今にも落ちて来そうな空の下で

ジョジョと感染症とその周辺についてのブログ. タイトルは「ジョジョの奇妙な冒険」第59巻(集英社)より

CRPは役に立つか?について論文を書きました

すっかりブログの更新がご無沙汰になっていました。
時々セミナーなどでお会いする方々に「あのブログを読んでます」とか「もしかしてあのブログの中の人ですか?」などと声をかけられるようになり,全然更新していないので,何だか申し訳ない気持ちで一杯です。

さて,大学院でやった研究で,CRPは役に立つか?をテーマに論文を書きました。
日本では日常的に使用されている血清CRPですが,実際どれくらい役に立つのでしょうか?
数年前の某サイトのpro&con的な議論でも「私はCRPを使うから使う」vs「私にはCRPは必要ないから必要ない」という議論に終始していて,まるで宗教論争じゃないかと思ってしまいました(個人の感想です)。

調べてみると,CRPの感染症における診断性能や予後予測に関する日本の臨床研究は数えるほどしかなく,これだけ日本で使っているのに,議論の土台になるようなデータがほとんどないというのはマズいんじゃあないかなぁと思いました。

そこで,CRPの値が予後とどれくらい相関するのか?というのを疑問に検証してみることにしました。個人的には日本でずっと臨床をやってきて,CRPが高い人はやっぱり重症の人が多いなぁという印象は持っていましたが,それが本当に重症であればバイタルサインにも異常が出ていると言われればそんな気もしていました。CRPがなかったらなかったで,おそらく,個人的にはそれほど困らないのですが,一方で未熟な研修医のプレゼンを聞くよりはCRPの方が頼りになることもあると思います。
自分自身も,明け方やってきた患者さんのCRPが30あった時には,眠れない当直で頭が回らない状態の目覚ましとして役に立ったことはあります。

ということで,意外とCRPが予後と関連するんじゃないかなぁと思いつつ,実際どれくらい役に立つのかを調べてみました。国際的な流行りとしてはCRPよりプロカルシトニンの時代なんですが(実際今回の論文のレビューワーにもなんぜプロカルシトニンじゃなくてCRPなの?と聞かれました),プロカルシトニンも考え方としてはCRPの延長線上にあるものなので,まずはCRPに決着をつけたいと思いました(あと,研究を行った病院ではプロカルシトニンが外注検査だったので,ほとんど測定されていなかったという問題もありました)。細菌感染症の診断に対して,プロカルシトニンの方がCRPよりも優れているとする報告は多いですが,最近ではプロカルシトニンよりもCRPの方が予後予測には優れていたという報告もありますし(Lichtenstern C, Brenner T, Bardenheuer HJ, et al. Predictors of survival in sepsis: what is the best inflammatory marker to measure? Current opinion in infectious diseases 2012;25:328-36.)保険点数もプロカルシトニンが320点(3200円)に対してCRPが16点(160円)と20倍も違います。

ということで以下の論文です。

Yamamoto S, Yamazaki S, Shimizu T, Takeshima T, Fukuma S, Yamamoto Y, et al. Prognostic utility of serum CRP levels in combination with CURB-65 in patients with clinically suspected sepsis: a decision curve analysis. BMJ Open. 2015;5(4):e007049–9. 
http://bmjopen.bmj.com/content/5/4/e007049.full

目的:血清CRPの敗血症における有用性は議論のあるところである。今回,敗血症疑い患者において,血清CRPがCURB-65に対して臨床的有用性の上乗せがあるかどうかをdecision curve analysis(DCA)を用いて評価した。 
デザイン:過去起点コホート研究
セッティング:日本の教育病院の救急外来
対象患者:救急外来で血液培養を採取後に入院した15歳以上
アウトカム:30日間入院死亡割合
結果:最終的なスコア評価には1262名が対象になった。30日間入院死亡割合は8.4%だった。多変量解析で血清CRP15mg/dL以上は独立した予測因子だった(調整オッズ比 2.0; 95%信頼区間 [CI]: 1.3〜3.1)。CURB-65と,これに血清CRP15mg/dL以上を加えて作成した修正CURB-65の予後予測能を比較した。ROC曲線下面積はそれぞれCURB-65が0.76 (95% CI: 0.72〜0.80) ,修正CURB-65が 0.77 (95% CI: 0.72〜0.81)だった。どちらもcalibrationは良好であり,0〜30%のthreshold probabilityにおいて有用だった。CURB-65にCRPを加えることにより,net reclassification improvementは0.387 (95% CI: 0.193〜0.582),integrated discrimination improvementは0.015 (95% CI: 0.004〜0.027)と統計学的に有意な改善がみられたが,DCAでは死亡の予測について両者のnet benefitはほぼ変わらなかった。
結論:血清CRPの測定は,感染巣によらない敗血症疑い患者の死亡の予測において,CURB-65に対する臨床的有用性の上乗せはほとんどなかった。

なんだか面倒くさそうなことをやっているなぁと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
単にCRPとアウトカム(死亡)の関連性を重症度で調整して死亡との関連性が統計学的有意に出ました,とすればシンプルでよくあるタイプの研究なんですが,それではどれくらい役に立つのか?他のバイタルサインと比べて付加的な情報があるのか?という問には答えられません。

そこで,既存の重症度スコアにCRPを加えることによって予測能がどうなるかを調べました。既存の重症度スコアはCURB-65を用いました。CURB-65と言えば肺炎の重症度スコアじゃないかと思われる方も少なくないと思いますが,肺炎以外の敗血症疑いや内科患者でもvalidationされています(引用文献は論文参照)。ちょっと意外に思われるかもしれませんが,よく見れば年齢とバイタルサインとBUNに反映されるような大雑把な腎血流と考えれば,肺炎特有の指標でなくてもいいというわけです。

で,重症度スコアや予測スコアを比較するのに,従来はROC曲線下面積(AUC)を比較されることが多かったですが,AUCはdiscriminationの指標です。予測モデルの統計学的な性能の一部を評価することはできますが,これだけで「予測スコアが臨床的に使えるか?」を判断することはできません。

予測確率と実際に観測された確率の一致度をみるcalibrationという指標も大事です。というのは,臨床での判断を問題にした場合,予測される確率が1%の場合と10%の場合と50%の場合では次の行動が変わってくるからです。臨床での判断が変わるのが10%くらいのところであった場合,10%くらいのところの予測能はあまりよくない予測スコアでは,それ以上の確率の一致度がいくら高くても臨床的にはあまり使えるものではないということです。

数年前から,既存の予測スコアに新しいマーカーを加えて再分類能がどれくらい改善するかという指標としてnet reclassification improvement (NRI)やintegrated discrimination improvement (IDI)といった指標が使われるようになっています。当初はこれをメインの指標として評価しようと思っていたのですが,NRIやIDIも臨床での有用性を評価するものではないという批判が出ていることを知りました。
Vickers AJ, Pepe M. Does the net reclassification improvement help us evaluate models and markers? Ann Intern Med. 2014;160(2):136–7. 

このVickersらは臨床上の有用性を評価できる解析として,decision curve analysis (DCA)を提唱しています。「疾患ありの人を正しく分類するbenefit」と「疾患なしの人を誤って疾患があると分類するharm」の重みは通常異なる,という考え方に基づき,真の陽性から,誤分類のコストで補正した偽陽性を引いたものをNet benefitとして計算するものです。

例えば,頭痛の患者さんに対するくも膜下出血を予測する予測スコアがあったとして,予測確率が何%あったら頭部CTを撮るか?ということを考えてみたいと思います。
「予測スコアに基づく事前確率が5%あれば頭部CTを撮る」という人は「5%当たればよい,あとの95%は空振りでも仕方がない」と考えていることになります。すなわち,20人に頭部CTを撮影して,1人のクモ膜下出血を見つけることができれば,あとの19人の結果的に無駄な被爆,CT撮影費用は許容されると考えているということです。

人によってはくも膜下出血の事前確率が1%でも頭部CTを撮るというかもしれません。しかし,事前確率が50%ないと頭部CTを撮るという人はいないでしょう。
この,何%で次の行動が変わるかどうかは,転帰の重大さや検査・治療の侵襲度のバランスで,判断は個人(医師や患者)によって異なります。
このような「臨床での有用性」を評価するのに,決断分析が用いられていましたが,方法論として複雑で,追加データ(患者の好み,検査・治療のコストなど)やいろいろな仮定が必要になるので,簡単にはできません。

VickersらのDCAは,治療するか,治療しないかによるアウトカムのリスクがちょうどつりあうと判断されるポイントをrisk thresholdとして,このポイントで期待されるutility/costがつりあうと考えられます。前述の通り,このthresholdは人によって異なります。横軸にthresholdをとり,縦軸にnet benefitをプロットしていくとDCAを描くことができます。これを他の予測モデルと比較したり,「予測モデルと関係なく全員同じ治療」の線と比較します。ややこしいですが,要はnet benefitが大きいほど(DCAのカーブが上にあればあるほど)予測モデルを使用する正味の利益が多くなるという意味です。

本研究では,CRPはCURB-65の項目と独立して予後と関連し,CURB-65と組み合わせるとNRIやIDIといった統計学的な指標は改善したものの,臨床的有用性を示すDCAはほとんど変わらないという結果でした。すなわち,臨床判断にはあまり役に立たないということです。CURB-65の構成項目のバイタルサインは結構大事なんですね。CRPを見るなとはいいませんが,バイタルサイン(とBUN)にはもっと注目した方がよいと思います。

DCAは計算自体はそれほど難しくないですし,決断分析のような追加データも必要ないので,これから流行るんじゃないかと予想していますが,まだそんなにメジャーではないですね。最近,Annals of Internal MedicineやJAMAに載るような論文でも採用されるようになってきています。
DCAについて,もっと勉強してみたいという奇特な人がいらしたら以下の論文がお薦めです。

