2007年09月05日

404 メビウス症候群

moebius
メビウス症候群についての質問をいただきました。(管理頁) 図の出典


この疾患は先天性の顔面神経麻痺にその他の諸症状を併せたもののことなのですが、
 或るホームページ(http://plaza.umin.ac.jp/~ikeda/BST_plastic2.htm)には
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6メビウス症候群
先天性両側顔面筋麻痺を主徴とする.メビウス(1888)は小児の脳神経麻痺文献を調査し,両側性の顔面筋麻痺prosopoplegiaとそれにしばしば付随する外眼筋麻痺external ophthalmoplegiaを報告した。剖検例から,脳幹部顔面神経核と外眼筋支配核群の低形成を認めた症例があり,先天的脳運動神経核の形成異常が疑われる。しかし,なかには鉗子分娩によって顔面神経が外傷を受けたことを示唆する症例もある。




moebius本症は哺乳の際,吸引が不十分であったり,睡眠時に閉眼しない,表情が乏しい,などによって気づく。脳神経麻痺の頻度は,両側性顔面筋100%,外転神経74%,外眼筋25%,眼瞼下垂10%,舌下神経30%,三叉神経運動枝7%となっている(パウル・ユリウス・メビウスはドイツの神経学者,1853‐1907)
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7と解説されています。




つまり、顔面の表情をつかさどる筋肉を動かす神経を顔面神経と呼び、それが生まれたときから両側とも十分には働かないというのを主な症状とする疾患群があるというわけです。





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この顔面神経というのは左右に1本ずつあり、耳の後ろ下から顔面に出て顔の正中に向かって左右から分布しています。大人でも、顔面神経が片側だけ麻痺することがあって、それがいわゆる顔面神経麻痺(ベル麻痺)であり、これが興奮過剰になって起きるのが(私の治療を得意としている)片側顔面痙攣なのです。



71そもそも脳から直接に出る神経(これを脳神経と呼びますが)は12対(つまり左右の合計で24本)有ってこのうちの上から数えて7番目が今話している顔面神経です。

顔面神経の始まりは脳幹(のうかんbrain stem)と呼ばれる大脳と脊髄の間辺りの部分の中にあります。このあたりの順番の脳神経には

72
5番目の三叉神経(顔面の痛みなどの感覚を主に感ずる神経ですが、一部はあごの動きに関連する運動の成分も含みます)

6番目の外転神経(眼球を動かす6個の筋肉のうち、眼球を外に引っ張る外直筋を動かす運動神経です)

7番目は顔面神経


4

8番目が内耳神経(≒聴神経)でこれには_擦鯤垢神経で聴覚の情報を耳(内耳といって耳に入った音を信号に変える部分)から脳につなぐ働きと、⊆にある三半規管から体が水平を保っているかどうかを脳に伝える平衡覚という機能をつかさどる部分が含まれています

9番以降は省略します。

このあたりの神経が作られてゆくときに、何らかの理由でその形成が不十分であると生まれつき両側の顔面神経の働きの弱い子供が生まれるというわけです。

その形成不全には、周りの脳神経にまで広がるものもあるでしょうし、また軽いものもあると思われます。


3
上の文章で
”脳神経麻痺の頻度は,両側性顔面筋100%,外転神経74%,外眼筋25%,眼瞼下垂10%,舌下神経30%,三叉神経運動枝7%”
というのは、症状が顔面神経はすべての例で侵されているが、それ以外の眼球運動や瞼の下垂などの眼に症状が現れる例も少なくは無いですよ、ということを示しています。


2
なお、小児の顔面神経麻痺では鉗子分娩といって、分娩のときに産道をうまく抜けられない場合に、胎児の頭を緊急に引き出す道具を使う場合があって、そのときに耳の下を押さえるからこの時の外傷で顔面神経の麻痺を起こしてしまうこともあるよ。と断っているわけです。

というわけで、このメビウス症候群では、小児科や耳鼻科で顔面神経の麻痺の程度を評価して、成長してゆくのを待つわけですが、同時に眼科でも眼球の動きを評価して両眼で物を見る両眼視の成長を見て行くのが必要でしょう。




1
斜視が強い場合には正面眼位を直す手術をする場合も有るでしょう。

外転神経の麻痺や、先天性の眼球運動の異常と言うのはそれほど珍しいものでは有りません。ですから、神経眼科を得意とする眼科医師や、全国にある子供病院の小児眼科を得意とする担当医なら十分対応が可能と思います。


5宮城県の学校の先生が翻訳された次の文も有用な情報源です。少し医学的な部分を輔弼して引用します。

引用ーーーーー
笑いのない生命体

メビウス症候群とは?



