2008年09月09日

663 傾斜乳頭症候群

緑内障のお話を紹介しましたら、傾斜乳頭症候群を診断されている患者さんから緑内障と傾斜乳頭症候群がどう違うのかと言う質問を受けました。

そこで今日は、傾斜乳頭症候群とは?と言う質問に簡便にお答えしてみましょう。まあ、形がゆがんだ乳頭が視野の欠損を示すことは多いので、緑内障かどうか迷うことも少なくないだろうとお答えしましたが、教科書的にはむしろ脳脊髄圧の高い時に現れるうっ血乳頭との判断が難しいとしてあります。緑内障との判別が難しいこともあるようです。
この記事のあとに質問と私のお答を添付しましたが、この質問者の詩や欠損は鼻側のようで、ここに示した耳側の欠損とは多少異なるようです。普通緑内障の進行を見るのに用いる行うハンフリー視野よりも、このような場合には全体像がわかるゴールドマン視野が参考になりそうですね。




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概要
傾斜乳頭症候群と言うのは、視神経乳頭の一部が隆起して、同時に鼻下側が後方に変位した、卵型の視神経乳頭を呈している先天的な軽い奇形性の疾患です。多くは、乳頭の下鼻側網膜にコーヌスと呼ばれる三日月状の萎縮があり、血管が通常の放射状に視神経から網膜から網膜に広がるのではなくて、耳側に向かうべき血管が眼底で一度は鼻側に出てから逆方向の耳側に走るような形を示します。 強い近視ないし中くらいの斜乱視があることが多いとされています。


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その原因は眼球後面の眼の表面に対して斜めに眼球に入る、それ自体は症状を伴わないはずの視神経の異常構造に因っています。屈折異常は様々ですが、通常は遠視があります。その変化は通常は両眼性です。特徴は視神経の鼻側が隆起していて、耳側は深く窪んで視神経乳頭の辺縁はぼやけています。耳側には耳側コーヌスが有ります。時には耳側のくぼみが強くなって、緑内障に見られるような病的な耳側の視神経乳頭縁の欠如のように見えます。視神経の耳側を視神経黄斑線維が通るので,視機能が正常であれば、病的な組織の欠損は除外されます。斜めに眼球に入る視神経には、視神経乳頭陥凹拡大が偶然に合併知る事も有ります。

視神経の鼻側が盛り上がっているのは診断を困難にします。それは後天的な視神経の盛り上がりつまりうっ血乳頭と似ていて見極めが難しいからです。実際、斜めに眼球に入りこんだ視神経は他の疾患とともに、偽うっ血乳頭を示すものの一つであるとされています。しかし斜めに入り込んだ視神経は上と下の網膜神経線維層の厚さに差がなく、網膜にも浮腫はありません。耳側の視神経の縁のぼやけは傾斜乳頭であるということを教えてくれる。


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傾斜乳頭は視神経が通常よりも強膜を斜めに貫くことによって発生します。これが盛り上がった鼻側の縁が生じる原因であるし、耳側がぼけた縁をなす原因でもあります。視神経は正常とは全く違った外形を示すけれども、視神経の機能はまったく正常です。さらにその形はうっ血乳頭の様ですが、臨床的な意味はなく、年に一度通常の眼検査をしていればよいのです。しかし、忘れてはならないことがあって、それは、先天性の視神経の形態異常を持つ人でも正常人と同様に視神経疾患にはかかるということです。 傾斜乳頭のある人で水頭症によるうっ血乳頭を見ることがあります。しかし、実際に先天的な奇形のある視神経に対してあえて視神経疾患の診断をつけるのには勇気が要ります。
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此処に眼底画像とCT画像のついた格好の症例報告論文が有りますので簡単に説明してみましょう。

視神経と眼球を巻き込んだ脈絡膜欠損(コロボーマ)は珍しい先天的な変化でsり、60%は両眼性です。そして常染色体優性で遺伝します。視神経コロボーマやチストが報告されていますが、傾斜乳頭のMRI画像はあまり報告がありません。

