利益相反は開示しているつもりですが,明示していない部分でも知り合いの著書が多くなっています。
利益相反は開示しているつもりですが,明示していない部分でも知り合いの著書が多くなっています。
訳あってまとめましたが,出版はまだ1年以上先なので,こちらで少し補足したものを紹介しておきます。
・2019年にセフトロザン/タゾバクタム(ザバクサR)が販売承認された。セフトロザンは構造的にはセフタジジムに類似するが,側鎖が修飾され,緑膿菌への活性が増強している。タゾバクタムは大部分のクラスA,一部のクラスCβラクタマーゼを阻害し,ESBL産生グラム陰性菌や嫌気性菌への活性がいくらかある(1)。
■薬物動態(pK)/薬力学(pD)
・主に腎臓から排泄される。髄液移行に関するデータはない。
■スペクトラム
・基本スペクトラムは第3世代セファロスポリンだが,ESBL産生腸内細菌科細菌や緑膿菌など耐性グラム陰性菌やBacteroides fragilisに対する活性をもつ。ブドウ球菌,腸球菌,B. fragilis以外のBacteroides属,グラム陽性嫌気性菌(Clostridium属など)には臨床的に意味のある活性をもたないため,第II相試験から腹腔内感染症ではメトロニダゾールが併用されるようになった(2)。
■適応となる臨床状況(1)
・複雑性尿路感染症を対象にしたランダム化比較試験では,レボフロキサシンに対して微生物学的治癒,臨床的治癒の複合アウトカムについて非劣性だった(1)。
・複雑性腹腔内感染症を対象にしたランダム化比較試験では,メトロニダゾールと併用して,メロペネムに臨床的治癒について非劣性だった(1)。ただし,中等度腎障害(CrCl 30-50mL/分)についてのサブグループ解析では,臨床的治癒はセフトロザン/タゾバクタム+メトロニダゾール群で47.8%(11/23例),メロペネムで69.2%(9/13例)と本剤の成績は不良だった。この層の対象人数が少ないため,確定的なことは言えないが,複雑性尿路感染症の臨床試験でも同様の傾向がみられたようだった。米国製品の添付文書には,CrClが30〜50mL/分の患者については,有効性が低下する可能性があり,使用に際して少なくとも毎日CrClをモニタリングして用量調節を行うように記載されている(3)。
・日本の製品のインタビューフォームではおそらく同じデータを参照していると考えられるが,「国内外の第III相試験において腎機能障害患者に本剤の用量を調節した場合でも、高い有効性が得られ、概して安全かつ忍容性も良好であった。これらの結果を踏まえ、腎機能障害患者に対して本剤を投与する場合には投与期間中に腎機能の変動をモニタリングし、用量を適切に調節することが重要であることから、注意喚起した。」と中等度腎機能障害患者における有効性低下についての記載は見つけられなかった。
・適応が通っている尿路感染症や腹腔内感染症に対して,エンピリカルに本剤を選択する状況は想定しにくい。ESBL産生菌もカバーできるといっても,軽症ならセフメタゾール,重症ならカルバペネムを選択するので,「帯に短し,たすきに長し」といった感じがある。
・感受性があれば多剤耐性緑膿菌による感染症に切り札的な効果が期待できるため,非常事態のために温存しておくのが賢明だろう(4, 5)。
・また執筆時点(2019年1月29日)で,国内で感受性試験が行えるかどうかは不明である。
■副作用:下痢や吐き気,頭痛など。軽度のinfusion reactionが報告されている。
処方例 セフトロザン/タゾバクタム(ザバクサR)
・1回1.5g(タゾバクタムとして0.5g/セフトロザンとして1g)を60分かけて8時間毎に点滴静注する。なお,腹膜炎,腹腔内膿瘍,胆嚢炎,肝膿瘍に対しては,メトロニダゾール注射液と併用する。
参考文献:
1. Ceftolozane/Tazobactam (Zerbaxa)--a new intravenous antibiotic. The Medical letter on drugs and therapeutics. 2015;57(1463):31-3.PMID 25719997.
2. Snydman DR, McDermott LA, Jacobus NV. Activity of ceftolozane-tazobactam against a broad spectrum of recent clinical anaerobic isolates. Antimicrobial agents and chemotherapy. 2014;58(2):1218-23.PMID 24277025.
3. ZERBAXAR (ceftolozane and tazobactam) package insert [Available from:
https://www.merck.com/product/usa/pi_circulars/z/zerbaxa/zerbaxa_pi.pdf.
4. Haidar G, Philips NJ, Shields RK, et al. Ceftolozane-Tazobactam for the Treatment of Multidrug-Resistant Pseudomonas aeruginosa Infections: Clinical Effectiveness and Evolution of Resistance. Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America. 2017;65(1):110-20.PMID 29017262.
5. Gallagher JC, Satlin MJ, Elabor A, et al. Ceftolozane-Tazobactam for the Treatment of Multidrug-Resistant Pseudomonas aeruginosa Infections: A Multicenter Study. Open forum infectious diseases. 2018;5(11):ofy280.PMID 30488041.