63
メビウス症候群は稀な障害で,生涯にわたり無表情であるという特色を持ちます。メビウス症候群におかされている人たちは笑うことができない,つまり難しい顔をしています。彼らはめったにまばたきをしないか、あるいは目を左右に動かすことがありません。場合によっては,メビウス症候群は表情や目のみならず身体の他の部位にも物理的な問題を生じています。


62 メビウス症候群財団は,メビウス症候群におかされた人々やそれを支える両親によって”利益を目的としない組織NPO”として設立されました。みんなが手を携えていけば,医学界にメビウス症候群という語を浸透させ,コミュニティをつくり,メビウス症候群にたいしての原因や治療法そして見込みのある良薬の研究を支えることにより,メビウス症候群であることの不利益をくい止めることができます。



61 メビウス症候群はごくごく稀なものです。2つの重要な脳内の中枢(脳幹にある第6と第7番目の脳神経核)は,十分に発達しておらず,それゆえ目の運動筋や顔面の麻痺を引き起こします。まばたきをすることや眼球を左右に動かす動き,それに顔面の表情を表す動作は,これらの中枢によりコントロールされています。メビウス症候群では第3・第5・第8・第9・第11そして第12脳神経が第7脳神経(顔面神経)と共にメビウス症候群では影響を受けます。


メビウス症候群とはいかなる症状か?
53 メビウス症候群では外見上の症状はほとんどが,顔面の表情をあらわす機能の低下として表れます。生まれてすぐの幼児(新生児)時に,母の乳房を吸う能力がないのが最初のサインです。多量のよだれを流したり、強い斜視を呈したりもします。さらにこれらは,曲がった舌や顎そして足を待っていたり、また手の指が欠落したり、もしくは水かき状の指の間の皮膚のある手を示す奇形も呈すことがあります。ほとんどの子供たちは低筋力で,特に上半身の筋力が弱いです。

メビウス症候群が呈する症状
44
・顔の表情の欠乏 これは、笑うことができない事を示します。
・食事の摂取,飲み込み,のどが詰まるなどの問題を持ちます。 
(丈夫に育てるためには時として経管栄養(鼻から胃に入れるチューブ)が必要です。固形物の食事には十分に注意することが必要です)
・飲み込むときには頭を反らし続けることが必要
・目を細くしてみることができないため、視力が良くない。(サングラスや帽子はとても役に立つ事がある)
・上半身が弱いため運動動作が緩慢です
・横に動かない目の動き(外転神経麻痺のため)
・まばたきの欠如
・斜視(斜視の目,外科的手術により矯正出来ることがある)
・よだれを流す,鼻をたらす
・口蓋の変形
・短いか、あるいは奇形を示す舌
・舌の動きの制約が見られます
・やや粘液を伴う口蓋裂も見られることがあります
・歯の問題 (虫歯など)
・聴力低下(分泌物のため,ときどき吸引管で吸い取る必要がある)
・話すことの困難(特に口を閉じて発する音と唇の動きを伴う音に関しての障害)
・軽度の顔面中心線の異常





43 メビウス症候群の子供は這ったり歩いたりし始めるのするのが遅れますが,ほとんどのメビウス症候群の子供たちは,最終的には成長が他の子供に追いつきます。舌と唇の動きが損なわれているので、言語の問題はしばしば治療を要します。子供たちが歳をとるにつれ,顔の表情の欠乏と笑うことができないことが,明白な症状として目立つようになります。メビウス症候群は,ピエール・ロバン症候群やポーランド奇形を伴う事があります。


メビウス症候群はいかにして起こるのか?
35 子供たちは生まれながらにして発病しています。それは遺伝しているように見えますが、その正確な原因は分からないままで、医学論文ではいくつかの説が対立しています。男児と女児の頻度は同じです。またあるケースでは,親から子へと遺伝が疑われます。メビウス症候群の出生前での診断は目下の所有効な手だてはないのですが、個々人の遺伝子情報からその原因遺伝子はすでに見つかています。

メビウス症候群にはいかなる治療法があるか?
34
幼児は時として特別な哺乳瓶を必要とします(つまりハーバーマン・フィーダー)。あるいは,経管で十分な栄養物をとることができます。斜視(斜視の目)は手術により改善を得ることができます。メビウス症候群の子供たちは,理学療法士や言語療法士により緩慢な動きの改善を図ることができ,また話すことや食べる事の技量も改善することができます。