・Peirce CS. The numerical measure of the success of predictions. Science 1884; 4:453–454. Net benefitの考え方の基本になった論文
・Pauker SG, Kassirer JP. The threshold approach to clinical decision making. New England Journal of Medicine 1980; 302:1109–1117. 決断分析のthresholdについて
・Vickers AJ, Elkin EB. Decision curve analysis: a novel method for evaluating prediction models. Medical decision making 2006; 26:565–574. DCAを初めて提唱した論文
・Vickers AJ, Cronin AM, Elkin EB, Gonen M. Extensions to decision curve analysis, a novel method for evaluating diagnostic tests, prediction models and molecular markers. BMC Med Inform Decis Mak 2008; 8:53. DCAのoverfit補正(crossvalidation),信頼区間,打ち切りデータへの対処(生存データへの応用),decision curveのスムージングについて 
・Steyerberg EW, Vickers AJ. Decision curve analysis: a discussion. Medical decision making 2008; 28:146–149. Steyerberg(予測モデルの大家)とVickersの対話
・Steyerberg EW, Vickers AJ, Cook NR, et al. Assessing the performance of prediction models: a framework for traditional and novel measures. Epidemiology 2010; 21:128–138. 予測モデルの評価の仕方のまとめ
・Moons KGM, de Groot JAH, Linnet K, Reitsma JB, Bossuyt PMM. Quantifying the added value of a diagnostic test or marker. Clin. Chem. 2012; 58:1408–1417. 診断検査の評価法のレビュー



ERアップデート2015 in 沖縄 参加者募集中です

毎年夏と冬で2回開催されているERアップデートの夏が現在参加者募集中です。

2015年7月3日(金)〜5日(日)
会場は沖縄残波岬ロイヤルホテル です。

林寛之先生,寺澤秀一先生,箕輪良行先生,今明秀先生,太田凡先生,井村洋先生,小淵岳恒先生など救急・総合診療のスーパースターの先生方が講師として参加されます。私など場違いな気がしますが,僭越ながら「感染症と体温」の話と「海外からの帰国者の発熱」についてお話しする予定です。

参加費がちょっと高い(宿泊費と交通費は別にかかる)のが玉に瑕ですが,早めの夏休みのついでに沖縄に遊びに,ではなくて勉強しに行ってみてはどうでしょうか?最近の研修病院は勉強会の参加費や旅費を出してくれるという羨ましいところもあるらしいと風の噂に聞きます。

内容や申し込み方などの詳しい方法は以下のホームページからどうぞ。
http://www.erupdate.jp
 

青木眞先生の「レジデントのための感染症診療マニュアル」の第3版が出ました!

青木眞先生の「レジデントのための感染症診療マニュアル」の第3版が出ました!

今版は各章を執筆協力者達が内容や文献をアップデートしたものを,青木先生と執筆協力者代表の具先生が吟味をすることによって改訂されました。畏れ多くも私も第2章をお手伝いさせていただきました。改訂している最中に新しい文献やガイドラインが出てくるので大変でしたが,これを第2版は青木先生お一人でおまとめになったと思うと気が遠くなるお仕事だなぁと思いました。

単著でよかった本が共著になるとイマイチという例はなくもないですが(Wallachとか),これはしっかり青木先生の目が入っていますので,安心できると思います。

改訂中にアップデートされてしまった事柄はなるべく校正刷りの時に対応しましたが,追いつかないところもあり(特にHCVの治療薬はアップデートが早すぎて正味期限が切れています),もし更なる改訂の機会をいただけるようでしたら,何とかアップデートしたいと思います。

思えば私が初版に出会ったのは大学5回生で麻生飯塚病院で病院実習をしていた時でした。研修医の先生達が「すごい本が出た」と言ってこぞって読んでおられました。この本に出会って人生が変わった,という人も数知れず,私もその一人です。当時は改訂のお手伝いに関わることになるなど夢にも思っていませんでした。完成した本を手に取ると感慨深いです。

青木先生のご講義を拝聴する時に不思議に感じるのは,同じテーマなのに毎回新しい発見があるということです。同じように臨床で疑問に思ったことも,このマニュアルに帰ってくると,「あ,なんだ,ちゃんと書いてあった」と発見することがあり,「原則」というのは本当に大事なんだなぁと思うのです。

感染症を専門にする人もしない人も,困った時に帰ってくる拠り所になる,そんな本だと思います。


 

肺炎球菌肺炎に対する併用療法について

「菌血症を伴う肺炎球菌肺炎で単独療法よりも併用療法の方が予後がよい」ことを支持する研究として
Baddour LM, Yu VL, Klugman KP, et al. Combination antibiotic therapy lowers mortality among severely ill patients with pneumococcal bacteremia. Am J Respir Crit Care Med 2004;170:440–4. doi:10.1164/rccm.200311-1578OC
がしばしば引用されます。まあ,確かに重症患者については併用療法の方が予後がよかったという結果なのですが,なぜか「マクロライド併用がよい」という主張に読み替えられることがしばしばです。

本文の結果のところに書いてありますが,併用の内訳は以下の通りです。
The most frequent combination therapies prescribed were beta-lactam/macrolide (14), vancomycin/beta-lactam (12), beta-lactam/aminoglycoside (7), vancomycin/other antibiotic (4), beta-lactam/quinolone (4), double beta-lactam therapy (2), beta-lactam/ chloramphenicol (2), beta-lactam/trimethoprim-sulfamethoxazole (1), and clindamycin/quinolone (1).
47例の併用療法のうちベータラクタム+マクロライドは確かに最も多い14例なのですが,他はバンコマイシン+ベータラクタム(12例)とか,ベータラクタム+アミノグリコシド(7例)とかなんです。これでマクロライド併用がよいと結論づけるのはちょっと無理があると思います。

また,この研究は「前向き研究で示されている」と「前向き研究」という部分が強調されがちですが,以下の前向き研究のサブグループ解析という位置づけだと思います。全体では単独療法と併用療法で予後に有意差はありません。
Yu VL, Chiou CCC, Feldman C, et al. An international prospective study of pneumococcal bacteremia: correlation with in vitro resistance, antibiotics administered, and clinical outcome. CLIN INFECT DIS 2003;37:230–7. doi:10.1086/377534
http://cid.oxfordjournals.org/content/37/2/230.full 
最初から「重症例で併用療法の効果を検証する」というプロトコールだったのかどうかわかりませんので,探索的に仮説を提唱することはできると思いますが,「たまたまそうだった」可能性は十分あると思います。
サブグループ解析で強い結論を導き出せないことの例としては週刊医学界新聞のこちらの記事がとてもわかりやすいです。
もっとも,他の観察研究でもマクロライド併用が死亡率を下げる可能性は示唆されていますので,重症肺炎の初期治療でベータラクタム+マクロライドもしくはベータラクタム+フルオロキノロンという併用療法を否定するつもりはありませんし,おそらくやった方がよいと思います。でも菌血症を伴う肺炎球菌肺炎だとしても重症でないものにまでこれを適用するのはちょっとやりすぎではないかなぁと思ってしまいます。

この辺りの議論は「侮れない肺炎に立ち向かう31の方法」にまとめましたので,興味のある方はご覧いただければと思います。



4/9のためしてガッテン,フェリチンと倦怠感とうつと不眠と私

昨日(4/9)のためしてガッテンで,フェリチンが低いことがうつや不眠の原因になっていて,フェリチンを補えばこれらが劇的に改善する魔法の薬です,というようなことを言っていました。
↓こんな内容でした。

貧血がなくてもフェリチンが低い女性に鉄剤を投与することによって倦怠感スコアが改善するという研究がいくつかあることは知っていましたが,うつや不眠との関連性も示されたのか!と思いましたが,調べてみるとそうでもないようです。

例えば,これは日本の研究ですが,市役所の職員を対象に血清フェリチン値とうつ症状(CES-Dというスコア)の関連性を調べたもののようです。
Psychiatry Res. 2011 Oct 30;189(3):368-72.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21470691
男性については,フェリチンが低い方がうつスコアが低い傾向があったものの,女性については関連性は示せなかったという結論のようです。番組ではいかにも女性でフェリチンが低いことがうつの原因かのように説明されていましたけどねぇ・・・。
 
また,普通に食事をとっている人が摂取不足で鉄欠乏になることは稀と言われますので,鉄欠乏(血清フェリチンが低い)の状態であれば,どこからか出血している可能性を考えなくてはいけません。閉経前の女性であれば,月経があるので,月経による鉄欠乏が少なくないですが,男性および閉経後の女性で鉄欠乏の状態であれば,通常は消化管のどこかから出血している可能性を考えます。
こういう場合は,胃潰瘍や胃癌,大腸癌が見逃したくない病気です。上記の市役所職員を対象にした研究で男性では血清フェリチン値が低いこととうつ症状の関連性が示されたということですが,男性で血清フェリチン値が低いということは,消化管に何か病気があったのではないかと考えたくなりますので,血清フェリチン値の影響よりもそちらの方との関連性が気になります。

また,こちらはドイツの高齢者を対象にした研究ですが,フェリチンを含めた鉄代謝とうつ症状について関連性はなかったとのこと。
Int Psychogeriatr. 2006 Sep;18(3):437-44. 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16472410

簡易的に調べただけなので,検索漏れはあるかもしれませんが,他にめぼしいものは見つけられませんでした。
う〜ん。どうなんでしょう。フェリチンとうつや不眠は関係があるのでしょうか?
倦怠感については,それなりにデータはありますが,うつや不眠とは関連性があるとは言いがたいように思います。

貧血がなくてもフェリチンが低い女性に鉄剤を補充すると倦怠感が改善するというのはこちら。
規模は大きいと言えませんが,ランダム化比較試験で統計学的に有意な改善があったという結果です。
拙著の「かぜ診療マニュアル」でも「微熱・倦怠感型」の項目で紹介した論文です。
BMJ. May 24, 2003; 326(7399): 1124.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC156009/