林寛之先生のStep Beyond Rewsident1 救急診療のキホン編 Part 1が改訂されました!
後期研修医だったころ,ほとんどこの連載のためだけにレジデントノートを買って,コピーして保存していた記憶があります。単行本化された時はとても嬉しくその後のシリーズも買いそろえました。
初版は2006年だったので,中身も結構変わっているので,初版を持っている人も買い換える価値はあります。
林先生の講義が聴けるERアップデート(私もお話します)はまだ募集中(かな?)
2018年1月27日(土)〜28日(日)
https://www.erupdate.jp/index.html
個人的にはこのコラム↓が心にしみました。
最近はPCRや迅速検査などが利用できるようになり,従来典型的と考えられていたインフルエンザ(急に高熱がでて,全身筋肉痛や関節痛,咳,鼻汁,咽頭痛などを伴う)の病像よりも軽症のインフルエンザが見つかるようになってきました。
以下が内容です。いずれもとても興味深く勉強になりそうです。しっかり勉強して,ついでにディズニーリゾートも楽しんでみてはどうでしょうか?
レクチャー
"Critical appraisal is the process of carefully and systematically assessing the outcome of scientific research (evidence) to judge its trustworthiness, value and relevance in a particular context."
「科学的研究結果について,特定のコンテクストにおける信頼性,価値,関連性を判断するために注意深く,体系だって評価するプロセス」
のことで,日本語の「批判」のように必ずしも誤りや欠点を指摘するばかりのネガティブな意味ではありません。
Hung IFN, To KKW, Chan JFW, Cheng VCC, Liu KSH, Tam A, et al. Efficacy of Clarithromycin-Naproxen-Oseltamivir Combination in the Treatment of Patients Hospitalized for Influenza A(H3N2) Infection: An Open-label Randomized, Controlled, Phase IIb/III Trial. Chest. 2017;151(5):1069–80.
実質2日間だけ3剤併用で,ここまで差が出るものか?という気もしますが,オープンラベルながら,アウトカムは死亡ですし,他の部分も方法論的にはそれほど気になりませんでした。
→過大評価
→より大きなサンプルサイズの追試では結果が再現されにくい
・漢方に少し興味はあるんだけど,どこから勉強したらいいかわからない。
「いったん非劣性が示されれば、事前に優越性を示す検定または信頼区間を定義しておいて、ITT解析を用いて優越性を主張することは許容される。」
「作家の井上ひさし先生も次のように言っています。同じような言葉を並べて言葉の滞空時間を長くして印象付ける、語呂のよさや言い易さを作り出すために重複した語を並べることがある。重複表現は間違いではない、むしろ積極的に取り入れて、意味をしっかり伝えるべきだ。」
全体では有意差がついていますが,咽喉頭炎と扁桃炎はともかく口内炎は全く別の病気のような気がするので,一緒に解析するのはあまり釈然としないですが,図4をみると,確かにプラセボ群に比べて効果がありそうには見えます。医師の主観的な判断によるものですが,「医局員を盲目にして」まで判定したものですし。。。
この症例数で確定的なことをいうのは難しいですが,副作用もそれほど大きなものはないようですし,使ってみても悪くないような気もしますが,症状緩和ならNSAIDsやアセトアミノフェンでもよいような気もします。
「存在しない」ことの証明は難しいので,厳密にはMIC Creep現象の証拠を確認できなかった,
We have found no evidence of the MIC creep phenomenon.
ですが,最近のClinical Microbiology & Infectionに系統的レビューが出版されていました。
http://www.clinicalmicrobiologyandinfection.com/article/S1198-743X%2817%2930337-3/abstract
この問題,5年ほど前に調べた時は,以下のように,保存によるMICへの影響が大きいのではないかと思っていました(最近,アップデートしていなかったので,古くてすみません)。
J. Clin. Microbiol. 2012; 50: 318-325.によると
・凍結保存していた菌を起こしてきて検査すると,バンコマイシンについてはEテストでは,最初に分離された時のMICよりも保存していた方のMICが下がっていた。Broth Microdilution(BMD)ではこの影響は少なかった。
→経年的にMICが上がってきたというよりも保存の影響のせいで,昔分離された菌のMICが低くでたのかもしれない?
・自動測定機器(Vitek 2),Eテスト,BMDといった,MICの測定方法によってもこの傾向は一致しない
・保存によってバンコマイシン,ダプトマイシンともにMICは下がった。
・測定方法によってもMICはばらつきがあり,EテストはBMDよりも1管高めに,Vitek 2はBMDよりも1管低めにでた。MIC creepがみられたのは,Eテストでのみだった。
J Antimicrob Chemother 2011; 66: 2284-2287.