14
 手足や顎の奇形は,外科的手術で改善することもあります。さらに言うなれば,顔の整形手術は個々のケースに応じて改善できる場合もあります。いくつかの場合では,口元の神経と筋肉を移動させることにより,笑う能力を与えることになります。



メビウス症候群の児童にどんな手助けができるか?
13メビウス症候群に関する内科医や看護婦の無認識には,家族が最も欲求不満をいだくものです。多くの子供たちで,生後何ヶ月か何年かにわたり診断が下されないということがしばしばあるのです。メビウス症候群の子供の両親やメビウス症候群の子供たちは,この稀な身体状況について受容することに多くの時間を必要とします。つまり根気よく説明し,さらに説明を繰り返すなどの努力をしなければなりません。



12
メビウス症候群が珍しいということは,事実上メビウス症候群が特別な障害が合併したものとして扱われます。その理由は、ごくごく僅かの専門家や公的機関だけがメビウス症候群と聞くぐらいで、医学や、社会支援機関や、生命保険会社からは、このメビウス症候群は門前払いされるは言うに及ばす,メビウス症候群の大変さの評価はかなり低く制限されているからです。


11このメビウス症候群二対する社会支援の欠落は,メビウス症候群に対して立ち向かおうとしている障害者本人やメビウス症候群患者の家族にさらなる重荷を背負わすことになります。世の無認識はまた,メビウス症候群への有効な手当や治療法の研究を制限することにもなります。



ハーバーマン・フィダー
10 メビウス症候群では患者が重度の食事摂取の問題を抱えている場合があります,これらがピエール・ロバン症候群やメビウス症候群により引き起こされる場合には,乳首が大きくて余分に穴があいているハーバーマン・フィーダーや、あるいは鼻から胃への管(鼻腔栄養の管)のどちらかが利用できます。


9 ハーバーマン・フィダーは、ピエール・ロバン症候群を持った女の子の母親により発明されたもので,この乳首では,メビウス症候群の赤ちゃんの弱い舌と歯茎の運動でも吸うことができます。もし赤ちゃんが全然乳を吸飲しないなら,ほ乳瓶から少しの量のミルクを赤ちゃんの口の中に絞って落とすこともできます。

(米国の)ハーバーマン・フィーダーの注文は 
電話 1−880−435−8316 FAX 815−363−1246








812対の脳幹神経の説明


第1=嗅神経   臭いの伝達
第2=視神経   視覚情報を伝える
第3=動眼神経  動きと感覚の神経線維に関して、眼球の外面筋をつかさどる
第4=滑車神経  第3と同じ
第5=三叉神経  かむことや顔面の皮膚感覚を伝達し、一部の筋をつかさどる
第6=外転神経  目を横外に動かすことをコントロール
第7=顔面神経  表情の筋をコントロールしたり,舌の3分の2の前方で味覚をみたり,皮膚の感覚をつかさどる
第8=内耳神経  聞こえと平衡にかかわる
第9=舌咽神経  舌の後ろ側と咽頭から感覚と味覚を伝達する,これは飲み込みをコントロールするときの助けになる
第10=迷走神経 感覚神経と運動神経の二つを運び,胸部や腹部のたくさんの器官と関連する
第11=副神経  二つの首の筋肉,胸骨の乳様突起,僧帽筋(訳者注:背部両側の表面にある僧帽状の筋肉)をつかさどる
第12=舌下神経 舌の筋肉と首の僅かな筋肉のいくつかをつかさどる


”メビウス症候群患者は笑いのない生命体ではありますが,それでもとても生きる価値があるのです。”

(この後半の文章は宮城県立光明養護学校金野文博氏がhttp://www.wincom.net/moebius/homepage.html#whatを翻訳したページを基に清澤が修正したものです。)

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。

清澤眼科医院通信最新ページへ(リンク)します












kiyosawaganka at 09:08│Comments(1)TrackBack(0)角結膜、前眼部 

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この記事へのコメント

1. Posted by なおくんママ   2007年09月11日 20:08
わかりやすい解説本当にありがとうございます!
素人の私達にもわかりやくす噛み砕いて書いてくださり感謝いたします!!突然の質問にもかかわらずこんなに調べていただき、またわかりやすく書いていただいた事感謝致します!

質問に迅速丁寧な回答に信頼できる先生だという事が伝わります!
ありがとうございました。

こんなにわかりやすく書いて頂き今後活動の中でも是非参考にさせていただきたいのでリンクさせてもらってもよろしいでしょうか??
お答え;拙い分で恐縮ですがお役に立つならお使いください。清澤

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プロフィール
院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜午後の神経眼科外来を担当)、2006年国際神経眼科学会副会長。日本眼科医会学術部委員
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