他には以下のようなものもありました。
やはり閉経前で貧血はないがフェリチンが低い「倦怠感を訴える」女性に対して鉄剤またはプラセボを投与するランダム化比較試験で,倦怠感は改善したが,QOL,うつ,不安には影響なし,という結果です。
CMAJ. 2012 Aug 7;184(11):1247-54.
http://www.cmaj.ca/content/early/2012/07/09/cmaj.110950.full.pdf

なんと鉄剤の静注のランダム化比較試験もありました。対象は同様に貧血はないが血清フェリチンが低い,倦怠感を訴える女性です。血清フェリチン値が15ng/ml以下の人については効果があったという結果でした。
Blood. 2011;118(12): 3222-3227
http://bloodjournal.hematologylibrary.org/content/118/12/3222.long

こちらは献血をした女性で,貧血はないけどフェリチンが低かった人を対象に,鉄剤を内服させるかどうかのランダム化比較試験です。いろいろありますね。結果はヘモグロビンとフェリチンは上がったけど倦怠感は変化なし。まあ,献血に行くという時点でベースラインがそれなりに元気だったんじゃないかと思いますので,改善が検出しにくかったのかもしれません。
BMC Medicine 2012, 10:8 
http://www.biomedcentral.com/1741-7015/10/8

ということで,他に説明ができない倦怠感を訴える女性では,貧血がなくても血清フェリチン値が低ければ鉄剤による補充を試してみてもよいというのが私の考えですが,うつや不眠が改善する魔法の薬というのはかなり言い過ぎではないでしょうか?
しばらくの間,外来にフェリチンを測って下さい,という方が殺到するかもしれませんが,なんだかなぁという気がします。

微熱や倦怠感を訴える人への一般外来での対応は「かぜ診療マニュアル」に書きましたので,よろしければ読んでみて下さい(なんだステマか)。


 

呼吸器の薬の考え方,使い方

ブログ「呼吸器内科医」や「寄り道」呼吸器診療で有名な倉原優先生の新刊「呼吸器の薬の考え方,使い方」が出版されました。
http://pulmonary.exblog.jp





前にも書いたかどうか忘れましたが,実は彼が初期研修医時代に同じ病院におり,私のチームで研修してくれました。正直言うと,当時はそんなに論文をたくさん読んでいるイメージはなく,数年後「呼吸器内科医」のブログが彼の手によるものだと知って驚きました。こんなに有名になるならもっと恩を売っておけばよかった,などと邪悪なことを考えてしまいますが,教え子が自分を追い抜いていくのは嬉しいものです。といっても,大したことを教えたわけでもないので,どこで研修してもきっと立派になっていたことでしょう。

さて,この本は呼吸器内科で使われる薬について解説した本です。
最近,吸入薬が意味がわからないくらいたくさん種類が出ているので,こういうまとめは助かります。他にも去痰薬や鎮咳薬などについても,見たことも聞いたこともないものまで載っていてこんなに種類があるんだと驚きました。1つ1つ丁寧に解説されていますが,細かい使い分けというよりは,こんなにたくさんあるけれど,全て使う必要はなく,なるべくデータの多い薬剤について使い慣れていきましょう,というのも本書のメッセージの1つではないかと思いました。

抗結核薬についても記載されているので,呼吸器内科医だけでなく,感染症に携わる感染症医や一般内科医の人にもお勧めです。薬剤師さんにも非常に良いと思います。

知らないこともたくさんあり,興味深く拝見しました。
・排便喘息
・痰壺の由来
・リンコデはとても苦い
・ピラジナミド使用中患者に尿酸値を下げようとアロプリノールを投与するとキサンチンオキシダーゼ阻害作用によりピラジナミドの代謝産物であるピラジン酸の濃度がさらに上昇するという報告があるので使用しない方がよい(使うならベンズブロマロンの方がよい)

などなど。是非手にとってみてください。

尚,倉原先生には「侮れない肺炎に立ち向かう31の方法」で『肺炎を「見抜く」ための画像検査』について執筆してもらいました。


 

採血を省略した修正PSI

またもや直後に間違いを発見したので,黄色時で修正します(2014年3月26日午後3時17分)。確認したつもりだったのに,最近注意力散漫だなぁ。

「侮れない肺炎に立ち向かう31の方法」に「10『訪問診療』での肺炎診療」についてご執筆いただいた,あおぞら診療所の春原光宏先生らの論文を偶然見つけました。

Ishibashi F, Sunohara M, Kawagoe S. Performance of severity scores for home care-based patients suffering from pneumonia. Geriatr Gerontol Int 2014; 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24617550

 肺炎の重症度スコアにPSI (Pneumonia Severity Index)がありますが,結構項目が多く,採血も必要なので,煩雑なのが欠点です。在宅の場ではすぐに採血もできないので,採血やレントゲンが必要な項目を省いてアレンジしたということでした(PaO2はSpO2で代用)。PSIとほぼ変わりないc-indexとのこと(若干,なんで?という気もしますが)。

All the four scores well predicted the mortality, with the area under the curve of the receiver operating characteristic curves of the PSI, the PSI-HC, the A-DROP and the CURB-65 being 0.859, 0.856, 0.778, and 0.806, respectively. 

点数を合計した後のカテゴリー化にはオリジナルのPSIを同じカテゴリーを用いたせいか,カテゴリーVに相当する人がいなかったとのこと。
失礼しました。修正PSIの方は各層の人数が同じになるように分けた,とのことでした(論文では5段階ではなく4段階に分かれているようですが)
The PSI-HC was categorized into five, severity I–V, as the number of patients in each severity was equal

これはカテゴリーを分け直した方がよいのかもしれませんが,症例数が97例とまだ少ないので,致し方ないか。
在宅の現場から出てきた貴重な提案だと思います。手元のデータでexternal validationも可能かもしれないので,今の仕事に目途がついたらやってみようかと思います。


ついでに風邪の方も宣伝。



 

しつこいですが,ドリペネムの話の続き

アップした直後に間違いを発見したので黄色字で修正します(2014年3月24日午後0時34分)。

しつこいと思われるかもしれませんが,子供の頃,「警部補古畑任三郎」が好きだったせいか,こまかいことが気になると夜もねむれないので,もう少し。

Kollef MH, Chastre J, Clavel M, et al. A randomized trial of 7-day doripenem versus 10-day imipenem-cilastatin for ventilator-associated pneumonia. Crit Care 2012; 16:R218. (以下,Kollef2012)
に先だって行われたドリペネムとイミペネムを比較したRCTの
Chastre J, Wunderink R, Prokocimer P, Lee M, Kaniga K, Friedland I. Efficacy and safety of intravenous infusion of doripenem versus imipenem in ventilator-associated pneumonia: a multicenter, randomized study. Crit Care Med 2008; 36:1089–1096. (以下,Chastre2008)
について。

Chastre2008ではドリペネムはイミペネムに非劣性が証明されているのに,Kollef2012は反対の結果が出たのはなぜでしょうか?しかし,よく読んでみると,全く反対の結果というわけでもなさそうです。

Chastre2008の方は
・ドリペネム1回500mgを8時間毎4時間かけて点滴
・イミペネム1回500mgを6時間毎または1gを8時間毎を30〜60分かけて点滴
を比較していて,共に治療期間は7〜14日間です。
投与量と投与期間が異なりますが,Kollef2012と最も注意すべき違いはChastre2008の方はオープンラベルのRCTであることだと思います。

"The primary efficacy analysis assessed the noninferiority of the clinical cure rate of intravenous doripenem to intravenous imipenem in the clinically evaluable and cMITT populations."

ということで,プライマリーエンドポイントは"clinical cure rate"をcMITT解析でドリペネムのイミペネムに対する非劣性を検証です。

"clinical cure rate"とは何かというと,

"Clinical responses were classified as cure, failure, or indeterminate by the investigator at the end of therapy and test of cure (TOC) visits."

ということで,investigatorが治療終了後に訪問して治ったかどうかを判断するということのようです。ただし,この「治ったかどうか」の判断基準が論文中には明確に示されていないようです。客観的ではない指標を評価指標に用いる時は,評価者がblindingされているかどうかが重要ですが,本文中には

"blinding of both the statisticians and the medical team supervising the study and determining the evaluability of each patient."

"To minimize bias, in- house handling and analysis of data (e.g., determination of patients’ evaluability) were blinded. Clinical investigators were responsible for the determination of clinical outcomes and safety assessments."

とあるものの,patients’ evaluabilityを評価する人はアウトカムを評価する人とは異なるように思いますし,評価者 (clinical investigotors)がblinidingされていたかどうかが書かれていないように思いました。

これと同じ時期に同じスポンサーでドリペネムとピペラシリン/タゾバクタムを比較したオープンラベルのRCTでは,やはり同様にinvestigatorによるclinical responseをプライマリーエンドポイントにしています。
Rea-Neto A, Niederman M, Lobo SM, et al. Efficacy and safety of doripenem versus piperacillin/tazobactam in nosocomial pneumonia: a randomized, open-label, multicenter study. Current medical research and opinion 2008; 24:2113–2126. 

"an external blinded expert evaluation comittee was convented to review the case report records of all treated patients. The comittee evaluated whether the diagnosis of pneumonia had been adequately established and whether they concurred with the clinical outcome determined by the unblinded investigator."

という記載があり,investigatorは盲検化されていないので,それを補うために盲検化された外部評価委員会により診断とアウトカム評価の妥当性をチェックしたようです。
外部評価委員会によるチェックは大事なことですので,もし行っていたら論文中に必ず書くと思いますが,書いていないということは,Chastre2008の方は外部評価委員会を設置していなかったのでしょうか?

