘
 いたずらイェンスと浮気なおかみさん
 正直は一番の得
 ちいさな舟
 山のトロールにさらわれた狩人
 悪魔よりこわいギューリド
 王子と海の女トロール
 金の卵をうむ鳥
 若者の島

どこかで聞いたな、というお話も含め、貧しい子どもがいろいろな経験をしながら最後には成功する、というタイプのお話が多く収められています。
失敗してもやり直すことができ、悪い人もいっしょに幸せになろうとするなど(悪人に陥れられる話もありますが)、全体的におおらかであたたかく、読んでいると身体に力がみなぎってくるような強さが感じられます。


スウェーデンではフランスの「ペロー童話」、イギリスの「マザーグース」、ドイツの「グリム童話」が刺激になって、19世紀に入ってから、民話が採集されだしたようです。

でも、同じ北欧でもノルウェーやフィンランドに比べるとその数は少ないようです。
他国に支配された期間が長い国は、自国の文化の継承への意識が高くなるのでしょうか。
そう考えるとスウェーデンで語り継がれてきた民話が少ないのはわかるような気がします。

その上、日本語に翻訳されたスウェーデンの民話は本当に少なく、だからこそ、この本の出版は画期的なことだと思います。
2巻も出るようなので楽しみです。

くぎのスープ―スウェーデン民話 (おはなしのたからばこ 12)くぎのスープ―スウェーデン民話 (おはなしのたからばこ 12)
著者:菱木 晃子
販売元:フェリシモ出版
発売日:2009-10-23
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ある夜、一人の男が森の中の一軒家を訪ね、泊めてくれるように頼みます。しぶしぶ床で寝ることを許可した、けちん坊なおばあさんでしたが、くぎ1本と水だけでスープを作れる、という男の話を聞き、興味津々。小麦粉、牛乳、ジャガイモ、塩漬け肉を言われるがままに持ってきて、できたスープはどんな味?

釘や石を使ってスープを作るお話はヨーロッパ中に広まっているようです。

価値があるのは、いったい何?

いろいろな示唆に富んだおはなしです。男がおばあさんをだましている、と言えなくもないですし。もしかしたらこの出会いのあと、おばあさんは(節約はするでしょうが)それまでよりも、おいしいものを作って食べることに喜びを感じるようになるかもしれません。


繰り返しの多い文章はリズミカルで、平易でテンポがよく語りやすいです。絵もおばあさんのいかにもけちんぼうそうな表情、おいしいスープが出来上がるのが待ちきれなさそうにしていたり、あまりのおいしさにたまげている様子など、誇張されてはいますが、生き生きしていて、ふふっと笑えます。ただ、コラージュの技法が使われているのですが、貼られているのがスウェーデン語のものではなく、ロシア語のものです。何でだろう?

スウェーデンの森の昔話スウェーデンの森の昔話
販売元:ラトルズ
発売日:2008-10
おすすめ度:5.0
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トロルが登場するお話、ばかばかしいお話、残酷なお話、不思議なお話など、スウェーデンに古くから伝わる12のお話が収められています。

トロルはぼさぼさの長い髪に、大きな鼻という姿に描かれることが多いようですが、昔話として伝わるトロルは、日本の天狗や山姥に近いように思います。

スウェーデンに住んでいたころ、息子は学校の授業で、森にはトロルがいる、と聞いてきて、「怖いから、もう森には行かない」と宣言していました。現在の日本では天狗も山姥も身近ではありませんが、スウェーデンではまだまだトロルの住んでいそうな森がそこここに残されています。

スウェーデンでは、今はずいぶんと変わってきてしまいましたが、少し前まで、暮らしが森と深く結びついていました。森への親しみだけでなく、自然が持つ、神秘的な力への畏敬がこれらの多様な物語を生んだのだと思います。

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