2006年04月25日

84 水痘(みずぼうそう; 水疱瘡)と眼

チキン
患者の顔写真の出典にリンク
水痘症(水疱瘡:chicken pox)の眼症状

最近、2歳のお嬢さんが眼の周りに集族した水泡を作って当医院を受診されました。
発熱も、その他の部位の発疹も、全身倦怠も訴えません。大人なら第一に考えるのは単純ヘルペスだし、子供なら連鎖球菌感染のトビヒもあるしと考えました。

隣の小児科の先生に診ていただきましたら、診断は水痘とのことで抗ウイルス薬のゾビラックスを処方していただきました。

そこで私は、水痘に関連した眼の症状をおさらいしてみることにしました。

 水痘症(水疱瘡)は、ヒトヘルペスウイルスに属する水痘帯状疱疹ウイルスによる感染で発熱とほぼ同時に水疱を伴う発疹の現れるウイルス性感染症です。

水痘ウイルス水痘ウイルス(写真の出典にリンク

(ちなみにヘルペス属には単純ヘルペスの1型と2型、バリセラゾスター(水痘帯状疱疹)ウイルス、サイトマガロウイルス、それにエプスタインバール(EB)ウイルスがあるとその昔習いました。)

水痘は幼児や学童期前半に多く、冬から春にかけて流行する傾向があるとされています。

通常は10歳くらいまでに水痘に感染し、成人での水痘抗体陽性率は90%以上と高いものです。感染しても水痘に発症しない不顕性感染は少なく、麻疹(はしか)同様に強い感染力をもっています。

水痘の発疹は発赤として始まり、2 - 3 日のうちにかゆみを伴う丘疹となり、次いで水疱を形成し、膿疱から痂皮の順に急速に進行します。

水痘の痂皮は数日後には屑となって落ちますが、全身・顔面・頭髪部などに各段階のものが混在します。

水痘の皮疹の数は重症度と相関しますが、細菌性二次感染を起こさなければ水痘の瘢痕は通常残りません。

しかし水痘の患部には色素の脱失や沈着を数か月以上残すことがあります.

水痘に感染してから発症するまでの潜伏期は10‐21日と長く、これも学校などで感染が広がりやすい原因と思われます。

すべての水泡が乾燥して痂皮化すると水痘の感染性はなくなります。

この感染により患者は通常は水痘への終生免疫を獲得します。

水痘は眼に関連しても、いくつかの注目される症状を起こします。



結膜炎

水痘は結膜炎を起こすこともあります(図の出典

◎ 第一に、水痘の初感染では、眼周囲に症状を表すことがあります。

先に述べたように、水痘では発疹がまず躯幹と四肢に生じ、その後に水痘は頚や頭にも広がりますが、この水痘の発疹はやがて小水疱となって破れ、薄褐色の痂皮で被われます。この痂皮は発症から2週間以内に剥がれ落ちます。

水痘は、めったに瘢痕化しませんが、瘢痕が残る場合には、ほとんどが眼の周囲に生じ、陥凹した瘢痕を形成しますので眼科でも要注意です。

これは、水痘ではひっかき傷から、病変がブドウ状球菌などに混合感染を起こすことにも関連があります。

親御さんは、水痘に感染した児童のつめを切っておいてやるなど、その点への注意もぜひ怠りなく見てあげてください。

◎ 2番目に、免疫が弱まると、この水痘ウイルスは帯状疱疹として再度活性化されて末梢感覚神経の分布に従って皮疹を発症します。
HZO
眼帯状疱疹 Herpes Zoster Ophthalmicsの図の原典

額の左右片側を犯す三叉神経第一枝の帯状疱疹は、眼球内にも炎症を起こして、緑内障に発展することもあるので眼科でも重要な疾患です。



ARN

◎ 3番目に注目されるのは、水痘ウイルスが、単純ヘルペスウイルスなどと共に、急性網膜壊死症の原因ウイルスのひとつであることです。
(帯状疱疹ウイルス性網膜炎の図の出典)

この疾患は東北大学の教授を務めた桐沢長徳教授にちなみ桐沢型ぶどう膜炎とも呼ばれているものです。(東北大学の先輩からは、本当の発見チームのリーダーは当時の東北大学助教授で後に秋田大学教授を務めた浦山先生であったと聞いています。)

(追記:昭和46年(1971) 「網膜動脈周囲炎と網膜剥離を伴う特異な片眼性急性ブドウ膜炎について」という表題で「臨床眼科 25巻 3号 桐沢長徳教授退官記念論文集 607〜619頁」に浦山晃, 山田酉之以下でこの疾患が発表されています。)

急性網膜壊死(acute retinal necrosis)は従来は短期間で失明する疾患でした。
最近は硝子体手術を行い、眼内に抗ウイルス剤を直接注入することができるようになって、眼科医にも治療できる疾患になりました。

私は急性網膜壊死(ARN)を帯状疱疹が目におきたようなものと勝手に考えています。




◎ 4番目に妊婦の水痘感染は胎児の奇形を作ることがあります。先天性水痘症候群は、妊娠8 - 20週の妊娠初期での水痘の初感染により胎児に多彩な奇形を作るものです。眼に関連した眼異常としては、水晶体に濁りを生ずる白内障、眼底の網膜に瘢痕を残す脈絡網膜炎、生まれつき眼球自体が小さい小眼球症、などを起こすことが知られています。

もし、妊娠中に患者さんと接触があり、水痘への感染が疑われる場合には、すぐにかかりつけの医療機関に相談されるのがよいでしょう。


カポジ

◎ 5番目の水痘に関連した話題は、水痘ウイルスが免疫不全状態の患者さんにカポジ肉腫(カポジ肉腫写真の出典)と呼ばれる皮膚の病変を起こすことです。

カポジ肉腫は茶色に皮膚の盛り上がる病変でエイズなどでも見られることで注目されています。

水痘ウイルス自体は全人口の95%が免疫学的に罹患した痕跡を持つように、まったく珍しいウイルスでも悪性のウイルスでもありません。

この水痘ウイルスは、宿主の免疫の欠陥の隙間に発症するようなウイルスです。

今日は水痘帯状疱疹ウイルスが起こす眼の症状をまとめてみました。少しは参考になりますでしょうか。

参考文献:Blodi FC, Herpes simplex infections of the eye. Churchill livingstone, 1984


今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。
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kiyosawaganka at 19:12│Comments(0)TrackBack(0)全身疾患と眼、健康一般 

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プロフィール
院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜午後の神経眼科外来を担当)、2006年国際神経眼科学会副会長。日本眼科医会学術部委員
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