客観的ではない指標を用いる場合,評価者が盲検化されていないとバイアスが入りやすいことは想像に難くないでしょう。スポンサーがついている臨床試験ですので,スポンサーに有利な判定をしてもおかしくありません。

仮に評価者が盲検化されていたとしても,非劣性試験の場合,盲検化はバイアスを十分に制御できません。非劣性試験では両群の治療効果の差が縮まれば「統計学的な非劣性を示しやすい」ので,評価者が意図的に「全て同じ治療効果」と判定すれば,非劣性を示すことができてしまいます。まあ,そんな露骨なことはしていないでしょうが,微妙な時はあまり差をつけないように判定すれば,理論的には両群の差が縮まりますので,非劣性を示しやすくなると思います。

このようなバイアスを克服するには,誰が評価しても変わりようがないアウトカム,例えば「死亡」を評価すればよいということになります。

2010年に発表されたIDSA,ACCP,ATS,SCCMによるポジションペーパーでは,HAPおよびVAPの臨床試験で非劣性を検証する場合には,プライマリーエンドポイントとして,30日間の総死亡を用いるように,とされています。

"Noninferiority trials using all-cause mortality as the primary efficacy end point at 30 days in the microbiological modified intention-to-treat (mMITT) population"

Infectious Diseases Society of America (IDSA), American College of Chest Physicians (ACCP), American Thoracic Society (ATS), Society of Critical Care Medicine (SCCM), Spellberg B, Talbot G. Recommended design features of future clinical trials of antibacterial agents for hospital-acquired bacterial pneumonia and ventilator-associated bacterial pneumonia. CLIN INFECT DIS 2010; 51 Suppl 1:S150–70. 

Chastre2008の死亡はセカンダリーエンドポイントとして評価されています。

"The all-cause mortality at day 28 in the cMITT population was 10.8% with doripenem and 9.5% with imipenem (difference 1.3%; 95% confidence interval -4.4% to 7.0%)."

ということで,ドリペネムの方がイミペネムよりも1.3%総死亡が多かったということでした。これでも非劣性マージンを10%にとれば,一応,統計学的な非劣性を示してはいます。

さて,信頼区間の下限が-4.4%です上限が7%です (どちらを基準にするかがごちゃ混ぜになっていました)。

Kollef2012では,
"All cause 28-day mortality in the MITT group was numerically greater for patients in the doripenem arm compared to the imipenem-cilastatin arm (21.5% versus 14.8%; 95% CI, -5.0 to 18.5)"
とのことで,28日間総死亡の絶対リスク差で6.7%です。(イミペネムを基準にするため-をとりました)

FDAが再解析したITT解析では28日間総死亡の絶対リスク差は6.3%でした。(こちらもイミペネムを基準にするため-をとりました)
"In the intent-to-treat population, the 28-day all-cause mortality was higher in the Doribax arm (23.0%; n=31/135) than in the imipenem and cilastatin arm (16.7%; n=22/132)."
http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm388328.htm

Kollef2012は試験が途中で中止になっていますが,仮に最初の方にエントリーした患者がドリペネムに不利なような偏りがあったとして,もし試験が最後まで行われていたとすれば,平均への回帰により,若干差が縮まり,最終的な死亡の絶対リスク差は4%か5%くらいに落ち着いたかもしれません(単なる想像です)。これはChastre2008の28日間総死亡の信頼区間下限と同じくらいですから,全くありえない数字ではないと思います。(こちらもイミペネムを基準に-をとりました。6.3%のままでもChastre2008の総死亡の信頼区間の上限7%の範囲内ですね)

2つの試験をまとめると,ドリペネムはイミペネムに総死亡で5%前後劣る最大7%上回る可能性があるというところが妥当な解釈ではないかと思います。

Kollef2012を受けてEMAはドリペネムの投与量は1回1gで十分量を使いなさいと推奨しています。が,個人的にはなんとなく釈然としないものを感じます。

2つの試験をみると投与量を増やした方が総死亡が増えています。
カルバペネムの薬理作用を考えると投与量を増やしたからといって死に至る副作用が増えるとは考えにくいですが,我々が認識できていない用量依存性の副作用があるとすれば納得がいく結果です。
「そんなもの存在するはずがない」という考えの人は,十分量使用すべきだとなるのでしょうか,RCTは「なぜ?」を教えてくれないので,結局のところ,本当に倍量使用した方がよいのか,倍量使用するとかえってよくないのか,これらの結果からは何とも言えないと思います。
よくわからないことがあり,他の選択肢があるのであれば,自分ならやっぱり使わないなと思います。




診断法を評価する (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)

著者の野口先生からご贈呈いただきました。


診断性能の評価,clinical prediction ruleの開発と検証,診断特性のメタアナリシスについて解説されています。日本語でこのテーマの入門書はあまりなかったように思いますので,大枠をつかむにはとてもよいように思いました。

診断性能の評価は思ったほど簡単ではありません。評価する対象患者によって感度や特異度はかなり変わることがあります。例えば,真菌感染症のマーカー(βナントカ)について,ケースを剖検症例から,コントロールを健常者から選んで評価している研究があります。当たり前ですが,診断性能は現実よりもよく見えます。というか,そういうマーカーを測らなくても剖検症例と健常者だったら見た目で判別できます。こういう疾患スペクトルによるバイアスがあって出てきた感度,特異度は現実世界で適用できるかどうかわからないですが,いったん数字として世の中に出ると独り歩きしていくので,厄介なことがあります。
本書では診断研究の結果を解釈する上で重要なバイアスが解説されています。

Clinical Prediction Ruleについては,自分の研究テーマもこれを扱っているので,それなりに勉強したつもりですが,日本語で入門書的なものがこれまであまりなかったように思います。これでまず大枠をつかんで適宜英語の教科書で補強していくのがよいのではないかと思いました。

自分が使っているのは,Steyerbergの"Clinical Prediction Models: A Practical Approach to Development, Validation, and Updating"です。

診断研究のメタアナリシスも治療のメタアナリシスとはちょっと違った部分があります。一応,Mindsのセミナーで解析方法だけは習ってできそうなので,自分でもやってみたいのですが,今は手一杯なので,落ち着いたらできるといいなぁ。


 
 

これであなたも免許皆伝! ドクターこばどんの感染症道場

著者の小林先生からご贈呈いただきました。実は,小林先生とは学生時代からの知り合いです。当時からデキる人でした。「こばどん」と呼ばれているとは全然知りませんでした。

当初は「そこが知りたい!感染症一刀両断!」の改訂版という話だったそうですが,蓋をあけてみれば別の本として生まれ変わったそうです。

学生や初期研修医の人が最初に感染症を勉強しようと思った時に何で勉強し始めるのがよいかと聞かれた時に,これまでは矢野晴美先生の「感染症まるごとこの一冊」を勧めていましたが,これからは矢野先生の本かこの小林先生の本かをオススメしたいと思います。網羅的に非常によくまとまっていると思います。

あと,非常に細かいことですが,読みながら以下の点が気になったので著者にご連絡しました。増刷時に修正をご検討してくださるそうです。

・ゲンタマイシンの保険適用量ですが,2013年に5mg/kgに改定されています(添付文書上は3〜4回に分割ですが)。
・ホスホマイシンについて,国内で承認されているのは,fosfomycin calciumですが,海外で用いられているのは主にfosfomycin trometamolです。薬物動態も異なり,fosfomycin trometamolのバイオアベイラビリティは42.3%ですが,fosfomycin calciumのそれは12%にすぎません(Infection. 1990;18 Suppl 2:S65-9.)。ですので,IDSAのガイドラインのように膀胱炎に1回3g投与というのは日本の製剤では適用できないと思います。
・A型肝炎ワクチンの接種回数が2回と記載されていましたが,日本のエイムゲンはアジュバントが入っていないせいか,長期間の抗体価を維持するためには3回接種が必要とされます。

 

ちゃんと知ろう!ドリペネムのこと:人工呼吸器関連肺炎にドリペネムを使うと死亡が多かった

最強の抗菌薬が何なのかわかりませんが,ドリペネムでないことは確かです。

2012年に発表された人工呼吸器関連肺炎(以下,VAP)を対象にした二重盲検ランダム化比較試験によると,ドリペネム(1回1gを8時間毎に4時間で点滴,7日間)はイミペネム/シラスタチン(1回1gを8時間毎に1時間で点滴)と比較して奏効率が低く,死亡も多かったということで,中間解析の時点で試験が中止されました。
Kollef MH, Chastre J, Clavel M, et al. A randomized trial of 7-day doripenem versus 10-day imipenem-cilastatin for ventilator-associated pneumonia. Crit Care 2012; 16:R218. 
http://ccforum.com/content/16/6/R218

論文の結論には,

"Among patients with microbiologically confirmed late-onset VAP, a fixed 7-day course of doripenem was found to have non-significant higher rates of clinical failure and mortality compared to a fixed 10-day course of imipenem-cilastatin."

とあり,「統計学的に有意ではないが」ドリペネムで治療不良と死亡が多かったとされていますが,中間解析で試験が途中で中止になっているので,サンプルサイズが足りずに有意差がつかなかっただけだと思います。試験が最後まで行われていれば,統計学的にも有意に死亡が多かったことが証明され,その分余計にドリペネムの投与により亡くなる人が多かったのではないかと推測します。統計学的に有意になるまでドリペネム群に割り付けられた患者を余計に殺し続けるのは倫理的ではないので,試験は途中で中止になったということです。

また,論文中の考察の中で,「7日間治療」という治療期間の短さが悪かったのでドリペネム自体が悪かったのではないという言い訳をしたいような記載がありますが,そもそも同じ治療期間で比べるのであればドリペネムの非劣性を示そうとする試験デザインがそぐわないと思います。

非劣性試験とは,標準治療薬がある疾患でプラセボとの比較試験が困難な場合に行われます。VAPに抗菌薬とプラセボで比較するわけにはいかないので,標準治療薬という実薬との比較になります。
感染症の治療薬で既に標準治療薬が存在する場合,優越性を示すのは比較的困難です。そこで同等性試験や非劣性試験というものがなされます。一般論としては,同等性試験よりも非劣性試験の方がサンプルサイズが少なくてすみますし,明らかな優越性を示さなくても劣っていなければいいだろうということで,近年感染症領域では非劣性試験を多く見ます。

プラセボとの比較ができないから非劣性試験を選ぶ場合に,何でも非劣性でよいわけではありません。
非劣性試験では「臨床的に意味のある差以上に劣らないマージン=非劣性マージン」を設定します。「臨床的に意味のある差」とは何かというと,医師によっても個々の患者によっても異なってしかるべきなので,客観的に決めることが難しいことが多く,なぜそそのマージンになっているのかがよくわからないことも少なくありません。抗菌薬の試験では慣習的に10〜20%に設定されることが多いようです(Biom J 2005; 47:12–27– discussion 99–107. )

JAMAの医学文献のユーザーズガイドでは,論文で示された非劣性マージンにこだわらず,それぞれの臨床セッティングに応じてどこまでの差なら許容できるかを自ら設定して研究結果を解釈するべきだと勧められています(それはそれでなかなか骨が折れますが)。
Mulla SM, Scott IA, Jackevicius CA, You JJ, Guyatt GH. How to use a noninferiority trial: users' guides to the medical literature. JAMA 2012; 308:2605–2611. 

