2006年12月10日
227 鞍結節髄膜腫の眼症状と治療
鞍結節髄膜腫 Tuberculum SellaeのMeningioma の眼症状と治療 (管理頁)

40歳代の女性の鞍結節髄膜腫の患者さんが見えましたので、今回は鞍結節髄膜腫に付いての眼科医としての説明をして見ましょう。ちなみにこの1年半で自分の医院の新患としては2人目です。医科歯科大学の神経眼科外来にはもっと多くの患者さんが受診しています。
一人めの患者さんは、片方の眼がほとんど見えない状況で来院されたのですが、脳外科できれいな手術をしていたき、視力は完全に回復し視野もほぼ正常に回復しています。ともに40-50歳代の女性で、主訴は片方の眼の視力低下でした。

脳下垂体および視神経交差が存在する脳底部と呼ばれる(両眼の後方で頭蓋の底)の部分は様々な種類の脳腫瘍が発生しやすい部分です。
この部分に見られる腫瘍には下垂体腺腫(この頻度がもっとも高いです)、頭蓋咽頭腫そして髄膜腫、(腫瘍では有りませんが脳の動脈瘤も発生します)などが含まれて居ます。

今回説明しようとする鞍結節髄膜腫もその中に含まれる良性の腫瘍(通常、転移をしないもので、悪性のいわゆる癌ではないという意味です)です。
髄膜腫というのは、頭蓋骨を包んでいる骨膜から出る腫瘍ですから、脳腫瘍に分類されますが、グリオーマ(神経膠腫)のように脳の中にできるものではなく、脳の周りの骨にできる腫瘍で、脳や視神経それ自体からははじめから離れています。

この辺りの髄膜腫には前方から1)嗅神経の付いている溝あたりから出る嗅神経溝髄膜腫、2)蝶形骨の大翼にでる蝶形骨縁髄膜腫、3)トルコ鞍と呼ばれる下垂体の入っている骨の窪みの前端の突起にできるもの、4)視神経を包む髄膜に発生する視神経隋膜腫などが含まれて居ます。
今回説明しようとする鞍結節髄膜腫は蝶形骨の上の平面やトルコ鞍の結節に発生します。
腫瘍は成長し大きさを増すと同時に、視神経および視神経交叉を圧縮します。
共通の最初の徴候は、片眼の視力低下と左右が非対称な(耳側からの)視野欠損です。視力の低下はわずかでもよいのですが、瞳孔の直接対光反応が左右不対称に弱まっている(relative afferent pupillary defect:RAPDがあると表現します)ことから明らかに医師には視神経障害があることが確信できます。腫瘍が大きいときには(感情の起伏が大きく怒りっぽくなるなど)前頭葉の症状がでる場合もあります。

核磁気共鳴画像(MR1)では腫瘍と視神経との関係がよく解ります。腫瘍は視神経および視神経交叉を圧縮し、さらに内頸動脈を横に押し、やがて前大脳動脈を囲い込むようになります。

手術は通常、視力の低下に対して行われ、患者の大半は術後に視力の回復を示します。頭痛で見つかり視覚症状のない患者においても、手術は将来の視力障害を考えて考慮されます。大きい腫瘍が視神経、内頸動脈、前大脳動脈を包み込んで強い癒着が有る場合には腫瘍を少し残して切除したほうが視力の予後は良いでしょう。
放射線療法は術後のMRI画像で再発の証拠が見られる場合や、全摘出が行われなかった場合に推奨されます。
ほとんどの患者では、蝶形骨大翼の上の前頭葉を持ち上げる形での右側の前頭下の開頭が使用されます。 顕微鏡下での注意深い手術で腫瘍の内部減圧と鞍結節に沿う血液の障害を避けて行い、必要なら手術時に視神経管も開きます。

マサチューセッツ総合病院のOjemannらの報告では、23人の患者の内で20人が女性で、70歳を越える5名を含め、20-77歳に分布していました。この23人の患者のうち、20人は良い手術成績でしたが、2人の患者では術前の前頭葉症状が改善せず、1人には非定型髄膜腫の再発があったと報告されています。
術後の視野は13人で改善、8人では変わらず、2人だけは悪化しています。2人の患者に術後の一時的な精神機能異常があらわれています。 尿崩症(下垂体不全に因る多尿)が起きても一時的だったということです。
上記の患者の6人に放射療法が用いられています。 この6人の患者のうち5人では、その後の再発や成長は3ー9年の経過中見られていないということです。
参考にしたハーバード大学マサチューセッツ総合病院のHP⇒リンク

