2013年06月12日

視野に蚊が飛ぶ(飛蚊症・網膜剥離)

視野に蚊が飛ぶ:ならば網膜剥離を考えましょう

飛蚊症と網膜剥離

眼の前でごみが飛ぶと言う症状を蚊が飛ぶと書いて飛蚊症といいます。
(これを 眼科 視野障害 糸状 動く と検索した人も居ます)

この症状は、網膜剥離のときにごく初期から見られることの多い症状です。
簡単な図網膜剥離では網膜に穴が開き液化硝子体が網膜下に流入して網膜剥離が広がってゆきます。(図の出典)
剥離眼底




眼球の中央部分は硝子体と呼ばれるゼリー状のもので占められていて、その外側に光を感ずる神経の膜である網膜が包んでいます。

その更に外側には血管でできた脈絡膜があって、眼球の最外層は、白い眼球の形を成す強膜が包んでいます。

これらの各層のうち網膜がその外側の膜からはがれてしまうのが網膜剥離です。

硝子体と呼ばれる中央のゼリーは、加齢性の変化や近視の進行に伴う眼球の長さの延長に伴ってゼリー部分と水分が分離して、本体が前に移動して後方に水だけが取り残された形に分離します。

この現象を後部硝子体剥離といいます。このとき、視神経や網膜の血管に接していた硝子体はその痕がついているので、自分にはごみが浮いている様に見えます。
牽引



多くの飛蚊症はこの影を見ているものでまったく心配のないものなのですが、まれに網膜格子状変性などで硝子体の一部と網膜とに癒着があると、その部分の網膜が眼球の動きに従って引っ張られることになります。(図:硝子体による網膜の牽引)


その際には網膜は刺激を光として捉えますので、暗室でも眼を動かすたびに閃光をみることになります.白い光が見える,光が見えると訴える人もいます。(これが光視症です)。
剥離の症状



さらに網膜が硝子体に引っ張られれば、やがて網膜の一部が破れて穴が開き網膜裂孔(もうまくれっこう)が発生します。(図:網膜裂孔の発生と剥離の進行)
剥離略図



このとき、網膜の小さな血管が切れてわずかな出血を生じたり、網膜の一部がちぎれて網膜に影を落としたりするので、患者さんはいっそう激しい飛蚊症を訴えることになります。この裂孔が血管を横切ると硝子体に強い出血を生じ(硝子体出血)視力が下がり、検査で眼底を見ても網膜がみえなくなってしまうこともあります。

やがて、硝子体のいっそうの網膜への牽引に従って、眼球の中のゼリー(硝子体)から分離した水が網膜の下に入り込んで、網膜の剥離が広がってゆきます。

このときに、網膜は正常に活動できる部分が減ってゆきますので健全な視野が縁のほうからカーテンがかかるように欠けてゆきます。(図:剥離では視野がカーテンを引くように欠けてゆく。)
剥離視野欠損



このとき迅速に手術を考えないと、網膜の真ん中まで剥離が進んだ段階で視力は急激に低下し、たとえ手術がうまくいって網膜が戻ったとしても視力の回復は限られたものとなります。

剥離の発生に伴って、網膜に皴がよれば、患者さんにとってはまっすぐな線が曲がって見える(変視症)こともあります。

医学生のころスキー部水泳部で活躍していた親友が、ある日私と囲碁を打ちながら、“なんだか片方の目で見ると線が曲がって見えるのだよ”と訴えていて、その翌週に網膜剥離を診断されたことを私は昨日ことのように鮮明に覚えています。(幸い彼は、無事手術が成功し現在は外科の病院長になっています。)

この網膜剥離の治療には3つの段階があります。
光凝固




まず、穴の周りの網膜が比較的安定していて、それ以上広がらないことが期待できる場合にはレーザー光線で網膜裂孔周囲の網膜を焼き、その瘢痕形成を利用して網膜剥離の進行を止めようとする場合があります。(図:網膜裂孔を囲むようにアルゴンレーザーで網膜を焼灼し、その瘢痕形成で剥離の進展を阻止します。)実際にはこれで剥離の進行が止まることもあり、やがてはがれてしまって次の手術が必要になることもあります。この方法の利点は入院がいらないことです。
backle




2番目は、バックリングと言う方法で、眼球の外側から、網膜の孔の部分に相当する部分をスポンジの小片で押し込んで縫いとめ、網膜の孔の周りを癒着させて凝固措置を加えて、網膜裂孔の閉鎖を図るものです。(図;網膜の孔をふさぐために強膜を内側に陥入させるので正式には強膜内陥術と呼びます。)
ビトレク




3番目が、眼球の中に手術器具と光源をいれ、網膜の穴の縁を引き上げている繊維性の硝子体組織をはずして、網膜の孔の閉鎖を図ると言うものです。(図:この硝子体手術、ビトレクトミーは正式には硝子体茎離断術といいます。)

最初の網膜の破れた部分を的確にすべて閉鎖してやれば、はがれた網膜は自然に張り付く方向に戻ってゆきます。逆に一部でも手術後に孔が残っていれば自然閉鎖は期待しがたく、再手術が必要になります。

網膜剥離は、患者さんが今お話したような症状に早く気がつき眼科を受診しなくては、治療が始められません。

眼科医は瞳孔を点眼剤ミドリンで開いて、精密に網膜を調べて網膜剥離とその原因となった網膜裂孔を探します。

その上で、剥離が見つかれば、自分が信頼する網膜剥離手術が特別に上手な術者に、一刻も早く手渡し、その術者の手できれいな手術をしてもらう以外には、患者を助ける道がありません。

