みなさん、こんばんは!


今回のお話はyahoo!ブログの10万HITリクエスト創作で書いたものです。
ミシェルを絡めたお話になりますが、原作とイメージが違い、違和感があるかもしれません。

そういった物が苦手な方はご注意ください。これ誰??イメージが崩れた…となられても責任は負えません😵💦

まぁ大丈夫~という方は最後までお付き合い頂ければと思います✨





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「今日はここまでにするか。しかしこんなに覚えの悪い人間もいるんだな」


「あんたと一緒にしないでよ。あたしはいたって普通なんだからね。だいたい、こんな量を一度に覚えられるわけないじゃない!」


ここはアルディ家の図書室。壮厳な雰囲気と古書が放つ独特の空気を劈くようにあたしの声が響き渡った。

図書室は円柱形にくり抜かれたみたいに中央が吹き抜けになっていて、壁一面が大きな本棚になっている。

二階はぐるりと回廊になっていて見上げるほどの高さまでズラリと本が並んでいる。

いったい何万冊あるんだろう。


あたしは今、フランスの歴史についてここで分厚い本に囲まれながら勉強している。


「そんなに騒ぐなよ。オレは事実を言ったまでだ」


ミシェルは煩わしそうに顔をしかめる。


「だって全部フランス語だし、あたしは自分じゃ読めないんだからゆっくり言ってくれなきゃ覚えられないわよ」


ミシェルは広げてある本をパタンパタンと閉じるとそれらをメイドに戻すように命じた。

そしてあたしに向き直るとさらりと言った。


「ならフランス語を学べばいいだろう」


「やってるわよ!」


「passer」(へぇ)


ミシェルはからかうようにフランス語を口にした。あたしはそれを鼻でフッと笑った。


「それぐらい分かるわよー」


ミシェルはにやりと笑うと、


「Faisons le mardi prochain、A propos de l'histoire……」


「あぁー、そんなに長いのは無理ー」


あたしが耳を塞ぐのを見てミシェルは満足げに笑った。

と、そこへシャルルが姿を見せた。


「随分と楽しそうだな」


その顔は笑顔ではあるけど、決してあたし達を微笑ましく見て笑っているわけじゃないのはすぐにわかった。

青灰色の瞳は冷ややかで、あたしは背筋に冷たい物が走るような気がした。


「別に楽しくなんてないわよ。ミシェルが意地悪するんだもん」


あたしはそう言ってシャルルの様子をチラッと伺った。

でもすでに遅かったようでシャルルの眉間にはシワが寄っている。


「だからオレが全部教えると言っただろう」


「ダメよ。そしたらあんたは絶対、無理するに決まってるもん」


「自分の限界はわかっている」


だから限界まで行っちゃダメなんだってば。きっとシャルルは仕事の時間をあたしに使って、睡眠時間を仕事にあてるつもりなのよ。そんな真似はさせられないわ。


「そういう事じゃなくて、あたしはシャルルの負担になりたくないの。もうこの話は何度もしたでしょ?」


あたしは今、花嫁修行中なの。

仏語、フランスの歴史、マナー、ワルツ、そしてアルディ家の歴史……と覚えなきゃいけない事がいくつもあって、それら全てをシャルルに教わっていたら当主の仕事や研究所の仕事は一体いつやるの?と言うことでフランスの歴史についてはミシェルに、マナーについてはジルにそれぞれ頼むことにしてそれ以外をシャルルに教えてもらうことにしたの。


でもシャルルにとってミシェルを選んだのは苦渋の選択だったみたい。

でも仕方ないのよ。

なんせシャルルの出した条件ってのが、

「オレと同等の人間、かつ日本語を話すことができ、歴史について自らの思想を述べることなく、事実のみを的確に伝えられる優秀な人材」

だったのよ。これを聞いた時、そりゃミシェルしかいないじゃないって思ったもの。しかも、


「人は自国の歴史について少なからず自らの見解があり、完全なる中立の立場を取ることは難しい。そのこと自体は思想の自由であり何ら問題はないが、日本人のマリナに……」


ってシャルルはダラダラと言っていたけどあたしは教えてくれるなら誰でも良かったんだけどね。

ミシェルも初めは気が進まないって様子だったけど、今ではあたしをからかって暇つぶしをしているって感じかしら。


小菅で別れてから半年、あたしはシャルルのことが忘れられずにパリに来た。

突然訪ねて来たあたしをシャルルは温かく迎えてくれた。

あれから一年が経とうとしている。

シャルルは親族会議であたしとの婚約を認めさせた。ただし、条件付きで。

その条件というのがあたしが将来フランスの永住権を取得することと、アルディ家に相応しい人間になることだった。

シャルルと結婚したからといってすぐに永住権がもらえるわけじゃなく、結婚してから三年が経って、テストを受けてやっともらえるそうでそれまでには仏語習得と講義もいくつか受けなければいけないの。だからこうして今から永住権取得のために準備を始めているわけ。


「オレは頼まれたから仕方なく相手をしてやってるだけだ。楽しいわけがない。ましてや覚えが悪いときてる。このオレが教えてやっているのにまだフランク王国までしか進んでない。一体いつになったら現代までたどり着くんだか。

じゃ、オレは仕事に戻るぞ」


そう言うとミシェルはあたし達を残して部屋をあとにした。

そしてこのミシェルがなぜアルディ家にいるのかっていうとシャルルが家訓を改正し、条件付きでマルグリット島への送還を見送ったらしい。

その条件というのがアルディ家の当主資格の永久剥奪、そしてシャルルの仕事の補佐をすることだった。

これらはたった数分、本当に僅かな違いで自分よりも先にこの世へと生まれ出ていったミシェルへの恩情だったんだと思う。

ミシェルも生涯に渡って孤島で暮らすことよりも制限付きではあるけど自由を選んだってことみたい。

全てが丸く収まり、アルディ家に平穏が訪れていた。




つづく