ということで,「MIC Creepが云々(でんでん)」いう人には「それって本当に存在するんですか?」と問いかけてみましょう。きっと面倒くさいヤツだと思われます。科学的な議論というのは面倒くさいものだと個人的には思いますが。
膀胱の流出路閉塞との関連性についてという,斜め下の研究があるくらいです。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27123701
以前,ケアネットに↓のように書いたことがありました(要登録) http://www.carenet.com/series/yamamoto/cg001229_011.html?keiro=index
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印象深かったのは、研修医から尿路感染症の疑いということで相談された症例です。高齢男性でインフルエンザ後に咳、痰が続き、いったん解熱した後に再度発熱してきたという病歴でした。この病歴だとインフルエンザ後の肺炎をまず疑うのになぁと思いながら見に行くと、なぜか尿検査はされずに腹部CTがオーダーされ、腎周囲の脂肪織濃度上昇をもって尿路感染症と考えたとのことでした。胸部レントゲンは撮影されていませんでしたが、腹部CTで肺の下葉が撮影範囲に入っていて、普通に肺炎像が写っていたのを見た時、この問題は闇が深いなと思いました。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このように,文脈無視でCTだけで腎盂腎炎のあるなしを論ずる研修医が増殖しているような気がします。
最近,腎周囲の脂肪織濃度上昇(perirenal fat stranding: PFS)の急性腎盂腎炎の診断精度について研究をなさったという方からご連絡をいただいたので紹介します。
Fukami H, Takeuchi Y, Kagaya S, Ojima Y, Saito A, Sato H, et al. Perirenal fat stranding is not a powerful diagnostic tool for acute pyelonephritis. Int J Gen Med. 2017;10:137–44. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5428832/
タイトルのように,「腎周囲脂肪織濃度上昇は急性腎盂腎炎の診断にあまり有用ではない」という結論です。
急性腎盂腎炎89例とコントロールとして経皮腎生検319例を比較した,ケース・コントロール型(two-gate)の診断精度研究だと思います。 Table 2のように感度72%(95%CI 61-81),特異度71%(95%CI 66-76),陽性尤度比2.5(95%CI 2.0-3.1),陰性尤度比0.4(95%CI 0.3-0.6)になります〔陰性尤度比は山本が計算)。
(アブストラクトには "The frequency of PFS was 72% in the pyelonephritis group vs 39% in the control group. "とありますが,93/319=29%なので,後者は29%の間違いなのでは?100からこの29をひいた71%が特異度になります。)
このようなケース・コントロール型(two-gate)の診断精度研究では診断精度を過剰評価しやすいといわれます(JAMA. 1999;282:1061–6.)ので,「腎盂腎炎疑い」のような連続サンプリングして症例を集めた場合はもっと精度は落ちることが予想されます。 尤度比は0.5〜2.0の範囲では検査前後の確率にほとんど影響を与えない(拙著の「かぜ診療マニュアル第2版」でも解説しています)ので,おそらく,個人的な印象の通り,PFSの有無が急性腎盂腎炎の診断に寄与する度合いは,ごくわずかだと考えられます。
(論文中ではなぜか傾向スコアを使って背景因子をそろえた計算がされ,アブストラクトにはメインの結果としてそちらの数値が示されていますが,診断精度研究で背景因子をそろえる意義はあまりないような気が・・・)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
私も作業部会で作成のお手伝いをさせていただきました。
さて,本当の戦いはこれからだ!というとジャンプの打ち切り漫画みたいですが,実際,これはあくまでスタート地点です。これからどうするかが問われます。
「患者さんが欲しがるから風邪に抗菌薬を処方する」という方もおられるかもしれませんが,そういう患者さんを作ってきたのは他ならぬ医療者です。そう考えると,逆のことをすれば,「風邪に抗菌薬を欲しがらない患者さん」を育てることは,たとえ時間がかかったとしても不可能ではないと思います。
大切なのは『真実に向かおうとする意志』
http://blog.livedoor.jp/kmcid929/archives/1748570.html
なのです。この手引きでは,患者さんへの説明例についても紹介されています。日々の診療の一助にしていただければ幸いです。
この手引きを入り口に,もっと詳しいことを知りたい,勉強したいという方がいらっしゃれば,拙著の「かぜ診療マニュアル第2版」も手に取って頂ければと思います(「手引き」と推奨が若干異なることもありますが,細かい点ですので,気になさらないでください)。
山本舜悟
アマゾンは例によって在庫をなかなか置いてくれないですが,出版社から直販だと早く入手できると思います。
ちなみに,巻末の↓は編集さんのアイディアです。
林寛之先生,寺澤秀一先生,箕輪良行先生,今明秀先生,太田凡先生,井村洋先生,小淵岳恒先生など救急・総合診療のスーパースターの先生方が講師として参加されます。私など場違いな気がしますが,僭越ながら「感染症と体温」の話と「海外からの帰国者の発熱」についてお話しする予定です。
参加費がちょっと高い(宿泊費と交通費は別にかかる)のが玉に瑕ですが,早めの夏休みのついでに沖縄に遊びに,ではなくて勉強しに行ってみてはどうでしょうか?最近の研修病院は勉強会の参加費や旅費を出してくれるという羨ましいところもあるらしいと風の噂に聞きます。
内容や申し込み方などの詳しい方法は以下のホームページからどうぞ。
http://www.erupdate.jp
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kmcid929