2006年05月09日

91 斜変位と核間麻痺

(2007年4月12日、木曜日改定)
136-0057江東区新砂3−3−53
清澤眼科医院 電話5677-3930 ファックス5677-3929 (管理頁


斜変位(斜変位skew deviationの図:出典)と核間麻痺

スキュー管理頁


(MLFの位置:原図の出典)
MLF

◎斜変位、(skew変位、skew deviation、天秤斜視、)と核間性麻痺(medial longitudinal fasciculus症候群, MLF症候群)を説明してみましょう

○ これらは原因の決めにくいわずかな眼球運動障害を生む諸疾患のうち、脳幹に原因があるものの代表的なものです。(このほかには核および核下性の眼球運動障害があります。)

04042○ 脳と脊髄を結ぶ部分が脳幹です。平衡感覚に重要な小脳もここに繋がっています。ここには眼球を動かす神経の細胞の集まり(これを眼球運動神経核と呼びます)があります。

○ その辺りの障害では斜変位(天秤斜視)と呼ばれる眼球の上下方向へのずれや、眼球が水平方向にずれる核間麻痺などが見られます。

○ 斜変位(天秤斜視)では複視も上下であり、脳幹に微小な病変があって垂直性の斜視をきたしている病態です。

○ 脳幹性の眼球運動障害は水平断の詳細なMRI画像で病巣が見つかることもありますが、状況証拠以上の確証が見つからないことも少なくありません。

04043○ 次によく見られるのが、核間性麻痺と呼ばれる内側縦束(MLF)の病変で見られる内側縦束症候群です。

○   この内側縦束症候群の症状は脳で病気がある側の眼(患側眼)の鼻側への動きの制限(内転制限)があります。またこのとき外を向いている犯されていない側の眼が外に向かってぴくぴくと眼振を示します。

○ しかし、冒された側の目も鼻のほうを向けないはずなのに、自分の指先を見つめてもらっておいて、この指を鼻先に近づけると両眼が中央にきちんと寄せられるという特徴があります。

○ つまり、眼球を動かす神経の神経細胞の集まり(核)にも眼球を動かす筋肉にも異常はなくて、異常は眼を動かす指示を出す脳の部分と神経細胞の集まりの間の連絡が途絶えたことによるので、別経路で眼球運動の指示を入れてやれば動きをおこすことが出来るという訳です。この場合の複視は水平方向だけです。

○ 眼位ずれが小さいとプリズムカバーテスト(プリズムを眼の前におき、ペンライトを見ながら片方の眼を順に隠して、眼の向きのずれを見る検査)を行っても眼位のずれを適切に評価しにくい場合があります。

○ 原因診断:これらの原因の多くは小さな脳血管の障害ですから、詳細なMRIなどの画像診断で変化が見つかることもありますが、原因を指摘しきれないこともまれではありません。このほか多発硬化症や脳腫瘍などでこの症状がおきることもありますので精密な診断が必要です。

○ 治療には、まずビタミン剤(メチコバール、ビタメジン、ノイロビタン、)や循環改善剤(カルナクリンやカリクレイン)を処方します。

○   この薬が効いたのか自然に回復したのか分かりませんが、血管障害の患者さんでは、かなりの患者さんでゆっくりしたしかし確実な改善が見られます。



prism

○ 次に、正面で左右または上下の複視が残る場合には眼鏡の中に視線を曲げさせるプリズムを入れます。(プリズムの処方:原図の出典)



04045○    プリズム処方は発症してから2週間程度たって眼位が多少でも安定してからの処方にしたほうが作り直しが避けられるかもしれません。

○ 2−4プリズム(1−2度)と少量ならば硝子にこれを入れ込み、10から20プリズム(5から10度)と大きければビニール製のフレネルのプリズムを硝子の眼鏡に貼ってもらいます。

○ 眼球のずれ、すなわち視線のずれのすべてを眼鏡に入れる必要はありません。

○   斜めのずれの場合には垂直方向と水平方向を左右の硝子に振り分けることもできます。

○ 斜視角の半分でもプリズムにいれてやると、楽になったと言ってもらえる場合が多々あります。

   (どうしてもだめな場合には片眼帯をして片目を隠してもらいます。)

○    フレネルの膜プリズムで困る点は、表面の縞に垢がたまって容易に透光性が劣化することです。したがって、時々は超音波洗浄などで眼鏡を洗ってやる必要があります。

04046○   プリズムをかけると眼がその位置に順応しますので、あまり掛けたりはずしたりを繰り返すと、そのたびにずれが逆に感じられて却って苦しくなります。

○    ですから、プリズム眼鏡を作るなら、務めて掛け続けてもらうことが必要です。

○ 手術で眼の向きを直すことも選択肢としてはあります。が、あまり多くは行われていないのが現状と思います。是非にと言うのであれば、主治医に斜視の専門家を紹介してもらうのが良いでしょう。(御来院下されば上手に手術で直す諸先生を紹介いたします。)