話を元に戻すと,このドリペネムのVAPのRCTでは非劣性マージンはプライマリーエンドポイントのclinical cureについて15%と設定されていました。つまり,15%まで治療効果が劣っていても許容するということです。

さて,臨床試験で新薬は標準治療薬に非劣性を示したとして,皆さんはこれまでの標準治療薬よりも治療効果は15%劣るかもしれない薬を選択しますでしょうか?

非劣性試験で比較する場合には,新薬は非劣性マージンの分,劣ることを許容してもらう分,他に何らかのメリットがなければいけません。それがなければ,そもそも比較すること自体が非倫理的です。
主要な効果以外のメリットとして考えられるのは
・副作用が少ない
・侵襲性が少ない
・コストが安い
・投与方法が簡便である
などの理由が挙げられます。このような何らかの「他のメリット」がなければ,そもそも非劣性デザインで検証する意味がありません。非劣性試験は"me too drug"の承認を効率よくとるための試験ではないのです。

ドリペネムとイミペネム/シラスタチンを比較した場合,主要効果以外でドリペネムの方が明らかに優っていそうなことはあるでしょうか?
イミペネムの副作用では痙攣が有名なので,ドリペネムでそれが少なければメリットの1つにはなるかもしれません。
先行研究のVAPを対象としたオープンラベルのRCTでの痙攣の発生はドリペネム群が1.1%,イミペネム群が3.8%で,一応ドリペネムの方が痙攣のリスクは少ないようです。が,この差が主要な治療効果が15%劣ることと釣り合うかと言われるとちょっと微妙な気もします。
Chastre J, Wunderink R, Prokocimer P, Lee M, Kaniga K, Friedland I. Efficacy and safety of intravenous infusion of doripenem versus imipenem in ventilator-associated pneumonia: a multicenter, randomized study. Crit Care Med 2008; 36:1089–1096. 

Kollefらによる2012年の研究の方のSupplementのTable S2には,3%以上あった副作用について記述がありますが,痙攣は載っていないように見えますので,こちらの研究ではおそらく両群とも痙攣は3%未満だったのでしょう(オープンラベルの研究だと,イミペネムの方が痙攣が起きやすいという先入観があれば,微妙な所見を痙攣と報告しやすいというバイアスがあるかもしれません)。

投与方法はどちらも点滴ですし,この研究のプロトコールではドリペネムは1回あたり4時間で点滴というextended infusionを用いています。投与方法が簡便とは言えません。

コストについて,米国のことはわかりませんが,少なくとも日本の薬価はドリペネムの方がむしろ高いくらいです。以下のサイトで検索した結果(2014年3月3日現在),
・ドリペネム(フィニバックス)0.5g 1611円 
・イミペネム/シラスタチン(チエナム)0.5g 1505円
・メロペネム(メロペン)0.5g 1287円
でした。イミペネムやメロペネムはジェネリックを選べば更に安くなると思います。

このRCTでドリペネムの有効性を非劣性試験で検証することの妥当性は,イミペネムが10日間治療であることに対してドリペネムが7日間治療だということしかないように私には思えます。7日間という短期間治療で従来治療に劣らない効果が示せればそれは臨床上も有益だと思います。

確かに緑膿菌によるVAPで7日間治療はいろいろな先行研究の結果からは短すぎると思いますが,それならVAPの臨床試験で最初から治療期間を7日間で設定しなければよかったのに,と思います(最初から10日 vs 14日とかすればよかったのに)。

それなのに,7日間治療だったからダメだったんだと言われると,非劣性試験を行う前提をひっくり返すことになりかねません。きちんと同じ条件で優越性を検証する試験デザインにすればよかったのです。

とはいえ,SupplementのFigure S1. Kaplan-Meier curves for probability of survival for the intention-to-treat (ITT) population.をみると,治療7日目の時点でカプランマイヤー曲線にすでに差がついているように見えますので,やっぱり治療期間の問題でもないような気がします。

in vitroでは,緑膿菌に対してメロペネムやイミペネムよりも活性がすぐれるという報告はあるようですが,実験室内での結果と実際に臨床で使った結果が乖離することはよくあることです。実験室での結果よりも臨床試験の結果の方が生きている患者さんに使うのであれば優先されるべきだと思います。

多剤耐性緑膿菌による肺炎で他の抗緑膿菌作用のある抗菌薬が軒並み耐性の状況でドリペネムのMICが他の薬剤と比べて低めであれば,使用する可能性はありますが,幸い,今の日本では日常的に遭遇するような状況ではないので,そのような場面では専門家に相談した方がよいでしょう。

この研究結果を受けて,米国FDAではドリペネムには肺炎の承認を与えず,米国では複雑性腹腔内感染症と複雑性尿路感染症の適応しかありません。人工呼吸器関連肺炎での治療成績が悪かったからと言って,肺炎全般に適応を与えないのはおかしいと思われるかもしれませんが,市中肺炎にカルバペネムでなければいけない状況はかなり少ないと思いますので,使わなければならない状況であれば既に肺炎に承認を受けているカルバペネムで十分だと思います。結局,ドリペネムを肺炎に積極的に使うべき理由が思い浮かびません。

さて,最強の抗菌薬とは何なのでしょうか?


ジェネラリストのための内科診断リファレンス: エビデンスに基づく究極の診断学をめざして

これはスゴい本です。少なくともマクギーは軽く超えています。
今日発売だったようですが,生協で見つけて迷わず買いました。


上田先生は音羽病院で一緒に働いていた時期がありましたが,当時からスゴかったです。
これだけのボリュームを一人でまとめ上げるのは大変だったと思います。
病歴と身体診察に重きをおいていますが,検査まで踏み込んでいている点で「マクギーの身体診断学」よりも使いやすいと思いますし,日本で出来ない検査にはそう書いてあります。単に英語論文を訳しているだけではなくて,日本の臨床現場で患者さんと真剣に向き合ってきた人でないと書けない本だと思いました。

値段だけ見ると8400円とちょっと高く感じるかもしれませんが,実物を見たら,これは「買い」だと思われると思いますよ。


 

フロモキセフ(商品名フルマリン)を使うとカルバペネム耐性を誘導するかもしれない

フルマリン(一般名フロモキセフ)という抗菌薬があります。オキサセフェム系に属する抗菌薬です。
なぜか日本国内では一部の医師の間に根強い人気がありますが,なぜこの抗菌薬に人気があるのかが私にはよくわかりません。

スペクトラム的には横隔膜下の嫌気性菌(Bacteroides属)に効くようなセファマイシン系に近いですが,セファマイシンであれば,セフメタゾールで十分だと思います。
薬価は2014年1月22日現在,添付文書Proというアプリで調べたところ,
・フルマリンは1g1412円,1gキットが1771円,
・セフメタゾールはセフメタゾン1gが519円,ジェネリックでは1g294円,1gキット製剤でも697円
と,セフメタゾールの方が格安です。敢えてセフメタゾールよりフルマリンを使う理由はあるのでしょうか?

Shimizu J, Ikeda K, Fukunaga M, et al. Multicenter prospective randomized phase II study of antimicrobial prophylaxis in low-risk patients undergoing colon surgery. Surg. Today 2010; 40:954–957. 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20872199
大腸切除術の術前抗菌薬のRCT。フロモキセフとセフメタゾールを比較。麻酔導入直後に1gを投与して手術中は3時間毎に投与し,翌日に1回投与して終了。SSIの発症割合は有意差なし。

Suzuki T, Sadahiro S, Maeda Y, Tanaka A, Okada K, Kamijo A. Optimal duration of prophylactic antibiotic administration for elective colon cancer surgery: A randomized, clinical trial. Surgery 2011; 149:171–178. 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20655559
待機的大腸切除前にmechanical and chemical preparationsを行い,術前にフロモキセフ1gを投与する群と,1gを1日2回,術後3日間まで(計4日間)投与する群とを比較したRCT。
結果はSSI,organ/space SSI,遠隔感染症の発症割合に有意差なし。術前1回投与で十分。

Hirokawa F, Hayashi M, Miyamoto Y, et al. Evaluation of postoperative antibiotic prophylaxis after liver resection: a randomized controlled trial. Am J Surg 2013; 206:8–15. 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23706259
肝切除の術後にフロモキセフを3日間投与した群と抗菌薬を投与しなかった群を比較したRCT。結果は抗菌薬非投与群に比べて術後感染症を減らさなかった。

ということで,国内の臨床試験をざっと眺めてみてもセフメタゾールよりも優位性を示した研究は見当たりませんでした。フロモキセフを周術期の予防的抗菌薬として使用する場合も術前1回,長くても翌日までの投与で十分そうです。

一方で,セファマイシン系やオキサセフェム系は抗菌薬は理屈の上では,ESBLで分解されないので,ESBL産生菌によいのではないかという小規模な報告があります。
Lee CH, Su LH, Tang YF, Liu JW. Treatment of ESBL-producing Klebsiella pneumoniae bacteraemia with carbapenems or flomoxef: a retrospective study and laboratory analysis of the isolates. Journal of Antimicrobial Chemotherapy 2006; 58:1074–1077. 
http://jac.oxfordjournals.org/content/58/5/1074.full.pdf