強膜内陥術にしろ硝子体手術にしろ、網膜剥離の手術は非常に専門的なものですから、最近は網膜硝子体手術を専門にする医師が主に行ないます。神経眼科を専門とする私は、網膜剥離も診察は引き続き行なっていますが、最近は約20年間続けてきた網膜剥離手術に関してはメスを置きました。

(日本中に、有名な術者は大勢いますが、私が今まで東京医科歯科大学で一緒に仕事をさせていただいて、剥離の手術の腕を信頼する医師には、ご一緒させていただいた時期の順番に都立広尾病院吉野先生、川口医療センター森田先生、九州熊本出田病院川崎先生、三井記念病院田中先生、東京大学広瀬先生、千葉大学馬場先生、東京医科歯科大学菅本先生などが居られます。)

3月9日には夜10時から古巣の東京医科歯科大学で菅本先生たちの手術を硝子体手術を拝見する機会がありました。しばらく見ない間に、スリーポート(3つの入り口)は注射針の太さに変わり、手術もいっそう手際のよいものになっていました。これを見ると、今は強膜内陥術より、硝子体手術を先に選ぶ術者がいる理由がよく分かりました。

そして町の眼科医も、常に新しい手術を見ていないと現代の最先端から取り残されると言うことを実感いたしました。

網膜剥離の新規の発生頻度は人口1万人に一年で1人です。私の診療所での網膜剥離の新規の発見はこの12か月で4人です。おかげさまで皆さん手術でよくなっています。


飛蚊症を訴える患者さんが受診されて、眼底に網膜剥離がなかったとき、私は
“今日は大変よく来てくださいました。この症状は網膜剥離によく見られる症状であって、その発見が遅れると大変なのですが、幸い今日は剥離がありませんでした。一月位してから剥離が出てくることもありますので1月後にもう一度見せてください“
と説明することにしています。

このような飛蚊症、光視症、変視症などを自覚しましたら早めに眼科を御受診ください。

質問と答え:
質問: 先日母が飛蚊症の症状が現れ眼科を受診したところ、網膜剥離の傾向があると診断され、その予防法のひとつとして「重いものを持たない」というものがあり、具体的には「布団の上げ下ろし」「お風呂掃除」「草取り」などが駄目だと言われたのですが、そこまで徹底して予防をしないといけないものなのでしょうか?今まで子供が風邪などの時に面倒を見てもらい仕事を続けることができましたが、「子供を抱く=お世話」も重いものを持つのと同じでこれからはできないと言われ非常に困っています。
 また母はガーデニングが好きなのですが、これから先予防のために全くしてはいけないのか…詳しい予防法を知りたいです。
 「飛蚊症」の症状で「蚊」が2つ見えるようになったらすぐに眼科を受診してくださいと言われたそうですが。
答え: コメントありがとうございました。ブログへのいたずらが多すぎるので、コメントには個別に対応しています。

あまり心配しすぎずに暮らすのが良いでしょう。出来たら、一度現実の患者さんを拝見して意見を申し上げたいところです。

一般論としては、特にテニスをする、水泳の飛込みやボクシングをするなどは薦めませんが、今後一生重いものを持たないと言うわけには行きませんので、私は“日常生活の範囲のことはしてもかまわないでしょう”。と日ごろ説明しています。

ブログ本文にも書きましたとおり、近視や加齢などをきっかけに後部硝子体剥離が起き、それが一部網膜に癒着があれば網膜裂孔に進展します。その患者さんのさらにごく一部が網膜剥離になります。

しばらく網膜の状態を月に一度くらい3月をめどに眼科で見てもらっていてはいかがでしょうか?

網膜の変化(裂孔)をレーザーで光凝固する考えの先生と、光凝固では剥離の予防にはならないから網膜がはがれたらその場合に手術をするということでよいと言う先生のが両方が居て、私はむしろ後者です。


◎今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。

清澤眼科医院通信最新ページへ(リンク)します



kiyosawaganka at 10:31│Comments(1)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by 中内   2015年07月05日 19:28
こんにちは。また質問です。
面倒ですが、この動画見てください。
こんな重度の飛蚊症の場合でも飛蚊症だけの手術は行われないのでしょうか?
現実問題としてこのレベルの人かまともな社会生活を送れるとは思えないです。ただし、「失明か否か」なら別ですが。
お答え:白内障手術のついでに飛蚊症があるなら取りましょうと薦めて後部硝子体剥離に伴う飛蚊症に硝子体手術まで行うというケースがあるという噂は有ります。小さくなっているとはいえ、その危険性、またその手技に関する(保険適用で行おうとする点も問題)高い治療費などから、ふつうは取らないというのが現在のコンセンサスだと私は思っています。

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プロフィール
院長 清澤源弘
”すべては患者さんのために”を目指す江東区南砂駅前の眼医者です。眼科知識普及に役立つブログの作成が趣味。緑内障、小児眼科、花粉症などの眼科疾患を治療し、コンタクトレンズにも注目。眼瞼痙攣のボトックス治療、複視や視野障害の治療が専門でPETでの脳機能評価も手がけます。東京医科歯科大臨床教授(07年4月-、現在も毎水曜午後の神経眼科外来を担当)、2006年国際神経眼科学会副会長。日本眼科医会学術部委員
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