しあわせな読書時間 ―北欧スウェーデンの絵本・児童書めぐり―

スウェーデン・フィンランド・ノルウェー・デンマーク・アイスランドにゆかりのある作家の書いた絵本・児童書、むかし話を中心に紹介します。小学校や図書館での「読み聞かせ」の記録も。

カテゴリ: 障害のおはなし

赤いハイヒール―ある愛のものがたり (LLブック-読みやすい本-)赤いハイヒール―ある愛のものがたり (LLブック-読みやすい本-) [−]
著者:ロッタ・ソールセン
出版:日本障害者リハビリテーション協会
(2006-06)


アンネリーが欲しかったのは赤いハイヒール。
でも誕生日に母親がプレゼントしてくれたのは野暮ったいサンダルでした。
アンネリーは母親に黙ってサンダルを赤いハイヒールに換えてもらいに靴屋に行くと、そこに通勤途中で見かけ、あこがれていた男性がいました。
アンネリーは彼との最初のデートに赤いハイヒールを履いていきます。
デートから帰ってきたアンネリーに、母親は……。



アンネリーは知的障害を持つ22歳の女性です。
本書ではその女性の自立への思い、親の思いが描かれていますが、実はすべての親子が遅かれ早かれ通る道。

私には中学生の息子がいます。
口ごたえをするようになっていますが、反抗期と呼ぶにはまだまだ。
もっと反抗して欲しいなあ、と思う一方、実際に本書のような場面に出くわしたらどう対応しようかな、と思いをめぐらせたりしました。

読書の困難な人向けに作られた本なので、シンプルで率直な言い回しで書かれています。
回りくどいところがいっさいない分、逆に読者が自分はいったいどうなのかを振り返る契機になりやすいように思いました。

山頂にむかって (LL‐ブック)山頂にむかって (LL‐ブック)
著者:スティーナ アンデション
販売元:愛育社
(2002-12)
販売元:Amazon.co.jp
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リーサのたのしい一日―乗りものサービスのバスがくる (LL‐ブック)リーサのたのしい一日―乗りものサービスのバスがくる (LL‐ブック)
著者:マーツ フォーシュ
販売元:愛育社
(2002-12)
販売元:Amazon.co.jp
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上の本はスウェーデンの知的障害を持つ人たちが、夏休みに山登りにいくお話、下は二分脊椎症を患う人の日常生活を追った内容です。

LLブックというのはスウェーデン発祥の誰でもやさしく読める本です(Lattlast、やさしく読める、という意味)。
知的障害を持つ人や読み書きが難しい人、外国からの移民、高齢者や子どもなどを対象にしています。

ピクトグラムと写真とわかりやすい文章が特徴です。


であるなら、わざわざ翻訳して紹介するものは、障害を持つ方を紹介する本ではなく、物語の楽しさを味わえるようなフィクションであってほしかったな。

これ、なあに? (さわる絵本)これ、なあに? (さわる絵本)
著者:バージニア・アレン イエンセン
販売元:偕成社
(2007-11)
販売元:Amazon.co.jp
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これ、なあに?(さわってごらんなさい)
これはね、ザラザラくんですよ。
ザラザラくんが ひとりで あそんでいる ところなの。

ザラザラくんはときどきバラバラくんと一緒に遊びます。
ある日、ザラザラくんはバラバラくんの家に遊びに行きました。
でもバラバラくんは留守です。
ザラザラくんがかくれんぼの好きなバラバラくんを探しにいくと、ポツポツちゃんやシマシマくん、ツルツルくんに会いました。
でもバラバラくんはいません。
バラバラくんはどこへ?



この絵本には、特殊な印刷が施され絵が隆起しています。
絵を指でさわって楽しむことができるので、目が見える子も見えない子もみんなで楽しめるようになっています。
先月紹介した『ちびまるのぼうけん』には点訳がついていましたが、これにはありません。
でも、目が見えなくても、読んでもらいながら絵を触ってお話を楽しむことができます。
もちろん見える人も、ザラザラ、バラバラ、ポツポツ、シマシマ、ツルツルの感覚を目を閉じて楽しむことができ、見えない人も見えない人も共通の体験ができます。

我が家の子ども達は競うように触っていました。
触る、って楽しいですよね。

この絵本が秀逸だな、と思うのはデザイン性の高さです。
黄色の濃淡と黒、グレーで描かれているのですが、目が見える人が手にとって美しいと感じられます。
絵本を選ぶのは目の見える人。
視覚に訴える絵本だからこそ、本当にこういった本を必要とする目の見えないの人の手に届くのだな、と思います。