むしろこちら方面で若干期待はしていたのですが,いいことばかりではないようで,
フロモキセフを使っていると,カルバペネムを使っていないのに,カルバペネム耐性を誘導したという報告があります(厳密にはertapenem耐性,イミペネム,メロペネムへの低感受性を誘導した)。
Lee CH, Chu C, Liu JW, Chen YS, Chiu CJ, Su LH. Collateral damage of flomoxef therapy: in vivo development of porin deficiency and acquisition of blaDHA-1 leading to ertapenem resistance in a clinical isolate of Klebsiella pneumoniae producing CTX-M-3 and SHV-5  -lactamases. Journal of Antimicrobial Chemotherapy 2007; 60:410–413. 
http://jac.oxfordjournals.org/content/60/2/410.long

セファマイシン系のcefoxitinでも使用中に外膜蛋白変化というβラクタマーゼとは無関係に耐性を獲得した症例が報告されていますが,こちらはカルバペネム耐性まで誘導したという報告は現時点では見つけられませんでした。
Pangon B, Bizet C, Bure A, et al. In vivo selection of a cephamycin-resistant, porin-deficient mutant of Klebsiella pneumoniae producing a TEM-3 beta-lactamase. J INFECT DIS 1989; 159:1005–1006. 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2651531

セフメタゾールは複雑性ではない腎盂腎炎であれば,ESBL産生菌によるものでも有効だったという国内の後ろ向き観察研究があります。小規模な研究だからかもしれませんが,こちらは耐性誘導は確認されなかったようです。
Doi A, Shimada T, Harada S, Iwata K, Kamiya T. The efficacy of cefmetazole against pyelonephritis caused by extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae. Int J Infect Dis 2013; 17:e159–63. 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23140947

ESBL産生菌にセファマイシン系を使ってもよいかどうかはまだ議論のあるところですが,仮に使うとしてもフロモキセフよりもセフメタゾールの方がよさそうです。

まとめると,セフメタゾールよりも有効性が高いという根拠は乏しく,カルバペネム耐性菌を誘導するかもしれないにも関わらず,薬価は3倍近く高いフロモキセフを積極的に使用する理由がわかりません。

ついでに書くと,フロモックスをフルマリンの経口薬だと思っている人が時々おられますが,フロモックスはCefcapene pivoxi(セフカペンピボキシル)で,全く違う薬です。

フロモックスは第3世代セファロスポリンに属する経口薬ですが,ピボキシル基がついているため,「小児に投与した場合,重篤な低カルニチン血症に伴って低血糖症,痙攣,脳症を起こして後遺症に至る症例も報告されている」ことは以前ブログでも紹介しました。
本当は怖い、「風邪」に対する「念のため」の抗菌薬 第2部
http://blog.livedoor.jp/kmcid929/archives/1644917.html


加えて,経口第3世代セフェム系薬はバイオアベイラビリティが悪く,十分な血中濃度や組織濃度が確保できないため,PRSPなどの耐性菌を増加させたのではないかという懸念が報告されています。
「本邦において 1998 年から 2000 年の間に分離された Streptococcus pneumoniae の 分子疫学解析」
日本化学療法学会誌 51: 60-70, 2003
http://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05102/051020060.pdf


わが国で開発された経口セフェム系薬は一般的に血中への移行が 1μg/mL 前後であり,また,プロドラッグ化されているものも多く,吸収に個人差が大きい。そのような血中濃度や組織移行性の低さ,PRSP に対する殺菌力が必ずしも強いとはいえないことが,薬剤投与により上咽頭における常在細菌叢に選択圧を加え,その結果 が PRSP を増加させ,保育園などの乳幼児が集団で生 活している場を借りて市中に広がり,今日の急性中耳炎 や上気道炎をはじめとする肺炎球菌が関与する感染症の遷延化あるいは難治化につながっていると考えられる。


フロモックスも2012年度の売り上げが180億円もあり,よく売れている薬のようですが,個人的には積極的に使う理由が見出せない薬です。
https://nk.jiho.jp/servlet/nk/related/html/1226615503891.html




処方薬の広告も商品名を出さなければやりたい放題らしいです

例の塩野義製薬のテレビCMについて,大阪府 健康医療部 薬務課 医薬品流通グループからお返事を頂きました。
平成10年の国の通知の考え方に基づいて「製品名を出さなければOK」とのことです。

まあ,ある程度予想はしていた回答ですが,薬事法第66条では「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。」と「暗示的であるとを問わずに」となっているのに,これで本当にいいのでしょうか?

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平素よりお世話になります。
先日は、標記について情報提供をいただきましてありがとうございました。

ご指摘のありました企業のホームページ及びCMを確認しましたが、
特定の製品名が明らかにされていないため、添付しました国の通知の考え方に基づき、当該広告は薬事法の規制の対象外となります。

●疾病の治療に使用する薬剤の選択は、医師に任されていること
 ⇒患者の選択を促すような広告は好ましくない。
●軽症患者が医療機関に殺到すると、現場が疲弊する
という点は、山本様のご指摘のとおりと考えますが、
あいにく、薬事法関係の監督官庁として“指導権限”がございません。
せっかくご意見をいただいたのですが、ご理解くださいますようよろしくお願いします。

 

1/20訂正:点滴の抗インフルエンザ薬ペラミビル(ラピアクタ)の投与を受けると死亡しやすい,かもしれない?

インフルエンザについて点滴薬の方が内服薬よりも治りが早い,治りやすいというイメージを持っている人がいるかもしれませんが,現時点でそれを支持するデータはほとんどありません。

以前の記事では,主にランダム化比較試験を紹介しましたが他にも観察研究がありましたのでご紹介します。 

Louie JK, Yang S, Yen C, Acosta M, Schechter R, Uyeki TM. Use of intravenous peramivir for treatment of severe influenza A(H1N1)pdm09. PLoS ONE 2012; 7:e40261. 
2009年のH1N1パンデミックの時の観察研究です。超重症のインフルエンザ患者57人にペラミビル(商品名ラピアクタ)が投与されました。主解析はこの57人の中で亡くなった人と生存した人の比較のようですが,この著者らはペラミビルの投与を受けなかった重症患者1627人とも比較しています。
ペラミビルの投与を受けなかった患者に比べて,投与を受けた人は肺炎/ARDS(P=<0.0001)や敗血症(P=<0.0001)と診断されやすく,人工呼吸管理が必要になることが多く(P=<0.0001),死亡も多かった(P=<0.0001)という結果でした。
もちろん,著者らが述べているように,ペラミビルの投与を受けた患者は元々の重症度が高かったのだろうと推測されますが,同時に著者らは重症患者におけるペラミビル投与の安全性,有効性には疑問が残ると述べています。
ペラミビルの使用の有効性や安全性を評価するためには,ランダム化比較試験か交絡因子を調整するために傾向スコアなどを用いて評価する必要があると結論づけています。

ですので,現時点で「点滴の抗インフルエンザ薬であるペラミビル(ラピアクタ)の投与を受けると死亡しやすい」と結論づけることはもちろんできません。しかし,点滴だから有効性が高いとも言えません。

A clinical trial of intravenous peramivir compared with oral oseltamivir for the treatment of seasonal influenza in hospitalized adults. Antivir Ther. 2013;18(5):651-6.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23111657
もう一つ,こちらはインフルエンザについてのペラミビル点滴とオセルタミビル内服を比較したランダム化比較試験(RCT)観察研究です。全文がまだ入手できていないので,抄録のみの情報ですが,インフルエンザ感染が確認された,臨床的に不安定な患者を含む122人について,臨床的に安定するまでの時間の中央値(95%信頼区間)はペラミビル400mg群で37.0時間 (22.0, 48.7), ペラミビル200mg群で23.7時間 (16.0, 38.9) ,オセルタミビル群で28.1時間 (22.0, 37.0) (P=0.306)と統計学的な有意差はありませんでした。
(1/20訂正:本文を取り寄せてみたところ,観察研究ではなく,ランダム化比較試験でした。よく見ると抄録にも"137 patients hospitalized with suspected acute influenza were randomized to 5-day treatment with intravenous peramivir 400 mg or 200 mg once daily or oral oseltamivir 75 mg twice daily."とありました。お詫びして訂正致します)。

これも観察研究のようですし,交絡因子を調整していないように思えますので,比較の妥当性は高くはありません。また,ランダム化の要素がないので,検定すること自体に問題があるかもしれませんが,まあザックリ言ってあまり変わりはないなぁということがわかります。

また,2つめの研究で比較対象になっていたオセルタミビル(タミフル)についても基礎疾患のない健康な成人について,プラセボよりも本当に優れているのかどうかは疑問が残っています。

いろいろな研究が世の中で行われて,研究者やそのスポンサーに都合のよい結果は出版されやすく,都合の悪い結果は出版されにくいという出版バイアスがあります。出版されたデータばかり集めて解析をすると当然都合のよい結果になりがちですが,未出版のデータまで集めるとどうなるかは医学の世界で大きな問題です。オセルタミビルについてもその問題があります。
この未出版のデータまで含めてメタ解析を行った結果が昨年論文になっています。
↓のブログで紹介されていましたので,ここでは詳細は省略します。

従来は抗インフルエンザ薬で,インフルエンザの解熱が約1日程度早くなるというのがコンセンサスでしたが,基礎疾患のない健康な成人については,プラセボ(偽薬)と変わりないのかもしれません(心臓や呼吸器に持病を抱えていたり,免疫抑制などなんらかのリスク因子がある人については別に考える必要があります)。
そんなことを言われても,自分はインフルエンザにかかった時,抗インフルエンザ薬を飲んだらすぐに熱が下がった,という人はいらっしゃるでしょう。でもそれは,「薬を飲まなかった場合」と比較することが不可能なので,「薬を飲んだから解熱した」のか「薬を飲まなくても解熱した」のかどうかを判定することはできません。だからランダム化比較試験という実験を行って効果を検証するのです。