傾斜乳頭症候群(TD syndrome)は 視神経乳頭の"situs inversus" (位置の逆転という意味)、先天性の視神経周囲の三日月状の委縮、あるいは鼻側の眼底の拡張症、フックスの下方脈絡膜欠損などとも呼ばれます。傾斜乳頭では視神経乳頭は卵型であって、眼球の鼻下側に眼球の膨張が見られ、その部分に対応して近視が現れます。

私たちは両耳側視野欠損のような視野を示した傾斜乳頭の一例を CT, MR,それに眼底所見をつけて報告します。

症例
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FIG 1. 右 (A)と左 (B)の眼底。両眼に,小さくて卵型であり、耳側が盛り上がって(矢印の頭部)、鼻側は縁がぼやけた(矢印)乳頭を示しています。網膜血管は視神経乳頭の耳側から現われて、いったん鼻側に回り込み、それから耳側に弓を描いて伸びています(細い黒矢印)。鼻側の網脈絡膜の色素が少ない(星マーク*)ことに注目してください。

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FIG 2. 右眼の視野 (A) と左眼の視野 (B) 通常は中央の子午線を越えて耳側の視野が欠けている(矢印)。(清澤注:脳の問題ならば中央の線を越えて視野欠損が広がることはない。)

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FIG 3. 視神経の高さでの体軸断面のCT (A)とT1強調MR (B)。斜めに視神経が白矢印でみられる。眼球の鼻側の部分が後方で鼻側の強膜が薄くなっていて(二重矢印)、眼球の耳側は扁平化している (矢印の先)



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傾斜乳頭(TD syndrome)の80%は両側性なのですが,、それは視神経裂(眼杯)の閉鎖不全が原因であることに関連しています。視神経裂というのは、はもともと眼球と眼球後方の視神経の下で鼻側に存在する裂け目であり、第一次硝子体と呼ばれる組織の血管を巻き込んでゆきます。傾斜乳頭症候群では、中等度から高度な低形成とひ薄化が網脈絡膜や強膜に見られます。眼球の鼻下側が薄くなって色素も少なくなり、視神経も網膜血管も眼球に斜めに進入します。

網膜の限局的な低形成のために、両眼の耳側に視野欠損が生じ、それは脳下垂体の腫瘍やトルコ鞍情報に生じる腫瘤性病変などの視野欠損に似ています。傾斜乳頭症候群では視神経が斜めに眼球に入り込むために、視野の欠損は正中線を越えて反対側に広がりますが、本当の脳腫瘍ではそこは広がりません。丁寧な視野検査と眼底検査をすることでこの疾患の診断をつけることができるでしょう。
視神経交差付近の病変を除外する目的でCTとMRI、ないしはその両方が行われます。傾斜乳頭症候群には神経膠腫、頭蓋咽頭腫、頭蓋骨の癒合症、エーラー・ダンロス症候群の合併が方向っされてます。各幕からレンズ、硝子体に混濁がある場合にもCTやMRIは傾斜乳頭の診断に有効な情報を与えてくれます。

この症例の出典は
American Journal of Neuroradiology 20:1750-1751 (10 1999)
Bitemporal Pseudohemianopia Related to the "Tilted Disk" Syndrome: CT, MR, and Fundoscopic Findings
で、その著者は
Luigi Manfrè,a, Sergio Veroa, Cesare Focarelli-Baronea and Roberto Lagallaa です。
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ややわかりにくい説明になってしまいましたが、”典型的な傾斜乳頭症候群はこのような眼底と視野、それに神経画像を示す疾患で普通は悪化しない”のですが、というところを読み取っていただけたらと思います。


この記事のもとになった、質問とお答
のこのこさんからの相談  [緑内障でしょうか?]


