拙著『夢の行方』の書評を宣伝誌『宙』に載せたいから、依頼できる人を推薦するようにとの注文が東北大学出版会から来たので、少し考えて、後輩で東京工業大学にいる土場学さんを紹介したところ、期待に違わぬ小論を書いてくださった。
 その冒頭にあったのが『ドラゴン桜』からの引用文である。すなわち、主人公の弁護士・桜木健二が、東大を目指す生徒に言うセリフ「ナンバーワンにならなくていい オンリーワンになれだぁ?ふざけるな オンリーワンというのはその分野のエキスパート ナンバーワンのことだろうが」。 
 実は拙著の冒頭ではSMAPの「世界に1つだけの花」を引き、現代の高校生においては「ナンバーワン」志向から「オンリーワン」志向が強まっているというところから論を起こしているが、土場さんの『ドラゴン桜』からの引用文もこれを踏まえてのことである。ところが、私は不覚にもこの本を読んでいななかった。
 『不平等社会日本』(中公新書)の著者・佐藤俊樹さんも『中央公論』2006年2月号の特集「大学の失墜」に「大学が気楽に消費される時代:『ドラゴン桜』と「ホリエモン」が暴いた「大学」のリアル」という一文を寄せ、従来の東大もの(小林よしのり『東大一直線』や江川達也『東京大学物語』)とは異なり、この作品は東大を過剰に記号化することなく、受験勉強をリアルに描いて東大を相対化していると自虐的に書いていたから(ちなみに佐藤さんは東大助教授)、これは社会学者の必読文献だと再認識し、とりあえずTUTAYA泉中央店に行き、10巻まで借りてくる(10巻まで借りると割引になるからだ)。
 24億円の借入金をかかえ、3年以上も利払いが滞って経営危機に陥った龍山高校。しかも、少子化の影響で収入源の基盤となる学生数も定員300名に対して、165名しか入学せず、経営者は破産宣告を申請しようと、弁護士の桜木健二を雇う。彼は、元暴走族で未成年時に窃盗・傷害で保護観察処を受けている(要するにヤンキー弁護士である)。
 桜木は当初、依頼どおりに学校法人の清算によって名を上げようとするが、途中で民事再生法による事業継続を考え始める。もしこれに成功すれば、弁護士の最高ステータス虎ノ門に事務所をもてると考えたのである。そして、そのために、龍山高校を5年後に東大合格者を100人出す超進学校にしようというのである。まさに「ナンバーワン」志向の弁護士である。
 桜木は特別進学クラスの担任も兼ね、このクラスのたった2人の生徒、小料理屋の娘で母親に反感を持つ水野直美と、製薬会社社長の3人兄弟の末子で落ちこぼれの矢島勇介に対して、昔の仲間の造園業者から譲ってもらって植えた桜に龍山高校からドラゴン桜と名づけ、来春2人を東大に合格させ開花させると宣言する。そして、数学の柳鉄之介、英語の川口洋、国語の芥山龍三郎、理科の阿院修太郎といった個性的な塾講師をスカウトして、2人を特訓する。そして、その方法は、まさに佐藤さんが言うように「リアル」である。
 たとえば、第3巻で桜木は東大と京大の英語の問題を比較し、京大の英語の問題には「文学的素養」が必要だが、東大の英語の問題を解くには「要領のよさ」すなわち「事務処理能力の高さ」「短時間で高速回転させる頭脳をもつ」ことで十分だという。
 実際、『プレジデント・ファミリー』(2007年5月号)では、駿台予備校の講師が東大の英語問題を解くのに必要な能力についてこう語っている。「まず“書記官・秘書官能力”です。長い英文を読んで、エッセンスを的確な日本語で簡潔に書く力。・・・それに受かる子は、字を書くのも早いですね。・・・字を書くのが早いということは、思考のスピードが速いということですから」。