このような絵本が、もっと安価で出版されるといいのにな、と思います。



作家のイエンセンさんはアメリカ生まれ。後にデンマークに児童書と視聴覚教材の出版社を設立して、本書が生まれたとのことです(2006年に出版社は閉じました)。

ちびまるのぼうけん (さわる絵本)ちびまるのぼうけん (さわる絵本)
著者:フィリップ ヌート
販売元:偕成社
(2007-11)
販売元:Amazon.co.jp
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「ちびまる」とは文字通り、小さいまるのこと。
このちびまるが同じ大きさのまるや大きなまる、三角、四角などと出会っていろいろな図形を作ります。
文章は文字と点字で、図形の部分は輪郭が隆起していて、見てもさわっても楽しめる絵本です。

図形ばかりなのに、ちびまるが冒険して先に進んでいく、というストーリーになっていて、なかなかおもしろいですし、シンプルな作りなのに、どのページも図形の配置が洗練されていて、洒落ています。

目の見えない子が点字を読みながら図形を楽しんだり、目が見えなくてもお話を聞いて図形を触って楽しむことができるなど、「目の見えない子も見える子も一緒に楽しめる絵本」という副題の通りで、こんなステキな本が出ている事実がうれしいです。


日本の名作の中では「しろくまちゃんのほっとけーき」が点訳されています。
点字絵本はコストがかかりますが、この本は背を綴じず、大きな紙を折りたたむことでコストを下げているそうです。
また、基本的に輪郭部分が隆起していますが、目の見えない人はモノが重なっている絵は認識しにくいということで、フライパンとホットケーキが重なっている部分はホットケーキを示す隆起部分はフライパンより上にある、つまり実際の絵よりも上方にずらすなどの工夫がされています(わかりにくかったらごめんなさい)。
こういったよく知られた絵本を目の不自由な人ももっと楽しめるようになるといいですね。

しろくまちゃんのほっとけーき (てんじつきさわるえほん)しろくまちゃんのほっとけーき (てんじつきさわるえほん)
著者:わかやま けん
販売元:こぐま社
(2009-06)
販売元:Amazon.co.jp
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トーベのあたらしい耳トーベのあたらしい耳
著者:トーベ クルベリ
販売元:少年写真新聞社
(2010-04-08)
販売元:Amazon.co.jp
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トーベはよく聞こえないことがあります。
よく聞こえなかったら、かんを働かせます。
怒られても、がみがみ言われていることしか分からないんです。

トーベが聞こえていない、という事実に気づかずきたお父さんとお母さんでしたが、トーベに検査を受けさせると、やはり聞こえにくい音があり、トーベは補聴器をすることになります。


タイトルに「トーベ」。
作者名も「トーベ」。
この絵本は作者の実体験に基づくものなのだそうです。

聞こえにくい、ということを自分自身も知らず、理由もわからないまま怒られたりして、耳の聞こえにくい人は嫌な思いをすることもたくさんあったでしょう。
トーベみたいな子は、難聴の可能性があるので、言うことを聞かないと怒る前に病院で検査をした方がいいですよ、と啓発する本です。

少し抑え目のトーンではありますが、カラフルに描かれた自宅の室内も病院も北欧らしい雰囲気が漂っていて、しゃれた仕上がりです。
そのためか、「難聴に気づいてあげよう」という押し付けがましさがないので、逆に多くの人に手にとってもらえるのではないかな?

お医者さんに難聴を発見してもらったトーベは裏表紙で、補聴器を使って人の言葉を聞くことができる喜びを書いています。
そして、補聴器をおしゃれに飾ろうと考えるんですよ。
人と違う、などと自暴自棄になったりしないトーベ、ステキな人ですね。

飛べない渡り鳥 リッレヴィン飛べない渡り鳥 リッレヴィン
著者:マッツ ヴァーンブロッド
販売元:汐文社
発売日:2010-03
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リッレヴィンとはスウェーデン語で小さな翼という意味です。そう、リッレヴィンは渡り鳥なのに、翼が小さくて飛べません。どんなに練習しても、器具を発明してもらっても飛べないのです。やがて秋が来て、お母さんやきょうだい達は南の国にわたることになり、リッレヴィンはそのまま残ることになりました。初めはニワトリ小屋に行きますが……。

本書を監修した元スウェーデン国立生涯研究所職員が「日本の読者のみなさんへ」で「子どもは皆平等に扱われるべきですが、ただ、中には特別な支援を必要とする子もいます。他の子と違っている子どもも、その子らしくいる権利が奪われるようなことがあってはなりません。どんな子どもも、みんなと同じであることに縛られず、自分の心に正直に、自分らしく生きることができるはずです。」と述べています。

