2008年10月18日

696 脳卒中による複視に対するリハビリテーション

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或る出版社から”脳卒中最前線”という本の”脳卒中による複視に対するリハビリテーション”のページの執筆を依頼され、このたび共著者の江 博文先生が立派な原稿をまとめてくださいました。

私のこのブログでは、いつものようにお祖母ちゃんにも解る風に単語を補ってアレンジしてみましょう。
ーーーーー引用開始ーーー

複視の対策

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脳卒中による眼球運動障害には,共同偏視や,動眼神経麻痺・滑車神経麻痺・外転神経麻痺に伴う眼球運動障害,核間麻痺,核上性障害による斜偏位,眼振,眼球失調症などがあります.



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脳卒中後遺症としての眼位ずれは,脳卒中患者の約30%〜50%に見られ,非症候性の眼位ずれは約30%に認めるとの報告もあります.自然経過はまちまちで,一時的にプリズムを使用したり,単眼遮閉を行ったり,代償的に頭位変換する方法を教えたりすることで,改善できる場合があります。

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また,脳卒中による眼球運動障害では,衝動性眼球運動障害、滑動性追従眼球運動障害、輻輳不全などを合併することがあり,注意を要します。

衝動性眼球運動は,物体を視野に捕らえる時に行う速い眼球運動で,その速度は300−700°/秒です。これが障害されると行が変わるところがうまく出来なくなって、読字が困難となります。



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また滑動性追従眼球運動は,動いている物体を追跡する際の,緩やかで滑らかな眼球運動であり、その速度は20−50°/秒です。これが障害されると,追視が困難となります。この両者の速度は不連続に離れていて、中間速度での動きのない、全く別のものです。

輻輳不全では,近くを見る時に,両眼を十分に寄せることができず,近見時の複視を生じます。



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複視は,物が2つに見えることをいい,単眼複視と両眼複視の区別があります。単眼複視は片眼で見た時に物が2つに見えることをいい,乱視,白内障などで起こるものです。両眼複視は,片眼ずつでは1つに見えるのに,両眼でみるとダブる現象で、左右の視線が一致しない場合,すなわち眼筋麻痺で起こちます。従って,脳卒中の後遺症を論ずるこの項では,両眼複視のみを取り扱います。

症状

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眼筋麻痺による複視では,視線の方向(眼位)によってずれの大きさが異なります。患者が,「ものが二重に見える」と訴えればその診断は容易ですが,右を見ると見にくいとか,階段を降りるときに足元が見にくいという症状では,視力低下のことと誤解することがあります。


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また,ものが動いて見える,ゆらゆらする,視力は落ちていないが,ぼやけるなど,不定愁訴ともとれる訴えをすると,それが複視のことであると推理し,理解するのは容易ではありません。

複視があると,立体視ができないため,階段の段差や側溝が有る事が分かりにくく,用心して歩くための歩行困難も要します。視力は相当低下しても行動には、不自由があまり感じられないものなのですが,複視の患者では,視力が十分であるのにどうして段差が見えないのかと他人に誤解されていることがあります。

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複視では馴れの要素が大きく,初発症状で強く複視を訴えた患者が,1週間後には良くなってきたということが多いのですが,複像検査をするとほとんど改善していないことがあります。頭位や眼の動かし方を自然に工夫したり,麻痺眼の像を無意識に念頭から外すという抑制を学習した結果でしょう。



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経過を観察するには複視の客観的な定量検査が必要です。このためには,簡単なものでは赤緑ガラスを用いたランタンテストがあり,また,やや複雑なものにはヘステストがあります。この記録を眼科でとることは,経過の評価に有効です.

一般的に,複視を訴える患者の約1/3が脳血管障害や微小な循環障害であるとされています。脳卒中に起因する複視は動眼神経,滑車神経,外転神経の麻痺によるものが多いとされています。


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表1.眼筋の神経支配

各神経と支配筋
動眼神経: 上直筋 内直筋 下直筋 下斜筋(その他,上眼瞼挙筋,瞳孔括約筋,毛様体筋)
滑車神経: 上斜筋
外転神経: 外直筋

表2.眼筋の作用

第一眼位,つまり正面視における各眼筋の作用方向
内直筋 内転(水平方向のみ)
外直筋 外転(水平方向のみ)
上直筋 上転 内転 内方回旋
下直筋 下転 内転 外方回旋
上斜筋 下転 外転 内方回旋
下斜筋 上転 外転 外方回旋