髄膜腫の組織像を引用して置きます⇒出典へ
追記:このように手術成績や視力予後は比較的良好なのが鞍結節の髄膜腫です。私はは下垂体近傍の腫瘍に対しては最近では鼻腔から蝶形骨を経由して内視鏡での手術が行われるかと思って居ましたが、ハーバードのページを見ますとほぼ同じ部分の良性腫瘍でも下垂体腺腫ではなく鞍結節髄膜腫が疑われる場合には開頭手術を行うようです。術式は脳外科の主治医が患者さんと相談して決める事柄ですから、脳外科の先生に良く伺ってください。
今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。
清澤眼科医院通信最新ページへ(リンク)します

今日:
昨日:
参照

40歳代の女性の鞍結節髄膜腫の患者さんが見えましたので、今回は鞍結節髄膜腫に付いての眼科医としての説明をして見ましょう。ちなみにこの1年半で自分の医院の新患としては2人目です。医科歯科大学の神経眼科外来にはもっと多くの患者さんが受診しています。
一人めの患者さんは、片方の眼がほとんど見えない状況で来院されたのですが、脳外科できれいな手術をしていたき、視力は完全に回復し視野もほぼ正常に回復しています。ともに40-50歳代の女性で、主訴は片方の眼の視力低下でした。

脳下垂体および視神経交差が存在する脳底部と呼ばれる(両眼の後方で頭蓋の底)の部分は様々な種類の脳腫瘍が発生しやすい部分です。
この部分に見られる腫瘍には下垂体腺腫(この頻度がもっとも高いです)、頭蓋咽頭腫そして髄膜腫、(腫瘍では有りませんが脳の動脈瘤も発生します)などが含まれて居ます。

今回説明しようとする鞍結節髄膜腫もその中に含まれる良性の腫瘍(通常、転移をしないもので、悪性のいわゆる癌ではないという意味です)です。
髄膜腫というのは、頭蓋骨を包んでいる骨膜から出る腫瘍ですから、脳腫瘍に分類されますが、グリオーマ(神経膠腫)のように脳の中にできるものではなく、脳の周りの骨にできる腫瘍で、脳や視神経それ自体からははじめから離れています。

この辺りの髄膜腫には前方から1)嗅神経の付いている溝あたりから出る嗅神経溝髄膜腫、2)蝶形骨の大翼にでる蝶形骨縁髄膜腫、3)トルコ鞍と呼ばれる下垂体の入っている骨の窪みの前端の突起にできるもの、4)視神経を包む髄膜に発生する視神経隋膜腫などが含まれて居ます。
今回説明しようとする鞍結節髄膜腫は蝶形骨の上の平面やトルコ鞍の結節に発生します。
腫瘍は成長し大きさを増すと同時に、視神経および視神経交叉を圧縮します。
共通の最初の徴候は、片眼の視力低下と左右が非対称な(耳側からの)視野欠損です。視力の低下はわずかでもよいのですが、瞳孔の直接対光反応が左右不対称に弱まっている(relative afferent pupillary defect:RAPDがあると表現します)ことから明らかに医師には視神経障害があることが確信できます。腫瘍が大きいときには(感情の起伏が大きく怒りっぽくなるなど)前頭葉の症状がでる場合もあります。

核磁気共鳴画像(MR1)では腫瘍と視神経との関係がよく解ります。腫瘍は視神経および視神経交叉を圧縮し、さらに内頸動脈を横に押し、やがて前大脳動脈を囲い込むようになります。

手術は通常、視力の低下に対して行われ、患者の大半は術後に視力の回復を示します。頭痛で見つかり視覚症状のない患者においても、手術は将来の視力障害を考えて考慮されます。大きい腫瘍が視神経、内頸動脈、前大脳動脈を包み込んで強い癒着が有る場合には腫瘍を少し残して切除したほうが視力の予後は良いでしょう。
放射線療法は術後のMRI画像で再発の証拠が見られる場合や、全摘出が行われなかった場合に推奨されます。
ほとんどの患者では、蝶形骨大翼の上の前頭葉を持ち上げる形での右側の前頭下の開頭が使用されます。 顕微鏡下での注意深い手術で腫瘍の内部減圧と鞍結節に沿う血液の障害を避けて行い、必要なら手術時に視神経管も開きます。

マサチューセッツ総合病院のOjemannらの報告では、23人の患者の内で20人が女性で、70歳を越える5名を含め、20-77歳に分布していました。この23人の患者のうち、20人は良い手術成績でしたが、2人の患者では術前の前頭葉症状が改善せず、1人には非定型髄膜腫の再発があったと報告されています。
術後の視野は13人で改善、8人では変わらず、2人だけは悪化しています。2人の患者に術後の一時的な精神機能異常があらわれています。 尿崩症(下垂体不全に因る多尿)が起きても一時的だったということです。
上記の患者の6人に放射療法が用いられています。 この6人の患者のうち5人では、その後の再発や成長は3ー9年の経過中見られていないということです。
参考にしたハーバード大学マサチューセッツ総合病院のHP⇒リンク