おそらく真実は「プラセボとほとんど変わりない」から「解熱が1日早くなる」の間のどこかにあるのだろうと思います。いずれにしても飲まなければ治らない,というような類のものではないので,全国民に対して「インフルエンザは早期診断,早期治療が大切です」と医療機関の受診を促すのは適切ではないと思います。リスク因子のある人には,主治医が熱が出たら早めに受診するように,と伝えておけばよいことだと思います(同時にそうした人にはインフルエンザのワクチンもしておいた方がよいでしょう)。
 
世の中の病気はインフルエンザだけではありません。医療資源は金銭,人的資源のどちらも有限です。インフルエンザ診療に労力が割かれすぎると,インフルエンザ以外の病気の診断や治療が疎かになり,他の病気の予後が悪くなる可能性もあると思います。



ペラミビルの有効性に関する臨床試験のまとめ

昨日の記事でperamivir(ペラミビル:商品名ラピアクタ)が「私の知る限り他の抗インフルエンザ薬と比較して,この薬が何らかの点で優れていたことを示した質の高い臨床試験はありません」と書きましたが,最近になって新しいデータが出ている可能性もあるかと思ってもう一度調べてみました(ろくに調べずに言うのはよくないですね)。

PubMedで peramivir と検索すると205件ヒットしました(2014年1月12日現在)。検索を簡略するために左のArticle typesでClinical Trialに限定すると,9件になりました(うち1件は馬のインフルエンザ)。調べるのが楽でいいですね。
peramivirの静注薬について,他の薬もしくはプラセボ(偽薬)と比較しているのは3件でした。うち2件がRCT(ランダム化比較試験),1件が後ろ向き観察研究です。

Kohno S, Kida H, Mizuguchi M, Shimada J. Efficacy and Safety of Intravenous Peramivir for Treatment of Seasonal Influenza Virus Infection. Antimicrob Agents Chemother 2010; 54:4568–4574. 
http://aac.asm.org/content/54/11/4568.long
これは昨日の記事でも紹介した論文ですが,20〜64才の健康な成人季節性インフルエンザ患者を対象にして,ペラミビル300mgもしくは600mgとプラセボをランダムに割り付けて比較しています。
結果はペラミビル群の方が統計学的な有意差をもって症状軽快までの時間が早かった(300mg群でハザード比0.681,600mg群でハザード比0.666)でした。副作用はプラセボと変わりなかったということです。4日目にはプラセボ群もペラミビル群も同じように軽快しています。

Kohno S, Yen M-Y, Cheong H-J, et al. Phase III randomized, double-blind study comparing single-dose intravenous peramivir with oral oseltamivir in patients with seasonal influenza virus infection. Antimicrob Agents Chemother 2011; 55:5267–5276. 
http://aac.asm.org/content/55/11/5267.long
日本,韓国,台湾で行われた第III相臨床試験で,ペラミビル300mgまたは600mgとオセルタミビル(商品名タミフル)をランダムに割り付けて比較した試験です。
対象は20才以上のインフルエンザ患者で,除外基準として呼吸機能障害,うっ血性心不全の既往,コントロール不良の糖尿病,免疫抑制剤使用,AIDSのような免疫不全,腎障害,虚血性心疾患または重篤な不整脈,QT延長,徐脈,入院を必要とするような臨床的に重篤な状態,全身抗菌薬投与が必要な感染症の存在,ということで併存疾患があったり重症患者は除外されている試験のようです。
非劣性試験のデザインで,結論はペラミビルはオセルタミビルに非劣性(劣っていない)という結果でした。非劣性試験の詳細については省きますが,簡単に言えば,劣っていないことけれど,優っているわけでもないということです。

Clinical effectiveness of neuraminidase inhibitors--oseltamivir, zanamivir, laninamivir, and peramivir--for treatment of influenza A(H3N2) and A(H1N1)pdm09 infection: an observational study in the 2010-2011 influenza season in Japan. J Infect Chemother 2012; 18:858–864. 
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10156-012-0428-1
これはRCTではなくて,211人のA型(H3N2)インフルエンザと45人の2009年H1N1インフルエンザの患者を対象にした観察研究です。
抗インフルエンザ薬のオセルタミビル,ザナミビル(商品名リレンザ),ラニナビル(商品名イナビル),ペラミビルの4種類の薬を比較しています。観察研究なので,交絡因子の調整が大切ですが,解熱までの時間をアウトカムにして,年齢,性別,体重,ワクチン接種の有無,発症からクリニック受診までの時間,体温でCox比例ハザードモデルを用いて調整しています。
抄録だけ見ると,オセルタミビルに比較してペラミビルだけが統計学的な有意差をもって解熱までの時間が早かった(ハザード比3.321,多分一番最初に紹介した研究とはアウトカムの定義の仕方が違うのだろうと思います),という結果でした(ザナミビル,ラニナビルは有意差なし)。

おっとペラミビルがいいというデータなのか?やっぱりちゃんと調べてから物を書いた方がいいなと思いながら本文を読んでみると,季節性インフルエンザについてはオセルタミビル群104例に対して,ペラミビル群は4例しかありません。これはいくら多変量解析で交絡因子を調整したといっても,調整できているのでしょうか?例えば,この4例はたまたま効きが良かった(というか,たまたま解熱までの時間が早かった)だけで,ペラミビル群もあと100例集めてきたら,容易に結果は変わりうると思います。

ということで,「私の知る限り他の抗インフルエンザ薬と比較して,この薬が何らかの点で優れていたことを示した質の高い臨床試験はありません」と書いたのは,まあそんなに外れていなかったと,ホッと胸をなで下ろしました。

インフルエンザ患者全てに抗インフルエンザ薬が必要かどうかも議論があるところですが,仮に抗インフルエンザ薬が適応になる状態だったとしても,内服できたり吸入できる人に対して点滴薬であるペラミビルを優先させる理由はありません。
また,上の研究をみてもわかるように質が高いとされるランダム化比較試験では,併存疾患を持っている人や重症患者は除外されています。インフルエンザで重症の肺炎を起こしてた場合は,内服薬だと腸管からの吸収が保証されるかわからないので点滴薬で治療したくなりますが,重症患者さんでペラミビルが有効性を示すデータも実は乏しいのが現状です。ということで,おそらく専門家によっても意見がわかれる領域をテレビCMを使って一般の人に広く宣伝するというのはよろしくないと思います。



 

年末から医療従事者の間でひどいと話題になっていた塩野義製薬の抗インフルエンザ薬のCMについて

年末から医療従事者の間で塩野義製薬のインフルエンザのテレビCMがひどいと話題になっていました。
日本ではCMで処方箋が必要な医薬品の商品名を広告することは禁じられているという理解でしたが,これは商品名こそ言っていないものの,国内唯一の抗インフルエンザ薬の点滴薬であるラピアクタのことを指していることは明白です。少なくとも患者さんが病院を受診して「テレビで言っているインフルエンザの点滴薬」と言えば何の薬かわかっていまいます。薬事法上の医薬品等の広告規制について違反している恐れがあるのではないかと思いました。

ちょっと窓口が違うかもしれませんが,塩野義製薬はインターネット上でも同じ広告を出しているので,厚生労働省の「薬事法違反の疑いがあるインターネットサイトの情報をお寄せください」というページから塩野義製薬本社のある大阪府の健康医療部薬務課に以下の連絡を2013年12月27日に行いました。

報告したこと。ここから。
「インフルエンザには早期治療が大切」と不安を煽り,「インフルエンザ治療には点滴薬もあります」と薬剤名こそ示されていないものの,国内唯一のインフルエンザ治療点滴薬であるラピアクタ使用を誘導していると考えられます。厚生労働省「インフルエンザQ&A」のホームページ
http://www.mhlw.go.jp/・・・/kekkaku-kansenshou01/qa.html
には,
Q.11:インフルエンザの治療薬にはどのようなものがありますか?」の項目に「ただし、その効果はインフルエンザの症状が出始めてからの時間や病状により異なりますので、使用する・しないは医師の判断になります。」とあります。

私は感染症を専門とする医師であり,インフルエンザに対する抗ウイルス薬の使用はリスク因子のない人にはルーチンに使用されるべきではないと考えます。専門家および学会に拠っては早期治療を勧める考え方もありますが,軽症患者も医療機関に殺到することにより,現場の医療の疲弊を危惧致します。

少なくとも抗インフルエンザ薬使用の判断並びに使用する場合に点滴薬を用いるかどうかの判断は医師にゆだねられるべきだと考えます。薬事法第66条ならびに医薬品等適正広告基準(昭和55年10月9日薬発第1339号厚生省薬務局長通知)の医療用医薬品等の広告の制限,テレビ、ラジオの提供番組等における広告の取扱いに違反するおそれがあるのではないかと考えます。
ここまで。

薬事法第六十六条では以下の通り,医薬品の誇大広告を禁止しています。
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。

虚偽か誇大かどうかの判断の基準として「医薬品等適正広告基準」(昭和55年10月9日薬発第1339号厚生省薬務局長通知)があるそうです。

このCMはこの基準の第3の1の(1),4,および5あたりに抵触するおそれがあると思います。
第3(基準)
1 名称関係
(1)承認を要する医薬品の名称についての表現の範囲
薬事法(以下「法」という。)第14条の規定に基づく承認(法第23条において準用する場合を含む。以下「承認」という。)を要する医薬品について、承認を受けた販売名、日本薬局方に定められた名称又は一般的名称以外の名称を使用しないものとする。 

4 医薬品等の過量消費又は乱用助長を促すおそれのある広告の制限
医薬品等について過量消費又は乱用助長を促すおそれのある広告は行わないものとする。

5 医療用医薬品等の広告の制限
(1)医師若しくは歯科医師が自ら使用し、又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用することを目的として供給される医薬品については、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告は行わないものとする。