検査
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両眼複視であることを確認した上で,
1. 最大のずれを生じる方向(右,下,左斜め上などの9方向)と最小のずれを示す方向の検出をします。

2. head tilt(頭位傾斜,斜頚)や像の回旋の有無をみる.
ずれを定量するには,ヘス赤緑テスト,シノプトフォアなどの方法がありますが,機器が必要なので,これは眼科に依頼しましょう。回旋をみるにはペンライトではなく線状の光源を用いるとよいです。



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ずれが最大になる眼位での作用筋が麻痺筋です。患者に検者の指先または視標を注視させ,垂直,水平,斜めの9方向追従させ,動きの角度や,速度の左右差をみます。眼瞼下垂,瞳孔異常の有無も確認します。片眼のみの運動状態を検査しておくことも必要です。

治療 


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一般的にはビタミン剤,ステロイド,循環改善剤の投与が行われます。脳卒中による複視に本当にこれらの薬物が有効かは疑問の点もあります。しかし,眼筋麻痺では約3カ月程度で半数以上が正面視での複視は消失するといわれますので,早期の手術は禁忌です。



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約6カ月を経過しても改善されない場合には手術も考慮します。手術によって,すべての眼位で複視を消失させることは不可能ですから,正面視で,または,正面やや下方で複視を消失させることを目的とします。



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また,手術では,術後かえって複視が気になることがあります。複像の幅が小さくなったために真像と仮像との区別がつきにくくなるためで、これに対しては,術前のインフォームドコンセントが重要です。



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水平方向のみの複視では外直筋,内直筋のみの移動で済むので,手術の決定は比較的簡単ですが,垂直方向,回旋の加わった複視に対しては斜筋手術や,眼筋の移動術も必要になります。

眼筋手術では複視消失率77%という報告もあり,患者を斜視手術専門家に紹介し,積極的に複視の解消をはかることも可能です。手術を希望しない患者には,


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1.正面視で10プリズム以下なら,プリズム眼鏡で視線を矯正します。10プリズムの眼鏡は,レンズがかなり重いので,これ以上の眼鏡は製作できません。それ以上の付加には,フレネル膜プリズムで薄く軽くすることができますが,見かけの問題や,汚れにより視力も低下するのであまり普及してはいません。


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2.麻痺眼に眼帯をかけるとか,眼鏡レンズ全体に紙を貼って健常眼だけでみると,安定した見え方が得られますが,美容上の問題や閉塞感があるなど,問題点も多いです。視力が0.6となる程度に,ごくわずかに不透明なビニール製オクルーダーを貼りつけるとよいでしょう。視界がある程度確保でき,複視感が少なくてすみます。麻痺眼の複視の出る範囲にのみ貼ってもよいです。

いずれの方法でも麻痺筋の方向を向くと,複視を生じるので,運転などでの使用をすすめるには注意が必要です。



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文献
1) 岩崎嘉秀・他:複視の治療と予後.日眼会誌,97:845−850,1995
2) Fowler MS, Wade DT, Richardson AJ et al. Squints and diplopia seen after brain damage. J Neurol 243:86−90,1996
3) Clisby C. Visual assessment of patients with cerebrovascular accident on the elderly care wards. Br Orthopt J 52:38−40,1995
4) Macintosh C. Stroke re-visited: visual problems following stroke and their effect on rehabilitation. Br Orthopt J 60:10−14,2003
5) Wright KW. Color Atlas of Strabismus Surgery. Springer, 2007
6) Bajandas CD著, 渡邉郁緒訳 神経眼科レビューマニュアル 第2版,メディカルブックサービス,1989
ーーー引用終了ーーー

さて、脳卒中に関連した複視の取り扱いの概容をご理解いただけましたでしょうか。
患者さんの、またご家族の参考になればと思い、書き下し分の形で再録いたしました。


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今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。


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kiyosawaganka at 22:15│Comments(0)TrackBack(0)全身疾患と眼、健康一般 

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プロフィール
院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜午後の神経眼科外来を担当)、2006年国際神経眼科学会副会長。日本眼科医会学術部委員
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