髄膜腫の組織像を引用して置きます⇒出典へ
追記:このように手術成績や視力予後は比較的良好なのが鞍結節の髄膜腫です。私はは下垂体近傍の腫瘍に対しては最近では鼻腔から蝶形骨を経由して内視鏡での手術が行われるかと思って居ましたが、ハーバードのページを見ますとほぼ同じ部分の良性腫瘍でも下垂体腺腫ではなく鞍結節髄膜腫が疑われる場合には開頭手術を行うようです。術式は脳外科の主治医が患者さんと相談して決める事柄ですから、脳外科の先生に良く伺ってください。
今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。
清澤眼科医院通信最新ページへ(リンク)します
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この記事へのコメント
2. Posted by 川 2008年10月24日 22:50
お返事のお礼が遅くなり失礼いたしております。
頂いたお返事などを良く検討し、決断したいと思っています。
お忙しいところ、早々のお返事をありがとうございました。感謝いたします。
お答え:どうぞお大事に。
頂いたお返事などを良く検討し、決断したいと思っています。
お忙しいところ、早々のお返事をありがとうございました。感謝いたします。
お答え:どうぞお大事に。
1. Posted by 川 2008年10月20日 00:20
初めまして、突然こちらに書かせて頂く失礼をお許し下さい。
実は父(77歳)が今年の夏に白内障で手術をいたしましたが、左目の視力が回復せず、MRIをとり、左目の後ろに4.5センチほどの髄膜腫があることが発覚いたしました。主治医の先生は父が高齢と言う事で、手術を進めていらっしゃらない様です。しかし、手術をしないといずれ左目は見えなくなってしまうと言われています。もし、手術をせず、いずれ左目の視力が無くなり、右目だけになった場合、やはり右目を酷使する事になると思うのですが、その場合、酷使による悪影響が出るような事がありますでしょうか?
また、主治医の先生は右目にも髄膜腫の影響が出て視力が無くなる事はないでしょうとは言われています。
眼科医でいらっしゃる清澤先生にお考えを伺えればと思い、こちらに書かせて頂きました。
お答え:大きな頭蓋内腫瘍でしかも良性なので、全摘出せずという選択肢は有りうるでしょうが、年齢だけでは手術を避けるべき年齢という事も無いでしょう。脳外科医が自分の力量とも勘案して、患者さんの命などを危険にさらすと脳外科医が考えるならば、手術は回避しようと考える可能性も有ります。患者さんにとって、手術しようという術者が最善の術者とは限りません。私にも実際の患者さんを見ないとそこはなんともいえません。また残存視覚能力も手術するか否かには関連します。もう失明しているなら眼科として手術を後押しする意味は有りません。それなりの視機能が残っているなら脳外科医の手で救って欲しいところでは有ります。ただし、片方の目を失って残る目に負担がかかるから手術を勧めるというストーリーは成立しないと思います。
くれぐれも慎重にご検討ください。
実は父(77歳)が今年の夏に白内障で手術をいたしましたが、左目の視力が回復せず、MRIをとり、左目の後ろに4.5センチほどの髄膜腫があることが発覚いたしました。主治医の先生は父が高齢と言う事で、手術を進めていらっしゃらない様です。しかし、手術をしないといずれ左目は見えなくなってしまうと言われています。もし、手術をせず、いずれ左目の視力が無くなり、右目だけになった場合、やはり右目を酷使する事になると思うのですが、その場合、酷使による悪影響が出るような事がありますでしょうか?
また、主治医の先生は右目にも髄膜腫の影響が出て視力が無くなる事はないでしょうとは言われています。
眼科医でいらっしゃる清澤先生にお考えを伺えればと思い、こちらに書かせて頂きました。
お答え:大きな頭蓋内腫瘍でしかも良性なので、全摘出せずという選択肢は有りうるでしょうが、年齢だけでは手術を避けるべき年齢という事も無いでしょう。脳外科医が自分の力量とも勘案して、患者さんの命などを危険にさらすと脳外科医が考えるならば、手術は回避しようと考える可能性も有ります。患者さんにとって、手術しようという術者が最善の術者とは限りません。私にも実際の患者さんを見ないとそこはなんともいえません。また残存視覚能力も手術するか否かには関連します。もう失明しているなら眼科として手術を後押しする意味は有りません。それなりの視機能が残っているなら脳外科医の手で救って欲しいところでは有ります。ただし、片方の目を失って残る目に負担がかかるから手術を勧めるというストーリーは成立しないと思います。
くれぐれも慎重にご検討ください。