問題のサイトはこちら。Youtube上のTVCMの動画にもリンクされています。

大阪府健康医療部薬務課からは今の所,特にお返事はありません(連絡した人にいちいちフィードバックがあるわけではないのかもしれません)。知人の医師が塩野義製薬に抗議を行ったところ,MRさんがお詫びに出向いているという話も聞きますが,CMはまだ続いているようです。インターネット上のサイトも閉鎖はされていません。本当に悪いと思っているのなら,CMを中止してからお詫びに行くべきだと思いますが,とりあえずうるさい医者には形だけ謝っておこうという姿勢なのでしょうか。素敵な会社ですね。

ちなみにこのラピアクタ(Peramivir)ですが,プラセボと比較してインフルエンザで解熱までの時間が早くなるというランダム化比較試験はあります。
Antimicrob Agents Chemother 2010; 54:4568–4574. 
ただし,Fig.3を見ると4日目以降はプラセボ(偽薬)と変わりなくなっています(3日目の時点でも統計学的には有意差があるようですが,差は縮まってきています)。この薬を使わなくてもほとんどのインフルエンザは治るのです。
http://aac.asm.org/content/54/11/4568/F3.expansion.html

また,私の知る限り他の抗インフルエンザ薬と比較して,この薬が何らかの点で優れていたことを示した質の高い臨床試験はありません。唯一のメリットは点滴薬ということなので,一般的な点滴の適応,すなわち「内服が出来ない人」くらいの適応しか思いつきません。テレビCMで広く一般の方に広報する意味が私にはわかりません。











 

今朝の朝イチ「風邪の新常識」

今朝(2014年1月8日)のあさイチは画期的でした。
題して「これはホント?風邪の新常識」,コメンテーターは『誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 重篤な疾患を見極める!』でお馴染みの岸田直樹先生でした。

風邪の特集をやると聞いていたので,録画しておきましたが,まさか岸田先生が出演されるとは思っていなかったので,これはかなり期待できると思いながら見たところ,期待通りでした。

ポイントは以下にまとまっています。

・「せき,鼻水,のどの痛み」の3症状のうち3つが1〜2日の間に同時に起きたら風邪だと考えて差し支えがない
・「風邪に特効薬はない」
・市販薬は風邪の症状を緩和する効果があるが,治りが早くなるわけではない。
・抗生物質は風邪には無意味

その他,視聴者から寄せられる素朴な質問にいろいろと答えておられました。正直,クリアカットに答えられる質問ばかりではないので,かなり言葉を選びながら,誠実に答えておられたと思います。

「風邪に抗生物質はほとんど意味がない」とか,いわゆる「『風邪薬』は症状緩和の目的だけで,風邪を早く治す効果はない」ということをテレビで言われたことはこれまでほとんどなかったのではないでしょうか。
民放だと風邪薬を売っている会社がスポンサーについていたりすると,「風邪薬に風邪を治す効果はない」なんてことは言えないのでしょう。こんなことを言えるのはNHKならではなのかもしれません。

あさイチは朝の時間帯では10%を超える視聴率があるそうで,見ている人も多そうです。これはかなりインパクトがあったのではないでしょうか。

見逃したという方はNHKオンデマンドで有料ですが,見ることができます。

あさイチは面白そうな特集があるときは録画して見ているのですが,個人的にはあさイチのイノッチはいつもいいこと言うなぁと思います。今朝の放送でも

「風邪をひいたら休める世の中になるといいですよね」

とおっしゃっていました。以前,ある食べ物がある病気によいという特集をやっていた時も,

「結局バランス良く食べるのがいいってことですよね」

とバランス感覚に溢れた発言をされていました。


岸田先生の本をまだ読んでいない人は読まないと勿体ないので,是非読んでください!



ついでに便乗して,拙著もアピール。アマゾンで注文してもやたら時間がかかっていたようですが,ようやく「在庫あり」になりましたので,注文したらすぐに届くと思います。




 

シンプルに考える イージーに考えない「ER・ICU診療を深める救急・集中治療医の頭の中」

自分の本だけ宣伝していても何なので,最近読んだ本で勉強になったものを紹介します。

 
序文の「シンプルに考える」けど「イージーに考えない」という言葉に惹かれて衝動買いしました。 
ともすれば,勉強すればするほど,複雑に難しく考えてしまいがちなので,「シンプルに考える」けど「イージーに考えない」は自分も目指すところです。

扱っているテーマも「妊娠反応」とか「結核」とか「低リン血症」とか「ERでの破傷風予防」とか,現実に困っている人が多いものの,教科書の狭間に落ちやすいトピックで勉強になりました。
アセトアミノフェンや胃洗浄の話もその通りだなぁと思います。研修医の頃,アセトアミノフェン大量内服の人が来たら,ムコフィリン(アセチルシステイン)のアンプルを大量にパキパキと割っていたころが懐かしいです。当時は「去痰薬」としてのムコフィリンしかありませんでしたが(なので,適用外使用でした),最近はアセトアミノフェン中毒に対する治療薬としてのアセチルシステインが販売されているそうです。

酸素療法の項目もすごくわかりやすかったです。初期研修の頃はインスピロンを使っていなかったので,正直設定の意味がよく分からず,70%にしても明らかにそんなに高濃度になっていないなぁと思っていたのでなるべく使わずにリザーバー付きマスクを使っていました。やっぱり50%を超えるとインスピロンでは正確に投与出来ないのですね。
リザーバー付きマスクで15L/分でもマスクがフィットしていなければ,よくて80%,実際には60%程度とは,これもやっぱりそうなのか,と思いました。

DICに関する空想上の討論も非常に面白いです。抗DIC薬の役割は非常に限定的(というか,おまけにすぎない)で,あくまでも原疾患の治療が大事というのは同感です。

私が初期研修医の頃,同期の研修医が上級医と以下のようなディスカッションをしていました。

研修医「血培からグラム陽性球菌が出たみたいですけど,バンコマイシンはいかなくていいですか?」
上級医「そんな副作用が多くて高価な薬は気軽に使うべきではないよ」
研修医「(え,でも,DICだからってF○Y使ってますよね)」

結局,そのグラム陽性球菌は2セット中1セットのみ表皮ブドウ球菌だったので,コンタミネーションだったようで,結果的にはバンコマイシンは投与しなくてもよかったのですが,抗DIC薬の最大の弊害は,「何か治療している気になってしまう」ことにより原疾患の治療が疎かになりかねないことだと思います。

HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)もそんなに稀ではない(筆者施設のICUでは年間数例)こともきちんと書いてくれていて良いです。ヘパリンロックでさえHITのリスクになるので,生食ロックで十分だと思いますが,ヘパリンロックの廃止に反対する人はHITなんて見たことないということをおっしゃいます。見たことない,ではなくて,診断できていないだけじゃないかなぁと思ったりします。

あと,重症患者さんでレントゲンの肺が真っ白になったら,何でもARDSにされがちだけど,本物のARDSよりは肺水腫や胸水の方が圧倒的に多い,というのも勉強になりました。

死亡診断や死体検案の話も整理しきれていませんでしたが,非常によくまとめられています。医師法20・21条の解釈をめぐる問題や自治体による対応の違いがわかりにくくしているようです(こういうのって自治体によって対応が違っていいんでしょうかね?)。

アルコール性ケトアシドーシス(AKA)も研修医の頃よく見ました。大酒家の多い地域だったので,「1日どれくらいお酒を飲みますか?」と聞くと「焼酎1升」という答えが平気に返ってきました。AKAの人ってHCO3が3mEq/Lで,pHが6.9とかでも生きてるので不思議で,さらに輸液とビタミンB1だけで数時間以内にケロッと回復しているというのがさらに不思議でした。最近はAKAの人に遭遇する機会も激減しましたが,この病態の存在を知っているのと知っていないのでは大違いだと思います。

ということで,雑多な感想になりましたが,この本は本当によい本でオススメです。

Hospitalist 感染症特集:入院患者の不明熱

Hospitalistの第2号,感染症特集が出ました。

私も「入院患者の不明熱 」を担当致しました。
いわゆるNosocomial FUOというやつで,入院後に新しく発熱した人の不明熱です。
Nosocomial FUOの疫学を記述した報告は実はあまりなく,教科書や総説でもこんな疾患がありますよ,という羅列に留まっています。定式化されたアプローチがあるわけではないので,私なりのNosocomial FUOへのアプローチをまとめてみました。ポイントは,古典的不明熱(Classical FUO)とは原因が異なるので,全く異なるアプローチが必要になるということです。外科手術後の患者さんの不明熱で,それまで診断されていない膠原病とか悪性腫瘍とか考えてもほとんどの場合,意味がないですよ,というのがメッセージの1つです。

どんな原因が多いかについては,なんちゃってシステマティックレビュー(時間がなかったもので・・・)をやってみましたが,Nosocomial FUOについての報告は1つしかなかったので,結局,FUOの基準は満たさなくても「入院後に新しく生じた発熱」の原因についてまとめてました。

入院後に起こった発熱について,マインドマップ風にまとめたものも付録としてつけています。 

また,この話は来年5/31,6/1に京都で開催される米国内科学会(ACP)日本支部総会でもお話しする予定です。「3次元から眺める不明熱」と題しまして,萩野昇先生(帝京大学ちば総合医療センター)と沖将行先生(東海大学総合内科)と山本の3人でお話をします。萩野先生がリウマチ・膠原病,沖先生は元々血液内科医,山本が感染症で,それぞれの目線から好き勝手なことを語るという企画です。私はclassical FUOからは離れて,Nosocomial FUOについてお話しします。
http://www.acp2014.org

 
また,「かぜ診療マニュアル」もおかげさまで増刷になりまして,一昨日増刷分ができあがったそうです。アマゾンの在庫がなかなか充足しませんが,こちらもよろしくお願い致します。

 

 
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