こんにちは。私は先日、先生の書いていらっしゃる9月7日の記事へコメントさせていただいた者ですが、私の診療経過を含めて再度質問させていただくことにしました。
 一ヶ月半ほど前、右目の鼻側に明らかに見えないところがあるのに気付き、近所の眼科を受診しました。
 一通りの検査を受けた後、その病院のA先生からは「視野に若干、異常があります。網膜が薄くなっていて網膜剥離の可能性があるので、急いで詳しい検査を受けてください。」と言われ、隣町の開業医を紹介されました。(紹介先のB先生は、以前大学病院で助教授をされていた先生だそうです。)
 早速、次の日紹介された病院を受診し、B先生からは「視野が欠けているのは、眼圧は18なので正常眼圧緑内障と思われます。既に中期です。網膜の方は、今すぐ処置は必要ないでしょう。」と言われ、キサラタンを点眼するように処方されました。
 二週間ほど経って、目の奥や頭が痛いのは目薬の副作用か、授乳中にこの目薬を使って大丈夫か、いくつか不安があったので、再度B先生のところを受診しました。すると、「この種類の緑内障で、目の奥や頭が痛くなる人はいない。頭のことは眼科に来てもどうしようもないので、神経内科に紹介状を書きます。目薬による授乳や妊娠への影響については、妊娠中のネズミに目薬をさす実験なんてするわけにもいかないし、あなたが気になるなら治療は中断しますか?最後は自己責任になりますからね。」と言われてしまいました。
 正直、B先生の冷たい態度を目の当たりにし、この先生に私の目を一生預けられるのだろうか?と疑問をもちました。
 そして、緑内障専門医の先生ならばもう少し詳しいお話が聞けるのではないかと思い、全くの新患で思い切って大学病院へも行ってみました。
 そして、一般的な検査のほか、ここでは網膜と視神経の状態を見ることができる検査というのも受けました。しかし、予約がないと専門医には診ていただけないということだったので、初診では外来担当のC先生に診ていただきました。
 C先生いわく、「視神経が傷んでいるところと視野が欠けているところがほぼ一致しているので、視野検査の結果は信憑性が高いでしょう。今の眼圧が15なので、キサラタンが効いていると思われます。眼圧維持に努めましょう。」と言われ、キサラタンを続けるように指示されたので、「やはり私は正常眼圧緑内障なんだ」と納得し、そのまま二週間後の専門医の診察を待つことにしました。
 そして先日、専門医D先生の診察では、眼球の形を3Dで見ることができるという検査もしました。すると、「視野の欠損は、緑内障ではなく、生まれつき乳頭が傾斜していることによるものかもしれないので、次の診察までの二ヶ月間、目薬を中止してみましょう。」と言われました。私はそんな診断は予想もしていなかったので、耳を疑いました。詳しく聞くと、今の視神経乳頭の所見では緑内障と断定できない。この先経過を見て、やはり緑内障であればその時点で治療を始めます。」と言われました。
 病院に行き始めてからこの一ヶ月半の間に、網膜剥離で緊急性があると言われたり、緑内障と言われてすぐに治療薬を処方されたり、そして傾斜乳頭かもしれないのでその場合は治療法はないと言われたり…。治療法が医師によって違う、というならわかるのですが、私の目は何の病気でこれからどうなっていくのか、正直、どの先生を信じてよいのかわからなくなってきました。
 ちなみに、今まで会社の健康診断で眼底検査は正常(病院で緑内障と診断された先月の結果も…。)、お恥ずかしながら視野の欠損にも全く気がつきませんでした。
 長くなりましたが、質問の要点は、
1.生まれつき視神経乳頭が傾斜しているような場合でも、緑内障のように鼻側から視野が欠け、マリオット盲点あたりにつながるような欠損の仕方をする場合があるのでしょうか?(視野検査の結果は、右目がMD値−13、左目が−6で、右目の鼻側4分の1は全く見えていません)
2.過去数年間、眼底検査ですべて正常だったということは、視神経の状態からは緑内障と断定できない(しづらい)目ということなのでしょうか?また、そのような目であってもこれだけの視野異常が現れることはあるのでしょうか?
3.緑内障の場合、中期から末期までの視野欠損のスピードは、初期から中期にかけてより早いのでしょうか?(病院に行ってから注意して見るようになったせいか、どんどん進んでいる気がします)
4.私が行った病院では視野検査は半年に一度しかせず、処方した目薬の追加や変更も当分しないと言われましたが、どこの病院でもこのような治療法となるのでしょうか?(目薬が自分に合っているか、効果があるのか心配になります。)
5.既に両目で見ても中心より上は見えにくいと自覚していますが、これから平均寿命まで50年、生涯生活に支障がない程度の視野を保つのは難しいでしょうか?
 実際に先生に診ていただけばよいのでしょうが、小さな子供がいて遠隔地に住んでいるのでそれも難しく…。どうかアドバイスよろしくお願いします。


