2006年05月09日

92 緑内障手術後眼の濾過胞感染

マイトマイシンマイトマイシン2














マイトマイシンCはDNAとの複合体を作り細胞の増殖を抑えるので、抗癌剤としても緑内障の手術でも用いられます。(複合体のイメージ図:出典)はじめから病気の眼の図では苦しいのでこの図からはじめましょう。

緑内障手術後の眼における濾過胞の感染(図の出典)
について


burebitis


trabeculectomy
緑内障の治療にはまず点眼薬が用いられ、次には内服薬を加えて、最後に繊維柱帯切除術という手術が行われてきました。
トラベクレクトミー(線維柱帯切除術の概念図:出典にリンク)


最近は、緑内障点眼薬の進歩が著しく、手術にいたる例は比較的少なくなっています。

その手術法は、緑内障が眼球の中の水圧が期待値よりも高くなるものでありますから、眼球の中の水(房水:ぼうすい:と呼びます)を眼球の外の結膜の下に導き出す道を作る手術が行われます。

この中でも、もっとも典型的なものが線維柱帯切除術と呼ばれるものです。

この手術では、出来た水の出口が自然に塞がらないために、ファイブエフユー(5FU)やマイトマイシンC (MMC)などの抗癌剤をしばらく傷口につけて、(この後はよく洗って抗癌剤の残留は最小限にするのですが)、組織の再生を抑えることで、眼圧の再上昇を防ぐ処置が行われています。

この操作の結果、緑内障手術での眼圧降下作用の達成率は大いに上がりましたが、傷口の周りが弱くなるので、手術後の眼にばい菌が入って、眼球に感染が起きる(もっとも分かりやすくいえば“眼球が腐る“)と言う事態が起こる可能性も増してしまいました。

千寿製薬の担当者が、本日、この治療法を述べた日本緑内障学会のセミナーをまとめたパンフレットを持ってきてくださいました。

演者の望月清文先生によると手術後相当期間(5年くらい)たってからの感染が2115眼の線維柱帯切除術に対して53眼におきたそうですので約2.5%に起きていたことになります。

この数字は、世界中のほかの施設でも似たような数字で、驚くべき高い比率です。

(私も大学時代に自分で外来を見て居た患者さんの濾過胞に感染を起こしてしまい、入院してもらって、やっと治療した思い出があります。)

s epi


原因になる細菌は、濾過胞の炎症では表皮ぶどう球菌(図の出典)(45%)、黄色ブドウ球菌(25%)あたりが多く、これが虹彩毛様体の炎症を経て硝子体の炎症になるとこれらの表皮ぶどう球菌(30%)、黄色ブドウ球菌(10%)は比較的少なくなって、連鎖球菌30%や嫌気性菌(30%)あたりが増えてくるということのようです。

硝子体streptococcus

連鎖球菌(図の出典

この発表で注目されるのは予防的な抗菌薬の投与は有害無益だとしている点です。

(私は先の患者さんを経験したあと、予防的な抗菌剤を出してなかったことを一時期悩みましたが、感染予防の目的ならば難しい細菌の感染を作るから抗菌剤は処方しないでおくというのが正解と言うことのようです。)

それではどうするかと言うと、感染の初期を捉えて強い抗菌剤(フルオロキノロン第四世代の抗菌剤:たとえばガチフロ)を十分に集中して使えと言うのが結論でした。

もう一人の講演者の桑山泰明先生は感染の広がりと薬剤投与の手段を簡明にまとめています。

濾過胞の炎症(blebitisブレビティス)ではフルオロキノロン(すなわちガチフロやクラビット)とセフメノキシム(すなわちベストロン)の点眼、夜間のオフロキサシン軟膏に加えてバンコマイシン(すなわち塩酸バンコマイシン)とセフタジジム(すなわちモダシン)の結膜下注射、

ketumakuka


結膜下注射(図の出典、これは別の手術の時の図ですが)
虹彩毛様体の炎症(iridicyclitisイリドサイクライティス)に広がれば、上記点眼や軟膏に加えて、バンコマイシン(すなわち塩酸バンコマイシン)とセフタジジム(すなわちモダシン)の前房内注射

硝子体
硝子体炎の硝子体手術(図の出典

硝子体の炎症(vitritisビトライティス)になると点眼と軟膏に加えてバンコマイシン(すなわち塩酸バンコマイシン)とセフタジジム(すなわちモダシン)の硝子体注射か硝子体切除を勧めています。

(感想:商業が入り込まないようにしたいのは分かりますが、それにしても薬剤名を一般名で記載されると本当に理解しにくいです。緑内障関連の薬の話ではいつもそう感じていますが、一般名から商品名への読み替えが不自由な(不勉強な)人にも分かるように(併記など)してはもらえないものでしょうか?

これは、決して演者への批判ではありません。)

セフタジジムと言われてもぴんと来ず、モダシンといいなおしてみると知識量は何も変わらないのに判ったような気になる私です。)
少し分かりにくい話になってしまいすみません。

緑内障手術後の眼にばい菌が入ったと言う患者さんの関係者が見てくれることもあろうかと思って、この記事をまとめてみました。

参考:第16回日本緑内障学会ランチョンセミナー、濾過胞炎(平成17年9月)パンフレット

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。

清澤眼科医院通信最新ページへ(リンク)します



管理頁

携帯SEO
今日:
昨日: 


kiyosawaganka at 21:02│Comments(1)TrackBack(0)この記事をクリップ!緑内障 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by SS   2007年05月25日 18:32
はじめまして。岡山県に住む37歳の女性です。おととい眼科の先生より眼圧が20近くあるので70歳くらいには失明する恐れがあるので手術を受けるようにいわれました。しかし、多くの人から手術をしてもなかなか良くならないと聞きます。本当に手術は効果があるのでしょうか?また2週間程入院といわれましたが、日帰りの手術もできるとインターネットでは、書いてあります。近い将来日帰り手術も可能でしょうか。仕事もあるので短いほうがいいのですが。宜しくお願い致します。

お答え:症例によりますので一般論としてお聞きください。眼圧が20ミリでも経過観察中に視野欠損に進行がある場合手術をおすすめする場合は多々あると思います。最近の点眼薬の進歩で眼圧が15ミリ以下にコントロールできることが多くなりましたので、手術を行う件数は確かに減って居ます。しかし、主治医が手術を進めるからにはそれなりの点眼薬だけではすまない理由があるのかと推察します。
緑内障の手術は、それが単なるレーザーではなくて、緑内障に標準的な腺維柱帯切除術ならば(白内障とは違って)結果に対して経験が物を言うような手術ですから、緑内障の手術経験の多い先生のセカンドオピニオンを求めてみてもよいかと思います。
上記のような難しい手術で、翌日や翌々日に状態を見ながら縫合糸を緩める必要が有る場合もありますので、外来手術で良いと主治医が言うのでなければ、最低でも7日ぐらいの入院期間は覚悟したほうが結果は良いでしょう。私は最近(開業後)は緑内障手術をしていませんが、私が関係していて患者さんを手術していただくことのある東京医科歯科大学付属病院でも、線維柱帯切除術でも術後に眼圧が安定するまで、その程度の入院期間を戴いていると思います。

コメントする

名前
URL
 
  絵文字
 
 
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

プロフィール2
院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜の外来を担当)、順天堂江東高齢者医療センターで手術(順天堂大非常勤講師)。2006年国際神経眼科学会副会長。

ジオターゲティング