2007年05月24日

346 眼瞼痙攣への対応

眼瞼痙攣への対応という随筆のような記事を日本の眼科の編集室から頼まれました。(管理頁

このブログの前の記事(299 眼瞼痙攣、片側顔面痙攣の清澤眼科医院における最新の治療について)を参考に書き加えて3500文字のこの形にしました。依頼状に合わせてさらに短縮して1800字にしましたが、十分な内容のあるこの形のままここに掲示します。

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眼瞼痙攣への対応(眼科医の手引き、日本の眼科の依頼原稿)

清澤眼科医院  清澤源弘







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眼瞼痙攣に属する疾患には
1)特に原因が見られずに起きている本態性眼瞼痙攣、
2)パーキンソン病などの神経疾患に伴う症候性眼瞼痙攣、そして
3)精神科の治療薬やデパスなどの眠剤の長期内服によっておきる薬剤性眼瞼痙攣
などが含まれて居る。また、血管による顔面神経の圧迫が原因と考えられている片側顔面痙攣や、自分の意思で眼を開くことができなくなる開瞼失行などの特殊な病態も含まれている。

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そこでこれらの疾患の治療というと、まずはボトックス注射が思い浮かべられるが、ざっと考えただけでも、眼科医には眼瞼痙攣の治療としてボトックス注射だけではなくさまざまな対応が可能である。今回はそれを紹介してみよう。

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1) 眼瞼けいれん自己診断
まず、その患者さんが持っている疾患が眼瞼痙攣かどうか?眼瞼痙攣だとしても原因が何か?を探るには、あらかじめ準備された型式に従った問診で調べるのがよいだろう。これは若倉雅登先生の発案で1)、点数で評価されるのが特徴である。

眼瞼けいれん自己診断(治療前用)
1) 次の項目で、自分であてはまると思われるものに○をしてもらう。
(  ) まばたきが多い。
(  ) 外に出ると、または屋内でもとてもまぶしい。
(  ) 目を開いていられない(目をつぶっていたい)
(  ) 目が乾く、しょぼしょぼする、痛いなど、いつも目の事が気になる。
(  ) 人ごみでも人や物にぶつかる、またはぶつかりそうになる。
(  ) 電柱や立木、停車中の車などにぶつかったことがある。
(  ) 太陽や風、階段の昇降が苦手で外出を控えている。
(  ) 危険を感ずるので車や自転車の運転をしなくなった。
(  ) 手を使って目を開けなければならない時がある。
(  ) 片目をつぶってしまう。
○の数が0個なら正常で、1〜2個なら眼瞼痙攣の疑い、3個以上だと眼瞼痙攣の可能性が高いとする。


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2) 次に上の質問も丸が0でないなら次に挙げる事をやってみて、自己評価と医師による評価をしてみてもらう。
A、軽瞬テスト:眉毛部分を動かさず、軽い、歯切れの良い瞬きをゆっくりする。
B、早瞬テスト:出来るだけ早くて軽い瞬きを10秒間してみる
C、強瞬テスト:強く目を閉じ、すばやく目を開ける動作を10回してみる
これらの各項目は0−3点の4段階に評価する。9点はまず出ないということで、0点なら眼瞼痙攣では無いかごく軽症例、1〜2点なら軽症眼瞼痙攣、3〜5点は中等症の眼瞼痙攣、6〜8点を重症眼瞼痙攣とする。

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2、涙液の評価
次にこの疾患が眼瞼痙攣らしいということになると、一般的な眼科検査に加えて、涙液の量(シルマーテストなど)と質(涙液層破壊時間など)に対する厳密な評価が必要である。眼瞼痙攣にはドライアイの合併は少なくない。

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3、画像診断
必要の有無を判断した上で、目的部分を絞り込んだ指示に従った画像診断、つまりCT、MRI、そして場合によってはPETによる脳局所ブドウ糖消費測定や脳内神経受容体分布の測定を依頼する。眼瞼痙攣では基底核の障害が見つかることがあるし、片側顔面痙攣では顔面神経が血管によって圧迫されている画像が見えることがある。後者にはジャネッタ手術という開頭してシリコンスポンジをはさむ手術があるが、私は第一選択としては推奨していない。

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4、合併するドライアイに対する厳格な治療コントロール
ここから具体的な治療が始まる。ドライアイに対する治療には、風除け眼鏡の調整、各種保湿剤の適正な種類と回数での点眼、加湿機の設置などによる室内の適正な加湿の指導、涙点プラグの適正な使用などの対策を立てる。これらによって、多くのミオキミアや軽症の眼瞼痙攣は、ボトックス注射の前の段階でのコントロールが可能である。

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5、適切な注射位置と注射量によるボトックスの投与。
原疾患と前回注射時の反応を見て一箇所あたりの投与量には1ユニットから5ユニット程度の大幅な増減を行うことが必要である。また、投与箇所も症状によって6-20箇所と変える。その内訳は左右各眼の周囲に6箇所、左右の口角にそれぞれ4箇所である。

