2011年04月10日

2178 学童に対する近視の治療はどうすべきなのだろう

myopia glasses
学童に対する近視の治療はどうすべきなのだろう?
この質問は常に眼科の臨床医が患者さんとその親御さんから聞かれる質問です。
本日も患者さんの親との話でそんな話題が出ましたので、今日は私の考えるところを説明してみましょう。

これに対する一つの標準的な答えが吉野先生によって示されています。(吉野先生の論文のページにリンク)調節ラグ等の専門的な言葉も出てはきますが、全体に解りやすい説明ですから、興味がおありの方はぜひそちらにも回ってみて下さい。

現在私はミドリンMを夜一日一回つけることを近視の患者さんにお勧めすることが多く、たとえ眼鏡を処方した後でもそれを続けることをお勧めすることが多いです。それに対して、緑内障を誘発することが有り得るという反論をなさった眼科の先生もおられたように質問された親御さんがおられましたので、大学から応援に見えた先生とも少し議論をしてみて、この議論の要点を整理してみました。

1)まず、基本的にミドリンMによる過剰な調節を取る治療は、眼軸が伸びて固定された近視に対しては無力であり、調節緊張に伴う一過性の近視(俗に仮性近視と呼ばれるもの)を軽減させるのが目的です。ですから、3か月程度ミドリンM点眼を行ってそれでも近視の残存が確認されたならば、それを続けるのは近視を治すという意味では無意味であろうというおそらくは正しい議論が有ります。

2)また、大学病院をはじめとする公的な病院は、その外来診療時間も午前中だけでありますし、学校を休ませてまでの通院が必要か?という問題もあります。さらに、小児の屈折異常以外の成人患者数も病院では多くて、はっきりと有効な治療が出来るわけでもなくただ通ってくるだけで説明も求め続ける患者さんの話などこれ以上聞きたくもないという現実があります。
 ですから、両眼での裸眼視力が0,7以下に下がったなら早目に眼鏡処方を済ませてその患者さんからはもう逃れたいという潜在的な傾向が有ります。これはすべての勤務医がそうであろうというのではなくて、私が大学の勤務医をしていた当時を思い出して見ての思いです。

3)これに対して、現在開業医で有る私は、患者さんが聞きたいならば何回でも同じ説明を繰り返すというお相手をするにも吝か(やぶさか)ではありませんし、近視が治るとは思わなくてもその進行を少しでも逓減させられる可能性でも有るならば、何らかの治療を試みるのも悪くはないのではなかろうかと考えています。そんな気持ちで出しているのがミドリンMだということです。

4)ミドリンMが近視の進行を少しでも逓減させられる可能性というものは、実は証明されている概念ではありません。しかし、眼球の軸の長さが伸びるという不可逆な近視の進行は、毛様体の過緊張が眼軸の延長というものに置き換わることにより進行するという現在の定説を信ずるとすれば、ミドリンMを使うことで近視の進行は多少なりと低減できるのではないか?と考えてみたわけです。

5)これに近い考えで、現在進行中の臨床実験が有ります。それはメガネの上半分は遠方用の近視度数とし、下半分に老眼鏡のように凸レンズ成分を載せて、近くを見る際の毛様体の緊張を減らして見せようというものです。臨床医学の実験としてはかなり興味深いものですが、強い弱いに関らず眼鏡を使わせたくないという親を納得させられるかどうかは別の問題です。(この臨床実験をなさっている先生方には新たな証拠に基づく新たな治療法を提唱していただきましょう。)

6)このほかに一般論として、もし小児に眼鏡を処方するならば、強すぎる近視の眼鏡、つまり適正ではなく、多少なりと強すぎる近視の眼鏡(過矯正眼鏡)をかけさせると近視は進行するということは実験からも明らかなようです。ですから、よろしければ学童の眼鏡はいきなり眼鏡店に行くのではなく、眼科医での処方を受けたうえでこれを作成なさってください。

7)これらの議論のほかに、親の実体験として「近視眼鏡をかけ始めたら近視が進んだので子供には近視の眼鏡を極力掛けさせたくない」という親がいます。この議論は眼科医の間では間違いであると信じられています。つまり、この体験は近視が進行する時期に眼鏡を作ったので、あたかも眼鏡を作ったことが近視進行の原因のように感じられただけであろうというわけです。

8)さてどの程度の視力になったら眼鏡を処方するか?この答えとして先の吉野先生は両眼視での裸眼視力で0,7ではなく0,3という数字をを挙げています。この辺りは担当する眼科医のセンスに依存する部分でしょう。大学の先生との話で話題に出たのは、患者さんやその親が眼鏡を作ることに対して納得しているのに、眼科医があまり引っ張って眼鏡作成を遅らせるのはいかがなものか?ということでした。この議論もごもっともです。

9)そして、いつまでミドリンMを続けるか?、これに対する正しい答えはないと思います。患者さんへの時間的負担も考え、国民医療費の増加も避けて三か月程度であきらめるというのは節度ある判断でしょう。一方、小学校の検診で指摘をされて当医院を受診し、4月5月くらいからミドリンMの点眼を開始してメガネがなくてもよい両眼での裸眼視力0,5程度の視力が維持できていたところで、点眼を続けることに少し飽きて来て夏休みを迎え、秋からの通院が半年程度途絶えた後、翌年の学校健診での両眼視の裸眼視力が0,2程度まで下がっていたという児童を見ることもないわけではありません。

 それに対して私はミドリンをやめたからこうなったとは申しません。点眼を続けていたとしてもそのように近視は進行したかも知れないのですから。

 まあ、私の開業医としての立ち位置はこれでご説明できたと思います。基本的にはミドリンMはあくまで調節緊張(仮性近視)に対する治療薬です。

 

kiyosawaganka at 00:18│Comments(1)TrackBack(0)小児眼科疾患 

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この記事へのコメント

1. Posted by レーシックオペドットコム   2011年05月07日 17:45
とても素敵なブログですね!

視力回復する方法を知ってますか?
お答え:ありがとうございます。しかし特殊な場合を除き、基本的に私はレーシックには賛成では有りません。

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プロフィール
院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜午後の神経眼科外来を担当)、2006年国際神経眼科学会副会長。日本眼科医会学術部委員
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