試練を乗り越えるのは本人の意志次第です。

でも、何でも「自己責任」にするのではなく、最大限に支えるしくみがあるのが当たり前の世の中になってほしいな。

前向きで力強いリッレヴィンに励まされますよ。

わたしたちのトビアスわたしたちのトビアス
著者:ヨルゲン・スベドベリ
販売元:偕成社
発売日:1978-01
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わたしたちのトビアス大きくなるわたしたちのトビアス大きくなる
著者:ヨルゲン・スベドベリ
販売元:偕成社
発売日:1979-01
おすすめ度:5.0
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わたしたちのトビアス学校へいく (小学1年から読みきかせたい本)わたしたちのトビアス学校へいく (小学1年から読みきかせたい本)
著者:ボー スベドベリ
販売元:偕成社
発売日:1998-02
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通常より1本多い染色体を持つダウン症のトビアスの成長を描いた本です。

生まれてきてダウン症だと分かったときの嘆き。
養護学校に入学させるべきか普通学校に入学させるかの迷い。

話はトビアスの兄姉が語っています。

小学校低学年でも分かるように、体はどのように成り立っているのか、トビアスはどんな病気なのか、かみ砕いて説明しています。

大人は知識がある分、障害をもつ子どもの将来を悲観しがち。
でも、兄姉達は、将来を考えないでいられるからこそ、目の前の命を丸ごと受け止め尊重しているように感じられました。
こんな姿勢で接することがきっと大切。
一緒に過ごせば、互いに恐れを感じなくてもすみます。

でもね、成長のスピードがゆっくりだと繰り返し強調しているのは、自分達に言い聞かせているようにも、一方で思いました。

以前、下記の本を紹介しましたが、スウェーデンには障害者の実情を介助者の悩みも隠さず、それでいてユーモアも感じさせる本がたくさんありますね。

アルフォンスシリーズの作者の実体験。
ボッラはすごくごきげんだ―ビルとボッラのお話
著者:グニッラ・ベリィストロム
販売元:偕成社
発売日:1981-01
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ごきげんボッラはなぞ人間!?―ビルとボッラのお話
著者:グニッラ=ベリィストロム
販売元:偕成社
発売日:1982-01
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作者は障害者をテーマにした写真絵本を数多く出版しています。
だれがわたしたちをわかってくれるのだれがわたしたちをわかってくれるの
著者:トーマス・ベリイマン
販売元:偕成社
発売日:1979-01
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だれがわたしたちをわかってくれるのだれがわたしたちをわかってくれるの
著者:トーマス・ベリイマン
販売元:偕成社
発売日:1979-01
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生まれときから口もきけず、体も自由に動かせないという障害を持った7歳と6歳の姉妹の生活を追った写真絵本です。

2つ前に紹介した『ボッラ』の絵本がユーモアを含んだ軽いタッチで障害をもった子どもを取り上げていましたが、こちらは写真ですから、子ども達の表情や様子が具体的に分かります。

本の中で、外出を躊躇する母親が「じろじろ見られたり、振り向かれたりするので、行く気がしなくなっちゃうの」と話しています。

国や自治体が支えるべきところはたくさんあるのでしょうが、一人一人の心がけで改善できる部分も多そうです。

率直に言ってこの本は読んでいてつらいです。でも、障害を持つ、ということについてよく知り、理解するための一歩となる本だと思いました。

この作者による、さまざまな病気を持つ子どもを紹介した本は、日本でもたくさん翻訳されています。

ボッラはすごくごきげんだ―ビルとボッラのお話
著者:グニッラ・ベリィストロム
販売元:偕成社
発売日:1981-01
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ごきげんボッラはなぞ人間!?―ビルとボッラのお話
著者:グニッラ=ベリィストロム
販売元:偕成社
発売日:1982-01
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「アルフォンス」シリーズを書いた作家の絵本ということで、手にとりました。しかし、予想に反する内容でした。

『ボッラはすごくごきげんだ』では、子どもが生まれた喜び、だんだん成長していく喜び、でも、他の子に比べて少し変わっていることへの不安、障害があると診断された絶望、しかし、それを受け入れ、希望を見出していく家族の様子が、『ごきげんボッラはなぞ人間!?』では、4歳の頃のボッラの様子や周囲の人たちの反応などが、軽くユーモアのある調子で描かれています。

これは作者の娘と家族の実際のお話です。重く暗い内容なのに、ユーモアを交えたこの軽い調子は、自分の家族のことだからなのでしょうか。

さまざまな葛藤があったことと思います。だからこそ、「アルフォンス」シリーズがよりいっそう輝いて見えます。

おやすみアルフォンス! (アルフォンスのえほん)おやすみアルフォンス! (アルフォンスのえほん)
著者:グニッラ=ベリィストロム
販売元:偕成社
発売日:1981-01
おすすめ度:5.0
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パパ、ちょっとまって! (アルフォンスのえほん)パパ、ちょっとまって! (アルフォンスのえほん)
著者:グニッラ=ベリィストロム
販売元:偕成社
発売日:1981-01
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