04047◎    今回は脳幹の障害で起きる複視の大きな原因の2つ(斜変位と核間麻痺)を簡単に説明しました。

このような状況でお悩みであり、現状に納得できないで居る方が居られましたら、日本中に居りますので、担当の眼科で紹介を求めて、各地の神経眼科の専門家を探しになってお尋ねください。

04047眼鏡とプリズムに関しては大阪大学の不二門先生が有名(著書にリンク)です。私は、このプリズム処方量の決定を主に東京医科歯科大学に患者さんを自分でつれて行き、視能訓練士の山下牧子さん(著書にリンク)にお願いしています。この本の中に私たちのプリズムに関するコンセンサスを書いた部分2ページがあります。ご希望の方は清澤眼科医院までこの部分のコピーをご請求ください。)

ここをクリックいただくとお祖母ちゃんにも分かる目の病気:病名解説索引にリンクします。また、こちらから清澤眼科医院診療予約フォームへリンクします。

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。これからも病気の説明を書きますので質問をお寄せください。


清澤眼科医院通信最新ページへ(リンク)します



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kiyosawaganka at 13:52│Comments(3)TrackBack(0)この記事をクリップ!複視、眼球運動 

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この記事へのコメント

3. Posted by    2008年03月25日 20:14
5 私は現在、51歳の壮年です。現在私は脊髄小脳変性症という神経難病です。その為に、若干の複視があります。友人からプリズム眼鏡を進められたのですが、これを使用すると複視が改善するのでしょうか?
お答え:大変なことが分かります。眼球の動きに左右の差が有ると両眼性の複視を感じます。通常は麻痺した筋肉や神経が尤も働くべき方向に視線を向けたときに複視は最も大きく表れます。プリズムは視線の方向に関係なくあらゆる方向での視線の補正が同じ方向で同じ量ですから、単にずれを減らしているだけで、動きの悪い眼球を動く様に直すものでは有りません。試した患者さんのうちで、使いこなせるのは7割程度を超えません。特にこのような変性性の疾患では成功率は低いです。でも、場合によってはそれで症状が大分楽になる場合があります。一度受診していただき、眼筋麻痺の性質や量を測定した上で、プリズム眼鏡の処方を検討させていただけたらと思います。お電話でプリズム眼鏡の是非を見てほしい棟お伝えの上で予約をして、一度当医院をお訪ねください。眼科の専門医療施設でも麻痺性斜視に対するプリズム眼鏡の扱いが出来る医院病院は少ないですから、どこでも良いというわけではありません。
2. Posted by しんのす   2007年04月16日 17:41
複視とめまいで困っております。「MS疑い」で入院の既往があり、現在は疼痛の緩和のため、「テグレトール」を内服しています。(この1ヶ月は疼痛がなく、内服していません。) 複視の症状が出てから今年で7年目になり、それなりに慣れてしまっていたのですが、この1ヶ月、目の前の物が急に動くと、それにつられて軽いめまいの症状があり、眼帯を外すことができません。上下・左右のずれが大きすぎるため、プリズムレンズの適応にならないとのことです。MSでなければ手術するとのことでした。
東京に行った際に神経眼科のある病院に受診し、医師からは「斜変位と核間麻痺」と言われ、地元の大学病院の神経眼科を受診しましたが、MRIは異常なしでした。(遠方のため、受診が困難です。)
今回は、いつものような強い痛み(三叉神経痛)もなく、目つきの変化もなく、神経内科の医師からは、「眼振はない。」とのことです。 今月は1ヶ月内服していませんが、長年テグレトールを内服している影響はあるでしょうか? 見え方の変化はさほどないように思えますが、経過を見ていても良いものでしょうか? 

お答え:多発硬化症の眼症状には、よく知られている中心暗点で視力が下がる球後視神経炎のほかに、眼球運動の障害を示すものがあります。眼球運動障害例には、更に眼振を伴うものも居ます。多発硬化症では、視神経炎の症状がいつか消えるのと同様に、通常は眼球運動の異常も数ヶ月で消えてゆくのケースが多いのですが、中には重症でその症状が残ってしまうものが混ざっています。ご質問の患者さんはこのような例かと思われますが、多発硬化症の再発では通常明らかで激烈な症状が出ますので、今回はそうではなさそうなので、様子を見ても良いように感じます、その辺を勘案しながら次回の予定診察日まで待てるか、早々に現在の主治医に再診を頼むかご検討ください。私に見せていただけるなら、見当違いなコメントは避けられるでしょう。お大事に。清澤
1. Posted by 神津 仁   2006年12月06日 18:38
4 清澤先生、はじめまして、神津内科クリニックの神津と申します。
本日skew deviationとataxiaを生じた患者さんが来られました。こちらのHPで復習させていただきまして、勉強になりました。有難うございました。

ちょっとミスプリがあったので、お知らせいたします。

◎斜変位、(skew変位、skew denviation、天秤斜視、)→deviationでnが余計です。

よろしくお願いいたします。

お答え:ご指摘感謝します。訂正いたします。清澤

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院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜の外来を担当)、順天堂江東高齢者医療センターで手術(順天堂大非常勤講師)。2006年国際神経眼科学会副会長。

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