最近のGeneral Medicineという雑誌(日本プライマリケア連合学会の英文誌)に興味深い臨床研究を見つけました。
Akihiko Miyamoto and Shigeyuki Watanabe. Posterior Pharyngeal Wall Follicles as Early Diagnostic Marker for Seasonal and Novel Influenza . General Medicine 2011; 12: p.51-60 .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/general/12/2/12_51/_article/-char/ja/

咽頭後壁のリンパ濾胞がインフルエンザの診断に有用という報告です。
そういえば、時々こういう咽頭の所見を見るなぁと思ってはいましたが、あまり診断的価値について考えたことがありませんでした。

咽頭後壁のリンパ濾胞("influenza follicles")は、新型インフルエンザ(本文にnovel influenzaとあるので、一応こう表記しておきます)の診断について感度100%、特異度97%だったということでした。
(インフルエンザのゴールドスタンダードは迅速検査で陽性にでたもので、PCRで確定したものということでした)

また、2003年から2009年の季節性インフルエンザ(A/H3N2、A/H1N1、B)については感度95.46%、特異度98.42%とのことです。
初診時に"influenza follicles"がみつからず、フォローアップ中にでてきたケースもあるようで、新型インフルエンザの初診時にのみ限定すると、感度95.2%、特異度91.3%だったようですが、それでもこの研究では迅速検査の感度が80%だったということですので、迅速検査が陽性に出る前から"influenza follicles"がみられることが多いようです。発症から診察までの時間は7.8±5.3時間(3〜20時間:中央値5時間)ということで、わりと早期の受診が多かったように思います。

ちょうど「アトラスさくま」を衝動買いしたところだったのですが、これにも載っている所見です。
http://www.amazon.co.jp/dp/490168986X/
「アトラスさくま」によれば、咽頭後壁にイクラ様に見える所見で、アデノウィルスに特徴的な所見という記載のされ方です(アデノウィルスかと思って調べたらインフルエンザだったという症例が載っています)。アデノウィルス、インフルエンザウィルスの他、エコーウィルスでもみられる所見ということですが、アデノウィルス全体からみると、この所見がみられたのは、2.5%だけだったということで、むしろインフルエンザウィルスに特徴的な所見なのかもしれません。

先ほどの論文に戻りますと、リンパ濾胞があればよいというものではなく、時に非特異的なものもあるということで、形態的、色彩的な鑑別点についての記載があります。
1)Definitive influenza follicles
 丸く半球状の濾胞が咽頭後壁にみられ、それぞれが孤立していて境界明瞭で、Yamada/Fukutomiの胃ポリープ分類のII型に相当するような形態である。境界明瞭で周囲がくびれている、米粒様あるいは涙滴様の濾胞も特徴的である。小さい濾胞(直径1-2mm)でほとんどサイズが同じである。濾胞は赤紫(マゼンタ)色でイクラに似ており、表面は緊満して光沢があり、半透明である。これらの特徴的な所見はほとんどインフルエンザ感染にのみ観察され、特に感染初期ではそうである。(Figure 4A-B)
2)Probable influenza follicles
 濾胞はY/F分類のI型に相当し、完全に対称性というよりは細長い。見た目は半透明で、3日間ほど続く。周囲の咽頭後壁粘膜よりも赤みが強い。隣接した濾胞と時に癒合する。これらの濾胞はインフルエンザ感染の中期(発症から数日後)に観察でき、ほとんどインフルエンザ感染に特異的である。(Figure 4C-D)
3)Non-specific follicels
 隣接したリンパ濾胞はしばしば互いに癒合し、大きくなって多形性を示し、様々な大きさの濾胞が咽頭後壁にみられる。Y/F分類ではII型からI型に変化する(Y/F分類II型は新しく発生した濾胞で境界明瞭で、それからI型に変化する)。濾胞は境界明瞭で周囲がくびれていて白みがかった赤で、赤紫色から白に変化する。これらの濾胞はインフルエンザ感染の後期にみられることがあるが、インフルエンザ感染に特異的ではない。多くの濾胞の中でdefinitiveまたはprobableの濾胞が1個だけあったとしても、インフルエンザ感染を疑うべきではない。(Figure 4E-F)

詳しくは本文中に写真付きで解説されていますので、そちらをご参照ください。

また、咽頭を観察する際のライトの種類によって色調が変わってしまうので、Figure 3のBのようなsingle light LED with narrow illuminationがよいと記載されています。

また、某メーリングリストの過去のメールを見直すと、「慢性咳嗽で後鼻漏がある場合にもこうしたリンパ濾胞がみられる」という記載がありました。これは想像するに3)のNon-specific follicelsに相当するのかもしれません。

気になる点としては、
・新型インフルエンザについては、迅速検査陽性+PCRで確認ということですが、迅速検査の感度はそれほど高いものではなく、初回陰性例をフォローアップしていったようですが、ずっと迅速検査陰性の症例はインフルエンザとして拾えていない可能性があること。
・新型インフルエンザについて平均年齢が15±6.7歳(7〜39歳:中央値14歳)ということで、比較的若い患者が対象になっていたことから、高齢者あるいは7歳未満の小児で同様の所見が同程度にみられるのかどうか。

他のウィルス感染でもみられることを考えると、鼻咽頭で増殖するようなウィルスなら出現してもよいよな気もします。感度はそれなりに高いでしょうが、インフルエンザ流行期以外に調べれば特異度はもう少し下がるかもしれません。
ウィルスによって”イクラ”の色や形が違ったりするのかもしれませんが。


解析された症例数も多くはないですので、追試が必要なのだろうと思いますが、インフルエンザ流行期に、インフルエンザらしい症状でこのリンパ濾胞が観察できれば、インフルエンザの補助になるだろうと思いました。