お答えします。本人が深く心配されている様子がよくわかります。
傾斜乳頭の良い解説が入手できず返事が遅れましてすみません。
傾斜乳頭で視野が意外に深く切れ込んでいる患者さんはしばしばいます。
意外にお思いでしょうが、それを傾斜乳頭に伴う視野変化として無治療で扱っても、正常眼圧緑内障として点眼治療開始しても同様に誤りではありません。
その選択には、患者さんが治療開始を希望するかどうかの影響も大きいです。
確かに緑内障治療薬は”胎児に対する安全性は未確認”という注記のある薬剤ばかりですので、おそらく別の薬にして安全に使うという道はありません。
突き放した言い方をすれば、わずかな可能性でしょうが胎児への影響も考えながらあえて使うか、胎児を重視してあえて使わないかの2つの選択肢しかないかもしれません。(追加:この質問者は授乳中ということですから、胎児に対するほどの危険はないでしょう。)
いずれにせよ、慎重に経過を観察すれば5年後では、大した差はないでしょう。
先天性の変化でも緑内障でも、どちらにせよ、このような視野のかけ方をすることはありうると思いますが、現在のミーンデフェクトがMD=-13というのはずいぶん進んだ視野の欠損ですね。
私なら治療を開始するかもしれません。
検診では、本人の訴えも視野の結果も見せられず、それほど切迫した状況ではないので、最初からたんに先天的な傾斜乳頭と思い込むと、視野検査の必要性は指摘しないでしまうことはしばしばありうると思います。
緑内障の視野変化の進行は特にどの時期が早いとは聞いていませんが、視野検査は最初は、普通は3月毎程度ごとです。
本人が、進行していると思うなら、保険請求に”急激な視野変化の進行が疑われたので”と注記を付ければ、保険医療としても毎月でも測ることは可能です。
むしろはハンフリーより、私ならこの後は全体の形を見るためにゴールドマン視野を測って見るかも知れません。
あなたが行った病院では視野検査は半年に一度とのこと。
とても患者が多くて忙しく、込み合っている施設で、みんなには必要があってもできないような施設なのでしょう。
そのように診療体制に余裕のない状況の、基幹病院が地方にもまた都会にもあることは知っていますが、普通の開業医はそんなに忙しくはなく、稀な回数ではなく本人の了解さえ得られれば、3月ごとに測ることも可能です。
既に両目で見ても中心より上は見えにくいと自覚しているとのことですが、進行の速さによりますので、今後の進行速度についてはまだ何とも言えません。
受診時にかなり進んでいても、眼圧さえ高くなければ、見ている前で視野の劣化が記録できる例はまれで、本当にゆっくり進むことが多いです。
現在の時点で、緊急を要する網膜剥離がないならば、最初の先生に戻って3-4月ごとに繰り返し視野測定を行ってもらいながら、経過を見ればよいと思います。
まずは精神的な波長が合う眼科医を決めてその先生にゆっくりと見てもらうのがよいでしょう。お大事に。



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院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜の外来を担当)、順天堂大非常勤講師。2006年国際神経眼科学会副会長。
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