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6、ボトックス投与後の評価
あらかじめ用意された若倉先生の定式フォームに従ってボトックス投与後1週での有効性の定量的な評価をする。この質問表を埋めることで患者さんも眼瞼痙攣の改善を自覚することができる。

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7、ボトックスの合併症への対応
ボトックス注射の合併症はすべて一過性のものであるが、しばしば起きる皮下の小出血や、まれに見られる眼瞼下垂や複視などへの適切な説明と対応も必須である。副作用は投与前の同意書作成時に説明し、投与後数日ないし一週で再診してその有無をチェックし、もし起きていれば適切な説明と治療で対応する。


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8、ボトックスの追加注射
一般的には、利きが弱いからという理由での追加は推奨されては居ない。しかし、特に必要な場合には、初回注射の時には訴えのなかった同側の口角や対側眼周囲での痙攣の残存部位へ、一週から1月以内という短期間での追加注射も検討する。痙攣の強い片側に気を取られて、患者さんが反対側にも痙攣があることに気がついていないこともあるからである。最近はボトックス製剤の純度が増し、頻回投与に伴う抗体産生による効力の逓減は少なくなったとされている。

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9、内服薬剤の投与
限られた重症症例で、ボトックス注射だけではコントロール困難な症例に対して、必要最小量のリボトリールやアーテンの処方の追加を考慮する。ことにリボとリールはボトックスを恐れるあまり好ましい治療が開始できない症例に治療の糸口を探す場合には有効と思われる。

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10、クラッチ眼鏡
開瞼失行症を合併するような必要で限られた強い眼瞼痙攣の症例にはクラッチ眼鏡の調整をする。これも処方箋の発行だけでは不十分である。私は自分の医院内に招聘した眼鏡技師に調整してもらい、できた眼鏡にも微細な補正を施してもらっている。もともとクラッチ眼鏡は麻痺性の眼瞼下垂に対して物理的に瞼を挙上するものであったが、眼瞼痙攣に用いる場合には、瞼に接触刺激を与えることで自分の力での開瞼を可能にさせるというセンソリートリックという仕組みを利用するものである。このクラッチの動作原理の患者さんへの説明と、適切な装用法の指導がクラッチめがねの処方には必須である。

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11、次の投与時期の探索
一ないし数ヶ月ごとに注射後の追跡を行い、次のボトックス投与の時期を探る。基本的に適切な時間間隔は2月から12ヶ月と症例によるばらつきが大きいが、本人の受診または電話での申し出と、医師による痙攣症状の評価に基づいて、ボトックスの追加投与を決める。遠方の患者さんもいるので、本人からの2度目以降の注射申し込みは、電話でも受けつけている。
一般に患者さんが痙攣の再発に気がついてから、実際に医師が見て痙攣を認識できるようになるのには2週間から1月くらいのずれがあり、そのくらいになれば患者さんは大変強くボトックス投与を希望するので、次のボトックス投与は患者さんからの希望があってからは比較的短い日数での対応が期待される。

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12、眼輪筋切除
重症症例でボトックスを注射しても痙攣がコントロールできず、特に適応があると判断する場合には、眼輪筋切除が適正にできる限られた医師の紹介と、其の医師への手術の依頼とをする。兵庫医科大学の三村治先生はこの手術に炭酸ガスレーザーを用いて、少ない出血で行うことができると報告している。

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13、眼瞼皮膚弛緩と眼瞼挙筋短縮術の適応
これとは別に、眼瞼皮膚弛緩や眼瞼下垂で上眼瞼が瞳孔領を覆う場合には、余剰皮膚の切除や挙筋短縮術を勧める。これにも必要に応じてこれらの手術に習熟した医師のへ具体的な手術の目的を含む依頼状を用意する。

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自分でも纏めてみて眼瞼痙攣の治療が広範多岐にわたっているのに驚く。神経内科や皮膚科などでも眼瞼痙攣のボトックス治療を行なっている施設は多いでだろうが、涙液の評価や瞬も区の評価など眼の問題は眼科医に一日の長があると思われる。今後も眼科医による眼瞼痙攣の最適な治療が広く行われることを期待する。
(なお、術前術後の評価表(文献1のコピー)をご希望の先生は、著者にご請求ください。)

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文献:
1) 清澤源弘、若倉雅登:眼がしょぼしょぼしたらー眼瞼けいれん?正しい理解と最新の治療法、メディカルパブリケーションズ。2006、東京
2) 清澤源弘、鈴木幸久、石井賢二、眼瞼痙攣の誘因と原因、神経眼科20:22-29,2003
3) 清澤源弘、眼瞼痙攣の神経薬理学、神経眼科21:136-142.2004



今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。





kiyosawaganka at 18:11│Comments(0)TrackBack(0)眼瞼痙攣、片側顔面けいれん、ボトックス 

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プロフィール
院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜午後の神経眼科外来を担当)、2006年国際神経眼科学会副会長。日本眼科医会学術部委員
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